北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093897402

作品紹介・あらすじ

1971年、大陸中国と「ふたつの中国問題」を巡り国連から脱退した台湾。当時の総統・蒋介石は翌年の札幌オリンピックに8人のスキー選手を送る。この大会に「中華民国」の名を刻めば、中国に傾いている国際社会を再び引き戻せる。そう考えたいわば形勢逆転の「最終兵器」だった。しかし、メンバーの大半が雪さえ見たことのない未経験者。彼らは、文字通り「へっぴり腰」で、札幌の最大傾斜40度の急斜面に挑んでいく。札幌後-。政治に翻弄される数奇な人生はその後も続く。オリンピックでの国家名称を巡り米国で裁判を起こす者。中国に移り住み複雑な心境を吐露する者。台湾という国が宿命のように背負い続けてきた苦難と激しい政治的抗争。それはオリンピックの歴史にも刻まれていた。第18回小学館ノンフィクション大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 時を遡ること40年前の1972年、アジアで初めての冬季オリンピックが札幌の街で開催された。このオリンピックには、台湾という国が宿命のように背負い続けてきた苦難と、激しい政治的抗争の爪痕が刻まれていたのだという。

    オリンピック開催の前年、台湾が国連を脱退した。そんな中、当時の総統・蒋介石は札幌オリンピックに8人のスキー選手を送り込む。この大会に「中華民国」の名を刻めば、中国に傾いている国際社会を引き戻せる ― そんな思惑に基づいた「最終兵器」であった。

    しかし亜熱帯の国・台湾で生まれ育ったメンバーの大半は、スキーの未経験者達。日本人監督と草津で必死の合宿を行うのだが、一向に上達しない。そんな勝ち目の見えない選手たちに求められたのは、勝利ではなく完走。なんとかゴールすることで記録を残す、そんなミッションを背負いながら選手達は当日を迎える。はたして選手たちは無事完走できたのか?

    そして、その後も運命は選手の人生を翻弄し続ける。政治とスポーツの狭間で揺れた積年の思い。40年前から見続けてきた札幌の雪景色は、今の台湾を見て何を思うだろうか。

  • HONZ.JPの紹介本。
    1972年。第11回冬季オリンピック札幌大会。中華民国(台湾)より8名の選手がスキー競技に参加していた。
    彼らの使命は完走して記録を残すこと。『とにかくゴールしろ。ゴールすれば記録が残る』
    この前年、台湾は国連を脱退していた。

    はじめはTVドラマのネタ探しで取材をはじめた著者が、ドラマの完成後も取材を続け、記録を残した8人のうち5人に実際に会い、台湾チームの監督を務めた大熊勝朗監督や齊藤コーチに取材して記したオリンピックの歴史のノンフィクション。

    台湾が「チャーニーズ・タイペイ」の名前でオリンピックはじめ世界のスポーツ大会に参加している事は知っていたし、それに「二つの中国」に纏わるなんだかんだがあるのは知っていたけれど、その「なんだかんだ」の中身は知らなかった。そもそも未だに政治的には日本と台湾が「国交断絶」状態にあるというのもこの本で初めて知った。

    札幌オリンピックから38年後の第21回目となる冬季オリンピックバンクーバー大会は82の国と地域からの参加があったという。この聴き慣れてしまった【国と地域】という表現の哀しみを実感させる一冊。

  • ☆10個つけたい。とても良い本。
    台湾に興味のある人はもちろん、台湾人日本人みんなにお薦めしたい。

    「もう一つの中国」という副題は、台湾の人、中国の人にとってどういう意味を持つ表現なのでしょうか?
    台湾は台湾、中国ではない、という現在の台湾の人の気持ちを受け止めたい私にとって、少し気になる点ではありますが、決して台湾が中国の一部だと主張する内容ではありません。
    「もう一つの」というのは、本書がオリンピックの歴史を一つの軸としており、台湾の呼称をめぐって様々な駆け引きがあったことを示しています。

    1972年冬季オリンピック札幌大会に、台湾からスキー選手が派遣される。雪のほとんど降らない国からなぜ?という疑問がこの本のスタートとなります。
    背景には、直前の台湾の国連脱退という政治事情があるのですが、
    本書では、戦後の、中国共産党と国民党の争いを発端とする、台湾と中国の関係を追いながら、台湾人スキー選手たち一人一人の人生を、丁寧に紹介していきます。

