字のないはがき

  • 小学館
4.00
  • (44)
  • (45)
  • (39)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 815
感想 : 76
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784097268482

作品紹介・あらすじ

人気2大作家共演! 感動の名作を絵本化

【教科書にも載っている実話を絵本化!】
このお話は・・・
脚本家、エッセイスト、直木賞作家である
故・向田邦子の作品の中でもとりわけ愛され続ける
名作「字のない葉書」(『眠る盃』所収、1979年講談社)が原作。


戦争中の、向田さん一家のちいさな妹と、
いつも怖いお父さんのエピソードを綴った感動の実話です。
向田邦子さんのちいさな妹・和子さんが主人公。
ぜひお子さまと語り合って欲しい作品です。


【あらすじ】
戦争時代、ちいさな妹が疎開するとき、
お父さんはちいさな妹に、
「元気なときは大きな○を書くように」と、
たくさんのはがきを渡しました。
しかし、大きな○がついたはがきは、
すぐに小さな○になり、やがて×になり・・・。


【直木賞作家2人の夢の共演!】
当代人気作家の角田光代と西加奈子の最強コンビで
美しい絵本によみがえりました。

大の向田ファンで知られる角田光代の渾身の描写と
西加奈子の大胆な構図と色彩をぜひ堪能してください。





【編集担当からのおすすめ情報】
子供たちに伝え継ぎたい、感動の絵本になりました。

絵を担当した西加奈子さんの
作家ならではの構図、伏線をもった構成に
目を奪われてしまいます。

装丁のかわいらしいタンポポは、
この絵本の主人公・ちいさな妹をあらわしているそう。


文を担当した角田光代さんは、
文章を書きながら、
絵を見ながら、
校正をしながら、
そのたびに涙が止まらなかったそうです。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『第1回親子で読んでほしい絵本大賞、大賞受賞作』

     この絵本は、向田邦子さんの、「字のない葉書」(『眠る盃』所収、1979年、講談社)を原作としており、文を書かれた角田光代さんも語っているように、原作が戦争時代の向田さんの家族との思い出を綴ったエッセイということは、日常生活で起こった現実の話ということになる。

     また、原作があるものを絵本にした意義として、普段活字をあまり読まない方や、まだ読むことに慣れていない方といった、より広い層の人達に手に取っていただけることと、絵本の利点の一つである、無駄のない必要最小限かつ明瞭な文体と、それを補填してくれる絵が合わさることで、絵本ならではのジワジワと伝わってくる感動を教えてくれることだと思う。

     そして、西加奈子さんの描かれた絵は、最初、版画のようにも思われたが、表紙の題字の「い」の字に、凹凸感のある紙に書いたような形跡が見られることから、ボール紙に描いたものと見受けられ、そこから感じさせられたのは、一見簡潔そうでありながらも、そこに存在するものが語りかける声が、私には聞こえてくる気がしてしまい、それは、彼女のインタビュー記事の中の、世の中に存在するものたちが、いつかは朽ちてしまうことの尊さを知っていることからも肯けるものがあると共に、ここで語られる向田さんの家族の人生そのものなのであり、そんな儚いものであることを皆知っているから、少しでも納得出来る生き方をしたいのであり、それは、現代も戦争時代も全く変わることのない、全ての人達に与えられた正当な権利だと、私は思う。

     また、西さんの描き方で印象的だったのが、その殆どが物による表現法によるもので、特筆すべきなのが、玄関の上がり框の前に置かれた『草履』だけで人物描写をしていることであり、この同じ視点による描写が全部で三回あるが、特に最後のそれを踏まえてからの、その次の見開きの、草履を履いた足と裸足のままの足との対比には、思わず涙を誘われるものがあり、ここに来て、初めて読み手は、何故お父さんが「ちいさないもうと」に、『げんきな日は、はがきに まるをかいて、まいにち いちまいずつ ポストにいれなさい』と言ったのかが、身に染みて痛感させられることになるのである。

