世界で一番いのちの短い国: シエラレオネの国境なき医師団 (小学館文庫 や 21-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087406

作品紹介・あらすじ

平均寿命三十四歳(二〇〇二年)、日本のわずか半分以下。世界で最も医療事情が悪い国、西アフリカのシエラレオネ共和国。十年以上も内戦が続き、病院の建物は壊れ、医師や看護師も国外に逃げ出してしまっている。この医療システムが崩壊した、世界で一番いのちの短い国に派遣された医師が寝食を忘れ、力を尽くして、目の前のいのちを救っていく。そして、その国の未来のため、自分が帰国したあとの医療レベルが維持されることを願い、さまざま困難を乗り越え、現地スタッフへの教育にも取り組む。「本当に意味のある国際協力」を求め続ける医師の涙と笑い(?)の奮闘の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    シエラレオネは西アフリカの西部に位置する国家である。国土面積は日本の5分の1、人口は700万人ほどであり、ダイヤモンド、金、鉄鉱石といった鉱物に恵まれる資源国家だ。
    シエラレオネでは1991年に反政府軍が武装蜂起し、内戦が勃発した。これにより100万人を超える避難民が発生し、同国の経済社会インフラは壊滅的な打撃を受けた。
    本書当時(2002年)も内戦が続いており、筆者は、国境なき医師団(MSF)の一員として負傷者や現地避難民を治療するべく、シエラレオネに入り支援活動を行っていく。

    「世界で一番いのちの短い国」のとおり、シエラレオネの医療体制は最悪だ。しかし、本書は現地の人々の悲惨さを訴える本ではない。毎日の診療と治療の中で交わした現地の人々との交流、シエラレオネでの(ドタバタとした)日常生活の数々、MSFの仲間たちと繰り広げられる人間関係(とケンカ)など、日々の様子をユーモラスに語るエッセイである。

    私が面白いと感じた部分の一つは、多種多様な人々とのドタバタとした生活の様子だ。MSFは世界各国から派遣されてくる人々で作られるNGOのため、当然だが、人によって仕事への献身ぶりや人付き合いの適当さは異なる。「国際協力に参加する人々はだいたいが崇高な使命を抱いているのではないか」と思ってしまうが、実はそうでもない。国際協力に参加している人の7割は、「旅行したい」「途上国に行ってみたい」「自分探しをしたい」「外国で恋人を見つけたい」などの軽い気持ちだという。そんな甘い覚悟でやっていけるのかと思うかもしれないが、使命に燃える人ほど現実とのギャップに直面し敗れやすいため、こうした打算的な(?)人たちのほうが逆に割り切って仕事をすることもあるとのこと。言ってしまえば、使命に燃えようが遊び半分だろうがいずれも自己満足の延長線であるため、動機が何かは特に問題にはならない。

    こうした「良くも悪くもマイペース」な人々に筆者が振り回されながら、必死になって医療に奮闘していく様子が、ユーモアあふれる筆致で語られており、思わずクスリとしてしまった。

    ちなみに、国連軍の兵士はエイズ発症率が極めて高いという。現地のスタッフと恋仲になってセックスしてしまうからだ。MSFの仲間たちも大抵が、他の町にいるMSFスタッフや現地住人と恋仲になったり身体を重ねたり……と中々破天荒だった。中には明らかに恋人を捕まえるために来たスタッフもいるぐらいで、「国際協力ってそんなに軽いノリなのか……」と驚いてしまった。筆者はそうした中でも極めて稀な「崇高な理念を持ちながらストイックに働く人」であり、その姿勢が現地の医療状況を改善していった。

