十の輪をくぐる

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093865982

作品紹介・あらすじ

2021年へ!時代を貫く親子三代の物語

スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は・・・・・・東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく。
51年前――。紡績工場で女工として働いていた万津子は、19歳で三井鉱山の職員と結婚。夫の暴力と子育ての難しさに悩んでいたが、幼い息子が起こしたある事件をきっかけに、家や近隣での居場所を失う。そんな彼女が、故郷を捨て、上京したのはなぜだったのか。
泰介は万津子の部屋で見つけた新聞記事を頼りに、母の「秘密」を探り始める。それは同時に、泰介が日頃感じている「生きづらさ」にもつながっていて――。
1964年と2020年、東京五輪の時代を生きる親子の姿を三代にわたって描いた感動作!前作『あの日の交換日記』が大好評!!いま最も注目を集める若手作家・辻堂ゆめの新境地となる圧巻の大河小説!!


【編集担当からのおすすめ情報】
今作は、半分は母・万津子が青春時代を過ごした1950年代、60年代を舞台にしています。紡績工場の女工たちの過酷な労働や、炭鉱で働く男性たち、夫から虐げられる女性の日常が、鮮やかに、ときに生々しく描かれていきます。
万津子が話す大牟田弁は、著者の大牟田出身のお祖母様が監修してくださったとのこと。さらに当時のことをたくさん取材したという当時の背景描写も相まって、20代の著者が書いたとは思えないリアルさには、どこか懐かしさすら感じられるほどです。

景色も価値観も、めまぐるしい速度で変化していく東京。女性の社会進出や、LGBTQ、人種問題など、個性の在り方、捉え方は、日々アップデートされていきます。この作品は、時代とともに変化する生き方の指針にもなる傑作だと思っています。(このあたりはネタバレになってしまうので、ぜひ、読んでお確かめください!)
2020年の東京オリンピックは幻の中に消えてしまいました。明るい未来を2021年に託し、この作品を送り出したいと思います。
辻堂さんがひときわ力を入れて書かれた今作が、さらに次の世代へと読み継がれる作品になりますように。祈りを込めて編集しました。ぜひ、お手にお取りください

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、二つの『東京オリンピック』を知っているでしょうか?

    2020年に開催された『東京オリンピック』。ご承知の通り、実際にはコロナ禍で一年遅れの開催となりました。世界には、そしてこの国の中にも数多の都市がありながら、同じ都市でオリンピックが再び開催されるというのはなんだかとても贅沢にも感じます。しかし、三度開催されたロンドンやロサンゼルス、そしてパリなど同じ都市で複数開催されることはそこまで珍しいことでもないようです。とは言え、それらの開催年が近ければ人生の中に複数回、そんな華やいだ雰囲気を身近に味わう機会が訪れることになるのは事実だと思います。

    『東京オリンピック』が前回開催されたのは1964年、それは二回目のオリンピックからは実に56年も前のことです。前回20歳でその日を迎えた人は、今や76歳、同じ『東京オリンピック』といっても、その人がそこに見るものは、そこに感じるものは、全く異なるとも言えるでしょう。そして、そんな二回目のオリンピックには、比較対象がある分、一回目のオリンピックを特別に見やる感情が生じてもおかしくはありません。

    さて、ここに親子の姿を三代にわたって描いた物語があります。『認知症』を患う中に、ある日『私は…東洋の魔女』と呟いた母親の若き日の姿が描かれるこの作品。そんな母親がかつて子育てに勤しんだ子供が、今や『役職を下ろされた定年間近の平社員』となり、会社での冴えない日々の中、妻や娘に当たり散らす日々を送る様を見るこの作品。そしてそれは、そんな親子三代の家族の中に二つのオリンピックをまたいでバレーボールで繋がれた一つの絆の存在を見る物語です。

