- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101212364
作品紹介・あらすじ
4500年前からナイル河岸に聳える大ピラミッド。ドローンで 3D計測が開始され、宇宙線による透視調査で「巨大空間」が見つかり、最古のパピルスが発見されるなど、近年、古代遺跡の研究は次々と更新されている。最新データと調査技術を元に「なぜ」「どのように」作ったのかに加えて、建造に従事した「人間」に焦点を当てた、古代エジプト研究最前線!『ピラミ ッド・タウンを発掘する』改題。
感想・レビュー・書評
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日本人考古学者による最新知見に基づくピラミッド研究本。
何かの映像で回廊説に納得してたのでそこから出鼻を挫かれた。自分の仮説に間違えがあった事を率直に記載するなど記述が真摯。
ピラミッド研究者達の流れも分かりやすく解説。
11章の当時の暮らしを再現した記述も面白かった。当時の人達のパンを作ったりドローンで撮影した実証主義的にピラミッドを解明していこうという姿勢はエセ科学では太刀打ち出来ないものを感じる。
今後の活躍を応援したい気持ちになる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
宇宙人が出てこない、まともなピラミッド本。
どうやって作ったのか、何故作ったのか、誰が作ったのかの観点でまとめられている。
ピラミッド作るために、どんだけプロジェクトマネジメント・スキルが高かったんだろうね。 -
副題に「最新科学で古代遺跡の謎を解く」とあり、ドローンによる3D計測、宇宙線によるピラミッドの透視なども書かれているが、地道で緻密な発掘調査や実験考古学により浮かび上がるピラミッド・タウンの復元こそが、本書の最大の魅力かもしれない。
以下、各章の概略を述べた上で、最後に全体の感想をまとめる。
<序 章>
昔は絢爛豪華な財宝が発掘の至上課題だったようだが、現代では古代人の生活を復元することが重視される。従来であれば捨てられていた異物が注目を浴びるようになった。モノから情報へ考古学もシフトしていることが語られる。
<第Ⅰ部>
ピラミッドがどのように築かれたかについて書かれる。石材の運搬法や傾斜路について言及があるのはテレビ番組と同様。ただ、テレビではその威容からともすれば当時存在しなかったと思われる技術を用いた非現実的な説が紹介されてしまうことも多い。
しかし、本書では「ピラミッドほど古代の人間が当時の技術で地道に建てた建築物はない」(p.76)と言い、古代の道具を再現し実際に建造に関わる作業を試した研究を紹介、神秘性を排したリアルな築造方法について言及されている。「ピラミッド建造に関する問いは、技術的な問題よりも、むしろ、人間の動かし方や纏め方、モチベーションの高め方とその維持、そして彼らの生活全般にかかわっているのである」(p.85)と考え、後半Ⅲ部において実際の生活の様子が言及される。
<第Ⅱ部>
まず、 ピラミッドが何故作られたかについて、疑似科学から科学になるまでの研究史が語られる。
次に、以前テレビ等でよく紹介されていたピラミッド公共事業説と、それが自己目的化してしまった非王墓説を分解・一部否定する。同時に、ピラミッドが王墓であることを歴史学的に証明することの難しさと、そこで登場する考古学手法を紹介し、、墓であることの立証に挑む。
そして、クフによるエジプト創世神話の体現、カフラーによるアケト――2つの山に沈む太陽――の創出、メンカウラーによる冥界の創造という3人のファラオの思惑が、ギザの地を完成させた理由として挙げている。
<第Ⅲ部>
この書籍の中核となる、ピラミッドを実際につくった「人間」の話。
従来の宗教的・建築的視点とは異なり、ここで紹介される研究では、ピラミッドとその関連する葬祭施設など「死」に関わる建造物のみならず、ピラミッド建造に関わった人々のあらゆる営みに研究対象を広げる。そうすることで、ピラミッドを生んだ社会が再現される。
エジプトの社会・経済基盤のひとつであった「パン」に迫るための実験考古学、労働者を統制した見事なヒエラルキー、労働者は果たして奴隷だったのか?など、様々な描写が鮮やかに描かれる。
また、発掘における小話や、日本・エジプトの発掘環境の違い、避けて通れない社会問題など、現場の息吹が感じられ面白い。
<まとめ>
著者は荒唐無稽な説が蔓延ってしまう一因として、「人間が存在しないピラミッド像」を挙げる。根拠を持たない憶測は憶測を呼び、どんどん現実から離れて行ってしまう。ピラミッドタウンの記述は、ピラミッド像をしっかりと現実に根差したものへと変えてくれる。
一方で、地道で粘り強い研究は興味がなければ退屈だし、読み物としては面白みに欠けてしまう。本書では発掘の面白さやエジプトという国のリアルが描かれていたり、分かりやすい研究史が載っていたりと退屈することがない。確かな研究に裏打ちされたピラミッドタウンの生活の復元描写も、まるでそこに住んでいるかのような臨場感があった。
「大ピラミッドの謎を解明したい!」(p.118)という若かりし頃の著者の野望(?)が、今なお学者としての著者の根底にあることが、こうした本を形づくっているのだろうか。
昔、エジプトの遺跡を著者が紹介してくださるツアーに参加したことがあったが、この本同様に冷徹な学者の視点から、現実に即してしかも非常に面白くガイドをしてくれたのを覚えている。
エジプトの遺跡というと、砂漠の中に点々としているイメージがあり、ギザのピラミッドはともかく、実際にそのように存在するものも多い。その間にもあったであろう当時の人々の営みはなかなか見えてこない(あえてひっそりと作られたものもあるので、絶対間違いというわけでもないが)。
ただ、そう見えてしまうのは、堂々たる遺跡にばかり目が行っていただけで、自分の目が曇ってしまっていたのだろう。本書に書かれているような研究を知ることで、エジプトを見る視点も大きく変わってくる。
ともすれば王墓や虚像、神殿などに目が行ってしまい、まさしくこの本のような砂色のイメージがあった「埃及」ではあるが、次にエジプトへ行った際は、きっともっと鮮やかに見えるだろう。
古代エジプトを知りたい、エジプトに行ってみたい、という気持ちになるであろうことはもちろんのこと、私のように一度行ったことのある人にとっても、今一度新たな目でエジプトを見たい!という気持ちにさせてくれる一冊だった。 -
この本を読めばピラミッド建造の謎も理論立てて理解できる。そして何よりピラミッドを造った人々のリアルな日常まで研究されているのでそこが面白かった。