ヒトラーの正体 (小学館新書 ま 12-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098253531

作品紹介・あらすじ

ヒトラーはいまも生きている!

アドルフ・ヒトラー。20世紀最恐と言っていい暴君ですが、一方で彼が当時最も民主的な国家といわれた「ワイマール共和国」から生まれた事実を忘れてはいけません。

なぜ人びとは、この男を支持したのか。
悲劇は、止めることができなかったのか。

戦争中、ナチスに処刑されたユダヤ人はおよそ 570万人と推計されています。現代に生きる我々は、ホロコースト(大量虐殺)を知っており、どんなことがあってもこの男を許してはならない。ただ、歴史には必ず教訓がある。その汚点から眼を背けているばかりでは、現代のポピュリズムや排外主義を正しく恐れることができません。

ヒトラーについて書かれた本は無数にあります。いまも世界中で専門的な研究が進められている。しかし、難しい専門書を読みこなすのには手間も時間もかかります。ヒトラーについて手軽に読める入門書のような本があれば便利だ。そんな考えのもと、筆者が構想したのが本書です。










【編集担当からのおすすめ情報】
筆者が若い研究者としてドイツのミュンヘンに就いていたとき、下宿屋の主人が「ヒトラー時代が一番良かった」と言い、当時の写真アルバムを懐かしそうに見せたことに驚いたそうです。学者時代にナチズムを研究対象としていた筆者の原体験です。それから約40年。政治家を経て、ヒトラーを改めて見つめ直した筆者が、実体験を交えつつ、平易な言葉で、ヒトラーを解説しました。図版や写真も多く使用されており、入門書としてまず手にとっていただきたい一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • オビに「平易明快な入門書」とあるけど、なかなかしんどかった。舛添さんとは相性があまり良くないのか、すうっとは入ってこなかった。僕の場合は、だけど。

    ヒトラーはドイツの敗北が決定的になってもまだ、
    「ユダヤ人という潰瘍は私が切開した ー 他の潰瘍のように。未来の人々はわれわれに対して、永久に感謝を忘れないであろう」
    と言っていたという。
    狂っているとしか思えない。でも、こんな人が当時のドイツの民衆からは熱狂的に支持されていた。

    「ヒトラーは超ナショナリスト的な政治社会状況の中から生まれたデマゴーグ」だという。21世紀に生きる我々が、ヒトラーを克服できたか?と問われると、本書が言うとおり、心許ないものがある。わかりやすいポピュリズムにいつのまにか流されそうになる自分がいる。

    歴史を勉強して、様々な人と話をして様々な価値観に触れていくことが必要なんだな、と改めて考えた。

  • ナチズムの総統として君臨したヒトラーについて、政治学者の立場から考察されている一冊。
    一般に広く伝えたいという著者の意志が読みやすさから感じられました。
    客観的且つ冷静にヒトラーを見据えることで、感情論で隠されている本質が見えるようになります。
    ヒトラーは扇動家と言われていますが、その所以は彼が大衆感情がどんなものかを観察により究めた結果なのだと思います。
    簡潔な表現で纏められた新書ですが、深く考えさせられました。

  •  舛添氏の本。とてもよく纏まっている。かなり研究しているので、とてもわかりやすい良書だ。

  • 毎日新聞2019年今年の1冊に掲載されていた1冊。
    以前に読んだものを補完する形で読み進めたが、内容はそれほど深くはなかったというのが正直な感想である。
    まあでも、ヒトラーに関して読む最初の1冊としては適しているのではないかなと。

  • ヒトラーについてまとまったものを初めて読んだ。
    ヒトラーがとりたてて特殊な環境から生まれたものではなく、ナチスが民主的な手続きで政権を握ったことを知った。オーストリアの合併が歓迎されていたというのも驚きだ。特定の人たちを排除しようとする点で現代に通じる部分があるのは、その通りだと思う。

  • ヒトラーの国籍がオーストラリア人とは知らなかった。ドイツのために活動してたらドイツ人じゃなくても独裁者なれるんだな。

    ヒトラーの死から70年が経ってからドイツで「わが闘争」が読めるようになったらしいがドイツの人はこの本を読んでどんなことを思うのか…。

  • 結構面白かった!

