最強国家ニッポンの設計図

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093897167

作品紹介・あらすじ

シンガポールや台湾の国家アドバイザーとして国家建設に携わった大前研一氏が「日本立て直しプランの集大成」と位置づける1冊。一院制と国民投票を導入する政治システム、産業発展と地方復活を実現する道州制、所得税、住民税、相続税・贈与税をすべてゼロにする全く新しい税制、アクティブで安心できる老後を可能にする新・2階建て方式の年金など、既存の政党や政府、論客とは全く異なる国家ビジョンは斬新さが際立つ。さらに本書では、政策の細目をまとめる新しい国家シンクタンク設立も提唱する。これを実践する政治家は現われるか!?

感想・レビュー・書評

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  • GDPでも中国に抜かれ、金融危機からも上手く立ち直れず、ろくな外交戦略も打ち出せないなど将来の危ぶまれる日本は、今後どのように変えていくべきなのかを考えるきっかけになればと思い、読み始めた1冊。

    大前氏が日本をグローバル世界で戦える「最強国家」にするにはどのように改革していくべきか、年金・税金、経済・産業、教育・雇用、外交・防衛の観点から、かなり具体的に構想を練ってあり、それを達成するため、国民・生活者のための国家レベルのシンクタンクとして『株式会社 ザ・ブレイン・ジャパン』(「~機構」のような形にしないのは各省庁の監督下にあると自由度がなくなるためで、株式会社であれば政権をまたぎ、どの政権とも対等に等距離で活動することが出来るから)創設を考えているというお話。

    思わずうなってしまう大前氏ならではの「設計図」について述べられている。

    ・年金制度はこのままだと維持不可能なので、基礎年金を辞退した人には、辞退年齢に応じて所得税もしくは相続税を減税するシステムを作るべし(そして早いとこ「過去のイカサマを謝罪せよ)。

    ・民間で任意に蓄える年金の「2階部分」は、平均年齢が比較的若く、人口がある程度多く、人材や天然資源が豊富なオーストラリアやカナダ、トルコ、ブラジル、カザフスタン、ナイジェリアなどの成長余力のある国に、プロジェクトマネジメントを含めた長期投資を行うべき。
    たとえ利率0でも、将来的に円が弱くなったときに戻せば、リターンは大きい。
    そして、土地も人もお金もない日本から、オーストラリアなどで介護を付加したリゾート地を作り、日本人医師や現地の看護師、介護士をそろえれば、まだ元気な高齢者が大量に利用する。
    そうすれば介護費用を年金の中でまかなえるようになる。

    ・「税率を下げれば税収は増える」
    日本は法人税が異常に高い。今や世界の大半の国は税率25%未満の「タックス・ヘイブン」であり、企業の海外流出が起きている。
    相続税率も50%と他国に比べ突出して高い。
    しかも日本の高齢者は大量の眠れる「タンス預金」を保有しているから、アメリカのように、段階的に引き下げ、1年間だけ税率ゼロにしてその大半の資産を若い世代に移し、一気に消費を刺激するなどの姿勢を見習うべき。

    ・日本には個人金融資産が1500兆円あり、そのうちペイオフ対象になっている銀行の定期預金に200兆円、ゆうちょに200兆円の合計400兆円が超低金利状態で塩漬け状態。
    それに外貨準備約100兆円を合わせて、500兆円ものお金が戦略的に意味のないところにあるのだから、そのうちスッても日本が滅びない程度の50兆円(10%)で1兆円×50本のファンドを作り、ある程度ハイリスク・ハイリターンの運用をすれば、必然的に国民の関心も集まるし、世界から優秀なファンドマネージャーが集まり、日本は再び金融市場でリーダーシップをとれるようになる。

    ・「中国脅威論」ではなく「中国お客さま論」。
    中国の規模感を利用しない手はなく、観光においては、雪を見たことのない華南の人にとって北海道は「アジアのスイス」だし、秋葉原、銀座、新宿、渋谷、アメ横は買い物天国だし、九州もアクセスがよく、火山、温泉などの観光資源が豊富で、ラーメンなどの食でも満足できる。
    人口が減少し、国内市場が縮小するなかどうしてこれを使わないのか。

