日本人の値段: 中国に買われたエリート技術者たち

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093883771

作品紹介・あらすじ

中国に渡った日本人技術者の現在と未来

日本の技術の海外流出が止まらない。主な流出先は経済成長著しい中国だ。

その優れた技術が、中国のさまざまな分野で実用化されるのははなぜか?
それは日本人技術者が高額でヘッドハンティングされているという現実が、
きわめて大きい。

本書では、日本の自動車業界、家電業界、建設機械業界などから中国に渡った日本人技術者たちを丹念に取材。その実態を余すところなく明らかにする。
また技術者たちを中国に向かわせるヘッドハンターたちが、どうように技術者と中国企業を仲介をし、成功を導くのか、そのプロフェッショナルな仕事に極限まで迫る。

北京在住14年の日本人作家だからこそ書けた、迫真ドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • ビジネス

  • 北京在住の日本人作家による、日本人技術者の中国での勤務状況や日本の技術の流出について書かれた本。実際に中国で働く日本人技術者や、日本人と中国人のヘッドハンターへのインタビューを中心に、よく調査されていると思う。実態をつかむことができた。
    「中国で働く、日本人の車のエンジニアで、年200万元(3600万円)程度の報酬を受け取る人はけっこういる。多いのは150万元(2700万円)程度。これに加えて、高級マンションが用意され、通訳と送迎がつく。年数回の帰国費用も会社が負担する」p18
    「機械のエンジニアは育つのに時間がかかる。そして日本人は同じ会社に何十年もいた。技術が継承、蓄積されてきた。ところが中国の若いエンジニアは(欧米もそうだが)、自分はワーカーではないという身分感覚があって、直接機械を組み立てて手を汚すようなことはしない。そして転職が多い。そのわりにはプロフェッショナル意識は弱い。モノづくりに対する発想も非常に安直。どんなものもバラしてコピーすれば作れるはず、と信じ込んでいる。「寸法どおりにやっても、感度が変われば数値も変わる。日本は安全性が必要なところはギリギリに、そうでないところはルーズに、数ミクロンの中で動かしている。まさに匠の技術です」」p20
    「日本人はインターネットとかiPadとか個人の突出した独創性を要求されるものはダメですが、皆で力を合わせて開発することはバツグンに強い。ハイブリッドエンジンというのは技術の粋を集めたもので、日本人だからできたようなものです」p21
    「威風堂々に決めた習近平の車がエンストしたら、面子丸つぶれである。こういう外観は中国製、中身は日本製というのは北京地下鉄、高速鉄道をはじめ、けっこう多い」p26
    「田中さんは日本人もブラック企業なんて言ってないで、もっと働いて、新しい技術を開発した方がいいと言う。それしか日本は生きる道がないことを実感しているからだろう」p34
    「特許を出願して、1年半たつと、認められるかどうかにかかわらず、自動的に内容が公開になる。外国からパクられ放題とも言える。この特許を出したがゆえに技術流出する、というのを避けるために、日本の会社も、本当にコアな革新的な新技術は逆に特許を出願しなくなっている」p60
    「サムスンには、家電だけで日本人が80人ぐらいいた。いわゆる、出世ルートから外れた人なども多く、「高卒とか、部長になれなかった課長とかが、全部来ています」。そういう現場部門で2番目か3番目の人が来る。こういう人たちは現場も知っていて、本当に技術力がある」p62
    「中国の会社はトップがエラいです。若いし、夢を持っているし、いうこともしっかりしている、考え方も的を得ている。大陸だから視野も広い」p72
    「日本人が、負ける要素なんて本当にない。中国は技術力はまったくないです。ただひとつ負けるとしたら、トップが違う。でも、日本は今、そんな中国に負けている」p73
    「もちろん中国では何でも爆発する。家電が原因の火事や事故があとを絶たない。先日も歩いていたら、目の前のガラス張りの火鍋レストランで、電磁プレートが爆発し、炎が一瞬にして天井まで昇る瞬間を見た」p75
    「現在、中国企業でどれぐらいの日本人技術者が働いているか、と聞いたら、少なくとも2、3000人はいますね。何百人という数字では、絶対にない、という答えが返ってきた」p114
    「家電なんか、韓国、中国は日本をすぐ超えられる。だけど鉄鋼、材料、重工業はまだまだ本当にダメ。基礎研究はものすごい時間がかかるから、20年、30年かかっても追いつけるかどうかわからない。中国では、民間は基礎研究に投資しないし、研究所はあってもひどい状態だ。日本人はまじめだし、研究力がある」p130
    「日本人技術者は中国企業から非常に評判がいい。企業側も最初はいろいろ心配している。中国の生活に慣れるかどうか、すぐ帰ってしまうのではないか、など。ところが、日本人は実際仕事を始めたら、まず仕事ぶりがまじめで、社長が感動する。技術は専門的だし評判は非常にいい。1人雇うと、だいたい日本人をもっと探してくれ!ということになる」p132
    「若者がいくら、私は好きなことをして、ローペースでエコに暮らす、といっても、それこそが一番贅沢なこと」p140
    「日本は「良い子」の国だが、中国は「悪い子」の国である」p142
    「大学でね、学生にいうんですよ。日本企業だから、日本人を雇うとはもう限らないよと。コマツならもう85%が海外の仕事です。となると、外国人の方ができる仕事も多い。本社も昔は日本人が100%だったが、今は1割以上外国人がいる。普通にしていたら負けるよと」p163
    「北京の清華大学科学技術担当の教授に、今、中国が一番必要な技術は何でしょう、と聞いたら、中国は、どのレベルでも必要な技術だらけだ、と渋い表情だった」p189
    「中国の日系企業では、図面や試作品、機密データなどの技術流出のみならず、直接の盗難も多く聞くが、ほとんどは表ざたにはならない」p207
    「(技術流出について)細部まで管理しろというほうがムリな場合もある。そもそも現地の運転手に新車をまかせれば次の日にバッテリーが取り替えられている国である」p208
    「日常でも、少しでも油断すると、盗難にあう。お気に入りのロードバイクに頑丈な鍵をつけていたら、シマノの変速機だけが外して盗まれていた」p208
    「朝日新聞でも退職後人民日報に就職したり、出向したりする人はいるし、NHKは、渋谷のNHK放送センターの中にCCTV(中国中央電視台)がオフィスを置いている。NHKの中国での取材は、かならず中国中央電視台の職員がお目付役でひっついているし、NHKの中国報道は、私から見ればたとえば技術者流出でも中国に反感を向けぬよう在中の台湾企業で語るなど、非常にうまく日本人の感情を操作している」p217