    『小さくなった母の背中を眺めながら』『心は気まぐれだ。いたずらに、人間の身体を出たり入ったりする』と思うのは主人公の佐藤泰介(さとう たいすけ)。『今年の五月にくも膜下出血で倒れ』『一命はとりとめ』たものの、『認知症の症状が出ていることが発覚』した母親・万津子(まつこ)。『アルツハイマー型と違って症状がまだらに出る』ため、『意識がはっきり』したり、ぼんやりしたりと『大きく状態が変化する』という症状に戸惑う泰介は、『調子が悪いときのお袋はお袋じゃないんだよ』と言い放ちます。そんな泰介に『ひどいこと言わ ー 』と言いかけた妻の由佳子を制して、『俺が食べさせてやるよ』と、『由佳子が毎食特別にこしらえている』食事をテレビの前のソファに座る万津子の元へと持っていきます。『ほら、食べるぞ。一人でできるよな』と言う泰介に手を押し返す万津子『の目はテレビの画面から離れ』ません。そんな画面には『各競技の日本代表選手が次々と登場する、最近ありがちなCM』が流れていました。『「魔女…」不意に、万津子が口を開』きます。『私は…東洋の魔女』、『金メダルポイント…』、『泰介には、秘密』と次々に言葉を話す万津子に、『急にどうしたんだよ。「東洋の魔女」って、女子バレーボールの?』と訊き返すも万津子は『それ以上喋ろうとし』ませんでした。『「東洋の魔女」って、あれよね。前回の東京オリンピックのときの』と言う由佳子に、『昔の東京オリンピックと勘違いしてるのか』と返す泰介は、『一九四〇年生まれの万津子にとって、東京オリンピックといえば五十五年前の大会を指すのかもしれない』と考えます。『「私は東洋の魔女」って、どういう意味かしら』と訊く由佳子は、『お義母さんが実はあのチームの一員だった、って話だったりして』と『悪戯っぽく笑』います。『母から昔の話を聞いた記憶がほとんどなかった』という泰介は、幼い頃から万津子にバレーボールの指導を受けて育ちました。そして、『大学のバレーボール部で出会い、結婚した』という泰介と由佳子。そんな二人の娘・萌子は『夏のインターハイでは、二年生エースとしてチームをベスト4に導』く活躍を見せています。そんなバレーボールを共通の繋がりとする親子三代に渡る物語が二つの『東京オリンピック』の時代に交互に場面を切り替えながら描かれていきます。

    “1964年と2020年、東京五輪の時代を生きる親子の姿を三代にわたって描いた感動作!”と内容紹介にうたわれるこの作品。我が国で開催された二つの夏季オリンピックを絶妙に繋ぎ合わせる中に物語は描かれていきます。とは言え、この作品が刊行されたのは2020年12月のことです。改めて書くまでもなく、まさかのコロナ禍により一年延期された二度目の『東京オリンピック』は2021年8月の開催であり、この作品自体にもこの2021年開催のオリンピックそのものが描かれているわけではありません。一方で、1964年のオリンピックはこの国の歴史に燦然と輝くものであり、この作品でも巻頭に”1964年10月23日 NHK実況アナウンサー 鈴木文彌”という名を記した上で、鈴木アナが実際にレポートした言葉が記されています。”六回目のマッチポイント。サーバーは宮本。今夜二つのサービスエイス…”から始まるのは、『東洋の魔女』と呼ばれた日本女子バレーボールチームが大活躍した決勝の場面です。”日本女子バレーボール、初めて金メダルを獲得しました。泣いています。美しい涙です”というその実況。物語はそんな巻頭文が示す通り、バレーボールに光が当てられていきます。万津子、由佳子&泰介、そして萌子とバレーボールに青春をかけた親子三代の物語、そんな物語は1964年と2020年の『東京オリンピック』の二つの時代を万津子と泰介にそれぞれ視点を切り替えながら描いていきます。年月が章題となった全13章の物語の全容をまずは記しておきたいと思います。

    ・〈2019年10月〉: 泰介視点
    ・〈1958年9月〉: 万津子視点
    ・〈2019年11月〉: 泰介視点
    ・〈1959年8月〉: 万津子視点
    ・〈2019年11月〉: 泰介視点
    ・〈1963年11月〉: 万津子視点
    ・〈2019年12月〉: 泰介視点
    ・〈1964年4月〉: 万津子視点
    ・〈2019年12月〉: 泰介視点
    ・〈1964年8月〉: 万津子視点
    ・〈2019年12月〉: 泰介視点
    ・〈1964年10月〉: 万津子視点
    ・〈2020年1月〉: 泰介視点

