カーテンコール! (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.10
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本棚登録 : 2389
感想 : 225
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101022512

作品紹介・あらすじ

閉校が決まった私立萌木女学園。単位不足の生徒たちをなんとか卒業させるべく、半年間の特別補講合宿が始まった。集まったのは、コミュ障、寝坊魔、腐女子、食いしん坊……と個性豊かな“落ちこぼれ” たち。寝食を共にする寮生活の中で、彼女たちが抱えていたコンプレックスや、学業不振に陥った意外な原因が明らかになっていく。生きるのに不器用な女の子たちの成長に励まされる青春連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 『あなたはこのままじゃ卒業できませんよ』と言われたことがあるでしょうか?

    ドキッ、ドキドキッ!と過去のあの瞬間を思い出したあなた!でも、もしそんなことを言われたことが過去にあったとしても、それは決して他人には話せない、死ぬまで封印したい、思い出しても冷や汗の出るような記憶だと思います。『やっべ、マジ私、単位ヤバいわー』、『私もだー、マジどうしよー』なんて会話をしているうちはまだ序の口です。結局のところ『いざ蓋を開けてみたら、大抵の子はちゃんと計算していて』予定通り卒業して去っていく、なんだかんだ騒いでもそんなものなのだと思います。しかし、そんな言葉が現実のものとなる方も当然にいらっしゃいます。あーあ、あと一年ここに通い続けるのかあ、というその瞬間。でも、そんな感想を言えるのはもしかしたら幸せなのかもしれません。なぜなら、そんな風にあと一年通える場所が今まで通りそこにあるからです。そんな場所が万が一にも無くなってしまえば『四年分の時間と学費をドブに捨てたような結末だ。ジ・エンド。私の人生詰んだわと、心底絶望』するしかないでしょう。

    さて、ここに、そんな『心底絶望』する他ない人生を迎える一歩手前で手を差し伸べられた女子学生たちを描いた物語があります。それは、『今日からさっそく授業を始めます。君たちには何が何でも、否が応でも、卒業してもらわなければなりません』と、本来閉鎖される予定だった大学の理事長が授業を続ける物語。『おそらくは皆がみな、訳あり、難あり、ダメダメ』と何らかの問題を抱えて卒業できなかった女子学生の物語。そして、それはそんな女子学生たちが半年間限定の『特別補講』の場で『カーテンコール』を受けながら新しい人生に踏み出すきっかけを得ていく物語です。

    『思えば幼児期がピークで、あとは長い坂道を、ただひたすら下っているような人生だった』と自らのことを思うのはこの短編の主人公の『僕』。小柄だったものの『運動神経だけは良かった』ので『戦隊ごっこでレッドをやることもあった』という『僕』。小学校に入り『クラスで一番のチビ』となり、気に入って選んだはずの『空色』のランドセルで浮いてしまった『僕』。そんな『僕』は、『筆箱でも下敷きでも消しゴムでも』、自身の気に入ったものに必ず母親が『こっちの方がいいんじゃない?』と言ってくることに気づきます。しかし、『最初の品を譲らず』、でも結果的に『おまえ、なにそれー』と学校で笑われる日々を送ります。『いつだって僕は、ちんちくりんでちぐはぐだった』と、『理想の自分と、現実の落差がありすぎる』ことに悩む『僕』は、『はっきりと苛められるようになってい』きます。そして、中学でも同じ憂き目にあった『僕』は、『高校こそは、なにがなんでも私立に行こう』と思い塾通いを始めました。そして、『中学二年の時』、『塾の自習室』で『その子』と出会います。『ちっちゃくて可愛い、女の子』が、『ミエ』という名前だと知って意識し出した『僕』。そのきっかけは『ブレザーのボトムに、スカートではなくズボンを選択していた』という彼女の着ていた制服にありました。『見た目はスカートが似合いそうな、可愛らしい女の子』なのに、『なぜ敢えてそれを選んだのかが気にな』る『僕』は、彼女が『杖をついていて、歩き方もぎこちない』のを『隠したがっている』と類推します。そんなある日、塾へ向かう道で前を歩く彼女を見かけた『僕』は、そんな彼女がよろよろし『うずくまるようにしゃがみ込んでしまった』のを目にしました。『あ、あの。どうしたの?』、『足、痛いの?』、『事務の人に、痛み止めとか』と矢継ぎ早に訊く『僕』に彼女は、『右脚のズボンの裾をちらりと捲』り、『義足なの』と答えました。『もうない足なのに、時々すごく痛むの。不思議だよね』、『ゲンシツウ(幻肢痛)っていうんだって』と続ける彼女。それ以降、『尊敬と畏怖と憧れ』の感情で彼女のことを見るようになっていく『僕』の想いはやがて『恋』へと変化していきます。そして、そんな彼女と同じ高校を目指したいと思った『僕』は、彼女の口から『萌木女学園附属高校』という志望校を聞いて愕然とします。『よりによって女子校である。僕には絶対無理だ』と思う『僕』は『後悔したくない』という強い想いから『好きです、付き合って下さい』と告白するのでした。しかし、無常にも『ごめんね。無理なの』と言われた『僕』は、塾にも行かなくなり『公立の方がまだマシ』という高校へと進学、そのまま大学へと内部進学し、『半引きこもり』となり卒業も叶わぬ事態になってしまいます。そんな『僕』は突如理事長に呼び出され面談を受けることになりました。『どうぞお入り下さい』と名前を呼ばれた『僕』。そんな『僕』に隠されたまさかの真実、そして理事長の元で始まった大学卒業へ向けての『特別補講』の日々が描かれていきます。