    ・「格差社会」は本当に悪か?
    概して格差のある国の経済成長率は高い。
    社長が莫大な給料をもらっているアメリカは学生や新入社員の昇進に対する意欲が日本に比べて圧倒的に高いし、所得税で稼げば稼ぐほどほど多く持っていかれる日本では「役員になりたい」と思う社員、学生はかなり少ない。
    そうではなく、金持ちにお金を使わせること、新しい富裕層を育てて消費の拡大につなげることを考えるのが重要(金持ちを優遇するだけではなく)。
    あらゆる面で日本が世界経済の恩恵を受けるようになり、金持ちとグローバル企業が殺到し、日系企業が外資に買収されても最悪「土地までは持っていかれない」のである。
    そうすれば必然的に日本の企業も競争にさらされ強くなっていく。

    ・「藻」のバイオ燃料の年間生産量(1エーカーあたり)は2万ガロンで、とうもろこしの1000倍以上。
    世界で7番目の排他的経済水域を誇る海洋大国日本は、この立派なエネルギー源を利用しない手はない。

    ・日本でムダに農業補助金を出したり、農業基盤整備をやって潤っているのは農民ではなく、その上にいる全農・農協や農業機械・肥料を売っている業者、そして公共土木工事をする建設業者である。
    たとえば埼玉の年間農業補助金約200億円で、日本の一年間分のコメ消費量を生産するだけの農地がオーストラリアで買える。
    土地も肥沃で平坦なところが多い外国から食料を調達すればよいのでは。

    ・美しい自然の中で人々が楽しく暮らし、そして国が発展するための仕掛けとして、元気な高齢者がセカンドライフを過ごすための「アクティブ・シニア・タウン」を創設すべし。
    これは間違いなく巨大産業。
    日本人は平均3500万円もの資産を残して死んでいく。
    このうち1%でも日本経済に出てくれれば一気に内需は拡大する。
    四国、九州、伊豆あたりに医療機関、ショッピングモールなどのサービス産業を充実させて若い人たちが集まることで、生活基盤も出来、企業の移転も始まる。
    これらが「国土の均衡ある発展」につながる。

    ・世界で企業が生き抜くためには・・・

    などなど。

    これだけ多くのテーマについて、具体的にわかりやすく説明できるのはすごいと思う。
    日本人が本書を読んで、日本の未来について深く考えるきっかけになればと思う。

