池上彰の世界の見方 ドイツとEU: 理想と現実のギャップ

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093885805

作品紹介・あらすじ

EUとは何か、ドイツの役割と共に解説

2度の世界大戦という苦い経験から、戦争のない平和な世界をつくるという大きな理想を掲げて誕生したEU。国境をなくし、通貨を共通にして、人、モノ、お金の移動を自由にしていった。
しかし、移民や難民の流入を招いてEUの結束は揺らいでいる。イギリスがEUからの離脱を決め、各国で自国第一を掲げる政党勢力が伸長した。
理想と現実の狭間で悩むEUはどこに行くのか?
実は統合にはドイツが強大になるのを抑え込む意味もあった。しかし、今やドイツはEUのリーダー格になっている。戦後のヨーロッパでのドイツの役割と共にEUを読みとく、池上オリジナル解説。
本書は、池上さんが選ぶ独自のテーマで、世界の国と地域を解説する「池上彰の世界の見方」シリーズの5冊め。都立戸山高校での特別授業をもとに構成。


【編集担当からのおすすめ情報】
ヨーロッパでリーダーシップをとるドイツを視座にEUを解説するところが池上オリジナルです。原発廃止、移民・難民の積極的受け入れなど、日本と反対の選択をしているドイツの戦後の歩みは、知らないことがいっぱいです。

感想・レビュー・書評

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  • 東京都立戸山高校での講義 2017

    ●EUにおける意識調査(ビュー・リサーチセンター2013年)EU8カ国で聞きました、がおもしろい。2009年10月のギリシャ財政危機をドイツの先導で回避したということの影響が調査結果に出ているという。
     イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ギリシャ、ポーランド、チェコに聞いた。

    <ドイツが以下の質問で多く挙がっている。信頼できるが、薄情で高慢だ、と思われている>
     ◎最も信頼できる国:ギリシャはギリシャと回答。それ以外の国はすべてドイツと回答。
     ◎最も薄情な国:フランス、ドイツはイギリスと回答。それ以外の国はドイツと回答。
     ◎最も高慢な国:イタリア、スペイン、ギリシャ、ポーランド、チェコはドイツと回答。イギリス、フランス、ドイツはフランスと回答。 仏は自身を高慢と答えている。

    <ほぼすべての国は自国を謙虚で慈悲深いとしている>
     ★最も謙虚な国:英、仏、独、スペイン、ギリシャ、ポーランドは自身の国を謙虚と答える。イタリアはスペインを、チェコはスロバキアを謙虚と答える。
     ★最も慈悲深い国:すべての国が自国であると答える。

    <評価がわかれるのが、信頼できない国。イギリス、ポーランド、チェコは挙がっていない。>
     ●最も信頼できない国:イギリスはフランスが信頼できない。フランス、チェコはギリシャが信頼できない。ギリシャ、ポーランドはドイツが信頼できない。ドイツはギリシャとイタリアを信頼できないと2国あげ、イタリア、スペインはイタリアが信頼できない。
     ・ギリシャとドイツはお互いを信頼できず、イタリアは自身を信頼できないとしている。

    ○ユーゴスラヴィア
     ・チトーの指揮下の武装ゲリラがナチス・ドイツ軍と戦い、ソ連に頼らず独立を果たす。東側でも西側でもなく、全人民武装としてすべての家庭に武器が配られた。
      →1980年5月、チトー没、
       1984 サラエボオリンピック
       1991年12月にソ連崩壊 →内線に
     ・スロヴェニアはスロヴェニア人が中心でセルビア人はほとんどいない。1991.6.25独立 
     ・マケドニアも同じ →1991.6 独立
     ・クロアチアにはクロアチア人とセルビア人がいて両者は歴史的に仲が悪く、独立のために激しい戦争が起こった。1991 独立
     ・ボスニア・ヘルツェゴビナ 1992独立宣言するも紛争に。独立派のクロアチア人とボシュニャク人とユーゴスラヴィア残留派のセルビア人との間で内戦に。クロアチア人はカトリック、セルビア陣はセルビア正教、ボシュニャク人はイスラム教。三つの民族、三つの宗教が対立。当時の国連で明石康さんがユーゴ担当、更迭。NATO介入で1995内戦終結。
     ・セルビア、モンテネグロ はコソボ紛争後 2006独立 