    1964年の物語が6年間にわたって描かれるのに対して、2020年の物語はわずか3ヶ月しか時間は経過しません。簡単に二つの時代のイメージを記しておきたいと思います。

    ・1964年の物語: 愛知県一宮市にある『一色紡績』へと集団就職した宮崎万津子は女工として『月二千円の給料』を、『仕送りに千円、自分の生活費に千円。生活費が余ったら、きちんと貯金する』という日々を送ります。そんな中で『不健康な労働環境改善のため』に取り入れられたバレーボールに夢中になる万津子。『平日の十六時から十八時まで』という練習の日々を送る中で『アタッカーとして活躍』する万津子に、見合いの話が舞い込み、会社を辞め、三井鉱山の職員と結婚、泰介が誕生します。しかし、子育てに苦悩する万津子は…。

    ・2020年の物語: 『くも膜下出血で倒』れたことをきっかけに『認知症の症状』に苦しむ母親・万津子と同居する泰介、由佳子。オリンピックのCMを見て『私は…東洋の魔女』と言葉を発す母親を見るも泰介は、母親の過去について何も知らない現実を改めて感じます。そんな泰介は役職定年した先に冴えない平社員としての日々を送っています。鬱屈した思いを由佳子に当たり散らす日々。そんな二人にはバレーボールでインターハイにも出場する高校生の娘・萌子がいます。自らの仕事、母親の介護、そして萌子の進路に気を揉む泰介は…。

    二つの時代の物語の前提は上記の通りです。1964年の物語の主人子・万津子、2020年の物語の主人公・泰介、そんな二人は親子であるという設定のもとに描かれていくこの作品。そんな作品の魅力を三つ取り上げたいと思います。まず一つ目は1964年という時代を表す表現です。

    ・『今年の頭から放送が始まった鉄腕アトムは、子どもたちの間で大人気となっていた』。
    → 『毎週火曜日の午後六時十五分になると、それまで表から聞こえていた賑やかな声がふつりと途絶える』、『大好きなテレビマンガに熱中するのだった』。

    ・『昨秋から放送が開始された子ども向け番組「ロンパールーム」には、本当に頭が下がる』。
    → 『月曜から土曜まで毎日放映しているから、昼食の支度は比較的楽に進めることができるのだった』。

    『鉄腕アトム』は名前は知らない人は流石にいないと思いますが、『ロンパールーム』はどうでしょうか?他にも『おかあさんといっしょ』などテレビ黎明期の人気番組の他、『国立競技場で行われる開会式の中継を、この一帯にたった一台しかないカラーテレビで見せてもらう』というそもそものテレビの進化を描く記述、そして『東京と大阪を結ぶ東海道新幹線は、十月初旬頃までに開通する予定』など、時代をさまざまな方向から感じられる記述があちこちに顔を出します。そんな時代をリアルにご存じの方は少ないかもしれませんが、歴史の一コマを見るような面白さを感じさせてくれます。

    次に二つ目は、バレーボールというスポーツが描かれるところです。なんといっても親子三代、全員がバレーボールの選手という佐藤一家。そんな物語には当然にバレーボールの試合の場面が登場します。

    『高く跳びあがった萌子が大きく背を反らし、美しいフォームでボールを叩く』という勝負の場面。
    → 『ネット際で、青いユニフォームの選手たちが必死に手を伸ばす。わずかな隙間をボールがするりと抜けていき、白いライン上でバウンドする』
    → そんな場面を見て『萌子は、つかんできている』と『瞬時に直感する』泰介

    スポーツを描いた小説はたくさんありますが、バレーボールを取り上げた作品は珍しいのではないでしょうか。もちろんこの作品は、スポーツがメインの物語ではありませんが、あの『東洋の魔女』の活躍までもを描くこの作品におけるバレーボールの存在。間違いなく読みどころの一つだと思いました。