  • 日本への夢、期待、戦略を国家レベルで考えた渾身の一冊。
    政治をあきらめメッセージ性が入ったこの本は必読。

    以下レバレッジメモ

    今やビジネスチャンスは中国、インド、ロシア、中央、トルコ、ウクライナ、ブラジル、アルゼンチンなど世界中に広がっている。にもかかわらず、世界化を続けているのは相変わらず自動車とそれに引っ張られる自動車部品メーカーくらいである。大半の日本の経営者は「大前さん、BRICSだのトルコだのとあおるのはやめてください、うちはアメリカと中国だけで十分です」と言うばかりだ。これでは最強国家など夢のまた夢である。
    日本にはシンガポール以上に途上国の欲しがるノウハウがある。振り返れば、高度経済成長期の日本は、鹿島、水島、千葉、宇部など全国各地に20~30年計画で大規模な工業団地やコンビナートをつくった。その経験はシンガポールに負ける訳がない。だから日本の年金ファンドが世界中に出かけていって国内の成功事例と同じような人材育成から工業団地の開発までをワンセットで行うとなれば、大歓迎する国や地域は山ほどあるはずだ。ODA(政府開発援助)のような単年度で単発の援助では何の効果もないが、そういう「国家の中に国家を造る」ような長期投資なら、相手の国の形さえ変えるほどの影響力を持つことができる。それは、日本の外交や国際的な地位向上にとっても非常に有意義なことだろう。
    もう1つ、世界で日本にしかないのが私鉄である。東急、西武、小田急、京王、阪急、阪神、南海などの私鉄は、単なる鉄道会社ではなく総合ディベロッパーであり、東京と大阪にスラムができなかったのは、私鉄が大きな役割を果たしたからだ。世界中の大都市は貧困層が都心部に残ってスラムができるという共通問題を抱えているが、東京と大阪では、私鉄が沿線に住宅地を造成し、駅周辺にデパートやスーパーなどの商業施設を造ったことによって、都市の住人が郊外50km圏位まで広く散らばったのである。日本私鉄は、いわば小さな国家の形態を備えており、そのようなモデルは世界に例がない。健全な中産階級を造るために物理的に大きく貢献しているのだ。
    実際に世界でこの30年間に起きたのは「所得税と法人税は税率を下げた方が税収が増える」という全く逆の現象である。要するに、税率を下げると、個人も企業の嘘をついたり利益を隠す工夫をしたりする必要がなくなり、正直に申告するようになって税収が増えるのだ。そもそも世界的にみると、日本の「格差」は極めて小さい。企業のサラリーマン社長の場合は、たとえ年収5000万円でも、所得税・住民税で3000万円を超える部分は50%持っていかれるので、手元に残るお金はごくわずかである。世界では金持ちだけを相手にしたビジネスが花盛りで、お金さえ払えば何でも夢をかなえてくれる「ザ・ブラックカード」という会社まである。その会員になっている私の友人は、結婚式のパーティにエルトン・ジョンを読んだ。ウクライナでも08年の6月にポールマッカートニーを読んで35万人の大コンサートが開かれたが、これは同国の金持ち(レオニード・クチマ元大統領の娘婿ヴィクトール・ピンチュク)がポケットマネーで招待したといわれている。
    農業基盤整備事業に41兆円も使われたと述べたが、その金があれば、世界中の農地と穀物メジャーが買える。カーギルやコンアグラなどせかいの4大穀物メジャーを全社買っても8.8兆円である。また、日本は年間1000万tのコメを消費しているが、それを生産するための水田は、オーストラリアなら200億円で買える。これは埼玉県の1年間の農業補助金とほぼ同額だ。同社が「日本の国策会社」になれば、日本の全人口が食べきれないほどの小麦や大豆など、ありとあらゆる食料が調達できてしまう。ウクライナからCO2排出件を300億円出して区より、ずっと国益にかなっている。日本の農政に無駄に注ぎ込まれた税金を、もし効率的に使っていれば、世界の農場や穀物を支配できていたはずなのだ。
    日本のノウハウや技術で作ってトレーサビリティ(物品の流通履歴を確認できること)がついている食料については”自給率”の中に含める考え方が必要になる。日本の農民が現地に行って、種苗も肥料も農薬も全て自分たちで調達して作り、それでも「外国産は危ない」などというなら、もはや安全な食料など存在しない。国民が必要とする食糧をグローバルに調達すべきだ。資本を投下して所有権を担保する。そういう関係を10カ国と築くことができれば日本の食糧安保は鉄壁になる。「自給」という概念の中に海外で自営している生産品も(一定の安全係数を乗じて)自給率に含める、という発想の転換が求められる。そうやって安全・安心・安価な食料をグローバルに調達することこそが「最強国家ニッポン」のアグリビジネスであり、国民の胃袋からみた真の食糧安保なのである。
    経営コンサルタントを37年間やってきた私が痛切に感じるのは、最も重要なリーダーの役目は、まず「方向」を決めること、次が「程度(スピード)」を決めることだ。ところが日本企業では、方向がないのに程度だけをいう経営者が多い。売上を1.5倍に増やせとか、経費を2割削れとか、数字だけを目標に掲げる。そういう経営者はリーダーとしては失格だ。