    六つの短編が連作短編の形式を取るこの作品。そんな作品の舞台となるのが『三月で大学は閉校することに決まっていた』という『萌木女学園大学』で『卒業できなかった女学生たちを宿泊施設にひとまとめにして』半年間の期間限定で開かれることになった『特別補講』でした。『学校用地は丸ごと宗教法人に売却することが決定』した中、『理事長はもちろん、寮母を務める奥様も、講師の先生方も、ほとんど皆かなりのご高齢』というスタッフが10名ほどの『訳あり』な学生を『徹底的に外の世界から切り離し』て、確実に卒業へと向かわせる様が各短編に描かれていきます。そして、それらのスタッフ、特に理事長の角田は徹底的にコミカルにその存在が描かれていきます。『人の良さそうな丸顔と、つるりとしたハゲ頭』という見た目。そんな理事長が喋るのを『玉コンニャクがしゃべった』という表現。そんな角田の立場は『理事長兼学長兼寮長兼臨時講師』となんじゃ、それ?というなんでもありの状況です。とにかくあくまでもコミカルな設定で描かれる理事長に対して、主人公となる人物たちは、様々な問題を抱えた『訳あり』な存在です。その『訳あり』の内容はとてもコミカルに語れるものではありませんし、笑い飛ばすようなものでも決してありません。この描かれ方の落差には少し違和感を覚えるほどです。加納さんの作品では他の作品でもこういったある意味でのコミカルな設定が登場しますが、それによって話が重くなりすぎるのを中和する役割を果たしているように思います。決してふざけるのではなく、却って加納さんの優しさがそこに滲むような物語。そういった意味でもこの作品はいかにも加納さんらしい作品だと思いました。

    そんな『特別補講』に参加することになった女子学生たちは、『図らずも、そして曲がりなりにも。おそらくは皆がみな、訳あり、難あり、ダメダメ集団』というようにそれぞれに何らかの問題を抱えていました。そこに登場するのは、『起立性調節障害』、『ナルコレプシー』、そして『拒食症』といった現実にある病名の数々でした。その名前を見た瞬間、私の頭の中に蘇ってきたのは加納朋子さん「トオリヌケキンシ」で描かれた物語世界です。『他の人とは少しだけ違う病気や能力、後遺症』に苦しめられる主人公たちを描いた六つの短編で構成された同作品は、そんな一見暗くなりそうな設定の物語が極めて前向きに大団円な結末を見るものです。そして、この作品で取り上げられるのは、それぞれに何らかの問題を抱え『どうしてこんなに駄目なんだろうと、ため息がでる。他の多くの人たちが普通にできることが、どうして私にはできないのだろうと』思い悩む女子学生たちの姿でした。『飽食の国に生まれて、どうしてこの子は飢え死にしかかっているような状態になっているのだろう?』という『拒食症』状態の細井茉莉子。『とにかくいきなり寝ちゃうの』という『ナルコレプシー』の症状に生活もままならない有村夕美。…と病名がつく症状は一見「トオリヌケキンシ」の延長線上にある世界観です。しかし、この作品ではそんな病名がつかない女性特有のさまざまな事情によって、結果的に『特別補講』の対象となった女子学生についてもその苦悩が描かれていきます。そんな彼女たちは自らが抱える悩みの中で長きに渡って打ちひしがれてきました。他者の存在を意識することは元より、他者を思いやる感情に至ることもないままに生きてきた彼女たち。そんな彼女たちが、『何しろ下界とは隔絶されている』という環境下で、お互いの存在を意識する中、それぞれの考え方にも変化が生じていきます。また、この作品で絶妙だと思ったのは基本相部屋となるその学生たちの組み合わせです。もちろん、そこには理事長の絶妙な采配が存在するわけですが、この組み合わせによってもお互いが絶妙に刺激されあっていきます。この組み合わせの内容を書いてしまうと、これから読まれる方の楽しみを完全に奪うことになるのでここでは控えます。是非、そのなるほど感を味わっていただければと思います。

