宮沢賢治の真実 ―修羅を生きた詩人 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101019710

作品紹介・あらすじ

猥、嘲、凶、呪……不穏な文字が並ぶ詩と出会い、著者は賢治の本心を探り始めた。信心深く自然を愛した自身をなぜ「けだもの」と呼んだのか。醜聞にまみれ病床でも自己内省を続けた妹の姿に何を思ったのか。名作『銀河鉄道の夜』の中にどんな欲望を秘めていたのか。緻密かつ周到な取材による謎解きの果て、修羅と化した賢治の “真実” に辿りつく。執念が実った圧倒的ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 今野勉『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』新潮文庫。

    同じ岩手県出身の石川啄木に比べ、宮沢賢治が多くの人の研究対象になっていることは非常に不思議なことだ。確かに渋民にある石川啄木記念館よりも花巻にある宮沢賢治記念館の方が観光地化され、人気の高さを感じる。

    前置きが長くなったが、本書は宮沢賢治の残した詩や書簡、関連書籍等から宮沢賢治の精神世界にまで迫ろうとした研究書のようなノンフィクションである。いきなり宮沢賢治の難解な文語詩の解読から始まる取り付きの悪さに、もう少し軟らかい内容を期待した読者は面喰らうばかり。岩手県の産んだ偉人としての宮沢賢治を描こうとしたものではなく、宮沢賢治を丸裸にして、彼の精神世界と創作の裏側を暴こうとしているように感じた。

    宮沢賢治の残した詩や童話を目にする度に彼は相当な天才的頭脳の持ち主だったのだという考えに至る。勉強の出来不出来は抜きにして、常に様々な見聞を糧に常人には思い付かない程の壮大な思想を膨らまし続けていたに違いない。あふれるばかりの知識に加えて、表現が追い付かない程の創造力が時として解読不能な不思議な言葉や擬音、造語を使わざるを得なくなったのではなかろうか。

    ここ数年で読んだ宮沢賢治に関連する書籍では門井慶喜『銀河鉄道の父』、松本隆『新考察「銀河鉄道の夜」誕生の舞台―物語の舞台が矢巾・南昌山である二十考察 』なども宮沢賢治をよく知るための良書だと思う。また、鏑木蓮が書いた宮沢賢治を探偵役にした小説『イーハトーブ探偵』シリーズも面白い。

    本体価格800円
    ★★★★

  • 「生命の伝道者としての賢治」、「農業に希望を託す賢治」…など著者はこれまで「四人の賢治像」をもっていたが、五人目の賢治と出会うことになる。

    これまで看過してきた賢治の文語詩。そこには「凶」「猥」「呪」などの禍々しい気配を発する文字が並ぶ。
    探偵のように、秘められた賢治の姿を探る。

  • 宮沢賢治の書いた詩から、その詩がどのような場面で、どのような心境で書かれたのかを推理し仮説を立て、様々な情報を集めながらその仮説を証明していくという、着想としてはとても面白い本であると思う。

    またある程度、情報収集が成功しており、レアな情報をキャッチすることで、著者ならではの仮説が立証されているところも多分にあるのだと思う。

    ただ、宮沢賢治が同性愛者であるとする推理には、まったく疑問を感じ、説得力も感じることができず、著者の決め付けのようにしか感じられず、その一点のみで、本書の全体に対する信ぴょう性が感じられなくなってしまった。

    宮沢賢治の熱心な法華経信仰の心は、友を真実の道へ導きたいという強い思いとなり、それは性別を問うことなく、自分に縁する人すべてに対する思いであって、たまたま男性の友に向けられたものに過ぎないと自分は感じた。

    その行動を同性愛ととらえるのは、あまりにも短絡的すぎると思え、本書に対する興味は失せてしまった。

  • 宮沢賢治の真実:修羅を生きた詩人 – 浜美枝ダイアリー
    https://hamamie.jp/2017/04/21/post_508/

    今野勉 『宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/350681/

  • 以前から気になっていた本だったので、文庫版になったのがありがたくてありがたくて即座に購入。
    読むのに随分時間は掛かってしまったが。
    何しろ内容量が多いし濃い。
    現地にまで赴き、非常に細やかに宮沢賢治の詩や物語を読み解いているので、ドキュメンタリーを見ている気になった。
    (事実、著者はテレビ業界人、ドキュメンタリー風なのもそのためか)
    本当に圧倒的情報量と説得力。

    恋の詩や短歌を残しているのに恋人の影が見えてこなかった点。
    妹とし子への想い。
    ある一つの不可解な詩の謎解きから、宮沢賢治の心の奥底へ潜り込む旅が始まる。
    病弱だが頭がよく、賢治のよき理解者だったとし子のイメージが、この本を読んでがらりと変わった。
    寧ろとし子のよき理解者が賢治だったのだろう。
    彼女がずっと心にため込んでいたこと。
    それが原因で病にまでなってしまったこととは。
    そして、その彼女が抱えていたことは、賢治がずっと抱えてきたことでもあった。
    さらっと詩を読むだけでは見えてこなかった二人の心情が、この本ではこんなに鮮やかに解き明かされている。

    他にも『永訣の朝』や『銀河鉄道の夜』などに隠されていた想いも解き明かしている。
    本当に圧巻の一言。
    これまでの定説を覆す目から鱗の理論は一読の価値あり。

    この本に書かれたことを踏まえて今一度イーハトーヴォを歩けば見える景色は変わる筈。
    より近くに賢治の息遣いを感じられるようになるだろう。
    賢治愛好家は是非読んでほしい。
    ある意味ショッキングな内容ではあるが、それ以上に得るものが多い筈だ。

  • 最高の作品
    ノンフィクションとは言い切れない
    素敵な心のお話
    感動した

  • んー……
    全編、ゴシップ記事、という印象を拭えない。
    死者が知られまいとしてきた過去をことさらに暴きたてる。まるで墓荒らしのようだ。
    ドキュメンタリーだから、仕方ないことではあるのだろうけれど。

    本書を参照すれば、これまで難解とされてきた作品群が一気に「わかりやすく」なることは確かだ。
    ただなぁ…
    「わかりやすさ」は作品としての本質じゃない。
    「わかった」と思うことで、却って損なわれる魅力の方が、私には痛ましくて悲しい。

    べつに、賢治を神格化したいわけではないけれど、下世話な趣味で恥部を暴かれる故人の身にもなった方がいい。

  • P.2020/4/5 購入

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著者プロフィール

演出家、テレビマンユニオン最高顧問。放送文化の分野で初の文化功労者。

「2023年 『テレビマン伊丹十三の冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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