著者 :
  • 小学館
3.64
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本棚登録 : 407
感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093866491

作品紹介・あらすじ

一枚の絵が、世の中の仕組みを大きく覆す。 男は、どん詰まりの場所にいた。二年半前の大学生だった娘の交通事故死。そこから精神の変調を来たし、二度の自殺未遂の隘路から抜け出せない妻。あれを試すしかないのか‐‐。かつて、高校受験に失敗した直後、失意のうちに目にした「道」というタイトルの一枚の絵。そして、そのあとに訪れた名状しがたい不思議な出来事。40年ぶりにその絵を目にした男は、気が付けば、交通事故が愛娘に起こる直前の三軒茶屋の交差点にいた。構想10年。満を持して放つ、アンストッパブル巨編。

感想・レビュー・書評

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  • 白石一文さんの作品は、随分と久しぶりである。
    ちょっと今までとは違う種類の内容だった。

    一枚の絵。それは、道が描かれてある。
    自分は、どの道を進みたいのか…。
    その選んだ道を進んだ先は…。

    もう絶望しかなくて、このままの状態で明日など迎えたくなくて…
    そんなとき違う人生を歩むことができたら、とそう思うこともあるだろう。
    だがその世界もけっして楽しいとは限らず、知りたくなかったことも知り、複雑な感情になることも。

    そう何度も道は選べないし、引き返すこともできない。
    いろんな世界で生きるというのは厳しいんじゃないかと…
    そのままでよかったんじゃないのか…と考えてすっきりとはしなかった。


  • 全542ページ
    六部から成る長編

    壮年男性が主人公のタイムワープの話。

    人生に絶望した出来事をやり直すため、
    不思議な(道)を使って時間を遡る。

    現実の出来事が数多く盛り込まれているので、
    主人公の生きてる小説の中の時間がやけに
    リアルに感じられます。

    どこに行ったら幸せと思えるのか、
    誰と生きることが幸せなのか、
    主人公が向き合う人生のそれぞれに
    葛藤がある点は想像できて共感します。

    時間の交錯や矛盾点の納得が難しいところは、
    まるで出口の見えない迷路にはまった気分です。



  • 深く考えると混乱してしまいますが、現実離れしてるとも言い切れないような、ひょっとして世の中はこんな風に成り立っているのかも知れないと思わせてくれる面白さでした。

  •  若い頃、一番好きで、新刊を待ち構えて読んでいた作家、白石一文さん。
    なのに、ここ数冊は、なぜか読んでいてすごくイライラしてしまう。もう次の作品は読まない!と決めても、ずっと追っかけて読んできたから、読まないと気持ち悪くてやっぱり読んでしまう…

     どうしてイライラもやもやしてしまうのか?自分なりに考えてみたら、主人公の男性が、どうにもこうにも大嫌いなのです。冷淡で利己的。人を思いやっているような事を口走りはするけど、結局は自分のため…みたいなところが、嫌な奴だなぁ〜と。

     よく好きになれない登場人物っていますが、なぜか白石さんの作品のそれは態度が我慢ならない程なのです…

    今回も、またまたイライラもやもや、いつまでこれ続くの?という感じでした。
    読まなきゃ良かったと思いつつ、また、次回作も読んでしまうんだろうなぁと、嫌な予感がします。もしかしたら、主人公の嫌な部分って、自分自身の中の嫌な部分だったりして…と想像してゾッとしました。

  • タイムトラベル系の話だったが、これまでにないストーリー展開で、やはりややこしいところもあったが、個人的には秀逸な作品だった。

  • 悲しくて辛くてたまらない時
    自分の生きる道を選び直せたならと思うことがある。
    あの時違う道を選んでいたなら、
    あの時あんなことをしないでいたならと。
    でもね、そうそう上手くはいかないらしい。
    この物語の中では、いくら違う道を選び直したとしても
    同じだけの総量の困難がちゃんと待ち受けている。
    そりゃそうよね。
    楽しいだけの人生なんてあるわけがないし
    辛いこと悲しいことが起きない人なんて
    いるわけがない。
    何度道を選び直したとしても
    絶対に手放したくないものを大切に生きて行こうと改めて思うのでした。