    あくまでも民主的で合法的に独裁体制を築いたヒトラー
    そこには、大衆へのプロパガンダも、それから自国を優先する英仏の都合もものすごく影響してたんだな..

    後半の「大衆の心理」についてもっと深く知りたい

  • ヒトラーについてまとめて述べた本を読んだのは初めて。

    当時のドイツを取り巻く情勢、ヒトラーの手腕。

    有能な政治家であった一面も描かれ、もちろん新書という薄い入門書にまとめてあるからもあろうが、読みやすくて興味深かった。

    なんでこの時期にと思ったんだが、米大統領の一国主義、世界を席巻するポピュリズムなどが当時の状況に似てると主張する。
    だが、当時といろんなことが違うだろうし、難民問題も質や量が違う。特定外国人への批判を、安易にヘイトと言い切ってしまう、それも、そういう主張があまり効果的でなく挿入されてるのが興ざめ。

    政治家だしな。

  • 舛添さんは都知事以前に学者だったが、ヒトラーをテーマにヨーロッパ留学をしていたとは知らなかった。さんざん書かれてきたテーマなので、他の本でも書かれていることのほか、今のポピュリズムや選挙制度、連立政権など分析していて読みやすい。タイトルも今さら「ヒトラーの正体」ではなく現代に繋がるキャッチーなものにすればよかったのに。とにかく一読の価値がある。