    この、選手一人一人に向ける、著者の眼差しがとにかく暖かく、とてもいい。
    裏に政治事情があるとはいえ、個人個人は、初めてのスキー、初めての外国に気持ちを昂らせる普通の若者であり、それぞれに女の子を追っかけてみたり、厳しいトレーニングに耐えながら少しずつスポーツ選手らしく成長していくというストーリーがあります。
    その様子が活き活きと伝わり、著者が、とても誠実に、元選手たちとの信頼関係を築きながら取材にあたったのだろうな、という印象を受けました。とても上質なノンフィクションといえると思いました。(この著者の別のノンフィクションも、ぜひ読んでみたい。)

    また、選手を育てた日本人スキー監督(日本でスキートレーニングの基礎を確立した第一人者)や、監督およびその一族;アルペンスキーで唯一オリンピックメダルを取っているのが、監督の親族なのですが、彼らを紹介するなかで書かれる、日本のスキー誕生の歴史もとても興味深い。
    人との出会い、偶然の不思議について感じる点も多かったです。


    現実として、スポーツと政治は無関係ではいられない。
    選手としての活動を終えた後も、その影響は様々な形で選手の人生に影響を与えます。
    なんだかんだと言いながら安定した日本に生きてきた私にとって、国の、国際社会での立ち位置が揺れ動く中で生きるというのがどういうことなのか、その中で、一人の人間として暖かい心を持ちながら生きるというのがどういうことなのか、思いを馳せずにいられませんでした。

    思えば、私が台湾に強い興味を持つようになったのも、この「国、国際社会、一個人」の関係を意識させられたからです。
    旅行者の私に、侵略者であったはずの、かっての統治国の言葉(日本語)で優しく話しかけてきたおじいさん。経済的に発展し、治安の不安も少ない国が、国として認められていないんだ、と知ったときの驚き。国同士の関係に生活を揺さぶられ続けてきたという歴史と、目の前にいる人達の明るさ、暖かさ、おおらかさのギャップ。

    この本の眼差しは、私が興味を惹かれた、まさしくそのポイントに向けられていて、それゆえに強く共感したといえます。

    台湾の歴史と日本の歴史は無関係ではいられません。
    東アジア全体で見てももちろんそうです。
    個人レベルに視点を移せば、一時は同じ言葉を話し、同じ価値観に基づく教育を受けた;強要されたというべきですが…;人達がすぐ隣の国にいる。
    彼らとの交流から感じ取ること、彼らの人生を通して自分たちを改めて省みること。
    その重みと、興味深さ、そして幸せを思うのです。

  • 札幌オリンピックが行われたのは、私が中一の年でした。可愛らしいジャネット・リン、ジャンプの笠谷の活躍、トワ・エ・モアの「虹と雪のバラード」。今でも覚えていることが多々あるのですが、そんな祭典に台湾からのスキーヤーたちが参加していたことは全く記憶にありません。
    沖縄よりももっと南の台湾からなんで冬季オリンピックに??と思いつつ、そういえば、と、オリンピックの入場行進をテレビで観るたび(私、入場行進って好きなんですよ。みんなニコニコして嬉しそうだからかなぁ。)、雪とは縁のなさそうな砂漠の国や常夏の国から来た選手たちを不思議に思っていたんだった、と思い当たりました。きっと、この人たちは凄い金持ちに違いない、留学先だったり、わざわざスキーのためにだったり、外国に赴いて上手になった人たちだったんだろう、と想像していたことも。

    で、この「北緯43度の雪」で、私は、国の意向でスキーとは何か、さえ知らずにスキーの強化選手に選ばれ、日本で練習を重ねた台湾選手たちがいたことを知りました。
    当時の台湾は、米中国交復活の余波で国連脱退。中華民国という名前さえ危ぶまれた時代で、その危機感から、世界の祭典である札幌オリンピックに国の名を背負った選手たちを派遣。記録はともかく、完走したという記録を残そう、という意図だったのでした。

    そんな国の思惑は成功したとはいえなかったようですが、(その後も長い間、中国との軋轢は深かったし。)スポーツを介して、日本の指導者との交流や、選手たち自身の思い、その後の暮らしなど、とても興味深い読みものになっていました。

    そもそも、二つの中国とは何か?
    台湾と中国ってどんな関係なの?
    同じ顔をしているように見えるのになんで仲が悪いの?

    だいたいのことは知っていたように思っていたけど、今回、じっくりとその中で暮らす人たちの思いや歴史を読み、そっか、そうだったのか・・と腑に落ちたことが大きな収穫だったと思います。

    日本統治時代の日本人は「犬」、終戦後に大陸からやってきた中国人たちは「豚」。犬は獰猛だけど番犬の役目はするけど、豚は汚く食い散らかすだけ、というたとえなのですが、それは、日本人にとって褒め言葉ではないはずで、対日感情がいいという台湾での過去を庶民レベルで語られるあれこれから考えることもできました。

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