  • 技術を持った人達が技術や特許とともに中国へ流れていく。それも1000万円程度の安い給料で。ものづくりが好きなこのような人達になんとか日本で力を発揮してもらう方法はないのだろうか。とても悲しい。技術者も国際政治を勉強する必要あるんじゃないだろうか。学生運動のころは倫理感をもて、という話があったが、今は自分が母国の国益を損なっていることを理解してほしい。

  • 前々から気になっていた本を入手・読破。
    技術流出ということはずいぶん前から騒がれていは居たが、能力経験のある技術者がおり、彼らに十分な仕事や報酬を与えられなかった企業の経営能力に問題があったとしか思えない。著者も述べているが、技術自体の流通・伝播は地球全体で見れば良いことだと思う。日本の技術流出と呼ばれるものも、ある種、ジェネリック薬に通じる所がある気がする。とはいえ、貢献するのはいいけど、ある程度先鞭をつけた人々にその報酬が落ちる形にしないと厳しいだろうな。

    P19.成功体験は意味なくて、不具合をどれだけ経験しているかがエンジニアのレベルを決める。

    P43.中国で高級車に乗るのは、一党独裁を最大限に利用して、大バクチを売って巨額の金を掴んだ人々である。正義ヅラする奴らに『肝っ玉の小さい貧乏人が!』と、内心でつばの一つも吐きかけるような人々である。

    P214.技術は本来グローバルなものである。国籍や安全保証、企業単位で考えれば流出になるが、地球規模で考えれば人類に貢献である。

  • 日々の交渉で使えそうなネタもあり、安定の面白さでした。日本はどこへ行く?もっと長期目線で国力を立て直す施策を考えてほしい。そして本書に登場する、民間が持つ技術を安売りする某政治家には腹が立つな。

  • ヘッドハンター エグゼクティブサーチ

    中国で暮らしているとものの良し悪しを決める最後は素材だなということがよく分かる

    中国ビジネスには非主流の苦労人を送り込め

    中国ではトップダウンが強すぎて、ボトムアップの知恵が集まらない

    日本のように、皆で力を合わせて、工場の造り込みができない。生産技術は日本が世界一。中国は基礎技術をおそろかにして、見せかけの利益を上げる

    革命のもっとも重要な任務と最高の形は、武力による国家権力の奪取であり、戦争による問題解決である。このマルクス主義の原則は、中国だけでなく外国でも、どこでもいつでも必ず正しい 戦争と戦略問題 毛沢東 1938

    サランラップ 軍で銃弾や火薬などが湿らないようにつつむために開発されている。それを技術者の妻であるサランとアンがサンドイッチをつつんで便利だと評判になり、彼女たちの名前をつけて商品化された

    世界一愚かなお金持ち、日本人

  • 中国のヘッドハンターの話や、実際に日本の企業から転職した人の話が、書かれていて内容自体は面白いのだが、まとまりに欠ける。
    中国の企業の人を引き抜く考え方や、もらえるそれなりの報酬の事はわかるが、でどうなのか考えるにはちょっと情報が断片的。日本の企業がどう情報コントロールすべきか?どうしましょうか??

  • 中国の現状を伝える媒体としては評価できる。
    しかし、著者の見解は、日本が中国に技術を盗まれる懸念を示したり、生産技術は中国にはまねできないと言ったりかなり揺れ動くし、技術を盗まれる根拠として中国では引っ越しの荷物からものが盗まれた経験まで出して、聞くに値しない。言葉も時々くだけた表現になるし、主語が抜けていて何を言いたいのかわからないところがある。会話調ではないが、おばさんたちがランチしながらとめどない話をしてるような雰囲気を感じる。もう少し日本語の文章力を磨いてもらいたい。

  • 日本の良いところも分かるが、なぜ競争力を失いつつあるのかも分かる。日本の企業は企業内遊泳術が上手い者が昇進し、単なる保身しかしていないから。守りの姿勢なんだな。守りと攻めとが均衡していかなければ、企業は維持すらできない。そういうことを改めて感じさせられた。

  • 筆者は中国在住の女性、日本国内からの報道や解説では見えてこない現実の一面が丹念に取材されている。
    なぜ技術者が中国に買われていくのか、そして中国の戦略や製品の現実も知ることができ、性善説的国民性の危うさも指摘している。

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著者プロフィール

作家

「2016年 『国が崩壊しても平気な中国人・会社がヤバいだけで真っ青な日本人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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