暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093886659

作品紹介・あらすじ

暴君に支配された「平成JR秘史」

2018年春、JR東労組から3万3000人の組合員が一挙に脱退した。同労組の組合員はあっという間に3分の1に激減し、崩壊の危機に追い込まれてしまった。いったい、何が起こったのかーー。

かつての動労、JR東労組委員長にして革マル派の実質的な指導者と見られる労働運動家・松崎明の死から8年。JR東日本が、「JRの妖怪」と呼ばれたこの男の”呪縛”から、ようやく「解放される日」を迎えたのか。

この作品は国鉄民営化に「コペルニクス的転換」といわれる方針転換により全面的に協力し、JR発足後は組合にシンパを浸透させて巨大な影響力を持った男・松崎明の評伝であり、複雑怪奇な平成裏面史の封印を解く画期的ノンフィクションである。

感想・レビュー・書評

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  •  「いいぞ!」
     「団結用意!」
     「ナンセンス!」

     今では思い出したように、同僚とふざけあって使うこれらの言葉も、かつて存在した労働組合の用語である。
     
     本書とほぼ同時に発売された西岡研介「トラジャ」に続いて読み終えた。
     今でこそ、労働組合なんてものもあったよね、と笑って言えるけど、昔は組合のことなんて喋れる雰囲気の会社ではなかった。
     2018年初の三万五千人の大量脱退(俺もその一人だけど)でようやく、この労働組合に関する話がタブーではなくなり、相次いで出版されるようになったんだろう。

     先に読んだ「トラジャ」では、前半をJR東労組と革マルの関係について、後半では未だに労使関係が続くJR北海道とJR貨物の現状について書かれている。

     本書「暴君」では、全学連まで時代を遡り、革マル派の成り立ちから、松崎明の生涯を追っている。
     
     両書を読み終えて、ようやくあの組織の息苦しさ、横柄さが理解できてきた。
     「統一と団結の否定」「積極攻撃型組織防衛論」を軸に、変革か打倒かの二択を迫る。
     そこに組織の本質があった。 

     今では労働組合に属していない宙ぶらりんの状態が続く。
     賃上げは政府が企業に対して指導しているし、ブラック企業はSNSで晒されるこの世の中。
     労働組合不要論が起きている。
     翻って、ギグワーカーによる新たに労働組合を組織する動きもある。
     昭和型の労働組合から、新時代の労働組合へ。
     労働組合に対する、新たな定義が必要なのではとも思う。

  • 長らく日経新聞において、国鉄及びJRを担当する社会部記者として前作「昭和解体ー国鉄分割・民営化30年目の真実」で国鉄民営化の歴史をまとめあげた著者が次に選んだ対象は、JR東日本の労働組合を長年実行支配し、かつ自らも核マル派のイデオローグであった松崎明である。

    本書は、平成最大のタブーとも呼べるJR東日本と核マル派の悪しき蜜月を首謀した松崎明という人間にスポットを当て、どのようにその支配が完成し、ついには破綻に至ったのかが丹念に描かれる。

    松崎明の死により労組の力が弱体化し、ついには3.5万人の組合員脱退によりJR東日本は核マル派の呪縛から逃れられるわけだが、一方ではJR東日本はまだその影響下にあるとされる。こうした事実が本書によって明らかにされ、JR北海道という会社が、真っ当な経営に戻ることを切に願う。

  • 【”妖怪”と呼ばれた男・松崎明の”呪縛”からJR東日本が「完全に解放される日」は、”日本の失われた二十年”どころか平成まるまる三十年間をかけて、ようやく近づいてきたということなのだろう】(文中より引用)

    旧国鉄において「鬼の動労」と恐れられた労働組合を率い、民営化後もその絶対的な影響力を保持し続けた松崎明。その半生を丹念に記しながら、JRに彼が深く遺した影響について考察した作品です。著者は、日本経済新聞社で社会部長などを歴任した牧久。

    読んだ前と後とで同じ事象に対する見方が変わる一冊というのがたまにあるのですが、本作がまさにそれ。長年に渡って地道に、そして真摯に取材活動を続けてきたからこそ著すことのできる作品だと感じました。硬派なテーマですが、読めば多くの方が素晴らしい読書体験を積むことができる名著かと。

    今年のトップ10に入ってきそう☆5つ

  • 2022年12月16日読了

  • BRUTUS202111合本掲載 

  • ふむ

  • 暴君
    新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

    著者:牧 久
    発行:2019年4月28日
    小学館

    松崎明という人物は、その世界では有名人というかかなりの“大物”だそうだ。僕は名前ぐらいしか知らなかった。
    国鉄の労働組合と言えば、最大組織の国労(社会党)、鉄労(民社党)、動労(革マル派)、千葉動労(中核派)に大別され、JRへの分割民営化に際し、「闘う動労」を標榜していた動労が、もともと労使協調路線だった鉄労とともに賛成に回ったという知識ぐらいはあった。なぜ急にマスメディアが「過激派」と紹介し、警察が「極左暴力集団」と呼ぶ革マル系の動労が賛成に回ったのか、僕には理解できていなかった。その裏事情が450ページ以上にわたって詳しく紹介されている。著者は日経新聞出身のフリージャーナリスト。松崎明が死ぬまで、彼に関する報道はタブーとされ、あの週刊文春でさえもキオスクで販売拒否されるなど容易に手が出せなかったという。