    そんな筆者が国際協力に心血を注ぐ理由としては、自らが考える「国際協力の正しいあり方」を実践するためである。それは「自分が日本に帰ったあとも無駄にならないような、未来に残るシステム作り」と「現地文化を尊重して対等の立場でおこなうこと」だ。
    筆者は日々の診療を行いながら、現場スタッフへの医療授業を自主的に行っていた。それは欧米諸国のNGOが行う「現地のスタッフを手足のように扱い、医療行為を一方的に行う」ことをやめ、「現地の人々が自分で考えて自らの手で治療を行う」ことへの足掛かりだった。授業では心拍数、体温、血圧などの測定方法や、点滴、注射などの実施方法を教えながら、医療人材として病院に立てる人間を育成していく。同時に現地住民へ性教育を行う(コンドームの有用性を教える)ことで、病気の感染経路といった医療的知識を底上げしていく。これらは全て、筆者がいなくなったあとも自立できる医療システムを作るためのものであり、これが実を結び、小児科病棟の死亡率を25%から5%にまで下げることに成功したのだった。
    こうした実績が評価され、バスコ事務長(現地のソサエティを統括する長)から、最高の地位の称号である「ヤンバ」の位が授けられた。まさに、シエラレオネの文化と調和し、現地の人々から筆者の行動が認められた瞬間であった。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――
    本書は、シエラレオネの状況を知ることができるエッセイとして読んでも面白いし、筆者の考える「正しい国際協力」を実践するためのマネジメント書として読んでも面白い。是非オススメの一冊だ。
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    【まとめ】
    1 世界で一番いのちの短い国、シエラレオネ
    日本ではシエラレオネ共和国はまったく無名であるが、欧米などの国際協力に積極的な国々の間では、この国は非常に有名である。それは、次の三つの理由による。一つ目は、平均寿命が世界最短、乳児死亡率(一歳までに子どもが死ぬ確率)は最悪、五歳未満の乳幼児死亡率も最悪、妊産婦死亡率も最悪など、医療統計の数字が、ことごとく世界で一番悪いレベルなのである。二番目は、このシエラレオネから搾取されたダイヤモンドが、アメリカ合衆国の人々を「9.11テロ」で恐怖におとしいれた、オサマ・ビン・ラディンひきいるテロリスト組織、「アルカイダ」の資金源になっているらしいことである(イギリスのBBCと、アメリカのCNNにより報道された)。三番目は、RUFによって、一般市民の「四肢切断」がおこなわれたり、わずか五歳の少年少女を最前線の兵隊、すなわち「子ども兵」として使ったりするなど、人権を課躍する問題がいろいろ起こったからである。

    この国では国内避難民たちが、自分が病気だとウソをついて、病院に薬をもらいにくる。そして、自分ではそれを飲まず、町の薬局に売ってお金を得ているのである。このため大量のマラリア用の薬が社会に出まわることになり、いいかげんに薬物を服用する人が増え、その結果、病原体は急速に耐性化していく。


    2 MSFを含むNGOの活動方針
    MSFには次の5つの理念がある。
    ①国家、宗教、人種、民族、性別などの違いに関係なく援助をおこなう。
    ②できるだけ政治的に中立を保つ。
    ③医療サービスのみを提供する(主に急性疾患をターゲットとする)。
    ④基本的に、緊急時(紛争中や自然災害の直後)のみに活動し、急性疾患(肺炎、下痢、マラリアなど)だけを診療する。
    ⑤できるだけ貧しく弱い人のそばで悲惨な状況を目撃し、国際社会に訴える。

    MSFには、こうした5つの理念があるが、それぞれが大きな問題をはらんでおり、同じMSFに所属している人でも、一人一人考え方が違っているのである。このため、「自分には合わない」と思った人は、当然MSFを辞めていくわけであり、組織が分裂することもある。もともとMSFは、赤十字という組織の中で、赤十字の考え(政治的な中立性を常に重視すること)に合わなかった人々が、分裂して作った(時には中立性を失ってでも啓発活動をする)組織である。ところが、そうしてできあがったMSFの中でも、団体が巨大化するにつれ、考え方の合わない人が生まれてくる。
    一般にNGOというものは、国家による管理がなく、一人ひとりによって異なる曖昧な人道的理念だけで動いているため、考え方が合わないとすぐやめていくのだ。

    MSFなどの国際NGOの活動は、途上国に行けば、どこの土地でも歓迎されてどの住民も快く受け入れてくれると思うかもしれないが、そんなことはない。医療活動には、それなりのさまざまな利権(金もうけ)がからんでおり、活動を快く思わないケースも数多く存在する。簡単にいうと、MSFは、ほぼ無料で医療サービスを提供するため、患者は当然そこに集まる。だから、その近所で病院や診療所を有料で経営している人たちは、自分の収入が減ることになるのだ。


    3 筆者が考える国際協力の正しいありかた
    筆者が国際協力にあたり持った理念は、「自分が日本に帰ったあとも無駄にならないような、未来に残るシステム作り」や「現地文化を尊重して対等の立場でおこなうこと」であった。

    前者の理念を達成するためには、日常の診療を行うとともに、現場スタッフの教育をおこなわなければならなかった。「自己満足ではない、未来に残るシステム作り」を国際協力の骨子としている以上、自分が一生懸命働くことよりも、私が帰ってからも同じレベルの医療を維持できるように現場スタッフの教育をするほうにより力を入れなければならない。だから、全部自分でやったほうが仕事は速いのであるが、とりあえず現地スタッフにやらせたり、できなければ教えたりするようにしていた。講義とあわせてこうしたべッドサイドでの「実践」をおこなうことが、教育効果をより高めるはずだからだ。