     表紙の印象的なたんぽぽの絵は、「ちいさないもうと」を象徴しており、それは、見返し一面と本編にも描かれているように、その存在がどれだけ大切なものであるのかが、よく分かると共に、人を花に擬えることが、その人にとって、どれだけかけがえのない愛情を込めているのか、深く感じ入るものがあって、その同一視は、人の存在や生き様も、花同様に美しいものであることを言っているようであるのが、また身に染みる愛おしさを感じさせるが、そんな愛おしく尊い存在である、花も人間も全て破壊し、無くしてしまうのが戦争であることを、私達は決して忘れてはいけない。

  •  平和を願うための絵本として、手にした作品です。たださんの本棚からの選書、ありがとうございます。この作品は、教科書にも掲載されているのですね…。そして、著者は向田邦子さんと角田光代さん、絵は西加奈子さんという、すごい作品です。

     ストーリーは、戦争末期のある家族に焦点をあてた作品です。戦況が思わしくない日本…いつ爆弾が降下されるかわからない緊迫感と、食糧難からのひっ迫感…街にいた子供たちは次々に疎開していきます。そして、一番小さな妹が疎開するとき、まだ字の書けない小さな妹に父は元気に過ごせたら〇を書いてポストに投函するようにと、沢山の葉書を持たせます…。疎開して最初の葉書には、はみ出さんばかりの大きな赤い〇が描かれていたので、安心していた家族ですが、その後届く葉書には黒い小さな〇、しかもだんだん小さくなっていき、×が描かれた葉書が届いたのち、葉書は届かなくなります…。

     心配で仕方なかったと容易に想像できる両親とその家族…切ないけれど、どうしようもない…。こんな悲しい思いをしている家族がどこにでもあった時代…ううん、今だって、世界を見渡せば悲しい思いをしている家族もいる…。読んでいて心が痛かったです…。西加奈子さんの描いた絵はクレヨン画のような感じで、この作風にぴったりです。タンポポのお花は小さな妹を表しているらしいですね…。どこにいても家族を思う気持ちは尊いもの…平和で争いのない社会で、家族一緒に過ごせることが当たり前の世の中になるよう願いたいです。

    • たださん
      かなさん、こんばんは。

      読んで下さり、ありがとうございます(*'▽'*)

      こうした状況で実感させられた、親が子を思う気持ちの、その情の熱...
      かなさん、こんばんは。

      読んで下さり、ありがとうございます(*'▽'*)

      こうした状況で実感させられた、親が子を思う気持ちの、その情の熱さには、その家族にしか分からないものもあるからこそ、涙を誘われてしまい、そこに自分を重ねたり出来るのも、本書が実話だからというのも、きっとあるのでしょうね。

      また、実話だからこそ、大きな勇気を頂いた気持ちにさせられたのも、とても印象深く、こうした日常の出来事、ひとつひとつの愛おしさを知ってもらうことで、争いのない社会に一歩でも近付いてほしいですよね。
      2023/11/09
    • かなさん
      たださん、おはようございます。
      素敵な作品を紹介していただいた上に、
      コメントまでありがとうございます!

      この作品、はがきの〇が、...
      たださん、おはようございます。
      素敵な作品を紹介していただいた上に、
      コメントまでありがとうございます!

      この作品、はがきの〇が、最初ははがきからはみ出す勢いでの
      赤い〇だったのに、それが黒〇になって、だんだん小さくなって
      最後には×になっちゃう…
      それを書いたちいさいいもうとのことを思うと可哀そうだし
      でも、それを受け取る家族のいたたまれない思いも
      痛いほどに伝わってきます…。

      今だからこそ、考えさせられる思いもあります。
      同じ過ちを繰り返さない覚悟も必要ですよね!
      最近の世界情勢に、心が痛みます。
      2023/11/10
  • mofuさんのレビューを読んで懐かしくて、図書館で探して読んでみました。

    私が原作を読んだのは、たぶん中学の時だと思う。教科書に載ってたのを読んだ気がする。授業でやった話なんて覚えてないんだけど、この話はなぜか覚えてる。たぶん、その当時の私は子供なりにこの話を深く考えたんだと思う。戦争ってこんなにも悲しいんだと。

    絵本だとどんな感じなのかな?優しい感じなのかな?色々思いながら読んでみた。 

    絵本だから優しい感じはするけど、悲しい。分かっててもやっぱりお父さんが泣くところでわたしも泣きそうになってしまった。厳しくて怒ると怖いお父さんが泣くのはやっぱり泣けてくる。子供の変わり果てた姿を見て、自己嫌悪に陥ってしまったんだろうなと思う。

