全電源喪失の記憶: 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101212166

作品紹介・あらすじ

東日本に大津波が押し寄せたあの日、濁流は福島第 1 原子力発電所をも飲み込んだ。全電源を喪失し制御不能となった原発。万策尽きた吉田昌郎所長は、一人一人の顔を眺めながら共に死ぬ人間を選んだ――。遺書を書き、家族に電話をかけ、嗚咽する人。現場に背を向けた人……。極限で彼らは何を思い、どう行動したか。絶望と死地を前にして揺れ動く人間を詳細に描いた、迫真のドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • 共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹『全電源喪失の記憶: 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』新潮文庫。

    あの大事故から早くも7年が経過し、あの時の危機感を喪いつつあるが、廃炉の方法やゴールが見えない以上、事故は未だに継続中なのだ。そんな中、加筆改題の上、文庫化された迫真のドキュメンタリー。原発事故を描いたドキュメンタリーは何冊か読んだが、その中でも非常に解りやすい作品である。

    詳細に描かれる事故の記録を読めば、吉田昌郎所長を始めとする原発職員、協力会社の社員、自衛隊や消防の面々が命を賭けて事故と闘ったのに対し、東電の本店と政府が愚かな行動でどれ程彼らの足を引っ張ったかが理解出来る。

    巻末の池上彰の解説にも書かれていた、2013年に安倍晋三が東京オリンピックを誘致したいがために世界に向けて発言した「アンダーコントロール」の大嘘は記憶に新しい。東京に供給する電力を作るために福島に建設した原発でチェルノブイリに匹敵する程の大事故を起こし、未だ収束出来ない状況なのに、東京でオリンピックというお祭りをやろうとする感覚が解らない。

  • 日本史に負の名を残すだろう、東日本が死の国になるかも知れない未曾有の危機に対応した東電福島原発の証言ドキュメンタリー。
    自衛隊、警察、消防の活躍した記事や作品は読む機会はあったが、地元で育ち、懸命に守ろうとした東電原発の社員達の苦闘というのは、初めて読んだ。
    死を覚悟し、責任感を奮い立たせ職務を全うする人、恐怖で職務を放棄する人など、偏りがない証言を記載され、一気読みであった。
    吉田所長の遺言や、施設内で罹災した同僚の捜索には、涙なしには読めない。
    打つ手がない逆境に向かう人たちのノンフィクションは、読む人を選ばないはずだと確信する。

    現場と中枢の壁、現場を乱す当時の首相の姿は、危機のリーダーシップや危機管理のあり方を問う作品でもある。

    あとがきの池上彰というのも、本当にお買い得でもある。

    この作品が本屋から無くなったら、日本人は同じような誤りを繰り返し、瞬間的ブラック企業被害社員であった、東電の現場社員達のような犠牲者を出してしまうだろう。

  • まずもって、フェアな本。
    この話題について、イデオロギーや結論ありきでなく理解しなおしたい人にとっての必読書。

    海外の良質なノンフィクションを読みなれている人の中には、時系列でやみくもに進む描写に「なにがなんだか」感を覚える人もいるだろう。
    ほら、外国人ライターって「現場の混乱を離れて、まずはリアクターというものを理解しておこう」みたいな筋の立て方が上手じゃないですか。本書はそういう感じじゃない。

    だが、いやだからこそ、ああこの混乱がまさに現場で起きていたことなんだ、振り返ればわかる全体像なんてものは当時は誰も持っていなかったんだということがストレートに伝わってくる。

    「いいわね、必ず生きて帰ってらっしゃい」。若手職員が避難所の母親に電話したときの言葉が胸に迫りくる。
    あのとき、同じ会社の中で逃げ回った人と立ち向かった人がいた。それは日ごろからの人格の差ともいえるし、たまたまそこにいた「めぐり合わせ」ともいえる。
    誰もが「もしそこに自分がいたら」を内省せずにはいられない本。

  • 感動 涙が出て止まらない

  • ほぼ一次資料といってよい証言記録。現場で対応に当たった人々のことが描かれている。
    現場の人々は、覚悟の有無にかかわらず事態への対応に臨んでいて、英雄的と言うしかない。
    だからこそ、戦略の誤りは戦術・作戦ではカバーできないということが痛感させられる。

  • 3.11の震災によって引き起こされた
    未曾有の原発事故(チェルノブイリとならんで世界最悪の事故と位置づけられている。)
    その福島第一原発の吉田昌郎所長を中心とした、3.11から5日間のレポート。

