最後の秘境 東京藝大: 天才たちのカオスな日常 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101012315

作品紹介・あらすじ

やはり彼らは、只者ではなかった。入試倍率は東大のなんと約 3 倍。しかし卒業後は行方不明者多発との噂も流れる東京藝術大学。楽器のせいで体が歪んで一人前という器楽科のある音楽学部、四十時間ぶっ続けで絵を描いて幸せという日本画科のある美術学部。各学部学科生たちへのインタビューから見えてくるのはカオスか、桃源郷か? 天才たちの日常に迫る、前人未到、抱腹絶倒の藝大探訪記。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    東京藝術大学の2021年の倍率は美術学部で10.5倍、音楽学部で3.6倍。東大の理三が3.9倍であることを考えれば、正真正銘「東大よりも受かるのが難しい大学」である。入試は普通大学とは違って、努力、才能、そして何よりオンリーワンの「センス」がものを言う。日本を代表するアーティストでもある藝大の教授陣、その半数の心を動かせるか否かが藝大の入試であり、本当に小さいころから英才教育を受けてきた一握りの天才の、そのまたさらに一握りだけがこの門をくぐれるのだ。

    そんな日本一センスが尖っているであろう藝大生たちの、一風変わったキャンパスライフを紹介していくのが本書のテーマである。

    藝大生の特徴を端的に言ってしまうと、音校は天上人、美校は地底人である。
    音楽は幼少期からの積み上げが全ての世界だ。3歳のときから高価な楽器を与えられ、授業の傍ら遠方までレッスンに通いつづけられるような上流家庭が生き残っていく。藝大生には「仕送りが月50万」だの、「数百万円する楽器を何台も所持している」だのはざらであり、その生活水準の高さがうかがえる。
    加えて、彼らは名を売らなければならない。音楽関係者の目に留まらなければ仕事がもらえないのが音楽業界であるため、有名な師に従事しつつ、お金を払ってコンサートに出演し、オーケストラの人々に認められるよう自分をPRしていく必要がある。こうしたセルフプロデュースを行っているためか、真面目でコツコツとしたキャンパスライフを送っている人が多い印象だ。
    一方、美校は奇人変人ぞろいだ。アートとは売るものではなく自らを表現するもの。誰もやってないことをやってこそオンリーワンの価値が生まれる。そうした意識からか、美校の人間は浮世離れした者が多い。ブラジャーを顔につけ、上半身トップレスのまま構内を颯爽と歩く「ブラジャー・ウーマン」や、楽器を荒川に沈めるために国土交通省と交渉する人間など、その生態は謎に満ちたものばかりだ。

    ――「ちゃんと役に立つものを作るのは、アートとは違ってきちゃいます。この世にまだないもの、それはだいたい無駄なものなんですけど、それを作るのがアートなんで」無駄なものを作ること。それ自体は、無駄なことなのだろうか?そうではないと思いたいが、じゃあ何のためにと言われたら、答えが見つからない。また、「アートとは何か」というややこしい疑問に戻ってしまう。どうして人という生き物は、こんな変なことを一生懸命にやるのだろう?植村さんが最後にぽつりと言った言葉が、印象に残った。「アートは一つのツール、なんじゃないですかね。人が人であるための」

    やはり「バカを本気でやる環境がある」というのは大きいのかもしれない。音校にせよ美校にせよ、授業風景は普通大学と別世界だし、彼らの生態も一般人からは常軌を逸したものばかりだ。真に自由な発想からしか本当の芸術が生まれないのであれば、奇人変人の最後のユートピアがこの大学になるのもうなずけてしまう。そして、そのバカを「咎められない」というおおらかさが、天才たちが生まれる環境を作るのかな、と感じた。

    余談だけど、声楽科の井口理さんってKing Gnuのボーカルの人かな?