    そして、物語は、理事長が過去を振り返る最終章〈ワンダフル・フラワーズ〉へと進みます。そんな最終章でも一人の『訳あり』な女子学生が登場します。普通には重々しくなってしまわざるを得ないその『訳あり』な女子学生の状況の一方で、理事長が語る『昔話』が強い説得力を持って展開していきます。『萌木女学園創設者の角田大悟は、ご存じの通り私の父親です』から始まるその『昔話』。今までコミカルな存在として裏方に徹してきた理事長の角田。そんな角田は『訳あり』とされてきた女子学生たちへ『ここで私があなた方に伝えておきたいの』はと、ある言葉を語ります。それは、形だけの美辞麗句でも、立派な格言でも、そして感動的な名言でもありません。決して難しくなんかなく、誰にでも出来ること、でも決して忘れてはいけないというその『伝えたいこと』。他の作家さんならここまでじらしてこんなことを書くことは絶対にないであろう、その『伝えたいこと』の内容を読んで、加納朋子さんという作家さんが如何に心優しい人なのかを改めて感じました。ご自身もかつて急性白血病で苦しまれた過去を持つ、そんな加納さんならではの心からの優しさを感じさせる素晴らしい言葉、こちらも是非この作品を読む中で味わっていただきたいと思います。

    『あなた方という、素晴らしい花たちと、学園最後の日を迎えられたことを、私は心より誇りに思います』と語る理事長の角田。そんな角田の前に『訳あり』とされてきた女子学生たちの姿がありました。しかし、そんな彼女たちは『特別補講』前の彼女たちと同じではありません。大学卒業ということ以上に、それぞれに何かを掴んだ彼女たち。『これより新しい舞台に立ち、新しい脚本で、新しい人生を演じる』というそれぞれの人生へと船出していく彼女たち。そんな彼女たちが卒業前にカーテンコールの如く見せてくれたそれぞれの人生の一つの転機が描かれたこの作品。沈鬱な設定が、コミカルに描写されるキャラクターの存在によって適度に中和されるこの作品。それは、加納朋子さんという作家さんの優しさに溢れる感情の発露をそこに見ることのできる作品だと思いました。

  • 平積みされ、しかも帯に「涙盛ナミモリ 号泣不可避!」って、これは読まなきゃ。。

    経営難で廃校が決まった萌木女学園。
    単位不足で卒業出来ない生徒を寮に集めて約半年の補講。
    問題ありありの生徒たちがそれぞれ影響を受け合い乗り越えていく。
    最後の章は角田理事長の思いがしっかりと詰まっている。
    「もう駄目だ、耐えられないと思ったとき、自分の足で逃げられる力を、今のうちに育ててください。」

    生きるとは?

    そしてタイトルが「カーテンコール!」。
    うまいなぁ。

    うむ、よい本だった。
    悩みがある子供たちに勧めたい一冊。

    • yyさん
      いるかさん

      こんばんは。
      この本、昨日借りてきたところです!!
      でも、その前に別の本を読み始めちゃいました。
      読み始めた柚月裕子...
      いるかさん

      こんばんは。
      この本、昨日借りてきたところです!!
      でも、その前に別の本を読み始めちゃいました。
      読み始めた柚月裕子さんの本が459ページ。
      「待っててね」と本に声掛けしました。
      いるかさんのレビューを読んで期待が膨らむ☆彡

      実は、読んだばかりの「駅の名は夜明」も
      お名前を出さなかったけれど、
      いるかさんのレビューで借りたのです。
      こういう偶然、楽しい♪
      2023/04/01
    • いるかさん
      yyさん コメントありがとうございます。
      こういうコメントってすごくうれしいです。

