その手をにぎりたい (小学館文庫 ゆ 5-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094063998

作品紹介・あらすじ

銀座鮨店に10年通ったバブル期OL物語

80年代。都内で働いていた青子は、25歳で会社を辞め、栃木の実家へ帰る決意をする。その日、彼女は送別会をかね、上司に連れられて銀座の高級鮨店のカウンターに座っていた。彼女は、そのお店で衝撃を受ける。そこでは、職人が握った鮨を掌から貰い受けて食べるのだ。青子は、その味にのめり込み、決して安くはないお店に自分が稼いだお金で通い続けたい、
と一念発起。東京に残ることに決めた。
お店の職人・一ノ瀬への秘めた思いも抱きながら、転職先を不動産会社に決めた青子だったが、到来したバブルの時代の波に翻弄されていく。

感想・レビュー・書評

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  • その手を、にぎりたい・・・・・
    主人公青子は、24才で退職し栃木の実家へ帰る決心をした。
    社長は送迎会だと、銀座の高級鮨店へ
    連れて来てくれた。

    白木のカウンター、メニューがどこにも
    ない、ネタもどこにあるのか・・・・
    青子はどうしていいのか、何もわからず
    落ち着かなかった。
    社長が頼んでくれた最初の鮨は、ヅケ
    だった。青子は、光の加減のせいか
    ルビーのような輝きを放つその鮨に魅入っしまった。
    「どうぞ、鮮度の落ちないうちに 」
    この店は、握りたての鮨を皿ではなく
    手から手へと、直に渡す工夫がされて
    いた。舎利をふんわりと握っている為、硬い皿の上にはのせないと言う。
    青子は、その職人が気になって仕方が
    なくなってきた。栃木へ帰ることも惜しくなってくる。
    座るだけで3万と言われている「すし静」
    青子はもっと食べに来たい!と思う。
    とうとう、今までより高収入を得られる会社へと再就職をした。

    舞台はバブル期、ジュリアナ東京、ワンレン、ボディコン、アッシーメッシ―
    貢ぐクン。まだ携帯は普及していなかったし、パソコンよりワープロ時代。
    あの頃は結婚式が派手だった。
    私は、白無垢と綿帽子を試着した。何と
    似合わなかったことか。袖の長い色打掛に、ウエディングドレスと、シンプルに
    まとめた。

    青子はあれから何度通いつめたことか。
    鮮やかな橙色の宝石を手にとり、口に
    運ぶそのウニは、舌の上でゆっくりと広がる。そして、この気持ちはどうにもならない。

    バブルが弾けた。
    倒産が相次ぐ。
    この話の所々に、ユーミンの曲が流れる。私の好きなユーミンが。
    きっと、この時代には、ユーミンの曲が
    似合っていたのでは、と思う。

    2022、5、26 読了

    • アールグレイさん
      かよこさん(^▽^)ありがとう

      このコメント欄に、白内障手術のことを書いているので、皆さん気づかって下さいます。
      A眼科では手術をした方が...
      かよこさん(^▽^)ありがとう

      このコメント欄に、白内障手術のことを書いているので、皆さん気づかって下さいます。
      A眼科では手術をした方が良いが、うちではやらないのでと、B眼科を紹介されました。
      でも、B眼科は経過観察と。不安です。もう手術の覚悟はしていたのですが。
      夏はばい菌が入りやすいらしいので、秋になったら来院しようと思います。
      ( “-^)☆彡
      2022/05/28
    • はまだかよこさん
      私も執行猶予中なので(*´艸`*)
      こわいですね。
      年齢的に手術した方が多く
      皆さん快調です。
      でも、こわいですね。
      お大事にね
      私も執行猶予中なので(*´艸`*)
      こわいですね。
      年齢的に手術した方が多く
      皆さん快調です。
      でも、こわいですね。
      お大事にね
      2022/05/29
    • ポプラ並木さん
      ルビーの漬けマグロ寿司。手に置いてくれる寿司、意味があるんだろうね。年を取ると美味しいものを少しだけ食べたいという欲求にかられます。20代は...
      ルビーの漬けマグロ寿司。手に置いてくれる寿司、意味があるんだろうね。年を取ると美味しいものを少しだけ食べたいという欲求にかられます。20代は質より量でしたが。
      バブル、ジュリアナ東京、昭和から平成、この時期ですね。
      日本の景気は一進一退ですね。
      目を酷使しないように気を付けてね~
      2022/05/31
  • 久しぶりの柚木麻子さん作品。舞台は80年代〜90年代初頭の東京。「座るだけで3万円」と言われる銀座の高級鮨店に、故郷に帰ることを決意し退職前に上司に連れられてきた年若い会社員の青子の10年間を描いた物語。フィクションだが、ちょっとしたことや偶然の出会いがきっかけで人の人生が大きく変わることはあるのだろうなぁと感じた。青子も、端から見れば高飛車なOLというイメージで片付けられかねないが、当時の価値観に屈することなく、自分で悩み手探りで人生を進んでいく様子が描かれていた。その後、青子はどうなったのだろう。自ら選んだ環境で納得のいく人生を歩んでいると良いと思った。

  • 最後の終わり方、良かったです。

    お鮨を握る手を、素敵と思う気持ちも、
    カウンターで見つめてしまう気持ちも、
    どちらも分かりすぎる。

    お鮨はやっぱり特別で格別で
    暖簾をくぐる時から、気持ちが高揚するのも激しく共感。

    握る側にはなったことはないですが、
    あの特別な食べ物を、
    数秒で作り上げる手と、
    美味しくするための、お客様には見えないたくさんの努力と。