    20世紀、当時世界で最も民主的と言われた憲法をもっていたドイツ(ワイマール共和国)でなぜヒトラーが生まれたか?ヒトラーは民主的な選挙で躍進し、憲法に則って首相に任命された。ポピュリズムが跋扈する今、ヒトラーを研究することは今日的な課題であると著者は言う。
    舛添さんは大学で政治学、ヨーロッパ外交史を学んだあとフランス、スイス、ドイツに留学。ヒトラーを研究。1977年にはルール大学、マールブルク大学に招かれて研究成果の講義も行う。1980年にはアメリカ議会に招かれてミュンヘンに数か月滞在し、研究していたらしい。
    ヒトラーはオーストリア・ハンガリー帝国の国籍だったが、大ドイツ主義(ドイツ民族は国境を越えて団結すべき)の信念を持っていてドイツ人であることを誇りにしていた。ドイツがオーストリアを併合した時、オーストリア国民は歓喜の大歓迎。舛添氏の留学中にも、「ヒトラー時代が一番よかった」という老人はいた。ヒトラーがドイツ国籍を得たのは、首相になる1年前の1932年。それまではドイツ国籍がないまま党首として活躍していた。ヒトラーはもともと当時王国だったバイエルンで軍隊に志願し1914年に第一次世界大戦に出征。その後革命が起き、バイエルン王国はなくなる。雑務をしたり、逮捕されたりしながら、教育将校となり、民衆を教育する役割を担う。政党の調査の任務で極右反ユダヤのドイツ労働者党という小党を担当し、その思想に感銘を受け、党員になり、やがて党を牛耳る。1920年2月24日、ミュンヘンのホーフブロイハウスで2,000人の聴衆を前に「25カ条の綱領」を発表。ヴェルサイユ条約によって削られた領土の回復、大ドイツの復活(ドイツ人の血をひくものがドイツ人と定義し、ユダヤ人から公民権をはく奪する内容)、財閥の国有化、小企業の保護、貧困家庭の教育費国庫負担、幼年労働の禁止など中間層に訴える内容もあるが、徴兵制や再軍備なども盛り込まれる。
    ナチスとは敵陣営が侮蔑して呼んだもので「ナチオナールゾチアリスティッシュ Nationalsozialistiche 国家社会主義)を短縮して「Nazis」
    当時は街頭活動などで思想的に対立する政治集団と暴力沙汰になることが多く、ガードマンとして武装集団を作り、ヒトラーユーゲントも組織された。
    当時、ワイマール共和国は完全な普通選挙(男女とも)、比例代表制。しかし、小党分裂による政治の不安定化がヒトラーを招いたという反省から現在は5%条項(得票率が5%未満の政党には議席を与えない)がある。ワイマール憲法ではドイツ語以外のことばを話す少数派の権利も守られ、貴族の称号や勲章の授与は禁止、全てのドイツ人が法の前に平等。
    【戦後フラストレーションの利用】第一次大戦中に革命がおこり、社会主義者が帝国を倒して発足したのがワイマール共和国。ヒンデンブルクは勝てるはずの戦争に革命などしているから負けたと主張。革命の指導者はユダヤ人だったため、ユダヤ人のせいで戦争に負けたとヒトラーは考えるようになる。
    火事や外交官殺人など暴力は必ず揚げ足取りの格好の材料になる。
    第一次世界大戦の賠償金はドイツが払いやすいよう、8億金マルクの借款を与えて経済振興を図り、次第に返却額を増やす方法をとった。インフレが起こったが1924年には終息し、いったん社会は小康状態となりナチの議席が伸び悩むようになったが、1929年10月24日に世界大恐慌を迎える。アメリカ資本が撤退し、失業者が増える状況下で、大衆の不満に火をつけるデマゴーグが得意なヒトラーが勢いづく。
    【ワイマール憲法の問題点】
    ①第48条 大統領の緊急命令
    緊急時には公共の安定と秩序のために、個人の自由や住居の不可侵、通信の秘密などは全部もしくは一部分失効する。
    ②政党が政府をつくらない。諸政党は選挙結果に基づいて政府をつくらなければならないが、連立政権をつくるより、独自色を出すことを優先し、第一政党でありながら政権に加わらず、大統領内閣となってしまう。
    日本は1931年9月18日に柳条湖事件(満州事変)を起こし、国際連盟から侵略と認定され、1933年3月に国際連盟を脱退する。日本は常任理事国だった。この時ヒトラーも国際連盟脱退のチャンスを狙っていた。
    日本の政治家中野正剛はヒトラーに心酔。自身も「木戸銭を払っても演説を聞きたい」と言われるほど演説がうまかった。
    今日の「権利を享受しながら義務を果たさない」「特権を持っている」などと難民や特定の民族に対してつかわれるヘイトクレイムはヒトラーの主張によく似ている。
    【わが闘争下巻第6章】
    「演説は書物より影響が大きい。全ての力強い世界的革新の出来事は書かれたものによってでなく、語られた言葉によって招来されるものだ。」「同じ講演、同じ演説者、同じ演題でも午前10時と午後、晩ではその効果はまったく異なる。朝や午後では全く盛り上がらなかった演説も晩だと大衆は容易に興奮する。朝や昼間は自分と違う意見をはねつけるエネルギーがあるが、夜はそれがなえる。一日の疲れもあり、注意力も散漫となり、プロパガンダに屈しやすくなる。「宣伝は全て大衆的であるべきであり、その知的水準は宣伝が目指すべきものの中で最低級のものが分かる程度に調整するべき。数が多くなるほど知的高度はますます低くする。」「大衆の需要能力は非常に限定的で理解力は小さく忘却力は大きい。重点をスローガンのように、思い浮かべられるように繰り返す」「真理の追求ではなく自己に役立つものでなければならない」
    自由旅行は不安、孤独があり、盗難や命の危険、貧乏宿などに遭う。グループツアーは快適で安心、食事もバスも予約済み。しかも個人旅行より安い。ヒトラーはグループツアーの頼れるガイドに例えられる。不安や無力感を伴う自由を捨てて指示に従えば快適。1923年のドイツのインフレや1929年のアメリカの強硬派不安の感情を増大し、自分の努力で前進する希望や成功の無限の可能性を信じる伝統的な信念を粉みじんにした。奮起して努力し、次の目標に進むことができず、自由を捨て、隷属する道を選ぶ。
    エリック・ホッファーは、大衆運動が誕生する時にはほとんどいつも適齢期を過ぎた未婚婦人や中年の婦人が参加するが、その理由は倦怠である。(オイ!と思うが、憎悪に並び、「倦怠」が大衆を動かす原動力になる例)

  • 極端な主張が人気を博すのはなぜか?
    がわかる本です。

    前半
    第一章「少年ヒトラー」から
    第四章「第二次世界大戦」までが
    ヒトラーとドイツの経済、政治史です。

    後半
    第五章「反ユダヤ主義とは何か」から
    第七章「ヒトラーに従った大衆」までが、
    その後の研究者の成果と著者の解説です。

    前半では
    よく言われる「ヒトラーは合法的に独裁者になった。」が、どういうことか、具体的に解りました。
    昨年、wikipediaの「全権委任法」(1933/3/23成立)を読みました。
    そのときの理解は
    「国会での議決で反対票を投じそうな議員をあらかじめ逮捕しているのだから、合法的とは言えないのでは?」
    でした。
    つまり「合法的に独裁者になった」と言うことが納得できませんでした。
    本書では、このからくりがわかりやすく解説されていています。
    納得(独裁者の誕生に)納得はできませんでしたが、何がまずかったのかを自分でも考えられる程度には、理解が至ったように思います。

