約束の海 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101104515

作品紹介・あらすじ

海上自衛隊の潜水艦「くにしお」と釣り船が衝突、多数の犠牲者が出る惨事に。マスコミの批判、遺族対応、海難審判……若き乗組員・花巻朔太郎は苛酷な試練に直面する。真珠湾攻撃時に米軍の捕虜第一号となった旧帝国海軍少尉を父に持つ花巻。時代に翻弄され、抗う父子百年の物語が幕を開ける。自衛隊とは、平和とは、戦争とは。構想三十年、国民作家が遺した最後の傑作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者の山崎豊子さん(故人)は、小説家です。大阪の老舗昆布店に生まれ、毎日新聞に勤務後、小説を書き始めました。毎日新聞での上司は作家の井上靖氏で、薫陶を受けたと思います。19歳の時に、学徒動員で友人らの死に直面ししました。
    「個人を押しつぶす巨大な権力や不条理は許せない」と言っています。社会派小説の巨匠と言われ、権力や組織の裏側に迫るテーマに加え、人間ドラマを織り交ぜた小説は幅広い世代から支持されています。綿密な取材と膨大な資料に基づく執筆姿勢はあまりにも有名です。「花のれん」で直木賞を受賞後、作家業に専念し、菊池寛賞や毎日文化賞を受賞しています。
    2.本書の主人公は、旧海軍士官を父親に持つ、海上自衛官の息子です。乗船した潜水艦が、釣り船と衝突し、多くの犠牲者が出てマスコミを中心とした国民に非難されます。主人公は、自衛隊の仕事に疑問を抱きます。読者に向けて、自衛隊とは何か、戦争・平和とは何か、を問いかけています。本書は、第一部~三部まで予定されていました。しかし、著者の永眠により、この第一部が遺作となり、非常に残念です。
    3.先ず、私の琴線に触れた箇所を、感想を添えて、3点書きます。
    (1)「国防の仕事に就いている人たちは、どこの国でも、国民に敬愛されこそすれ、こんなに嫌悪されているのは日本だけでしょう・・・、総理以下の政治家も事故が起きれば、保身に汲汲として、隊員を犯罪者呼ばわりする、こんな国の自衛隊って何なのか・・・」
    ●感想⇒「日本は敗戦国になり、憲法で戦争放棄を謳っています。朝鮮戦争の時にアメリカ軍の補助として再軍備させられたのが、自衛隊のルーツです。現在も自衛隊に関する議論が続いています。一方で、災害発生時等の隊の迅速な対応は評価されています。政治家は、保身行動だけに走るのでは無くて、隊のあり方を明確にし、場合によっては支援も必要でしょう。
    (2)「確かに自信のないままに続けて良い仕事(自衛官)ではないからな、但し、責任を取るなら、それが何に対する責任か、自分自身ではっきりさせろ、明確でない責任感は単なる感傷かもしれん・・・」(父親の息子へのアドバイス)
    ●感想⇒仕事だけでなく、いろんな場面で不都合が生じた時には、逃げ出したい気持ちになるものです。しかし、逃避は何の解決にもなりません。事の事実関係をキチンと整理し、関係者への影響に十分配慮して、判断を下すのが良いと思います。しかし、理屈的対応では難しい事もあるでしょう。私のような未熟者には、信頼出来るアドバイザーが欲しいと願います。
    (3)「国を護る、戦争を起こさない努力をする仕事こそ、困難であろうとも、やはり自分が命を燃やす甲斐のあることではないのか」
    ●感想⇒世界各地では、戦争が勃発しています。私達は、日本は平和である、という絶対神話を作り出し、その中に埋没し、「今さえよければいい」症候群に陥っていないだろうでしょうか。グローバル化が一層進行している中で、こうした現代的課題について、具体的行動は難しいでしょう。しかし、問題意識を持たなければならない事と考えます。
    4.まとめ;
    著者は、19歳の時に、学徒動員で友人らの死に直面したという戦争体験が があります。本書は山崎豊子版「戦争と平和」で、自衛隊の存在をどう考えるかを問う作家生命をかけて書かれた作品と言われています。普段は議論しないような 非常に難しいテーマです。戦争体験のない私には適切なコメントが見つかりません。山崎さんは、晩年病魔に襲われ、最後は口述筆記になることがあったそうです。「どんなことをしてでも書き上げる」という執念を感じたという証言もあります。私もファンの一人で、「沈まぬ太陽」は、愛読書の一冊です。著者の執念に感動し、人間考察の為に、今後も著者の本を読みたいと思います。