    動労の大転換は、松崎の方針によりなされた。労働争議で国鉄を解雇された彼は、動労の専従となり、委員長にまでのし上がっていたが、国鉄民営化前年に敵対してきた鉄労の全国大会に招かれ、解体を叫んでいた鉄労とともに民営化に際して「労使共同」を訴えた “コペルニクス転換”の演説を行った。彼は哲学者・黒田寛一とともに革マル派を創設したメンバーで、いうまでもなく共産主義革命を掲げる。それなのに、この頃には自民党機関誌「自由新報」や反共団体統一教会の「世界日報」などにもしばしば登場して、共産党や国労の批判を繰り広げた。
    なぜコペ転をしたのか?
    それは黒田寛一が説く「形勢不利な時には敵の組織に潜り込む」という戦略を踏襲したのだと著者は分析している。

    国鉄改革において、改革3人組と呼ばれた者がいた。後のJR東海社長となる葛西、JR西日本社長となる井出(福知山線脱線事故で全国的な有名人となった)、そして、JR東日本社長となる松田。葛西と井出は松崎とは袂を分かったが、松田は以後もべったり。上司の住田とともに、住田―松田体制(JR東日本)と松崎との癒着が始まる。松崎は気に入らない幹部社員がいると、住田―松田ルートで平気で左遷させる、あるいは辞めざるを得なくしてしまう、そんな経営者をもあやつるドンとなった。

    車はボルボやベンツ。ボディーガードをつかせ、ハワイに別荘2軒、国内にもマンション、別荘、別宅を持つ。しかし、体が弱まるとともに、徐々にその勢いは衰え、JR東日本側も彼を切りにかかる。そして、その死とともに彼の力は影も形も消え失せる。

    北朝鮮の金正恩はちょっと別として、シリアのアサドや以前のスペインのフランコなど、やればできるのにどうしてずっと独裁させたままにするのか?やってみれば意外と簡単なのに、という気もするが、どうなんだろう。ましてや松崎明という軍事力を持たない独裁者。なぜ彼の死を待たなければ終わりにならなかったのか。ちょっと不思議でもある。

  •  東日本旅客鉄道株式会社。
    日本国有鉄道から分割民営化され、会社名の通り東日本一帯を管轄する巨大企業だ。
    子会社は70社あり、事業の中身は多岐に渡る。
    これだけの大きな会社なので、当然従業員も多くなる。
    しかし組合は一枚岩ではなく、いくつも分裂して増えていった。
    その組合を仕切っていたのが、本書で書かれた松崎明氏である。
     若い世代にはピンとこないだろう。
    そもそも、ストライキ、だの革マル派・中核派、セクト・アジトなどと言う言葉からしてもはや歴史教科書の「現代史」に出てきた単語だけれども、ほんの30年前まではリアルな言葉として、企業や上層部には響いていた。
     しかし数年前にJR東日本の最大労組から一斉に3万人以上もの組合員が抜けた。
    理由は様々だが、組合が言うように、「脱退工作」が行われただけでは人は動かないだろう。
    新たな労組が生まれたし、これまでの労組も残っているが、多くの元組合員たちは戻っていない。
     なぜだろう?
     労組そのものは悪ではない。使用者に対抗する正当な手段であり、それによって守られるべき労働者がいるのも理解しているつもりだ。
    だが、入らなければ昇進に響き、政治運動が行われ、使用目的が不明瞭な高い組合費を収めなければならず、レクへの参加が必須の労組が果たして現代に賛同を得られるか?無理だろう。
     本書で描かれた松崎氏によって確かにできたばかりの企業が安定した面もあるだろうし、会社もそれを利用していたのだろう。
    けれども、彼のやり方は、正しくなかった。
    力をちらつかせ、意に沿わなければ潰すやり方は正しくない。
    そして、力で支配する相手を利用した会社も、やはり正しくはなかった。
     私は暴力と恐怖で支配するやり方は間違っていると思う。
    それは誰に対しても同じだ。
    単純に会社が、労組が良い悪いではなく、どんな場合であっても、恐怖で人を支配する事はあってはならない。
    JR東日本が、これからも継続していくためにも、より多様性と柔軟性を大切にする企業であってほしいと思う。

  • マングローブ枯れたり。という一言に尽きる。
    思い返せば松崎氏死後のこの手の文献に触れたことはなかった気がするけれど、大塚社長以来、着実に革マルの「牙を抜く」労政が実行されていたのだなあと認識。他方で共産革命にはスリーパーが不可欠なのかしら、とも思ったり。
    思想の是非はともかくとして、松崎氏は個人として相当魅力的な人物だったのでしょう。これを歴史として捉える時代に生きているのが幸運なのかどうなのか。
    かつて駒場の学友会に切り込もうと冗談交じりで語りながら結局果たせなかったアマチュアジャーナリストとしては、嫉妬とともに最大限の敬意を表する次第です。

  • この作品をどこまで事実として読めるかは正直?がつくところだが、読み物としては面白かった。
    革マルの幹部であった松崎明がいつのまにかJR東日本労組を私物化し、専制君主のように振る舞っていく様はなかなかだった。とりわけ、JR東日本経営陣の弱腰姿勢にはイラッときた。

    でも、いまの組合が御用組合化している点や企業別組合の存在が、労働の流動性を低めている点は考えないといけないのではないか。
    その点、筆者の労使協調路線の現行労使体制を当然のものとして組み立てているので、古くさいなぁと思った。

    もっとも、思想の自由は認められるが現行の日本国憲法体制を暴力で否定しようとする勢力は右派左派問わずお断りだ。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。昭和16年(1941)、大分県生まれ。昭和39年(1964)早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒業。同年、日本経済新聞社入社、東京本社編集局社会部に所属。サイゴン・シンガポール特派員、平成元年(1989)、東京・社会部長。その後代表取締役副社長を経て、テレビ大阪会長。著書に『サイゴンの火焔樹――もうひとつのベトナム戦争』、『「安南王国」の夢――ベトナム独立を支援した日本人』、『不屈の春雷――十河信二とその時代(上、下)』(すべてウェッジ)などがある。

「2017年 『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

牧久の作品

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