      人を意識しているわけではないで請戸、何かあったと...
      yyさん コメントありがとうございます。
      こういうコメントってすごくうれしいです。

      人を意識しているわけではないで請戸、何かあったときにその人に本を進めることができたらうれしいな と思っています。
      もちろん自分のためが一番ですが。

      コメントありがとうございます。
      これからもよろしくお願いいたします。
      2023/04/02
  • 冬休みに入って
    ガクッと読書ペースが落ちてます…

    今年最後の本になるかな?
    もう一冊読めるかな。。


    さて、加納さん初読みの作家さんです


    ブクログでしばしばレビューを見かけたので
    手に取ってみました


    廃校する女子大で落ちこぼれ
    卒業できない生徒たちが合宿生活を送る物語
    さまざまな問題と向き合っていく連作短編でした


    女子大出身なのでちょっと懐かしかったです


    拒食症やナルコレプシーなど
    想像してたより深刻な問題を抱えていましたが
    割とライトに表現されています



    理事長の存在がとてもよかったです
    どんな状態の生徒も
    見逃さず、卒業させようとしてくれる。
    現実にもこんな風に向き合ってくれるところが
    あったらいいなと思いました


    個人的には物語に入り込む前に
    別の人の話に移ってしまったかな

    もう少し改善していく様も
    知りたかったです
    連作短編なので他の作内でも
    様子を知ることはできるのですが
    ちょっと物足りなく感じました。

    でも包み込んでくれるような
    優しい物語でした(^^)


    一万円選書が気になります!笑

  • 角田理事長の姿は、上手く飛べない巣立つ前の雛鳥に、懸命に餌を運んでいる親鳥のようでした

    一人一人に対する配慮と観察力が凄い
    学業不振の原因まで突き止める
    よく考えられた2人1組のペアで、相乗効果を狙う着眼点は素晴らしい

    家庭内では気付かない事、学校では教わらない事を教えてくれた濃密な半年間

    大学は閉校になるけれど、こういう人に巡り会えた事自体が、宝くじに当たったくらい稀で、人生に希望と勇気を与えてもらえる

    小学生の頃にお世話になった先生。。。
    遠い記憶が蘇って来ました

  • 【読もうと思った理由】
    一万円選書の岩田徹氏(詳しくは「一万円選書」の感想欄に書いてます)は、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」にも出演され、今も人気だ。一万円選書の人気は絶大で、常時3,000人待ちだという。そんな街の書店としては、異例の人気を誇る岩田氏の書店で、過去もっとも選書した本が、本書「カーテンコール!」だという。今まさにフェアをやっている今年(2023年)の新潮文庫の100冊にも選ばれている。書店のいち経営者としては異例の抜擢だとは思うが、文庫の帯や文庫の解説に至るまで、本書は岩田氏が書いている。いまや書店のカリスマ経営者である岩田氏が、鉄板で面白いという本書を読んでみたくなった。

    【加納朋子氏って、どんな人?】
    1966年福岡県生まれ。92年「ななつのこ」で第3回鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。95年「ガラスの麒麟」で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。温かくも鋭い洞察を備えた〈日常の謎〉の名手として、多くの読者の支持を集める。著書に『ささらさや』『七人の敵がいる』『我ら荒野の七重奏(セプテット)』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』などのほか、自らの闘病体験を綴った『無菌病棟より愛をこめて』がある。なお、推理作家の貫井徳郎が夫である。

    作品のジャンルは推理小説だが、血生臭い殺人事件などはあまり起こらず、「日常の謎」を解くストーリーが特徴的である。基本的に大団円が好きで、せめて物語の中だけでも楽しいことが起こってほしいという思いから、読後感は温かい気持ちになるような作品が多い。連作短編集が多く、各短編での伏線が重なり短編集全体の謎につながるという仕掛けは本格ミステリー的である。デビュー作品である『ななつのこ』は、敬愛する北村薫に送るために書かれたものだという。実際、初期の作品は北村薫に似た世界が展開されるが、次第に独自の世界観を構築するようになっていった。

    【感想】
    生涯で一万冊以上の本を読んできた岩田氏が、鉄板で面白いという本は、やはり伊達ではなかった。実は最近、思想書や哲学書、文学を読むにしても古典の名著に興味があるので、本書を面白く読めるのかが少し不安だった。そんな不安をあっという間に吹き飛ばしてくれる作品だ。物語の後半からは続きが気になり、どんどん読み進めてしまう。解説を除くと約330ページの分量だが、後で感想を書くことを一切考えないで読んだと仮定すれば、おそらく3時間掛からずに読めてしまうだろう。それほどに読みやすい。