    その当時の人達がどんな思いで毎日を生きてたかを絵と文章が伝たえてくれる。ページいっぱいに絵があり、少ない文字数で伝える事が出来るなんて、絵本は素晴らしいと改めて気付きました。

    • mofuさん
      こんばんは♪
      いつもは厳しいお父さんが感情をむき出しにして大泣きするシーンは、こちらも泣けてきますよね〜。
      西さんの絵に惹き込まれる絵本。こ...
      こんばんは♪
      いつもは厳しいお父さんが感情をむき出しにして大泣きするシーンは、こちらも泣けてきますよね〜。
      西さんの絵に惹き込まれる絵本。このコンビで別の絵本も出してほしいと思いました(*^^*)
      2022/11/14
    • メイさん
      こんばんは、mofuさん。
      コメント、ありがとうございます。

      角田光代さんと西加奈子さんは仲がいいというのはテレビとかで知ってたんですが、...
      こんばんは、mofuさん。
      コメント、ありがとうございます。

      角田光代さんと西加奈子さんは仲がいいというのはテレビとかで知ってたんですが、一緒に絵本を出版されてたのは、この本を読んで初めて知りました。

      この絵本は人間が描かれてないと思うんです。足は描かれてますが。それなのに家族の絆みたいのが伝わってきます。これが私にはすごいなと思いました。ちょっと訳が分からなくなってしまってすみません。
      2022/11/14
    • mofuさん
      ほんと、家族の足だけで家族の絆や想いを表現できるなんて、素晴らしい絵本ですよね(^o^)
      ほんと、家族の足だけで家族の絆や想いを表現できるなんて、素晴らしい絵本ですよね(^o^)
      2022/11/14
  • 故・向田邦子さんのエッセイを、角田光代さんと西加奈子さんの二人が現代に甦らせた一冊。

    西加奈子さんの描く絵は生き生きとしていて、いつも見る者に訴えかけるパワーがある。特に西さんの創る力強い色彩に今回も惹きつけられた。

    家族全員が大切に育んだ"ちいさないもうと"への慈しみが愛おしい。
    玄関に並ぶ家族全員のぞうり。言葉はなくても家族みんなの気持ちを、ぞうりの並び方が代弁していてとても印象的だった。さすが西さん、上手い。

    いつもは厳しいお父さんの「げんきな日には、はがきにまるをかいて、まいにちいちまいずつポストにいれなさい」に感心した。お父さん賢い。
    けれど赤い大きな"まる"から始まって、徐々に"まる"が小さくなり、とうとう…"ばつ"?
    この✕には正直ドキッとした。
    ちいさないもうとの書いた、気持ちのこもった"字のないはがき"。お父さんが大切にずっと持っているといいな。

    • mofuさん
      メイさん、こんばんは。はじめまして。

      この本は絵本です。向田邦子さんのエッセイを元にした作品だそうですよ。
      教科書に載っていたんですね。確...
      メイさん、こんばんは。はじめまして。

      この本は絵本です。向田邦子さんのエッセイを元にした作品だそうですよ。
      教科書に載っていたんですね。確かに子供にも読みやすくて、内容も温まるものなので相応しいと思います。
      はがきがバツになって、はがき自体も郵送されなくなって、心配したお母さんが妹を迎えに行ったんです。それで家に帰ってきた妹をお父さんが大泣きしながら抱きしめるんです。いつも厳しいお父さんがそんなに大泣きするなんて…私もグッときました。戦争のせいで家族がバラバラになるなんて。。平和について考えさせられますね。

      西さんの絵がとても素敵な絵本でした。ぜひ読んでみてください。

      コメントをありがとうございました(*^^*)
      2022/11/03
    • メイさん
      こんにちは、mofuさん。

      お父さんが泣いたのって疎開先から戻ってきた時でしたね。思い出しました。ありがとうございます。(^ ^)
      こんにちは、mofuさん。

      お父さんが泣いたのって疎開先から戻ってきた時でしたね。思い出しました。ありがとうございます。(^ ^)
      2022/11/04
    • mofuさん
      メイさん、こんにちは。