    三権の分立の大切さが肌身に感じられました。
    本書とは直接関係ありませんが、イギリスのEU離脱問題で言えば、
    ニュースだけ見ていると強引な首相が登場した時点で、合意なき離脱をするかと思っていました。
    現在(2019/9/16)首相の強引さに議会が「待った」をかけたところです。
    強引な首相(行政)に対し、議会(立法)が待ったを掛けられるのがイギリスの強さなのではないか、と思いました。

    後半は、このドイツの歴史から何を学び、今どう生かすことができるのか、自分なりに考えを巡らせる助けになりました。
    本書で著者は、主に移民や外国籍の人を排斥する人たちと、当時ナチを支持したドイツ国民との類似点を指摘しています。
    僕は、それに加えて、いわゆる(放射能でなく)「放射脳」と揶揄される人たちや、複雑な消費税の軽減税率を歓迎する人たちの不可解が理解出来たように思います。
    わざわざ放射線検査までしてから出荷している食品を、それでも「危険に決まっている。」「本当は食べない方が良い」などとフェイク・ニュースを流したり、
    実際には金持ちのほうが税金を多く支払うのに「食品は税額を軽減するべきだ」と言う主張に納得してしまう人たちです。
    いくら理屈で説明しても、聞く耳を持たない人たち。
    技術立国日本において、ほとんどの人が高校以上の学歴を持っているにも関わらず、なんでこんなに阿呆なの?と思っていたのですが、本書のヒトラーの研究成果に触れて、「そういうものなのだ。」と思った次第です。
    この本は、だから、
    ・ ネトウヨやヘイトスピーチがイケナイと思い、どうにかしなければ、と思う人たちや、
    ・ 放射線や公害の風評被害が収まらないことをなんとかしなければ、と思う人たち。
    つまり、一生懸命「そんなコトをしていたら、僕たちみんな不幸になってしまうよ。」と訴えたい人たちに役に立つと思いました。
    僕たちは一所懸命データを示し、エビデンスを明らかにし、そのヘイトスピーチが、風評被害が、間違ったものだと言うのですが、僕たちが言う相手には、データも、エビデンスも、有効打ではなく、逆に「義務を果たさないのに、権利ばかり主張する。」とか「ベクれてるに決まっている」と根拠無しに、わかりやすい主張をするほうに乗りやすい「あの人が、そう言っているのだから、そうなのだろう」と支持されることを理解し、表現の方法を考えるべきだ、と思いました。

    後半で紹介されているヒトラー研究の出典を見ると、戦後直ぐから、熱心に沢山に人が成果を発表していることが解ります。しかし、それらを読むのは、たぶん無理。
    と言うわけで、新書一冊にまとめた、著者=舛添要一の仕事がグッド・ジョブである、と読み終えてつくづくと思ったモノです。

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著者プロフィール

舛添要一(ますぞえ・よういち)

 1948年、福岡県に生まれる。1971年、東京大学法学部政治学科を卒業し、同学科助手。パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員、ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員などを歴任。1989年、舛添政治経済研究所を設立。2001年、参議院議員選挙に出馬し、168万票を得て当選。 2005年の自民党「新憲法草案」のとりまとめに際しては中心的な役割を務め、2006年からは参議院自民党の「ナンバー3」政策審議会長を、2007年からは厚生労働大臣をつとめる。2014年、東京都知事に選出される。
 著書には、『母に襁褓をあてるとき―介護闘い日々』(中公文庫)、『内閣総理大臣―その力量と資質の見極め方』(角川oneテーマ21)、『永田町vs.霞が関』『日本新生計画』『日本政府のメルトダウン』『憲法改正のオモテとウラ』(講談社)などがある。

「2014年 『母と子は必ず、わかり合える 遠距離介護5年間の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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