    直近で読んだ「金閣寺」や「破戒」も読みやすいとは書いたが、それはあくまで難解な古典作品であると大前提があった上での話である。久しぶりに初見(初めて読む作家)の現代文学を読んでみて思ったのだが、現代文学と古典の名著の楽しみ方がまったく違うんだというのを、改めて実感した。

    古典の名著を読んだことがある人は、共感頂けると思うのだが、実は読んでいる時には、その世界観になかなか入り込めず、四苦八苦していることも多々ある。なので、著者のことを事前に予習したりしておかないと、下手をすると、最後まで作品から置いてけぼりを喰らってしまう可能性も多分にある。ただ古典の名著の良いところは、一度没入してしまえば、かなり作品の深層に至るまで没入できる。また読了後に読解力や思考力および集中力が、それぞれ現代文学を読む時と比べて、大幅にアップできる。実は、僕が古典の名著を好んで読む理由は、この副次効果ねらいなところも多分にある。

    そういう意味で言うと現代文学は、作者のバックボーンなどまったく知らなくても、関係なく楽しめる作品が多いんだと言うことを再確認できた。最初に古典作品と現代文学の対比をつらつらと書いてしまいましたが、本書の感想は以下となります。

    加納朋子氏は、さすがミステリー作家だけあって、物語の組み立てが秀逸でかつ、計算され尽くしていると感じた。以下があらすじだ。

    本作は6編からなる連作短編集だ。物語の舞台は、今年閉校になることが決まっている私立萌木女学園。4月に入り本来であれば、それで閉校のはずだが、単位がどうしても足りず卒業できない学生が、10名ほどいる。学校が消滅したのだから退学せざるを得ないはず。だが理事長の特別措置で、半年間の泊まり込み特別補講のカリキュラムが組まれる。その特別補講にやってきた学生が一癖も二癖もある。コミュニケーション障害や、見るからに摂食障害者であったり、逆に肥満体型や、授業中もずっと寝ている学生などなど。問題を抱えている生徒のオンパレードだ。ただ彼女たちと寝食を共にし生活をしていると、個人の我儘だけで、そうしている訳ではないことが徐々に分かってくる…。

    6編の短編集だが、各短編ごとにフォーカスされる学生が違ってくる。物語の構成が巧いなと感じたのは、6遍の短編の仕組みだ。最初の話と2編目の話は構成が似ている。各編の主人公の学生がなぜ単位が足らなくなってしまったのかを教えてくれる。今までこんなに苦労したんだということや、こんなに不幸な境遇だったんだと話は展開する。その後に、実は同じ部屋のルームメイトであったり自分に近しい人が、自分とは比べ物にならないぐらいに、苦しい境遇に立ち向かっていたことを後から知るという構成。

    そう、自分が世界の不幸を全て抱えていると思っていたら、自分よりもっと大変な状況なのに、文句の一つも言わず、明るく頑張って生きている人がいる。その現実を知ると、自分の悩みがやけにちっぽけに見えてくる。そこから各主人公が心を入れ替え、人生を前向きにリスタートしていく。という構成だ。

    ただこの同じ構成を3つも4つも続けてやられると、流石に読み手のこちらも飽きてくる。なので、3編目以降は構成をガラッと変えてくる。そう、読者を飽きさせないよう仕組みを変え、読み手の感情を汲み取り、一番作品へ没入出来る方向へ導いてくれる。そこの話の持っていき方が、巧いなぁと感じた。これ以上書くとネタバレを含んでしまいそうなので、ストーリーについてはこれぐらいにしておきます。これ以上気になる方は、ぜひ本書を手に取ってみてくださいませ。

    また今作では隠れた名言もある。
    「優しさには、相手のためになるものと、相手を駄目にするものがあることを覚えておいてください」と、ある学生に理事長が諭す場面がある。

    この言葉って、その時々によってどちらの対応が正解かが、ケースバイケースでまったく違ってくる。手助けした方が良いのか、敢えてしない方が良いのかの判断が、本当に難しい。そしてその判断を、ほぼ瞬時にせざるを得ないことなど日常茶飯事だ。相手に思いやりを持って行動したいと常に意識していても、その行為や想いが、相手の為にならないことなど多々ある。だから人生って難しいよなぁと、つくづく思う。そんなことを思考していると、河合隼雄先生の言葉が身に染みる。

