虚航船団 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101171272

作品紹介・あらすじ

鼬族の惑星クォールの刑紀999年6月3日、国籍不明の2基の核弾頭ミサイルによって国際都市ククモが攻撃され、翌4日、無数の小型単座戦闘艇に乗ったオオカマキリを従えた文房具の殺戮部隊が天空から飛来した。それはジャコウネコのスリカタ姉妹の大予言どおりの出来事だった-。宇宙と歴史のすべてを呑み込んだ超虚構の黙示録的世界。鬼才が放つ世紀末への戦慄のメッセージ。

感想・レビュー・書評

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  • 神話→歴史→SFという歴史的成立過程を倒置し、気狂いだらけの異様な文房具たち、迫力すら感じる歴史書・通史のカリカチュアを経て、"神話"と銘打たれたブンガクのジョイス的極地に至るまでの密度の濃さは類例を見ない。序盤の教会の件以降、宗教的要素のまるで現れない第三部は、しかし"荒唐無稽"という一点においてまぎれもなく神話そのものなのかもしれない。そしてラストに配された親子の会話からは、どんなに前衛や実験と称して迂回や破壊や冒涜を繰り返そうとも、小説として真っ当なオチをつけずにいられない物書きの性が垣間見える。

  • 第一章「文房具」
    文房具たちだけが乗っている宇宙船。巨大な船団のうちの一隻であるようだが、目的も行く先もよくわからない。とりあえず、さまざまな個性的な文房具たちが紹介されていくが、基本的に彼らのほとんどは「気が狂っている」。狂っていないものを探すほうが難しいくらい狂っているのが当たり前。その強迫観念の種類もさまざまで、宇宙船というよりむしろ精神病院の患者の症例を紹介されているかのよう。文房具を擬人化した、というよりは、逆に身の周りの変な人たちを片っ端から文房具化した感じ。終盤で唐突に流刑にされた鼬族の棲む惑星クォールを攻撃し鼬たちを殲滅せよという命令がくだり急展開。発狂者死者殺人者らが大騒ぎしつつもなんとか任務を果たそうとするが・・・。

    第二章「鼬族十種」
    鼬たちの国クォールの歴史が延々語られる。オコジョ、テン、ミンク、スカンクなどの鼬族らが覇権を争い、国家を築き、権力争いに明け暮れ、伝染病が流行ったり、宗教がうまれそれがまた争いの種になったり、文学、音楽、哲学、美術、それからもちろん科学技術の発展、繰り返す戦争と侵略、革命。ほとんど世界史の教科書感覚。というか世界史のパロディ。日本らしき国も後半で登場、あきらかに歴史上の人物の名前をもじった鼬が多数登場し(例:クズレオン・ポナクズリ)たまにニヤリとしてしまう。そして当然文明のいきつく先は核戦争。そこへさらに宇宙からの侵略者、文房具たちが・・・。

    第三章「神話」
    文房具の攻撃で壊滅状態にあるクォールの鼬たち、しかし侵略者である文房具たちももともと気が狂っているのでろくなものではない。しだいに改行すらなくさまざまな文房具や鼬たちのエピソードが過去未来現在バラバラに断片的に繋ぎ合わされ、さらにそこに作者自身のことまで挿入されてもはやカオス。文房具と鼬の間に生まれた子供の、ラストのセリフは好きだけれど、たっぷり570頁読み切るのに大変パワーが必要でした。文房具も鼬も滑稽で憐れだけれど、つまりこれって、けして他人事ではなく、今私が生きているこの世界そのもののことなんだよなあ。なんとも実験的というか、挑戦的な作品でした。

  • 筒井康隆の作品の中では長いほうだと思いますが、わりと好きな作品。
    ただし中身はあまり覚えていない。
    表紙の通り、いろんな文房具が出てくるのですが、昔から物品に感情移入するタイプだった私には面白く思えました。

  • 絶対映像化できない、最強の小説。

  • 三度目の正直での読了。二回とも第一章での挫折。全体を通してみたら、第二章の鼬族十種が一番うんざりするところだ。延々と鼬族の歴史がつづられる。うんざりしたことも数しれずだ。世界史のパロディも笑えない。いちいち地図を参照した。見にくい地図だ。第三章は筒井本人も登場する。文具船員の文房具たちも全員死亡して殺戮者たちの末路ははかなない。文学の破壊に関して言えばソローキン『ロマン』が優れているが、こちらも破壊ではないが面白いかつ読みにくい。この世は文房具たちではないが、みな狂っているのが当たり前なのかもしれない。

  • 一貫して狂気的。
    途中から理解できなくなったので、取り敢えず文章を感じることにして、最後まで目を通すことができた。

  • まさに奇才。

    みんな狂ってる。でもきっと私もある部分では狂ってるし、他の人もみんなそう。

    学校の世界史が苦手な身には第2章はムリだったので飛ばしたけど、第3章を読むのに問題なかった(ほんとは読んでた方がより楽しめたんだろうけど)ので、第2章ムリだと思ったらそのまま第3章に行くべし。

  • 作者は後にイタチ科惑星の“ファウナ”に、「ラッコ忘れた」と言ってゐるが、例へラッコもふもふが21世紀初頭に辛うじてあったやうな状態でも別にいいと思ふ。
     メタフィクションとして、選挙カーががなる人の名前らしきものが出て来る他、ホチキスが放つ針をカタカナに見立て
     ココココココココココ
    といふ表現が出て来る。

  • 筒井康隆作品の、妙に人間臭いモチーフと、軽々と死ぬこと、最後が読点の極端に少なく混沌に落ちていく感じがどうにも苦手で、煙に巻かれたような気がしてしまう。
    パロディと比喩の境界、唐突な視点の切り替え、語句の繰り返し、年代がごちゃごちゃ、ページをまたぐ、作者の独白や思考が混入、、、手法としてはとても挑戦的で斬新。

    文章などが小説らしくなくて読んでる最中は面白いと思えないんだけど、のちに構成やそれぞれの登場人物(登場文房具?)の意味を考えていくと、深いものがあるなーと気付かされる。
    便箋と封筒の、他人から聞いたら何がなんだか分からない言葉の置き換え遊び、これがこの本全体にもあてはまって「違和感」を出していそう。なんでそんなもので喩えちゃうの!意味不明!みたいな。
    あとは虚構歴史を一通り目で追っていたおかげで、第3部の鼬界の「歴史上の人物」への言及が( 上半身の鼬とか )あああれね、という感じで理解できたのが面白かった。

    冒頭で意識過剰なコンパスが出てきて、これが最後まで印象に残る。最後はマリナクズリ視点で、「スマートで優しかった」と言われているのがこの本唯一の救いかしら。

  • 筒井康隆の才気が爆発し、「全体小説」の如く、日本を含む現実世界をカリカチュアライズした傑作。

    「私とは何か?」という問いを各人が持ち、不可思議な行動を取り続ける擬人化させた文房具の世界は、あたかも吉本隆明の詩作に出てくる以下の言葉を想起させる。

    「ぼくが真実を口にすると ほとんど全世界を凍らせるだらうといふ妄想によつて ぼくは廃人であるさうだ」
    (吉本隆明「廃人の歌」 「転位のための十篇」より)

    何から何までが狂っていて、にも関わらずこれが架空の世界とも思えない現実性があるところが恐ろしい。

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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