    後者の理念については、国際協力の現場で「西洋第一主義」がまかり通っていることへの疑問から生まれたものだ。
    正統派の国際協力は、「数字で目標を設定し、かつ、締め切りをもってそれをおこない」ながら、途中の段階でも「査定・計画・実行・評価」を輪のように繰り返し、計画をよりよいものに改善しながら進んでいく。
    この方針にはある程度賛同できるが、同時に、こうした学問的考え方には、根本的な欠陥があるのではないかとも思っている。それは、「彼らはとても貧しく病気で死にそうだから」といって、われわれのほうが社会的に上の立場にいる人間だと誤解し、外から勝手に見て判断し、自分たちの基準で「やってあげる」ことを偉そうに決めているからだ。「査定」という名で数字を算出し、その結果に応じて画一的な計画を「実行」する。その過程に現地にいる人々の歴史も文化も人間性もまったく考慮しないのでは正義とはいえないのではないかと、以前からずっと疑問を持っていたのだ。

    これらは「ピース・コロナイゼイション(人道主義の皮を被った文化的侵略行為)」と呼ばれ、現地のジャーナリストから非難の的になっている。

    国際協力というのは、外から来た外国人たちが、自分たちの勝手な価値観で、資本主義、民主主義、西洋医学などを、無理やり現地の人たちに押しつけていくべきではないと思っている。彼らの世界に行ったら、まず彼らの文化、風習を把握し、彼らと同じ視線になって、本当にこの国の未来をよくするためにはどうしていくことがもっとも適切であるかを、考えていくべきだと思っている。西洋医学の知識をもつ私が、「そんなことは不潔だし、危険だからやめなさい」と言うのは簡単だが、それでは数千年続いてきた彼らの歴史・文化を否定することになりかねない。基本的に「祈祷師の存在」は、彼らの社会にとって精神的な支柱であり、社会全体の安定を保つために一役かっている。イニシエーションの問題も、成人になっていく儀式として、みんなが受ける共通の苦労のようなもので、それをいっしょに受けたからこそ、親密な友達どうしになれるという側面もあるのかもしれない。
    結局、私にはどうしたらよいかわからなかった。一応、「われわれが彼らの文化を無理やり変えていくことがよいとは思わない。しかしながら、これこれこうすることは、医学的(科学的)に、このような危険性がありますよというように、彼らにわれわれのもつ情報を伝える。そしてさらに現地の伝統文化と、西洋文明との中庸案になるような選択肢も複数紹介する。その上で、最終的に、「どのような選択肢を選ぶかは、彼ら自身の判断に任せる」というのが、よいのではないかと思った。


    4 真の国際協力を実践するためには
    半年のミッションが終わり、私は目本に帰っていくのだが、これで私のシエラレオネ共和国に対する国際協力が終わったわけではない。むしろ、このあとが本当の正念場である。「その国の未来に残るシステム作り」を国際協力の信条としている私としては、日本ではまったく無名のこの国の実態をなるべく多くの人に知ってもらい、援助しようとする団体や個人を増やし、戦争が再び始まらないように国連をはじめとする多くの国際機関に訴えなければならない。このため、マスコミ(各新聞社など)に訴え、本を書き、講演をし、写真展をおこなうという総合的な広報活動を、組織的に、かつ個人的におこなっていく。

    筆者が考える「実際に役に立つ形の」国際協力6つのポイント
    ①教育とその後のシステムの確立
    →自分が帰ったあとも、自分がいたときと同じレベルの医療教育が維持できるように、現地の医療スタッフを徹底的に教育すること
    ②現地の文化・風習の尊重
    →先進国の「絶対」を押し付けない
    ③悲惨さを誇張せず、彼らも対等の立場の人間として認識する
    →貧しい=食料や金を恵めばいいと思っては、見下す原因になる。
    ④子どもを助ける場合、ファミリー・プランニングを同時に
    →コンドームの配布と使い方を教える
    ⑤お金を与えるのではなく、貸す
    ⑥無償で奉仕する人間がいるということを世界に広める

  •  世界で一番子どもの死亡率が高い国として有名なシエラレオネで国境なき医師団として活動した日本人医師のエッセー。
     
     相次ぐ内戦、少年兵、高い乳児死亡率...シエラレオネの様々な問題を散りばめながらも、巨大ゴキブリに出くわしたとか、他の国から来た同僚の面白話など、異国で医師として活動する日々が面白く書かれている。作者による国際貢献への思いもとても率直に書いてあり、考えさせることも多い。
     