    「人間理解は命懸けの仕事である」
    ほんとその通りだなと思う。河合隼雄先生はまず相手のことを100%理解することなど出来るはずがないと言い切っている。何十年と臨床心理学の最前線に立っていた先生が言うのだから、言葉の重みが違う。だったらどうせ理解できないなら、そもそも理解しようとしなくてもいいんじゃない?と思う方もいらっしゃるかもしれない。でも、そうじゃない。相手のことなんて理解できない。そんなことは百も承知だ。その上で、少しでもあなたのことを理解したいんだという情熱を持って、相手に接していくことが重要なんだと、本書の理事長しかり、河合隼雄先生から教えてもらった。ちなみにこの物語は、最終章の第六話が真相が解り、めちゃくちゃ感動させてくれます。

    久しぶりに読書をしたいけど、何を読んでいいか分からないという方や、逆に哲学や思想書や歴史書など、普段は小難しい本を読んでいるけど、たまには心温まるストーリーに触れたいと思っている方には、ピッタリ合う作品だと思います!

    【雑感】
    次は、オグ・マンディーノの「十二番目の天使」を読みます。この本は知り合いが、長期入院をしていた時に、普段ほとんど本なんて読まないのに、この本を差し入れされ読んでみると、凄く感動しその後の人生を前向きに生きるきっかけを与えてくれた本だと、教えてくれた本です。確か日本では映像化もされていたはず。期待して読みます。

  • 『みんなちがって、みんないい』そう思える小説。
    おもしろさ、読みやすさ、物語の深さの全てがあり、最後には涙。すばらしい作品でした。

    閉校が決まった萌木女学園。単位不足で卒業できない十人ほどに、温情措置として半年間の全寮制での特別補講が行われることになった。理事長先生がそれぞれに生きづらさを抱えた生徒一人ひとりと向き合うストーリー。

    理事長先生の人柄に惹かれ、卒業式での最後の言葉に、心を打たれました。

    本書をオススメしてくれた"一万円選書"の岩田さんに感謝。
    "一万円選書"のブックリストで読んだのは、"木暮荘物語"、"アーモンド"に続いて3作目。どの小説もおもしろかった。
    次は"生きるぼくら"を読みたいです。

  • 「砂糖壺は空っぽ」から始まる連作短編。このはじまりの短編からのストーリーへの引き込みが素敵。この悩ましい少女達もカーテンコールで再び舞台に立っていく。
    経営難から、閉校が決まっている女子大。4月から大学はなくなるのに、卒業できなかった女子大生達。理事長は、彼女らを救済すべく、半年間の特別補講寮生活を提示する。
    各短編、性同一性障害、ナルコレプシー、拒食症、自殺願望等、心や身体に問題を持つ女子大生の過去と現在が書かれて、寮生活で仲間となった同級生と助け合いながら卒業を目指す。
    理事長が、彼女らを病気と認識しても普通の生活を呼び戻そうとするところが心地良い。
    彼女達は、自分たちをはみ出しモノとしているけれど、そこは、誰でも陥る可能性がある闇の中。
    一度閉じかけた彼女達の未来にカーテンコールをかけた素敵な作品でした。

    • みんみんさん
      加納さんは何作か読んだけど
      優しい作品だよね〜
      加納さんは何作か読んだけど
      優しい作品だよね〜
      2023/09/30
    • おびのりさん
      この作品に関しては、出来上がりすぎてる感じはあるけど、普通に暮らそうってところが好きかなあ。
      やっぱり、ご自身が病気したのは、作品に影響する...
      この作品に関しては、出来上がりすぎてる感じはあるけど、普通に暮らそうってところが好きかなあ。
      やっぱり、ご自身が病気したのは、作品に影響するかしらね。
      2023/09/30
  • 加納さんの初読み。
    帯に『涙盛ナミモリ』売れすぎ。
    またまた本屋さんに山積み推してたので購入。

    最近、読んだことのない作者の方を幅広くよんでみています!作者の中でも有名な本をまず初読みにしようと思いながら。

    構成として、
    6つのテーマ?にわかれていて、それぞれの主人公目線で語られる。

    全体的には、
    閉校が決まった女学園、単位不足で卒業できない生徒を半年間の延長合宿で卒業させる内容で、6つのテーマは全部繋がってます。 
    山の眠り姫の話、素敵だったなあ、全部ほんと素敵!!