    しかし、日本が「最強国家」を目指すためには、リーダーシップ教育と傑出したリーダーの養成は避けられない課題である。
    一流大学を出た新入社員が、「私は特徴のない人間ですが、だれとでも仲良くやっていく自信だけはあります」と挨拶しているようではだめなのだ。ここに日本の教育の最大の欠陥がある。一刻も早く”3種の神器”とリーダーシップを持った問題解決型人材を育成するシステムを確立しなければならない。
    社員が「安住」する会社は国際市場では安住できない
    日本が停滞しているのはコンテンツが枯渇下からではない。今でもグローバルに通用する産業と人材はたくさん持っている。例えば、秋葉のゲーム産業やアニメ・漫画は日本がぶっちぎりで強い。この領域には韓国屋中国、インドなども力を入れているが、日本人のワイルドでクリエイティブな発想には手も足も出ない状態だ。意外かもしれないが、音楽の世界でも日本人は強い。特にバイオリンとピアノのレベルは圧倒的に高い。世界に日本人バイオリニストがいない一流オーケストラはほとんどない。東京では1週間に200以上のコンサートが開かれており、この数はニューヨークやパリやロンドンの比ではない。鈴木・メンバーソード、バイオリン教室やヤマハ音楽教室が全国にあった音楽教育の底辺が広いうえ、東京芸術大学や桐朋学院などでレベルの高い人材も次々と生まれている。
    スポーツの世界も同様だ。野球のイチローはもとより、テニスやゴルフ、フィギュアスケート、水泳などで世界的に活躍する選手が続々と登場している。重要な点は、音楽家やスポーツ選手も、塾や親の指導という文科省の学習指導要領とは無関係な環境から育っている。この事実は、「開き直った日本人」「裸にした日本人」は非常に強いことを証明している。
    日本は、あらゆるものが世界標準よりも高い。だから世界一の賃金水準でも、実質的には豊かではない。これを正し、世界最高の賃金に見合う世界最高レベルの生活をさせろ、と要求するのである。例えば、日本とオーストラリアでは、パブリックセクターの役割が全く違う。オーストラリアでは、道路を造る時は駐車スペースを同時に作る。建物を造る時も十分な駐車場を設ける。それらの駐車場は特殊な場所以外はすべて無料である。だから駐車違反も少ない。日本は駐車場を造らずに駐車違反の取り締まりだけを厳しくしているが、オーストラリアでは駐車違反をしないような街をつくること、言い換えれば、低コストでグッドライフが送れるようなインフラを整備することがパブリックセクターの役割認識されている。もし、そういう要求を日本の朗組が出せば、国民はきっと賛同するから政治家もやらざるを得なくなる。
    「天下り」や「渡り」に関するルールを作らねばならないが、基本的には一度退職金を受け取ったら引退してもらわないと困る。再就職する場合は、税金及び税金に準ずるフィーやり件で運営されているような公的機関公益法人等は一切禁止。もし容認するなら、中央には戻れない「片道切符」にすべきだろう。さらに、「一定年齢以上になったら民間にも行けない」制度を導入する。これはすでにドイツがやっていて、完了は35歳を過ぎたら、自分が担当した関連業界、関連企業に天下ってはいけないルールになっている。35歳を超えると権限を持ってしまうからで、1つの見識だと思う。
    実は、雇用問題の有効な解決策はない。これは政治家が最も言いたがらないことだが、この問題にエブリワン・ハッピーな答えはないのである。答えがないなら政府は何もしない方がよい。そうすれば、人々は政府に期待することを止め、ひな鳥の用に座して餌を待つのではなく、自己研鑽して何とか職に就こうと努力するだろう。そのためにも「書斎」や学校に通うなどの自己投資する人には経費を還付するべきだし、努力すれば報われる社会の方が、悪平等社会よりもずっと国民の”格差感”は少ないはずだ。政府が無理して作り出す偽物の雇用ではなく、世界との競争に勝てる人材が増えることで結果的に達成される雇用こそ重要だと認識すべきである。
    また、有能な人材に十分報いる社会でなければ、企業や国を引っ張るリーダーは育たない。努力を惜しまぬ上向き・外向き・前向きな人たちに、更に付加価値の高い仕事をしてもらわねば、山の頂は高くならない。頂を高くすれば、おのずとすそ野は広がり、全ての人に恩恵がもたらされるのだ。こういうと必ず、それは強者の論理だ、大前研一は非常な人間だ、と批判される。私はずっとそう主張してきたが、ならばその逆をやってきた政府が、雇用や好景気を造りだしただろうか?フリーターや落ちこぼれの対策をいくら充実させても経済は上向かない。派遣切りを法的に縛ってみたところで、企業は海外に拠点を移すだけである。そろそろ日本人は考え方を改めるべきだ。自己投資・自助努力する人間の集合体を造れば国は強くなる。それを後押しするのが政府や行政の役割であり、国民全体が新しい理解と情報で武装して前向きにならなければ、日本が「最強国家」となることはできないのだから。

