笹の舟で海をわたる (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101058337

感想・レビュー・書評

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  • 戦時中同じ疎開先で、寂しくひもじい思いをした左織と風美子。終戦後10年、二人は銀座で偶然出会う。戦後から復興そして経済成長からバブルへと変化していく日本に この二人の女性の人生を描いていきます。時代の変化の象徴に 家族の住まいと食事が書かれています。
    森さんの「みかづき」と印象が重なりました。
    当時の平凡な主婦を望む左織と、料理研究家として華々しく活躍する風美子。性格や考え方も対照的です。兄弟と結婚して義理姉妹となり人生を共にする時間が増えていきます。
    二人の女性の関係から生じるものといえば、嫉妬や妬み。人生の折々で、左織の気持ちが波立ちます。
    読後、思わず自分の半生を考えてしまう。しかも後悔している事、あまり良く無い事の方を。思いの外長い時間、小説に引きずられたので、良い作品なんだろうと思います。
    ただ、途中で何度か入る疎開先のトラブルとか、風美子への不信感の是非などの意味合いを読み取れないところがありました。

  • 子供(長女)に対しての気持ちだけは、そのような経験がないせいか理解出来なかったけれど他は左織に感情移入して読んでしまった。何人か子育てしたら相性が合う合わない子供っているのかなあ?
    一冊の中に長い時間の経過とともに見えてくる沢山のテーマがあり読み応えがあった。風美子の気持ちだけはずっとオブラートに包まれているように感じてしまった。偶然、戦争孤児だった男性のお話しがテレビ放映されている。戦争孤児となった風美子の思いは想像する事すら難しい。

  • いつホラーに変わるのかとドキドキしながら 一気に読んでしまった。でも最後までホラーにはならず ある意味ホッとしたような…。
    たしかに記憶って置き換わるって 何かで読んだことあるし 置き換えじゃなくても 思い違いや 受け取り方の違いで 同じ事でも 人が変わると別の出来事みたいに違って見えることはよくあることかも。
    家族ってなんだろ?と ため息とともに考えてしまう。
    母親とムスメって なかなかに難しい関係だよね。
    昔からずっと まわりの仲良し母娘を見るたび 我が身の至らなさに胸が痛くなる。なんで フツーに仲良くできないのかなと。作中にもあったけど 家族にも相性がいい悪いはあるんだろう。読んでいて 切ない話でもあったかな。

  • 自身の気持ち、思いを代弁してくれているかのような感覚...。時代、世代、事象、事件のなせる業か、変容する何かに表面上は合わせているようには見せてはいるのだが...。いい意味でどっと疲れたが、今、読んでよかったと思える一冊でした。

  • 主人公は僕か?
    それ程までに主人公左織の考えが自分の頭に流れ込んで、いつも自分が考えてる事や他人に感じている感情にオーバラップし、ドキドキした。
    何にもなれない人生を生きる、表面上は幸せだと見えるが内面は色々な感情で押し潰されそうになってる、いや実際潰れてる。そんな人の物語。多分、全ての人に当てはまる物語。

  • 疎開先で出会っていたという左織と風美子。戦後に再会した二人の歩みを、時代の流れと共に追った壮大な長編小説。
    どんどん深みを増す角田作品、今作もまた大きくうねる物語にすっかりのまれてしまった。
    思いがけない再会後親しくなる二人だが、疎開時の風美子のことをまるで覚えていない左織。その後彼女達は結婚を機に義理の姉妹関係となり、左織は一男一女の子供に恵まれ、風美子は料理研究家として一世を風靡するが…風美子に、自分の人生に介入され浸食されていくような錯覚を感じ始める左織…。つい左織目線で物語を追うせいか、風美子の行動一つ一つがきな臭いもののように感じてしまう。何もかもが人任せの左織に時々苛立ちを感じるものの、それ以上に風美子がとんでもないことをたくらんで左織に近づいた?と訝しんでしまったり。そう思うのも無理もないほど風美子は逞しくエネルギッシュだ。私だって嫉妬してしまう。自分が正しいと信じ、常識に捉われがちな左織だけど、凄絶な疎開生活を経て今があることを思うと無理もないのか…とも思ってしまう。が…
    読み進むほどに自分の目線に狂いが生じ始める。脂汗をじわじわとかくように、角田さんの筆の怖さを感じていく。読み始めは「ツリーハウス」や「私のなかの彼女」、「平凡」の雰囲気を端々に感じさせるような作品か…と思っていたけど、それを感じさせつつ膨らませつつ更に先を行く展開。今までだったら、母と関係をこじらせている娘の百々子目線で読んでいたと思うけど、母である左織の愚行に共感はできなくても、完全に否定することもできない。だからこそ切なく哀しくなってしまう。息苦しいほどの左織の頑なさが。
    正直、風美子の行動に釈然としない面はあるものの、昭和を辿りながら、この時代の女性が抱えてきた思いを色々な面から見つめ、考え直すことが出来たなと思う。千野帽子さんの秀逸な解説も、作品を理解する手助けとなった。果たして自分の人生はどうだろう?決してまっすぐとは言えない、どこかで歪み凝り固まったライフストーリーを別の視点で見れば、全く違ったものになるのだろうか。そんなことを考えるきっかけをくれた角田作品はやっぱりすごい。間違いなく心に爪痕を残すから。

  • 疎開先が一緒の縁で義姉妹になった主婦の左織と料理家の風美子。思い通りに進まないのはこの女のせい? 戦後昭和の女たちの物語。

  • 派手なことが起きるわけではなく、ずっと不穏でリアルで、そのまま読み終えたという感じでした。
    時代に翻弄されるというのはこういうことでしょうか。不器用な主人公が、読んでて悲しくなりました。

  • なんだか気分が落ちる感じでした。

    時代の背景が昭和で、戦後から昭和天皇崩御あたりで、いろんなことが変化していくとき。

    登場人物の誰を味方したいわけではないけれど、風美子の存在が怖い。
    序盤、沙織が気の毒と思ったけれど、読み進めていくと、沙織も結果、風美子を都合よく使っている感が否めない。
    潤司も風美子と同じ。

    結局、風美子は沙織への復讐なのか、単なる逢いたくてそばにいたかっただけなのかわからなかった。

    読んでてモヤモヤするし、風美子の思うままに支配されていくのではないかと恐ろしかったし。

    でも、単なる沙織の弱さが招いたことなのか。

    読み終えたけれど、登場人物は誰も好きななれなかった。

    感動も喜びもない。

    母と娘は最後まで分かり合えないのも辛い。
    しかも、どっちにも同情できない。。。

    長編を読み切ったのは、結末を知りたかったという、その思いだけだったけれど、嫌な気分になった。

  • 親に愛される子とそうではない子の物語かと思えば、その原因である過去の傷から解放されるための物語でもある。嫉妬やルサンチマンと言った根の深い闇から逃れられない主人公が他人毎とは思えない位リアルに描かれて怖いくらい。
    またしても、エデンの東の「ティムシェル」に通ずる言葉に救われる。
    「ティムシェルもの」というジャンルでブックリストを作りたいなぁ。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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