結愛へ 目黒区虐待死事件 母の獄中手記

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093887571

作品紹介・あらすじ

彼女は、あなただったかもしれない。

2018年3月、東京都目黒区で当時5歳の少女、結愛ちゃんが息絶えた。十分な食事を与えられておらず、父親から暴力を受けていたことによる衰弱死だった。警視庁は傷害容疑で父親を逮捕。6月に父親を保護責任者遺棄致死容疑で再逮捕する際、母親・船戸優里も逮捕する。

本書は、2019年9月、第一審で懲役8年の判決を下された母親が、罪と向き合いながら綴った悲しみの記録である。

〈2018年6月6日、私は娘を死なせたということで逮捕された。いや「死なせた」のではなく「殺した」と言われても当然の結果で、「逮捕された」のではなく「逮捕していただいた」と言った方が正確なのかもしれない〉

〈結婚式直後のころと思う。結愛が床に横向きに寝転がっていた時、彼が思い切り、結愛のお腹を蹴り上げた。まるでサッカーボールのように。私の心をおおっているものにひびが入り、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた〉

〈私は、正座しながら説教を受け、それが終わると「怒ってくれてありがとう」と言うようになった。(略)私にとって説教とは叱られて終わりではなく、その後、彼に納得のいく反省文を提出し、許しをもらうまでの流れをいう〉

【編集担当からのおすすめ情報】
虐待事件の当事者が、手記という手段で、家庭崩壊の過程や苦悩を綴るのは、極めて珍しいことです。

なぜ、夫の暴力を止めることができなかったのか。
なぜ、過酷な日課を娘に強いたのか。
なぜ、やせ衰えた娘を病院に連れて行かなかったのか。
なぜ、誰にも助けを求めなかったのか。

その答えが本書にあります。
手記を読めば、船戸優里被告は、娘の虐待死において加害者でありながら、夫の執拗な精神的DVによって心がすり減らされていった被害者であるという事実に気がつくはずです。

本書には、虐待事件を精力的に取材してきたルポライターの杉山春氏の解説、そして公判前に優里被告を診断した精神科医の白川美也子氏の診断書(意見書)も巻末に収録しています。手記と併せてご覧いただければ事件の背景が深く理解できると思います。

本書を通じて、児童虐待とDVの実相を知っていただくことで、こうした悲劇が今後二度と起こらないようにすることが筆者、そして出版社の心からの願いです。

感想・レビュー・書評

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  • 愛くるしい表情でカメラに向かい、ピースをする幼子。
    若い夫婦によって、何の罪もない女の子が無残にも死に至らされた悲しい目黒区虐待死事件。
    その母親の獄中からの手記。

    出版に至るまでには、彼女の弁護士 大谷恭子氏と医療的観点からの意見書を提出した精神科医/臨床心理士 白川美也子氏の強い意志と、尽力が欠かせない。
    母親が心を開いたのは、両氏への確固たる信頼が生まれたから。

    衝撃的な出来事に対して、メディアも世間も寄ってたかって群がるが、単純な白黒議論で攻撃しておしまい。

    しかし、物事は、さほど単純ではなく、何があったのか、私たち社会が得られる教訓はという再考がない。両氏の本著出版への覚悟に感謝したい。

    【虐待=極悪非道の親の所業】
    誰しも単純で、わかりやすい図式を適用したい。

    野田市の父親による女の子の虐待事件も目を背けたくなる内容だったし、結愛ちゃんへの過剰なしつけという名の虐待も、見るに堪えない。

    母親たちは、夫の狂気、執拗な暴言、暴力によって我が子が虐待を受ける様を目の当たりにして、恐怖に雁字搦めになっていく。

    思考も行動も停止して、自らの感情や感覚にも蓋をする。
    最近読んだばかりの『カルトの子』(米本和広著)と似ている構図。

    自分を対象にするだけではなく、むしろ身近にいる人々、殊にお腹を痛めて産んだ我が子への暴力を見るたびに、自分以上の痛みや傷を心に刻んでいく。

    母親なのに、子どもへの愛情はなかったのか?
    なぜ抱きしめて、大切にして、自分の身を挺して守らなかったのか?
    そんなに酷い日常だったにもかかわらず、助けを求めなかったのか?

    こうした疑問は無力である。

    この母親は非常に自己否定感が強い。
    私なんて、どうせ馬鹿だからという言葉が繰り返し記されている。

    実家の両親には普通に愛されていたと思い込んでいる様子だが、彼女の過去の記憶への温かさの感覚は、言葉から伝わってこない。

    察するに、母親自身、両親からの情緒や情愛の経験や感覚を手にしないまま、愛され方も愛し方もわからずに、妊娠し子を産んだのではないか。

    暴力がなければ、普通に学校に行かせてくれていれば、「自分が愛されていたはず」と思い込みたいが、親からの目には見えない想いや情愛を確固たる軸として心に育めるか否かは、可視化できるものではない。

    大切にされ、尊重され、慈しまれ、育まれた実感。
    おそらく彼女にはそれらを手にした記憶がないのだと思う。私もそうだったから。

    彼女自身の自分の傾向に関する表現(本文より):