    ・「最後の授業」ドーデ著 普仏戦争(1870.7.19-1871.5.10)でフランスは敗れアルザス・ロレーヌ地方はプロイセンの領土となる、その最後のフランス語の授業の話。だが、アルザス地方はもともとドイツ語圏で、そこをフランスが占領してフランス語を押しつけていた・・という歴史がある。ドーデはフランス側からの視点。
    ・ルーブル美術館はもともとは12世紀、フランスがイギリスからの攻撃を防ぐためにつくられた要塞。


    ・東ドイツの戦後教育 戦争は一部の独占資本家が起こした。君たちプロレタリアート(労働者)は被害者なのだ。悪かったのはヒトラーとその取り巻きだ。
    ・西ドイツの戦後教育 ヒトラーは選挙で国民が選んだ。戦争やユダヤ人に対しての責任は国民にある。
    ・ドイツでの難民受け入れについて、戦争責任や少数民族虐待の反省からメルケル首相は難民を無条件で受け入れるとした。現在80~100万人の難民暮らす。旧東ドイツ国民は戦後教育から難民受け入れに否定的。
     
    p21:1ページでとても簡潔にまとまっているヨーロッパ歴史年表がわかりやすい。

    p39:ユーゴスラヴィア、六つの共和国の歴史がわかりやすい。

    2017.11.25初版第1刷 図書館

  • T図書館
    シリーズ5 2017年
    高校の授業を元にした本
    21ヨーロッパの略年表
    39旧ユーゴスラビアの成り立ちと歴史の表

    1章 統合前史から見るEU
    2章 統合の始まり加速挫折から見るEU
    3章 通貨統合(ユーロ)から見る EU
    4章 ヒトラーと戦後から見るドイツ
    5章 EUのリーダーから見るドイツ
    6章 難民 移民 テロから見る EU

    《感想》
    国ごと、NATO、EU、ユーロで分けて説明していて非常にわかりやすかった
    今どうして国々がこうなっているかが腑に落ちた
    歴史を知らないことは恥ずかしいなと思った

    ・池上氏パスポート持たずうっかりエピソード
    (EUでもシェンゲン協定を結んでいないとパスポートがいる、クロアチアは協定に入っていない)

    クロアチアからスロベニアへ向かう列車で移動の際、パスポート検査があった
    EUだからパスポート(ホテルの金庫に置いてきた)はいらないと高を括っていた池上氏は、スロベニア入国審査官に拒否され入国できなかった
    すると戻る列車でクロアチアの入国審査官にひっかかり、これまた入国できないとなった
    そこに運良くスロベニアの入国審査官が通り、声をかけてくれて事なきを得たそうだ
    悔しかったから再度列車に乗ってスロベニアに向かったら、スロベニア入国審査官に再会し、また来たかと笑われ、今度はパスポートを見せ入国できた

    ・別々の言葉を話し 違う文化を持った人たちが一緒になるのは困難
    ・地理的な区分と歴史文化的な区分は必ずしも一致しないということを知っておく

  • 最近出版された「インド」が面白かったので、ほかの地域にも興味が出てきて購入。

    内容としてはどちらかというとEUの記述が多いものの、ドイツ・EUそれぞれの現代史や課題をざっくりとつかむことができる良書である。

    特に、ドイツの南北での違いや国民投票の危うさ、通貨単位「ユーロ」の由来などは意識せずに過ごしてきたこともあり、未知の知識に触れるという意味でも非常に好奇心を満たす本であった。

  • ヨーロッパの良い面しかみてこなかったが、それぞれの国で大変な問題を抱えてるんだなと思う。
    物事には背景があってそれを知ってないと理解できないという事を痛感した。

