- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093897785
作品紹介・あらすじ
「イスラム国首都」で医療活動をした看護師
「国境なき医師団」看護師として過去8年間でイラク、シリア、イエメン、南スーダンなど17カ所の紛争地に派遣された。彼女を過酷な医療現場に駆り立てるものは何か。そこで何を見たのか。
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一般市民を盾にして抗戦する「イスラム国」(IS)戦闘員たち。2017年、筆者が派遣されたイラク・モスルでも、彼らは非道の限りを尽くしていた。
ある日、そのIS戦闘員の子供が負傷して、病院に運ばれてきた。両親は自爆テロで亡くなっていた。
〈当然、市民にとって憎い相手であるに違いない。その憎き相手であろうISの子供の世話に、市民が一生懸命になっている〉
子供はうわごとのように、ある言葉を繰り返し、泣き続けていた。それは「お母さん」という意味だった。
〈お母さんはもうこの世に存在していないのだと誰が説明し、彼女はどのように理解していくのだろう。(略)これからどんな人生を送ることになろうとも、いつかこの病院で受けたイラク人たちの優しさと愛を知る時が来て欲しい〉
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悲しみ、憎しみ、恐怖。それでも信じたい人間の強さ。
現場にいたからこそ書くことができた生と死のドキュメント。
【編集担当からのおすすめ情報】
「国境なき医師団」手術室看護師である筆者は、本書が初の著書になります。全編書き下ろしです。彼女の筆に滲むのは「静かな怒り」でした。淡々と、紛争地のありのままを描きつつ、一方でそうした現状からいつになっても脱却できない現実に思いを馳せます。
一握りの指導者たちによって始められた戦争の犠牲者は無辜の市民たちです。筆者の仕事は、その市民たちに医療活動を施すことです。絶望のなかに一筋の希望を見出す活動に従事しながら筆者が考えるのは、いつになったら戦争は終わるのか、市民たちはいつ救われるのか、というもの。現実を知ろうとしない世界に諦念すら覚えます。
新聞・テレビによって「イスラム国」支配から解放、と報じられた地に実際に赴き、その地がいかに「何も終わっていない(始まっていない)」かを筆者はその目で確かめます。ジャーナリストが立ち入れない「現場」では一体何が起こっているのか。それは本書で確かめていただきたいですが、その世界を知った読者は、決して戦場の風景を人ごとだとは思えないはずです。
感想・レビュー・書評
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作者は小学生のときに「国境なき医師団」=MSFに憧れ、MSFに入るために看護師になり、さらにはMSFで必要か英語を学ぶために渡豪する。オーストラリアでも看護師資格をとり、ついにはMSFのスタッフとなる。これまでにイラク、イエメン、シリア、パレスチナ、南スーダンなど、世界各地の紛争地に主に外傷を取り扱う手術室看護師として派遣されてきた。
MSFはもちろん知っていたけれど、すごい組織、すごい人たちだなと改めて思った。紛争地で一心に治療にあたる各国の医療従事者には頭が下がる。
怪我人や病人に国境はない。危機に瀕し、助けを求めている人たちを、独立、中立、公平な立場で医療援助する。その中には本当に今まさに戦争で空爆が起きている地域も含まれる。シリアでは政府からの許諾を得られず、不法入国をして、旗を立てることもせずに秘密裏の治療を行った。そして実際に空爆され、命の危険にさらされたことも。。
どの紛争地も辛かったけど、やはり世界から見放されているようなシリアとイスラエルのガザ地区は別格。
直前に読んだ『ナチスは良いこともしたのか?』で描かれていたナチスのユダヤ人への弾圧は、そのままイスラエルによるパレスチナ人への弾圧だった。アウシュヴィッツを非難するのと同じに、昨今のイスラエルのガザ地区への空爆ももっともっと、非難されるべきだよね…。