    そして、最後は、万津子と泰介の過去に隠された秘密が解き明かされていく物語の構成です。この作品は過去の一場面とその過去に続く現代をパラレルに描く物語です。当然に過去の出来事の結果としての現代があります。1964年の物語で誕生した泰介も2020年の物語では、役職定年を迎えた50代後半、妻がいて、高校生の娘がいるという存在です。そんな現代の泰介は読んでいて読者のイライラが止まらないほどにあまりに身勝手、傍若無人な態度を取り続けていきます。私も流石に途中で読書を投げ出したくなるほどに辟易しました。ブクログのレビューを見ていてもそのように感じられている方も多いようです。しかし、そんな理由が後半になって明らかにされていきます。そしてそれは、連動して1964年の物語の印象にも影響を及ぼしていきます。二つの時代の物語を見事に連動させていく辻堂さんの手腕。そんな辻堂さんは、二つの時代を描く中に非常に大胆な構成を盛り込まれています。それこそが、2020年の物語で過去に起こった事象を先に提示して、その次の章で1964年の物語としてその事象をじっくりと描くという、他の作品ではあまり見たことのないような描く順序の逆転を取り入れているところです。ネタバレになるため具体的なことを隠して触れたいと思います。

    ①〈2019年12月〉の章
    → 『東京オリンピックの前。昭和三十九年八月二十九日』の新聞記事に、ある事象の記述を見つける泰介
    ※ これにより、読者は1964年の物語の中で何があったのかを知ることになる

    ② 〈1964年8月〉の章
    → 『小学生の夏休みもあと少しだ』という『八月二十九日』、『遠く離れた東京では、まさに今、再来月に迫ったオリンピックの準備が着々と進んでいる』という日のお昼、『万津子さん!万津子さん!』と『切羽詰まった声』で呼ばれた万津子
    ※ これにより、読者は〈2019年12月〉の物語でそこに何が起こったかを予め知った上で万津子を襲う事象の詳細を追っていくことになる

    イメージがわくでしょうか?〈1964年8月〉の事象は物語を大きく突き動かすものです。普通であれば、それを描いて、その結果の現代がある、つまり② → ①の順番で描かれるのが自然だと思います。それを辻堂さんはこのように倒置します。しかし、読まれた方は感じられると思いますが、この順番を変える構成によって、読者が受けるトータルでの衝撃度は間違いなく大きくなります。同じような倒置は複数見られますが、なかなかによく考えられた構成だと思いました。

    そんな物語は、結末のクライマックスへ向けて大きく動き出していきます。中盤くらいまでは、上記した泰介というキャラクターに読者も辟易させられるある意味で我慢の読書を強いられます。仕事にもやる気を見せず、妻の由佳子に当たり散らし、そして母親の万津子に対して極めて冷酷な姿勢を続ける泰介。見ていて痛々しいほどのそのキャラクターは1964年の物語によってその未来が暗示されることで読者に妙な納得感を生んでもいきます。1964年の物語と2020年の物語の連続性が故のその感覚。しかし、辻堂さんはそれを完全に逆手に取ります。片方の時代の事ごとがもう片方の時代の事ごとに影響を与えるのであれば、片方の時代であることを解決すればもう片方の時代も同時に解決してしまうという見事な連動性の中に納得感のある結末へと読者を導く辻堂さん。そんな辻堂さんは代表作でもある「あの日の交換日記」でも見せてくれた感動的なまでの結末へ向けた展開に定評のある方です。そう、この作品に読者が見る結末。それは、中盤までのイライラ感がなんだったのだろうと思えるような感動的な結末です。もちろん、ネタバレになるためにここにその内容を書くことはできません。代わりにこんな風に書いておきたいと思います。この作品の表紙を見てください。どこか田舎の地に立つ二人の人物、先を急ごうとする子供の手を取り後からついていく母親というそのイラスト。この作品を読む前、なんの意識もすることのなかったそんな表紙が、読後、涙なくしては見れなくなってしまう、この作品はそんな親子の愛情をそこに見る物語、感動的な結末に涙する二つの時代が繋がるからこその物語がここには描かれていました。

    『東洋の魔女』が活躍した1964年の東京オリンピックの時代を生き抜き、それから56年の年月が経った2020年の『東京オリンピック』開催へ向けて世の中が動き出した中に『認知症』となり、『私は…東洋の魔女』と呟いた万津子とその息子・泰介が交互に視点の主を務めるこの作品。そこには、1964年の『東京オリンピック』で正式種目となったバレーボールが繋ぐ二つの時代の物語がパラレルに描かれていました。時代を表す見事な情景描写にも魅せられるこの作品。辻堂さんならではの大胆な物語構成が読者の感情を巧みにコントロールしてもいくこの作品。