  • 白石一文はデビュー作とデビュー第二作を刊行時に読んだけど、なんか純文学だったような気がする。
    今回のはパラレルワールドSFものだ。
    まあ結構面白かったが、東野圭吾だったらもっと面白く書いてたのではないか。
    こういう超常現象SFものは、シンプルなルールが一個だけのほうがいいと思う。こうこうこういうときにはこうなるが、こういうときはこうなる、みたいなのは、誰がそんなの決めたんだよってちょっと素に戻ってしまう。

  • 大学生の娘の交通事故死、妻のうつ病発症と2度の自殺未遂、人生に詰んだ男が選んだ道。41年前、中学3年時に体験した「あれ」を試すために、男は再び一枚の絵の前に立つ。

    久々に読む白石一文作品。
    ニコラ・ド・スタールの「道」にインスパイアされた作者が、何年も前から醸成してきた「人生をやり直せたら」というテーマで織り上げた作品。
    いわゆるタイムリープものだけどSFっぽくはなく、人生とは、生きるとは、といった根源的な問題を深く問いかける物語になっている。

    人生の隘路にはまり込んだ男がタイムリープによって逃げ出した先は娘が生きている世界。だけどその世界でも当たり前に問題は起こる。結局生きている限り心配や揉め事や苦労からは逃れられず、万事OKとはいかないのよね。

    そうしているうちに、前の世界に置き去りにしてきた妻や義妹のことが気になった男は元の世界に戻ろうとまたタイムリープするも、行き着いたのはまた違う世界。
    この辺りになってくると「前の世界」とか「前の前の世界」とかが交錯して何がなんやら状態で、無数に存在するパラレルワールドの異なる局面に男の意識だけが移動するという設定を理解するのに四苦八苦。

    「人生をやり直せたら?」の問いかけに、自分だったら‥‥と思いを巡らせてみたりしましたが、答えは出ません。

  • すごくリアルな設定の中に、ファンタジー要素があり、人生観とか哲学的な考察に深く考えさせられる。白石一文の本領発揮といえるようなすごい小説だった。

    パラレルワールドと言ったらいいのか。食品メーカーに勤める功一郎は、愛する娘を事故で失い、妻は精神を病み、人生に行き詰まる。が、ある絵画を通じて過去に戻り、娘を事故から救い出すことに成功し、娘が死なない世界線の自分として生き直す。

    「あの失敗がなかったら」「あの事故さえ起きなかったら」。でもやっぱり人生の幸不幸はそんな単純なものではない。うまく飛び移った先の世界でも功一郎には別の苦難が待っている。

    はじめは荒唐無稽なSFみたいに見えた話だが、この小説のすべては、最終盤で人麻呂が語る世界観にあるのではないかと思う。

    すなわち、意識的ではないにせよ、何かの手段を使って別の世界からやってきた自分に「弾き飛ばされ」、この世界を「選び取ってきた」存在が自分で、今の環境は自分自身が選んできたものだという。それが永続的に繰り返されている、それが人生の永遠性だという。

    もはや哲学的、宗教的な意味あいさえ感じられ、もしかしたらそれがほんとうの世界の成り立ちなのかも、と思わせる。

    捨ててきた元の世界には戻れないことがわかるが、なぜならそれは唯一「人生に与えられた無限の可能性を否定することだからね」。後戻りではなく、自分で選んで前に進むしかないのだ。

    はあー、深い。読み終わって、誰かと感想を語り合いたくなった。良い映画を観たときみたいに。

    ひとつ残念だったのは、義妹の碧が全く好きになれなかったこと。彼女と功一郎が、恋愛になりそうなあぶない感じは、読んでてあんまり気持ちのいいものではなかった。

  • 人生やり直しできないから いいんじゃないかな

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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