    当時関西に住んでいた私自身は被災者ではなく、「当時、重大事故となっていたが、ギリギリのところで何とかなったのだ」という認識であったが、その現場がどんな緊迫感、覚悟を持っていたのかがありありと分かる。
    遺書を書くもの、家族に電話をして泣く者、現場を放棄するもの、他に守る者のため、泣く泣く避難する者。

    東日本が壊滅するかも知れないという危機感のなか、苛烈を極める現場と対象的に、上層部は現場に混乱を招き続けている印象。

    レポートは時系列を追う。3.11から一号機の爆発、3号機、4号機の爆発、再び2号機の危機。

    津波に対する想定の甘さから現状を招き、なお政府と情報の共有を進めず、コミュニケーション不足から信頼を失ない、政府の現場介入という状況を招いた東電本店。
    情報の収集不足から現場を信頼する事が出来ず、最終的に現場に過度に介入して混乱を招いた首相官邸。

    災害当初から指摘はあったが、レポート内で特に当時の首相の対応のまずさが目立つ。
    過度な現場への介入、アンガーマネジメントが出来ずに相手から必要な行動、情報を引き出せないリーダー像、という姿として、吉田所長とは対象的に描かれている。
    (ただ、所長は美化されすぎているのでは?という印象も受けた)
    全編を通して所長のマネージャーとしての覚悟が見て取れる。
    色んな登場人物が出てくる中で、自分がその立場であったらどうしただろう。
    読んだ後この本を読んだ人と話し合いたいと思った。

  •  原子力発電や東京電力に対する「良し悪し」という評価を超えたものが書かれている。こんなことが起きてしまう備えしかなかったのかという気持ちもあるものの、起きてしまったことに対して、こんなにも真摯に対応できるものなのかという驚きもある。
     その時、現場にいなかった私にはどのような状態であったかは本当にはわからない。本書を読んで感じる私の想像をはるかに超えた極限状態であったのだと思う。その状態で、どうしてあれだけのことができるのか?プライド?責任感?そんな言葉では言い表せないものがあるのだろう。
     しかし、本書を「フクシマ50」を称える書としてはならないと思う。原子力発電という限られた技術に対してではなく、広くこの教訓を活かすべきだ。「想定外」にどう対処すべきか・現場と後方のコミュニケーション・ギャップはどうするかなど提起されている問題は多くある。

  • 購入からだいぶ時間たったけど、読み始めたら一晩で読了。原発事故を詳しく取材した共同通信のドキュメント。震災から2年後くらいに客観的にまとめられているので、とても詳しくて参考になる。色々な不運と幸運とアクシデントや勘違いが様々に重なったんだよね。3・14から15くらいが、本当の山場だったんだね。でも、吉田さんっていう人はえらいよ。国民栄誉賞っていうのは、こういう人のためにあるような気もするけどね。
    こういう本を教材として、高校あたりで使うといろんな意味で役に立つと思うんだけど、政治的思惑が入っちゃうから難しいんだろうね。
    それにしても、この時だけ民主党政権だったっていうのが、なんともね。原発を推進してきた自民党こそこの非常事態を経験すべきだったのにね。

  • 事故から7年たちましたが、現場で何が起きていたのか、本店、官邸がどう対応したのかが、よくわかりました。
    現場で命をかけて対策に取り組んだ人たちと、現場の事情を把握せずに無理難題を押し付けた本店、官邸が対照的なのは、どこも同じ構図だと思いました。

  • まずあとがきの池上さんの全ての世代の人間がその時どうしていたかを話し合える話題となることになるほどと感心してしまう。

    原発で何があったのかは実はよく知らない。
    何か大変なことがあったけど、ギリギリでなんとかなったんでしょ。
    たくさんの現場の方々が犠牲になったんでしょ。
    所長さんもこの事件が原因で亡くなったんでしょ。
    などなどが自分の認識であったのでいい機会だからちゃんと知ろうと思い読み始めた。

    結果、読み物として本当に面白い。
    何よりも感じるのが著者がとてもフラットな立場で物語を進めてくれるので一定の人々や団体に対しても偏りがないこと。これはとても好感が持てた。(若干政府に対しては皮肉も入るが…)
    そうすると実際に起こったことがとてもフラットに分かりやすく見えてくる。

    実際にありえない様なことが現実で起こりそれに逃げずに立ち向かっていった関係者の方々やご家族の方々にはとても敬意を感じる。

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著者プロフィール

1961年、神奈川県生まれ。東京大学文学部卒業。フリー編集者。

「2000年 『歌謡曲は、死なない。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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