      こちらこそ、ありがとうございました(*^^*)
      メイさん、こんにちは。

      こちらこそ、ありがとうございました(*^^*)
      2022/11/04
  • 向田邦子さんの随筆集「眠る盃」の中の一編、「字のない葉書」の絵本化。
    1976年7月の「家庭画報」に載せられた作品らしい。
    大の向田ファンだという角田光代さんの文と、西加奈子さんの絵。
    原作のエッセンスは全く損なわれていないので向田ファンの皆様はどうぞご安心を。
    西加奈子さんの絵も、「!!」と思うほど大胆な構図と色彩だが、不思議とこのお話に見事にマッチしている。

    お話は戦争中の向田さん一家の実話。主人公は「ちいさな妹」。
    終戦の年の4月、この妹が甲府に学童疎開をする。
    父親が「元気な日は〇を書いて出しなさい」と、宛名だけ書いたたくさんの葉書を持たせて送り出す。遠足にでも行くようにはしゃいで出かけて行った妹だったが・・

    絵本では「ちいさな妹」だが、原作では小学一年生だ。
    ランドセルが歩いているように見える、まだまだ小さな身体。
    親御さんの立場で読むと、本当に胸がいたむだろう。
    3月10日の東京大空襲で命からがらの目に遭い、せめてこの子だけでもとの苦渋の決断だった。誰がすすんで「ちいさな妹」をひとりで他所に行かせるだろう。
    その妹から「✖」の葉書が届き、やがてそれも来なくなる。
    とうとうお母さんが迎えに行くのだが、クライマックスはラスト数行。
    原作の方を載せてみる。

    『夜遅く、出窓で見張っていた弟が、「帰って来たよ!」と叫んだ。
    茶の間に座っていた父親は、裸足でおもてへ飛び出した。
    防火用水桶の前で、痩せた妹の肩を抱き、声をあげて泣いた。
    私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを、初めて見た。』

    ここは、読むたびに泣ける。
    話の背景を思うと「感動」というには違和感があるが、それでも感情が揺さぶられる。
    というのは、この父親というのが昔気質の無口な仕事人間で、長女の邦子さんとは見事なほどそりが合わなかったというエピソードがいくつも登場するからだ。

    絵本化によって、向田作品が再び見直されると良いなぁと、しみじみそう思う。
    描写力の見事さは、まるで映画でも見ているかのように情景が浮かぶ。
    「眠る盃」の初版が1979年で、向田さんが飛行機事故で亡くなられたのが1981年だから、ご本人は生前この本を手にされたことだろう。
    そう思うことで微かに安堵の念が沸き起こる。小学館さん、ありがとう。

    • hiromida2さん
      nejidonさん、おはようございます「早っ!」
      向田邦子さん、私も大好きな作家さんでした。レビューを読んだだけで、もう泣けてきてしまいまし...
      nejidonさん、おはようございます「早っ!」
      向田邦子さん、私も大好きな作家さんでした。レビューを読んだだけで、もう泣けてきてしまいました。一時期、向田邦子さんの本にはまっていた頃を、思い出しました。その時も「何で、こんな素晴らしい著者の作品を読んでなかったんだろう…」って思ったくらい。「父の詫び状」と「思い出トランプ」が、特に印象に残っており、なんて巧い切りとりかたされる方なんだろうって…何だか日常にあるミステリーぽいかと思えば、怖いような話しが笑えてしまったり…。
      『字のないはがき』はレビューに載せられてた数行を読むだけで胸が詰まってきました。向田邦子さん自身、美人でちょっと男っぽいような潔い素敵な方だった(写真集を見たり、エピソードを聞くと。)今でも…突然、飛行機事故で亡くなられた事が信じられない、丁度、あの頃に向田邦子さんの作品を、知った時期だったから、何だか不思議な感覚でした。もう今は私の本棚にも残っていないけど、今後も再び向田作品が見直され、ずっと残ってゆくと良いなぁと思いますし、私も、向田作品また再読したい気持ちになりました。
      ありがとうございます。
      2020/05/24
    • nejidonさん
      hiromida2さん 、こんにちは(^^♪
      このレビューにコメントを下さってありがとうございます。
      流行りの人気作家さんというには違う...
      hiromida2さん 、こんにちは(^^♪
      このレビューにコメントを下さってありがとうございます。
      流行りの人気作家さんというには違うし、誰もが知っているかというとそうでもないし。
      でも残された作品はどれも名作揃いです。
      スケールの大きなものではない。でも日常のひとコマを巧みに描写しています。
      私はたまたま向田さんの料理の本から、作品を知りました。
      レビューに載せたラストの数行は、胸にこみ上げるものがありますね。
      hiromida2さんも読まれていたということで、私もすごく嬉しいです!
      最近ではこういうのを「泣ける小説」と呼ぶらしいですね。
      軽薄な括りですね・笑
      名作の絵本化で、多くのひとの目にふれるようになると良いなぁと思います。
      私もまた、再読したい気持ちになりました。
      こちらこそ、ありがとうございました。
      2020/05/24
  • 初めて向田邦子作品を読んだのは今年の前半。
    しかし初めてだったはずが、この「字のないはがき」は国語の問題だったりしたのか、いつかどこかで読んだことがあった。