  • 年金、税制、政策、領土問題などをグローバル経済との関連で論じている。
    大前氏の提示する具体策に違和感を感じるものもあったが、斬新で説得力があると感じた。どんな代案を考えてみたところで、どのみち「不公平」で「けしからん」解決策にしかならない分野=年金、平等もしくは既得権益保護を目標にしていびつなリソース配分を行ってきたその他分野の問題という軸をグローバルな事例等でフォローしているので、具体的な解決策を考える刺激の多い著作だった。

  • 図書館

  • 時間があれば

  • 読了

  • 自分用キーワード
    イチイチコンビ 旅券電子申請システム(既に廃止) 視野狭窄(留年してもいいから海外を見てくるが出来ない) 年金消失問題 日本版401k  シンガポールの国家ファンド 私鉄は総合ディベロッパー オーストラリアの年金ファンド 静養ホームたまゆら火災 脱税恩赦(ドイツなど) 「法人税を下げよ。ただし優遇税制も一斉に廃止」 レーガン税制 フラットタックス トーゴーサン(青色申告制) ブラックストーン(アメリカのファンド) ザ・ブラックカード(企業) ウィンブルドン化 GATT ウルグアイ・ラウンド 常陸那珂港(「釣り堀」) 「JAPAiN」(英エコノミストの揶揄) ワークシェアリング(元々は失業率の高かったオランダが実施) ブルドッグソース騒動 「U(J)字管現象」 日本の巨額な国防費 「領土の実効支配」の強さ ウールマーク(似た制度を金融商品にも導入すべき)  

  • 大前研一さんの今後の日本の取るべき戦略に関する著書。経営コンサルティングだけに非常に具体的、かつ、実行可能性の高い計画・戦略が印象的であった。誰でもいいのでこの戦略を実行に移してもらえたら...と考えたり。その中でも、個人個人が実践すべきこと、習得すべきこと・考え方は、ほとんどの著書で共通はしているが、自分も実行しなければならないと感じた。結局、誰かが何とかしてくれるといった他力本願ではいけないのだ。

  • 大前氏は私が大学生のころから著書を読んでいますが、そろそろ65歳を迎えるというのに、精力的に大学の講師や著作を続けられていて、そのエネルギーには感服します。

    この本では、最強の日本を設計するために必要な提言がなされています、世界を見渡して見習えるところは吸収すべしということだと思いますが、果たして日本ではどの程度効果があるのでしょうか。

    日本の良さを伸ばすべきという主張と、ゼロベースで組み立てなおすをいう主張が世の中に見られると思いますが、日本にはどのような方法が効果的なのでしょうか。

    以下は気になったポイントです。

    ・日本人が海外に雄飛した期間が3回あった、1)幕末期から明治半ば(勝海舟、福沢諭吉等)、2)日露戦争勝利後から大東亜戦争突入まで、3)敗戦直後、である(p20)

    ・統計的に、いま年金受給をしている人たちは、平均で30%を貯蓄している、75歳以上の人は保険料の14倍をもらう計算(p34)

    ・1980年代のアメリカレーガン改革では、年金財政の健全化を図るために、支給開始年齢や保険料率の引上げ、高額所得者の年金課税を行ったと同時に、所得税や法人税率も大減税を行った(p39)

    ・税制改革の三大潮流は、1)個人所得税の減税またはフラット化、2)法人税25%への収斂、3)相続税の廃止、である(p49)

    ・実際にこの30年間で起きたのは、所得税と法人税は税率を下げたほうが、税収が増えるということ、ウソをついたり利益を隠す工夫をする必要が無くなるため(p56)

    ・付加価値税を現在の消費税と同率で導入すれば、国内で生み出された付加価値の総額(GDP=500兆円)に対して25兆円(現在の国税収入=40兆円)となる(p62)