  • 藝大の学生へのインタビュー。これが曲者揃いで面白い。努力と才能を兼ね備えた天才たち。好きを極める。表現する。それは、とことん自分と向き合うということ。だから時に苦しく、でも完成した時の喜びは半端ない。好きだから、できるんだなぁ。こういう人生もあるんだ。藝祭に一度行ってみたいな。
    漫画「ブルーピリオド」を11巻まで読み終え、こちらの本を。ブルーピリオドの世界観をそのまま…いや、よりカオスな世界が広がっていた。ブルーピリオドでは、藝大の美術学部の中のほんの一部というか、学科で全く別の世界なんだってことも含め、とても興味深かったなぁ。読めてよかった!おびさん、オススメありがとうございました♪

    • おびのりさん
      ひろさん、暑中お見舞い申し上げます。
      二宮さんって、いろんな作品書かれますよね。
      読んでいただき、ありがとうございました♪
      私も今年は藝大学...
      ひろさん、暑中お見舞い申し上げます。
      二宮さんって、いろんな作品書かれますよね。
      読んでいただき、ありがとうございました♪
      私も今年は藝大学祭狙ってます。
      2022/08/10
    • ひろさん
      おびさん、暑中お見舞い申し上げます。
      二宮さんは初読みでしたが、普段はホラーとか書かれている作家さんなんですね♪藝大生の奥様とのやり取りもほ...
      おびさん、暑中お見舞い申し上げます。
      二宮さんは初読みでしたが、普段はホラーとか書かれている作家さんなんですね♪藝大生の奥様とのやり取りもほっこりしました。
      おぉ!おびさんも藝大学祭狙ってるんですね!もし行けた際にはどんな感じだったかぜひ教えてください♪♪
      最近、娘がピアノを習いたいと言い出し、私も久しぶりにやりたいなぁと思ったところだったので、この本を読んでますます音楽とか芸術とかに触れたくなりました(*ˊ˘ˋ*)
      2022/08/10
  • 2020.8.30pm書店にて購入。面白そう。
    ゆっくり読みます。嬉しい!

  • 東京藝大の現役学生へのインタビューをもとに、藝大の学科、専攻の特徴や藝祭を紹介するとともに、いかにユニークな学生が集まっているか、さらには、その相乗効果もあってだと思うが、他の大学とは一線を画した大学の様子が描かれていて、超絶面白い。
    まずは、藝祭に行ってみたくなった。

  • 好きな物に対する尽きない情熱、探求心。
    何かに取り組んでいて努力してる方は輝いていてかっこいいですね!

  • 東京上野に残された最後の秘境の物語。
    藝大が舞台となっているコミック「ブルーピリオド」は最近のお気に入り。これは、だいぶリアルなんだろうと思っていたけれど。小説はコミックより奇なり。そして現実は小説より奇なり。
    前半は、カオス感満載。半ばからは、それぞれ専門の真摯な情熱に溢れています。新年にぴったりの一冊でした。

  • 二宮さんのライトなファンなので購入しましたが、想像以上に軽い読み物でした。しかし自分の周りにはあまりいないような人種がこれだけ集まっている世界ってなかなか面白かったです。特にアート系の人々は常人離れしているというか、神様に才能を与えられた人はある意味その才能のために生きなくちゃならないってことがあるのかもしれない。

  • こ…これはすごい!
    物作りの天才たちの本
    東京藝術大学に通う方々の生活苦悩
    私には思い浮かばない発想
    なんじゃこりゃ!
    ついつい言葉を調べたりインタビュー受けての人の名前を調べて作品を確認してしまう!

    作品作りに2日間この集中力凄すぎて!
    本当に芸術は爆発

  • 学科あるあるや聞いたことも無い技法などなど、へえー!へえー!と新鮮な気持ちで読みました。気になる用語や人はググって、画像や動画を漁りながら。
    世界が広がったような気がします。すごく面白かった!

  • 率直な感想。住んでいる世界が違う、、、。笑
    個性的すぎる人たちが次々登場して、しかもそれがノンフィクションでどんどん読み進められる!

    わかりやすい例で言うと、当時東京藝大の学生であったking gnuの井口さんが登場する。テレビやSNSで見る限りでも才能に満ち溢れていて、変わった人だなぁと感じる井口さんの印象が、この本の中だと薄く感じるくらい、みんなキャラが濃い!!

    この本を読んでから自分の大学生活を振り返ると、もっとぶっ飛んだことしておけばよかったなぁと思う。笑
    新しい世界を知ることができる読んでいて楽しい本!

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著者プロフィール

1985年、東京生誕。一橋大学経済学部卒。著書は他に「!」「!!」「!!!」「!!!!」「暗黒学校」「最悪彼氏」(ここまですべてアルファポリス)、「占い処・陽仙堂の統計科学」(角川書店)、「一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常」(幻冬舎)などがある。

「2016年 『殺人鬼狩り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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