    「十の輪をくぐる」という絶妙な書名と、作品世界を見事に表す表紙など、隅々までとてもよく練りあげられた素晴らしい作品だと思いました。

  • 私は東京五輪は大反対で、反対の署名までしました。
    でも、この物語を読むと、オリンピックが開催されることにより、こんなにも生きる気持ちを明るく持てるようになる人も存在するのだと思いました。
    今回の東京五輪・パラリンピックも開催まであと3週間をきりました。ここまできたら、とにかく本当に安心・安全にどこの国の選手も国民も楽しめるよい大会になりますようにと願うのみです。


    以下、最後まで全部ネタバレで書いていますので、これから読まれる方はお気をつけください。


    物語はオリンピックを9カ月後に控えた2019年10月から始まります。
    佐藤泰介は1964年の東京オリンピックの時、3歳でした。1940年生まれの母の万津子は当時24歳。
    今はくも膜下出血による認知症を患っています。
    大学のバレーボール部で出会った妻の由佳子。
    高校二年でやはりバレー部の娘の萌子がいます。

    そして物語は1958年9月の万津子が結婚前一色紡績という会社で女工をしながらバレーボールをやっていたパートと交互に進みます。
    万津子は19歳で見初められ見合い結婚をします。
    ところが夫となった佐藤満は酒乱で暴力をふるう男性でした。
    泰介と弟の徹平が生まれますが夫は息子たちにも手を挙げる毎日。しかし満は三井鉱山の爆発事故で1963年に亡くなります。
    万津子は実家に帰りますが、泰介が情緒不安定で毎日、暴れて実家の家族に嫌われます。満に似たのだろうかと万津子は悩みます。
    そして泰介は川に溺れてしまい、一緒に溺れた少年が亡くなり、万津子は実家にもいられなくなり、東京へ飛び出していき、東京で泰介にバレーボールを教え始めます。

    2020年。泰介は気が荒くスポーツ用品会社で仕事は降格され、うまくいっていませんが萌子に「お父さんはADHD(発達障害)じゃない?」と受診を勧められます。
    果たして受診すると萌子の言った通り泰介は発達障害だったのです。
    泰介は素直に病気に対応する術をみつけていき、運も手伝って昇進することができます。

    萌子の高校は春高バレーで決勝に進みます。
    そして、エースの萌子の活躍により見事優勝。
    万津子は病院で萌子の試合を観戦後、泰介に「もうバレーはやらなくていい」と言い残し息をひきとります。
    萌子は高校卒業後、実業団に入りオリンピックへの道を目指します。

    • mei2catさん
      読んでみたくなりました。
      読んでみたくなりました。
      2021/07/04
    • まことさん
      mei2catさん。
      コメントありがとうございます!
      是非是非読まれてみてください。
      五輪開催に合わせて読まれるとよいかと思います。
      mei2catさん。
      コメントありがとうございます!
      是非是非読まれてみてください。
      五輪開催に合わせて読まれるとよいかと思います。
      2021/07/05
  • 前半、あまりにも読むのが辛くて何度も読むのをやめようかと思ってしまいました。
    80歳の母ともうすぐ定年になる息子が一章ごとに交互に語り手になるのですが、どちらもあまりにも辛くて辛くて‥‥。
    母が若き日に見た東京オリンピックと、今回の東京オリンピック。母、息子、そしてその娘、3代にわたってバレーボールでのオリンピック出場を夢見る。そのくらいの前情報で読んだこの作品。
    母はなぜそんなにバレーボールにこだわるのか?その謎が分かってからはもう心が震えてページを捲る手を止められませんでした。
    「この世の中には、普通の人もいないし、異常な人もいない。どんな脳の特性も、人間社会にとって必要なものだからこそ、今の今までDNAが残ってるんだよ。」
    これ以上は書けません。ぜひともネタバレなしに読んでもらいたいので。
    娘がとても聡明な女の子。なんていい子なんだろう。