    ・中国人に人気の高い日本の観光地は3つあり、北海道・東京エリア(TDL含む)・秋葉原であり、4つ目として九州があげられる(p82)

    ・日本の国力規模は過去2000年において、だいたい中国の10%程度であった、その関係が変わったのは明治維新の140年程度、10%国家の関係とは、アメリカとカナダ、ドイツとスイス(デンマーク)というような関係である(p85)

    ・エネルギーをめぐる動きとして、1)原子力発電へのシフト(最大の埋蔵ウランは、米露の核兵器)、2)食糧由来のバイオ燃料開発中止である(p100)

    ・1エーカ当たりのバイオ燃料の年間生産量は、トウモロコシ(18ガロン)に対して、パームオイル(800ガロン)、藻(2万ガロン)である(p103)

    ・日本の代替エネルギーは、原子力でリード(20年)、太陽光でもリード、地熱は将来性あり、藻は可能性ありであり、この4分野の成長の可能性が大きい(p104)

    ・日本には貨物港湾が1000箇所以上もあり、東京湾でも4箇所(横浜、川崎、東京、千葉)が競い合っていて非効率(p119)

    ・リーダーとして重要な条件は、1)方向を決める、2)程度(スピード)を決める、である(p142)

    ・大学時代に磨いておくべき3種の神器は、英語・ファイナンス・ITである(p152)

    ・日本の雇用は、少なくとも本社・子会社(地方の正社員)・非正規労働者の3重構造になっていたので、中国に対しても最後まで競争力を維持できた(p164)

    ・ワークシェアリングとは、80年代のオランダで失業率が12%に達した際にできた制度で、勤務時間と給料をセットで削ったもの(p170)

    ・近年のグローバル化は、企業のあらゆる機能が海外に出ること、システム開発部はインドや中国、コールセンターはインドやフィリピン、ファイナンスはスイスやオランダ等(p173)

    ・日本経済がここまで強くなってきた理由は、国内に2つの格差があったから(賃金体系、都市と地方の格差)である(p177)

    ・道州制を成功させるためには、自立に必要なすべての道具(立法権、行政権、徴税権)を与える必要がある(p207)

    ・アメリカに進出した企業で赤字を出しているのは全体の5%程度、為替が円高に動いても、現地生産比率が高くなっているので悪影響は少ない(p226)

    ・アメリカのトルーマンとソ連のスターリンの駆け引きにおいて、北海道分割を避けたかったので、アメリカは妥協案として、北方4島(歯舞、色丹、択捉、国後)を与えた(p252)

    ・実効支配している方を領土と考えると、北方領土はロシア、竹島は韓国、尖閣諸島は日本、沖ノ鳥島は日本となる(p256)

  • オーストラリアはかつては成長余力のない国だったが、20年以上前に移民政策を大幅に緩和した結果、アジア、特に中国からの移民が大量に流入し、今やチンストラリアンと呼ばれるほど中国系の住民が急増して、現在2,100万人もいる。
    日本にスラムができなかったのは、私鉄が土地開発をしたから。世界にないモデル。
    製造業に代わるお家芸が日本にない。秋葉系サブカルチャーはせいぜい2兆円。65兆円の輸出の衰退を補うことはできない。
    ドイツやスイスはGDPが世界トップクラスだが、それを自慢しようとはしない。バイアスのない世界観を確立すること。
    国立大学には特徴がないからおちぶれる。
    基本的に役割の終わった国立大学は小泉改革で廃止すべきだったのに、独立行政法人にして中身を変えないまま延命してしまった。しかし独立行政法人になったところで、国利大学が経済的に自立できるわけがない。
    ドイツとフランスはパニックになる必要はない。両国ともに好況時に不動産革命が起きなかった珍しい国。にもかかわらず冷静さを失って、アメリカに一緒に踊るサルコジ、メルケルは自国の経済さえわかっていない。

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著者プロフィール

1943年、福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。(株)日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。 以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。現在はビジネス・ブレークスルー大学学長を務めるとともに、世界の大企業やアジア・太平洋における国家レベルのアドバイザーとして活躍のかたわら、グローバルな視点と大胆な発想で、活発な提言を行っている。

「2018年 『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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