    一言でいうと、みんなそれぞれ色々ある、耐えられない時は逃げ出してよいのだ!そんな時は自分の足で逃げれるように!人生は長い。
    今後辛い時は魔法の呪文、私は素晴らしい!と
    つぶやいてみよう。
    トラウマや、コンプレックスなど、長い人生で少なからずみんなあるんだなあと。(全然一言で言えてない!!笑)

    最後の最後に理事長の生い立ちが語られて、まとまるシーンは感動。
    毎日シンプルな暮らしを試みようと思います。
    今後に再読しようと思えた素敵な本でした!!

    みなさん、ネタバレしないでアウトプット言語化できてるレビューほんとすごいです。私これ以上たくさん書いたいところですが、
    ネタバレなるので、、、笑


    ※プリマドンナの休日
    最後の2行は、何か大きな意味があるのですか?点々がついてる文章です、、。気になるから記録しときます。

  • 岩田 徹さんの「一万円選書」でお薦めされていました。え、解説が岩田さんご自身なんだ、なんてほくそ笑みましたが、さすがの一冊でした。

    角田理事長、とてつもなく殊勝な人でした。途中までは責任感強めのお人好しの印象でしたが、すべて持ってかれました、最後に。
    1度しか書かれていない「カーテンコール」の意味に感嘆し、未来のある人=生きている人皆へ勇気をもたらすスピーチが、いろんな感情を味わわせてくれました。

    「あなたは死ぬのが下手くそですが、とうやら生きる方も相当に下手くそらしい。」
    こんなことを言ってくれる人が皆さんのそばにいますか?いなければ、この本をお薦めさせていただきますね。

  • 落ちこぼれ女子大生たちが奇跡を起こしていく物語。
    閉校が決まった私立萌木女学園で、落ちこぼれ生徒たちを卒業させるべく、半年間の特別補習合宿が始まる。
    そこに集まった者たちの抱えた様々な事情や苦悩が、理事長の愛のある策略により次々と明らかになっていく。
    そう、この理事長がとんでもなく素晴らしいのだ。
    大学生が単位を落とすのは自己責任とされるものだが、そんな風に突き放さず、すべてを受け入れ、寄り添い、個人が抱える問題に全力で一緒に向き合う覚悟を持っている。
    そんな理事長は、ときには厳しい言葉もかけるが、根底にはしっかり深い愛情があるとわかるから、生徒たちも安心して心を開けるのだろう。そして彼自身もある過去を抱えていて…
    そのままの自分でいられる場所。家ではそれが望めない場合もあるのだという現実。自分を否定しないで、逃げていいんだよ、とあたたかく包み込んでくれるよう。
    印象的なひまわりの花束の表紙。ひまわりの花言葉のひとつに『あなたは素晴らしい』という意味がある。読み終えて改めて表紙を見ると、理事長から卒業生へ、著者から読者へのメッセージなのだと感じて、胸にジンときた。

    • shukawabestさん
      こんばんは、夜分にすみません。shukawabestです。お久しぶりです。この作品、「ありえないかなぁ」と感じたので⭐︎5つにはしていません...
      こんばんは、夜分にすみません。shukawabestです。お久しぶりです。この作品、「ありえないかなぁ」と感じたので⭐︎5つにはしていませんが、加納朋子さんの人柄を感じさせる温かい作品ですね。読み終わったあと、とても幸せな気持ちになります。
      2024/04/11
    • ひろさん
      shukawabestさん、お久しぶりです♪
      そうなんですよねぇ。ありえない設定だし、誰かに感情移入するわけでもなかったですが、加納さんの優...
      shukawabestさん、お久しぶりです♪
      そうなんですよねぇ。ありえない設定だし、誰かに感情移入するわけでもなかったですが、加納さんの優しい人柄なんでしょうね。自分のことも相手のことも認めて受け入れていこうって思いました(*˘︶˘*)
      加納朋子さんの作品が大好きですが、その中でも上位にくるくらい、よかったです♪
      2024/04/11
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著者プロフィール

1966年福岡県生まれ。’92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。’95年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『掌の中の小鳥』『ささら さや』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』『トオリヌケ キンシ』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』『二百十番館にようこそ』などがある。

「2021年 『ガラスの麒麟 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加納朋子の作品

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