    ・感情表現が苦手
    ・自分の心とは真逆の印象を周囲に与えてしまう
    ・中学時代「途中で話が急に変わるからびっくりする」
    「変わっているね」と言われた
    ・短気というか感情のコントロールが苦手
    ・小中学校では思ったことをズバズバ言った。周りに合わせるのは面倒くさい
    ・早く答えないと、パニックになり、正確な記憶出ないのに答えてしまう、嘘つき呼ばわりされて当然だ

    あくまでも想像だが、彼女には『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著)にあるような、境界知能や発達の問題があるのではと感じた。

    最後に自分のコンプレックスを解消すべく、義理の娘 結愛ちゃんに幸せになってほしいからとしつけの名目で虐待を繰り返した夫の船戸雄大について。

    自分がやりたいこと、できなかったことを、自分より立場の弱い子どもに押し付け、自己実現しようとした。
    支配、コントロールして自分の優位性を確認しようとした。

    これも人間の弱さ、醜さ、恐ろしさ。
    彼自身、生い立ちや学歴、自己実現できない仕事において、無力だった。支配でしか、自分の存在を確認できなかった。

    世間からの評判や評価ではなく、自分で自分を大切にする。たとえ、親からその感覚を得られなかったとしても。
    周囲の力を借りながら、自己犠牲よりも虚栄よりも、自慈が大切なんだな。

  • DVの被害者であり、虐待の加害者にもなってしまった船戸優里さんの手記と、精神科医の白川美也子先生の診断書を読みたくて手に取りました。

    深い絶望の果てで、優里さんを理解し、力になろうとする人たちが現れて、優里さんがどのように変化していったか、厳しい状況に陥っていく過程で優里さんの身にに何が起きていたのか、優里さんの側から知ることのできる貴重な内容でした。

    読んでいて、本当に他人事ではない、と思いました。

    出版に向けて、怖いと思う気持ちもあっただろうと思います。
    なぜ出版の意思を固められたのか、その想いも本書の中にありました。

    SOSは何度も出されていた、けれど、受け取られなかった。周りが気付く力、対応する力があれば、どこかで止められたのではないか、とも思いました。

    この悲劇を2度と繰り返さないために何ができるか、自分ごととしてしっかり受け止めていこうと思います。

  • 目黒区「結愛ちゃん」虐待死事件、母・優里が書いた「獄中手記」の中身(杉山 春) | マネー現代 | 講談社
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70308

    結愛へ 目黒区虐待死事件 母の獄中手記 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09388757


  • 読了。このお母さんは悪くないなと思った。


  • 目黒区の幼児虐待事件、母親の日記など。

    夫のDVをDVと認識していなかった妻。
    夫から支配、操られ。精神的DV?モラハラ?
    夫婦ともに、自己肯定感の低さ。
    ハラスメントによる、抑うつ状態、感情鈍麻など。
    DVは、蓄積期→暴力期→ハネムーン期→蓄積期→、、、のループ。
    杉田春さんの記述や精神科医/臨床心理士の記録が興味深い。

  • なんで結愛ちゃんは亡くなってしまったのか。 大切な娘を失った母親の話。 実際読んでみて母親の味方は変わった。 言い訳にも聞こえる感じもするが、本当に気持ちがわからなくもなかった。どんな言葉で表すべきかわからない。 結愛ちゃんのご冥福をお祈りします。

  • 《虐待ってなんなんだ⁉︎》

    ダメ男と結婚してしまったことにより、先ずは自分自身が虐待された女性、そしてその男の言いなりになり娘を虐待死させてしまった。

    幼い子供が虐待死する事件は「鬼母」が起こすものと思っていたが、それは間違いだった。

    綺麗事ではなく、女性は娘を今でも愛しているし、後悔と反省の日々を送っているようだ。

    著者に与えられた使命は、同様の事件が社会から根絶されるために、獄中から、そして出所後も発信することだろう。
    それはとても勇気がいることだ。この書籍はその一歩目だ。

  • 加害者の本を読むことに心理的抵抗がありましたが、読んでよかったです。

    DVがこんな深刻な事件を引き起こす可能性をはらむことは知らなかったので、勉強になりました。

    1つの事例ですが、虐待当事者という究極の生の声を知る機会となりました。

    どうしたらこんな事態を防げるのか考える材料になる、重要な本です。

    加害者と被害者の両面を持つ筆者ですが、大きな傷を負って闘っている大変な最中に、当時の率直な心情を世の中に発表してくださったことに感謝します。

  • 最初から最後まで涙が溢れて止まらなかった。目黒区虐待死事件の母による手記。母親はDV被害者でしかない。身体的暴力の有無に関係なく、DV加害者の言動はなぜこうも判を押したようにみな同じなのか。著者が児相や精神科医や警察に藁をもすがる思いで助けを求めているのに、支援者の看板をあげている機関が二次被害を追わせている。著者を救えなかった人達こそ、責任を追うべきではないのか。著者の回復、DVの法整備、被害者支援の充実、DVについての世間への正しい周知を、心から願う。

  • 決して他人事ではないなぁ、と思う。

    健全な家庭と
    健やかにはいかない家庭との差は、
    たぶんわずかだ。

    細心の注意を払って、
    丁寧なコミュニケーションでもって
    日々を重ねていくこと。
    それが出来なくなったと思った時点で、
    その相手とは適切な距離をとること。
    それもできない場合は、
    他者に相談し巻き込んでいくこと。

    逃げるのも、頼るのも悪くない。
    むしろ、頑張りどころは、そこにある。

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