武器を持たずに抗議運動をしていたシリアの若者たち、学歴はあっても世界最大の監獄の中で仕事もなく燻るパレスチナの若者たち。
そして空襲のやむ夜に遊ぶ子供、学校に行けずに閉じこもらざるを得ない子供、両親を一気に亡くして孤児となる子供。
戦争は若者の未来をいかに摘み取るのか、ただの市民がどれだけ犠牲となるのか。
人類って闇、と思わざるを得ない。
しかし、ウクライナの支援に、MSFとして活動するロシア人もたくさんいるという。市民レベルでは互いに心の交流をしているという事実もまた人類の一面である。
医療で戦争はなくならない、終わらない。
しかし国境を超えたMSFの希望の火も消えない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
国境なき医師団の看護師が綴った本
イラクやシリア、イエメン、パレスチナでの活動が記されています
医療には国境はない
そう、序盤に記載されているのに、後半、というか終盤に
医療だけでは市民は救えない
というフレーズ
たまらない気持ちになった
実際に現場に行き、体験していないと無理だと思う
どの国でも戦争の悲惨さを描いているけれど、子どもが傷ついていくのは読んでいて本当に辛かった
戦争なんて、何も生まない -
宗教、歴史、政治などが原因で起こる紛争の影響を1番受ける市民たちの様子に心が痛む。看護師として出来ることは怪我や病気の人を治す絆創膏のようなもので、根本的な解決にはならないんだなあと改めて思う。
たくさんたくさん勉強して誰かの助けになれればいいなと身が引き締まる思いだった。 -
初読
国境なき医師団に所属する日本人看護師の手記。
日本で看護師になり、経験を積み、英語を学び
オーストラリアに留学しさらに看護師資格を得る。
快適な生活よりも紛争地区での医療活動を選ぶ、
そのモチベーションは何なのか知る由もないのだけど
圧倒されてこういう人達がいるんだよな…と頭が下がる
中東シリア、イエメン。アフリカ南スーダン。
ニュースで流れてくるけど、無意識のうちに聞き流し
ああ私は何も知らないな…
学べないのも問題だけど学んでも活かす先がない
若者の鬱積するエネルギーで自由を叫び脚を撃たれるという
パレスチナの章が1番印象的だった。 -
MSFには強い憧れがあったが、憧れの裏には、紛争による人々の苦痛、医療の崩壊が溢れていることが分かった。また、MSFに入るための白川さんの長い努力や、入った後も心身の苦痛があった。しかし、そのような環境でも、必要とされている場所へ足を運ぶことができる、強く、優しさを持った看護師になりたい。
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/712013 -
読んでいて、これは本当に世界のどこかで起こっていることなのかと半ば信じられないほどの切迫感のある描写ばかりで、息を呑んだ。
争いの原因である政治とは実に複雑だが、争いの結果は残酷すぎるほどシンプルだ。生きるか、死ぬか。
著者が現地で実際に感じる、はかりきれないほどの絶望感と緊迫感、そして理不尽で無慈悲な現実への怒りがひしひしと伝わってきた。
だけど一方で、著者や彼女の周りの、揺らぐことのない、消えることのない、自分以外の誰かへの愛情も感じた。命を救いたい、生きていてほしいと切に願う気持ち。それは、平和を願う誰もが抱えている気持ちなのだ。
また、私は著者の目標を達成するための行動力と、自分にできることを全力でやる強く揺るぎない意志に憧れの感情を持った。私もそんな行動力と意志を持って生きていきたい。
最後に、この本の中で一番好きな文章を。
『毎度のことではあるが、私は昔から人に「さようなら」と言うのが辛く、苦手だ。もう二度と会うことはないかもしれない。』
自分も含めて、人はいつ死ぬかわからない。著者のような戦地に赴く人もそうだが、どこで生きていても、私も例外ではない。だから、これは相手をとても大事に想っている素敵な考えだと思った。 -
頭が下がる。
払ってもいい金額:1,500円