    • aoihitoさん
      こっとんさんのレビューに大共感です!この父親、、、と最初はストレスを感じながら読んでましたけど、エンディングに向かうに連れてどんどん引き込ま...
      こっとんさんのレビューに大共感です!この父親、、、と最初はストレスを感じながら読んでましたけど、エンディングに向かうに連れてどんどん引き込まれていきました。娘さん本当に良かったですね(^^)
      2021/05/22
    • こっとんさん
      aoihitoさん、コメントありがとうございます。
      そうなんです!前半と後半の感じさせ方の差!辻堂ゆめさんってすごいなぁと思いました。後半ま...
      aoihitoさん、コメントありがとうございます。
      そうなんです!前半と後半の感じさせ方の差!辻堂ゆめさんってすごいなぁと思いました。後半まで読んで良かった!
      娘さんみたいな人がいっぱいいると優しい世の中になるのかなぁ、なんて思いました。
      2021/05/22
  • 読友さんの推薦本、一気読み。辻堂ゆめ作品の人間ドラマを堪能した。昭和と令和の東京オリンピック・バレーボールを中心に物語が進む。昭和の主人公・万津子、発達障害の息子・泰介を懸命に育てるが、泰介の重大な過去を秘める。令和の主人公・泰介は発達障害であるが、妻と娘とともに万津子の認知症の看病を行う。万津子の苦労、泰介の苦労、異なる時代、残念ながらお互い相容れな部分だが、ラストはお互い「感謝」を共有できたんだろうと思う。感情移入できない壮絶な過去だったが、発達障害の理解、患者・家族への理解 の大切さを再認識した。⑤

  • 万津子の人生がなかなか壮絶で、読み進めるのが苦しくなる場面も多々あった。
    この時代の人にとっては「普通」のことだったの?
    だとしたら、辛すぎる…。
    でも、バレーボールとの出会いがあって、それが助けになったところは良かった。
    それと、必死で育てた息子泰介の妻由佳子と孫の萌子がとにかくいい人というところは救い。
    自分の親とも話が出来るうちに、昔のことを色々聞いておきたくなった。

  • 涙が込み上げた一冊。

    1964年と2020年、東京五輪を絡ませ認知症の母、介護する息子、家族の想いを紡ぐ物語。

    過去と現在を交互に描きながら明らかになる母の辿った道、秘密に涙が込み上げた。

    この時代の女性の決められたかのような人生、理解してもらえない苦しみ、誰も味方はいない孤独さを思うほどまた涙。

    魔法の言葉を胸にボールに込められた母の想い。

    個性はバネに、マイナスには何かをプラスしていく大切さ。
    母の愛情もその一つ。

    どれだけ息子の心にプラスされ未来へと結実したか…。

    長い愛のリレーを想像し最後は大きな涙が込み上げた。

  • 認知症になり言動が曖昧となって、初めて気になり出した母の過去。
    昭和から令和へ、再び巡ってきた東京オリンピックを前に、母が頑なに隠し通した過去の記憶を紐解く物語。

    昭和の時代の、女性の生きづらさに気が滅入ってくる。これでもかこれでもか、と追い詰められるような仕打ちに目を塞ぎたくなる。
    そんな世間からの冷たく厳しい目から、ただひたすらに我が子を守ろうとする母。
    この時代の、地方に住む子持ち女性はきっと似たような閉塞感に苛まれじっと耐え忍んで来たのだろう。周囲の男たちに自己主張することなど許されず、何も知らない子供時代に思いを馳せながら、目の前の現実をなんとかやり過ごす女性たちを見るとこちらまで辛くなってくる。

    「子どもには、物心つく前の出来事を忘れ去る権利がある」
    「人には、得意不得意が必ずあるから、打ち消し合ってゼロくらいになっていれば、それでいい」
    周囲の誰もが悪く言おうと、ただ一人、我が子の行く末だけを願う母の強さに、ただただ頭が下がるばかり。
    2つ目の五輪をくぐってようやく生まれた母の穏やかな笑み。最後に救われた。