     世界の本当の姿、国際貢献、医療的ケア、色々なことを考える上での入門となる一冊。将来、世界の役に立ちたいとか、医療に関係する仕事がしたいとか思ってる子ども達が読むのにとてもいい本だと思う。

  •  シエラレオネと言っても、どこにある国なのか知らない人が多いかもしれません。本書は2002年、「国境なき医師団」のチームリーダーとして約半年、シエラレオネで活動した著者の記録です。内戦の気配が冷めやらぬ危険な現地、幼い子どもまでが兵士にされている現実などが克明に描かれています。また、著者は活動を通じて、現地文化の尊重を重要視し、それなくして本当のボランティアは出来ないと述べています。
     しかし、本書は淡々としたルポルタージュに留まりません。現地の人々との言語の壁に苦慮したこと、皮膚病に悩まされた著者の卑近な体験談など、面白可笑しい場面も登場します。読みやすさも配慮した、お薦めの一冊です。

    京都外国語大学付属図書館所蔵情報
    資料ID:593882 請求記号:498.024424||Yam

  • 医師の著者が約1年の激務奮闘後シエラレオネから帰国した10年後、34歳の全国平均寿命は47歳まで伸びた。持続可能な社会の構築、生まれた国の、ありのままの文化の尊重、命は美しく守られ育まれるもの。尊い清い仕事の成果を、堅苦しくなく、スピーディー、シンプル、明るく綴られた本書に、臨場感、敬愛の感、多くあり。

  • いろいろ考えさせられる本。
    でも、ちょい説教くさい。
    でも、そのキラキラの瞳を知ってるから、なにかサポートできることないか探してみたい。って素直に思う。

  • 2002年当時、平均余命が34歳と世界で医療事情がワーストクラスにあたるシエラレオネに医師として「国境なき医師団」の一員として参加した著者が、当時の奮闘ぶりを綴った記録集。

    まず国としての体をなしていないような地域において医療インフラを作るということがここまで過酷なのか、という実態に今更ながら驚かされた。どんな政変・暴力沙汰が発生してもおかしくない状況下だけに、いざとなれば常に逃げられるように車両を常時1台確保し、全員の連絡先が取れるようにすることなど、極めて厳格なルール(そのルールを守れずに、赴任して早々に帰任を命じられるメンバーもいる)がそこでは遵守されている。

    また、本当に意義がある国際協力とは、支援が終わってからも現地の住民だけでその体制が続くことである、という使命に基づき、著者は公衆衛生に関する知識・知見を現地の医療従事者たちに丁寧に教えていく。テストを繰り返しながら徐々に知識が体得できるような工夫も行いながら、徐々に正しい公衆衛生の知識が習得され、その中からリーダー的なメンバーも自然発生していく様子は、国際協力という現場における確実な成果の在り方であるように思う。

    シエラレオネでの日常生活の面白さ・過酷さなども、著者のユーモアある筆致によって大変面白くまとまっており、新興国における医療インフラの構築、国際協力全般などに興味がある人にとってぜひ勧められる1冊であると感じた。

  • 俳優の鈴木亮平さんに紹介された本。喜多見医師が書いているような錯覚を持ちながら読んだ。過酷な環境にも関わらず、ユーモアを交え、地元の文化や風習に敬意を払いながら描く姿勢は見事。現地に行って治療して終わりではない。自分がいる時と同じ治療が、いなくなっても続けていけるように教育することの方が重要だと語る。ともすれば与える、やってあげると上からの態度になりがちな支援の考えを根底から考え直させられた。

  • ノンフィクション

  • これを読んだ前後にシエラレオネに行きました

  • 新書文庫

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著者プロフィール

1965年生まれ。宮城県仙台市出身。医師・医学博士・写真家・国際協力師。1978年、南アフリカにて人種差別問題に衝撃を受ける。中学校の頃から数十か国を撮影。「本当に意味のある国際協力」について考え続ける。1990年医師免許取得。1996年医学博士取得。2000年より数々の国際協力団体に所属、アフリカや中東で医療援助活動を行う。2003年より2年間、国境なき医師団・日本理事。2004年、都庁からNPO法人の認証を受け「宇宙船地球号」を創設。「持続可能な世界」の実現を目指し、世界に目を向ける人々の育成を行う。

「2013年 『お母さんへ、世界中の子どもたちからプレゼント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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