  • 海上自衛隊の潜水艦が、遊漁船と衝突事故を起こし、多くの犠牲者を出す。主人公は、海上自衛隊員で事故を起こした潜水艦に乗船していた花巻二等海尉。事故後の事情聴取、マスコミの追い討ち、海難裁判と苦悶の日々が続く。
    未完の作品ではあるが、平和が日常であった日本での自衛隊への意識。平和であるとしながら、緊張が続く国境付近。それらに、優秀な先輩自衛官、恋人候補、悪役的同僚など個性的な登場人物を加えて、読み応えある作品でした。
    大河小説としては、導入部分でしかなく、花巻は、辞意を固めつつ次の任務に向かいラストとなる。この作品のチームによって、第2部は花巻の父親を通しての“戦争とは”、第3部は父の気持ちを引き継ぐ形で、花巻のこれから“平和とは”という感じのシノプシスが加えられる。
    現在のロシアの戦闘行為は、この作品の結末にも影響するかもしれない。未完であるので、想像するしかないし、それは、その時代で変化していくのかもしれない。
    戦争しないための軍隊という希望が続いて欲しい。

  • さすが山崎豊子さん。面白い。続きが読みたかった。

  • 自衛隊の潜水艦と民間の船が衝突し、多数の死者が出た事故をきっかけに、自衛隊の在り方を問う話。山崎豊子ならではの世界。
    残念なのは、三部構成の予定だったそうだが、残り二部は未刊のまま、山崎氏が亡くなられたこと。
    編集チームの補足により、氏がいかに丁寧に取材をされ、一連の小説を書くのに膨大な時間をかけられていたことがわかり、改めて、これまでの数々の作品の重みを感じるとともに、読み直してみたくなった。

  • 海上自衛隊の潜水艦と釣り船が衝突。若き士官を襲う過酷な試練。
    その父は昭和16年、真珠湾に出撃して-。
    時代に翻弄され、時代に抗う、父子100年の物語が、いま始まる。

  • 高校に入ってから図書室にたくさんの本をリクエストして買ってもらっている。この本も買ってもらった。久々に“本”を読んだな、という印象。空母いぶきを見て海自に興味を持って読んだが、国同士ではなくマスコミとの戦いがリアル

  • 絶筆だから読みたいと思いつつも、未完だからと躊躇する気持ちもあり、これまで横目で見ながら手に取らなかった作品。

    加齢によって体力は低下し、その反面自分の立ち位置と存在意義を確認したいという欲求にも駆られ、自分のやりたいこと、やるべきこと、そして出来ることの線引きがぼやけ、なんとも心許ない毎日を過ごしてきた中で、またこの本と対面した。

    爽やかで正義感が強く、いかにもヒーロー然としていながらも、迷いや弱さを抱えて時には間違うことも、誰かを傷つけることもある、著者が描く人物像に触れたくなり、とうとう頁をめくることにした。

    著者の構想の半分にも満たない作品からは、迷いの中でどう進んでいくかのヒントを得るどころか、もっと難解な問いを投げかけられた。

    好き嫌いを問わずそれぞれの登場人物に感情移入し、もし自分ならばこのストーリーをどう展開させる、ラストをどう着地させるのか、答えのない問いかけこそが、著者からのメッセージかもしれない。

    後を引く読み応えのある作品。

  • 山崎豊子さん、最後の未完作品。
    二つの点で興味惹かれる小説である。

    * 高齢と病身である山崎さんの渾身の力はいかなるものなのか
    * 作者テーマである「戦争と平和」を描くとしても、自衛隊から掘り起こすとは

    上記は当時(2013年)文芸関係で話題になった。

    氏の秘書野上孝子さんも解説で
    「まさか先生、自衛隊を書くのではないでしょうねと、飛び上がった」
    と書いていらっしゃる。
    「先生には『不毛地帯』『二つの祖国』『大地の子』という戦争三部作がある。
    その作者がどういう視点で自衛隊を書くのだろう。」

    山崎氏全作品読破のわたし、文庫になるのを満を持ししていたので、さっそく。

    さすがです!

    自衛隊が批判にさらされた「潜水艦なだしお事件」を題材にフィクションが始まる。
    その潜水艦の若き乗組員が主人公。
    一般人の犠牲者がたくさん出た、あってはならない事故である。
    たまたまその事件に遭遇してしまった真面目な悩みを通して
    自衛隊とは何かを問う設定。

    読んだところ、かなり自衛隊を肯定している。
    「かなり」っていうところが今の国民の気持ちだと思う。

    山崎節炸裂の力作ですが、第一部完結とはいえ、物足りないのは仕方ありません。
    でも、書かれなかった全体の予定構造の概略が巻末に付録してあって、
    第二部、三部と続くらしいが、それを読むのがわたしには非常に面白かった。

    病魔と闘いながら、きちんと第一部を終わり後の構想を残しておく。
    残念だけど好感持てる終わり方。

    最後まで書きながら死ぬ、これぞ作家冥利ですよ。

  • 何かで聞きかじった約束の海
    面白いかなと読み始めて
    さすが山崎豊子さんと思いながら 引き込まれていった。
    先が読めないなぁと ワクワクしていると
    えっ!
    ああ 仕方ない事だった

  • 山﨑先生らしい感じで、時代を問わず読み進められる一作だと思った。未完となってしまったことが無念。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

山崎豊子の作品

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