  • EUの成り立ちと、ドイツがナチス時代から現代に掛けてどれだけの努力で世界の信頼を得たのかが分かりやすく書かれています。毎度思いますが僕のような初心者には本当にありがたいです。深くまで書かれていても興味が湧かないと全然頭に入らないですからね。これはすっと入ってきて、ちょっとわかったような気になります。
    EUはヨーロッパの国々が集まって、アメリカやロシアに対抗する意味以外に、ドイツがまた暴走しないように監視するという意味もあったんですね。第二次世界大戦の重みというのはこれからも長く残っていくし、これからの世界の為に忘れてはならない事です。
    ドイツが誠心誠意国際社会へ謝罪して、国民へも戦後教育を徹底してナチスドイツが起こした戦争を忘れずに綿々と伝えていく姿勢は本当に見事です。移民を無制限に受け入れるというメルケル首相の方針を、西ドイツで戦後教育を受けた人々は当然の事として受け止め、東ドイツで生まれ育った人々はナチスが悪かったのであって、国民は悪くなかったと教育を受けているので、受け入れ難く感じているという事も興味深いです。人の考え方というのは教育と啓蒙によって成立していくんですね。
    僕は重要な事は国民投票すればいいじゃないかと安易に思っていましたが、ナチスはドイツ国民が国民投票で絶大な支持を受けた事によって誕生したと知ってびっくりしました。熱狂した国民が冷静さを欠いて選ぶことが、必ずしも国民の総意と言えるのかというと確かに疑問です。

    EUでユーロという共通貨幣を使用している事によって、各国独自での金融政策が難しくなっている理屈がよく分かりました。好景気のドイツは金利が安すぎると締め付けが効かなくなる恐れが有り、不景気のギリシャでは金利が高すぎると経済が回らず回復しない。このバランスを取ろうとするとどっちつかずになるということ。なるほどね、想像もしなかったけれども一種類の金融政策で複数の国をコントロールするのは難しそうです。

    それにしても子供の頃はがっちり固まった世界だと思い込んできましたが、その頃せいぜい戦後50年位だったわけで、これ以降もめまぐるしく世界は変わっていくんですね。漠然とは分かっていましたが具体的に色々な国の思惑を知ると、いかに世界平和が綱渡りかがわかります。
    今世界は激動の道を歩んでいます。何も変える力は無くても知らずに巻き込まれるのは御免なので、地道に情勢を見守りたいと思います。

  • いままで知らなかったヨーロッパの経緯や各国の狙い・考えがわかる本。非常にわかりやすい。
    なぜドイツの首相はサミットでみんなとポーズが違うのか?とかの小話もあってとても面白かった。

  • 相変わらず本当に分かりやすい!

    ドイツはヒトラーやナチスが行ってきた残虐な行為に真正面から向き合い、反省を重ね、EUの盟主になるまで復活を遂げたドイツの歴史により興味が湧いた。そのような事実は知っていたものの、ヒトラーを民主的なやり方で国民が自らの手で選んだことが、その反省の背景にあるという点は非常に納得できた。そんなドイツも難民問題を抱え国内では不満も渦巻いており、今後の動向が非常に気になる。
    イギリスのEU離脱は、EUにおけるドイツの力をさらに強力なものにしてしまう。EUが元々ドイツを見張るための組織だったことを踏まえるとよくない兆候かもしれない。

  • 留学モチベーション維持。ドイツは敗戦国であり、人口規模や国民性、福祉体制等で日本と似た部分がある。世界史の授業をやっぱり思い出すなあ。

  • 戦後のドイツと日本の比較が興味深かった。
    大戦では日本もドイツも周辺国に大きな被害をもたらしたのは同じで、戦後に日本は隣国と今でもギクシャクしている反面、ドイツはそれなりに隣国からの信頼を得て友好な関係を築いている、その違いは何か。
    ドイツは他の欧州諸国とソ連という共通の脅威があったり、根っこを共有する宗教で繋がっていたり、直に国境を接していて利害関係により敏感にならざるを得なかったり、戦前に完成度の高かった民主主義で国民自ら独裁者を選んだ自覚があることなどが日本との違いなのかなと思った。

    また、ドイツやEUの成り立ちを知って、民主主義がベターであっても決してベストではないこともよくわかった。
    一人一人が学んでよく考えて自分を律していないとならないなと思った。

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著者プロフィール

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

「2023年 『世界を動かした名演説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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