    バブル期の加速していく高揚感と、
    女性として若いことが価値として重要だった時代。

    いまの時代の女性は、少しずつでも生きやすくなってるかも、
    と再認識しました。

  • 名店は、常連客によって育てられるということ。単なるお金のやり取りを超えた関係。ホスト側だけでなく、ゲストも一緒になって、お互いを尊敬しあい、高め合うことで、よりよい空間が形成されるものなんだなあと。

    澤見さんはきっと、青子の恋心に気づきつつ、その学習意欲と成長を評価し、お店の将来を託したのだろう。まさにメンターの役割を果たしている。

    青子が早い段階から、一ノ瀬を「大本命」にして、通常の恋愛を超えたプラトニックな関係になっていた。一ノ瀬は、祐太郎や広瀬とは次元の違う存在だったのだろう。

    恋人さえも連れて行かない、誰にも邪魔されたくない、とっておきの神聖な場所として、「すし静」を毎日想い続ける生き様を応援したくなる。

    自分と向き合い、背筋を伸ばし、好きな食べ物と尊敬する人を通して、人生の機微を学べる場所があることは、その人にとって財産だと思う。本当に羨ましい。

    私にとって、襟を正して臨むことのできる食べ物と空間は何だろうか?思い出を辿りながら、じっくり考えてみると面白い。

  • 花金とか万札持ってタクシー止めるとか知らない世代だけど、文章が読みやすく長さもちょうど良くて楽しむことができた

    大きな目標を持って仕事する青子に羨ましさを感じたし、いつか鮨屋じゃなくても喫茶店でも常連になりたくなるような素敵なお店を見つけたい

    辛いことがあった時、「おかえりなさい」って楽になるよなぁ

  • 寿司職人に恋するOLの話。

    きらびやかな80年代、不況生まれの私にとってはまさにファンタジー。価値観の違いに驚きつつ、恋愛感情はとても共感できた。

    激動の人生だから、次の展開が気になって仕方ない。時代のせいだけじゃなく、青子の蝶のようにはらりと居場所を変えることができる生き様のせいでもある。この身軽さ、変化の恐れなさは現代人が失っているものだと思う。
    それからエネルギー。時代に溢れる景気の良さも、恋い焦がれる青子の気持ちもエネルギッシュ。魅力的だと思った。

    柚木麻子さんの言いたいことって、「それでも生きる」ことだと思う。報われない、それでも生きる。将来が不安、それでも生きる。これは柚木麻子さんの他の小説にも通ずるメッセージだと思う。そんな力強さが我々読者を励ましてくれていると感じる。

  • 昭和~バブル期を駆け抜けた女性の物語でしたが、主人公の青子さんの駆け抜ける速度と東京の目まぐるしい変化、そして美味しそうなお寿司を食べる時の描写、何もかもを体感しつつ読みました。

    痛いぐらい強く踏ん張っている青子さんにハラハラドキドキして、青子さんと一緒に寿司職人である一ノ瀬さんにドキドキして、とにかく感情が忙しく、でもそれが人の時間の経過を見ることなんだと感じれば、より楽しめました。

    生きていればきっかけ一つで変わってしまうことばかりで、それは良いことも悪いこともある。何かに固執して傷ついて、でも前に進まないと自分の価値や存在が無になる気がして。そんな焦りにも意地にも似たものを、柚木先生らしく重たくなりすぎることなく、どこか軽さと明るさを持ち合わせた文体で読ませてくれて、読了後の余韻が「はぁ~~」という深いため息と共に出ました。
    単なる飯テロ小説かな?と思って読み始めたので、最高の裏切りをされてよかったです!!笑

  • 美しくて刹那的な物語
    たった一度の出会いが運命を変えること
    一人を思い続けてそのためだけに必死に生きること
    ぬぐいきれない孤独や、手にしたものの感触がない日々を駆け抜ける青子の姿が眩しくて読了後は胸にじんわりとした温かさが残った。
    個人的には出会いから不動産会社に転職しただキラキラした片思いの中で生きていたあたりの描写が非常に好きでした。
    今度銀座一丁目で降りて浸りたい。

  • いつもながら 食べ物描写は秀逸。おすしが食べたくなる〜。しかも切ない。どちらかが 勇気を出して カウンターって壁を乗り越えてたら どうだったのかなぁ。でも まぁわかるけど。こういう関係から踏み出すって 勇気いるもんなぁ。大切に思えば思うほど 乗り越える壁も高くなるしね。こんな切ない恋 若い頃あったなぁ。きっとみんな 思いあたる思い出あるんじゃないかなぁ。

  • 鮨というワードで手にした本だった。
    バブル期から終わりにかけての話なので平成生まれには理解しがたい経済状況や社会情勢だったけれど都会に出るだけで、まるで自分自身までもが都会の一部分になったような誇らしさや自信を身に纏えたような気分になる、そんな気持ちには理解できた気がする。どんな時代でも見栄や格好を気にせず、自分自身の過去や人生を受け入れて、本当の自分が大切にしたいものをみつめていたいと思えた。

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著者プロフィール

1981年生まれ。大学を卒業したあと、お菓子をつくる会社で働きながら、小説を書きはじめる。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を書きつづける。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞と、高校生が選ぶ高校生直木賞を受賞。ほかの小説に、「ランチのアッコちゃん」シリーズ(双葉文庫)、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』(どちらも新潮文庫)、『らんたん』(小学館)など。エッセイに『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)など。本書がはじめての児童小説。

「2023年 『マリはすてきじゃない魔女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚木麻子の作品

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