  •  自分が病気だと診断されたらどうだろう。それがADHDだと突きつけられたとしたら、それを受け入れることができるだろうか。

     泰介は認知症の母、万津子が漏らした「私は東洋の魔女」「泰介には、秘密」という言葉の謎を知るために、母親の過去を探そうとする。

     物語は東京オリンピックを間近に控えた現在(泰介の章)と、1960年代の万津子の章とで交互に語られていく。

     途中まではただただしんどかった。良い縁談と喜んだ結婚相手は暴力夫で、夫が亡くなって実家に帰ってからはヤンチャすぎる泰介に近所だけでなく、家族からも疎まれる日々を過ごす万津子。ちなみに泰介は現在になってもダメ人間。そんな泰介が起こした事件をきっかけに周りからはより白い目を向けられることになる。
     
     東京オリンピックでバレーに胸を打たれた万津子は、幼子2人を抱えて単身上京する。

     全体を通して読むのが辛い物語だったが、娘の萌子がバレーで活躍する姿は純粋に胸が熱くなったし、万津子がずっと抱えていた秘密がわかった瞬間は万津子を思って心が震えた。

  • 帯には「ニつの五輪を貫く、三世代の大河小説」とある
    1964年の東京オリンピックと2020開かれるはずだった東京オリンピック、それで「十の輪をくぐる」なのかとタイトルに納得したが、母万津子の人生があまりに辛く、悲しずぎ強烈だったので、佐藤万津子さんの伝記?半生記のように思った

    集団就職で行き着いた名古屋の紡績工場、辛い中にも将来の夢を語り合う同世代の友達がいたこの頃が万津子にとっては、一番輝いていた時だったのかもしれない

    夢に描いた幸せな結婚生活と現実はあまりにかけ離れ、日々の夫の暴力に怯える日々、そして、図らずも夫の事故死で暴力からは逃れられるが、戻った実家での無理解な家族のもとでの辛い日々

    その中でも、たとえ他人に何と言われようとも防波堤となり、我が子の可能性を信じ、守り抜く強い母としての万津子の愛に心打たれた

    苦労するためだけに生まれてきたかのようなこの人の人生は一体何だったのだろうかと、胸が苦しくなった

    しかし、そうではなかった。こんな辛い万津子さんの人生にも夢が残っていた!
    この現実に甘んじていてはいけないと奮起するきっかけを与えてくれた『東洋の魔女 日本女子バレーボール』

    万津子と泰介を救う唯一の道、バレーボール
    その夢は途切れることなく、しっかりと孫萌子に引き継がれることになる

    年老いて認知症を患う万津子の様子や息子泰介の心ない言動に心が傷んだが、嫁由佳子と孫萌子の思いやりのある言動に救われた

    また、この本は発達障害.特にADHDに対する理解を深めるためにも大きな役割を果たしたのではないかと思う
    研究が進み世の中に広く認知され出したのは1990年以降だという

    私も子供のADHDについては、ある程度知識があったが大人のADHDについては、初めて知った

    娘萌子の勧めで、心療内科を受診する泰介の様子やその後の経過など、かなりページを割いて書かれているので、大変参考になった
    本のように一朝一夕にうまくはいかないだろうが、こういう障害は、より多くの人の理解を得ることが、何より大切だから、その一助を担っていると思った

  • 定年前に異動した部署でも家庭内でもトラブル続きな癇癪持ちの泰介。ある日の認知症の母の「私は…東洋の魔女」という謎の発言の真相を解き明かそうとする過程で自分自身を見つめ直していく。現代の泰介パートと交互に語られる母、万津子の過去の壮絶さが重く読み応えがある。夢見た通りの結婚からどんどん不幸な道に進む姿が辛かった。それでも前を見つめる万津子の強さや一人背負い続けた苦しみが最後に開放される流れ、万智子から泰介の娘、萌子までをバレーボールで繋げる設定の巧みさ、萌子の指摘をきっかけに泰介の特性が明らかになり自分が変わる事で周りも変わる展開と骨組みも綺麗でとても心に響く話なのにどうもいまいち乗り切れなかったのは何故だ。前半の癇癪をすぐ爆発させる泰介がクズ過ぎて想像ついた特性が原因とはいえ後半救われ方が安易だと思ってしまったせいか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻堂ゆめの作品

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