    絵本で出ていることをブクログレビューで知ったので読んでみたくなった。
    もちろん、これはこれで良い絵本に仕上がっていると思うが、やはり原作の方が大人には染みる。

  • 昭和20年4月、東京大空襲の災禍を逃れた向田家。小学1年生の末の妹(和子)が、甲府に学童疎開をすることになった。母は肌着を縫って名札付け、父は夥しい葉書に自分宛ての宛名を書いて「元気な日はマルを書いて、毎日1枚ずつポストに入れなさい」と、まだ字が書けなかった妹に言って聞かせるのだった・・・。この絵本は、向田邦子サンの原作(講談社文庫『眠る盃』の一篇)を、角田光代サンが子ども向けに意訳、西加奈子サンが絵筆を執った、三人の直木賞作家による悲惨な時代を生き抜いた家族の物語。

  • 原作・向田邦子さん、文・角田光代さん、絵・西加奈子さんという豪華な顔ぶれの絵本が出たと知ったときから手に取りたかった一冊。
    ストーリーは知っていましたが、どんな絵になるのか、装丁になるのか興味しんしんでした。
    西さんの絵が温かみがあってしみじみ佳いです。

    厳しくて怖いお父さんが、小さなかぼちゃを取ってしまったらいつもは怒るお父さんが、小さくなった小さな妹をだきしめて、おおんおおんと泣くシーンは何度読んでも涙が出ます。
    悲しみややりきれなさ、戦争に対する理不尽さも込められた泣き声なのではないでしょうか。
    読後、表紙の可憐なたんぽぽにまた涙が誘われてしまいます。

  • 向田邦子さんのエッセイ「字のない葉書」を、文・角田光代、絵・西加奈子という異色の組み合わせで絵本化。
    感情を極力抑え、戦時下の状況を少ない言葉で淡々と表現した角田さん。一方の西さんの絵も、とことんシンプル。感情を抑えた角田さんの文章と呼応しているかのように感じたのは、登場人物の顔が一切出ていないからだろうか。
    そのためか、一読目はあっさりした読後感だったのだが、分かり易くお涙ちょうだいじゃない分、何ともいえない余韻を感じ…幾度も読み返した。
    大胆な色遣いの西さんの絵が前から好きだが、今回はいくつもの色が混じった独特の背景の色が美しく、そして哀しく感じられた。登場人物の実際の表情が描かれない分、感情は玄関の下駄や草履、そして脚で表現されている。読めば読むほど胸に迫り、たまらなくなる。これまでもたくさんの「戦争」を扱った作品に触れてきたけれど、その都度感じるやりきれなさ。両親がどんな思いで小さな妹を疎開に出したかと思うと、胸がつぶれそうになる。
    いずれ原作エッセイが収録された「眠る盃」も読んでみたいと思っているが、この絵本も是非、様々な世代に手に取ってほしいと思う。

  • 向田さんのお話を角田さんの文章で、西さんが絵を描いた戦争の絵本。

    ぞうりが家族の心情を表している。
    帰ってきた小さな妹の寂しいかげ。父はぞうりを蹴飛ばし、母はきっとぞうりを急いで履いたけどお父さんには出遅れて、姉と弟も父にならって裸足で土間におりたのかな…と思う。

    はがきと同じく、家族が引き離されるような光景を見ることがないように。

全76件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

向田邦子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×