- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093864442
作品紹介・あらすじ
孤独を見つめる作家が描いた最高傑作!
少年の頃に足を怪我し、そして母親の手で育てられたわたしは、母親に気兼ねし内向的な性格になっていた。大学で学んだ中世哲学を専攻し、大学で教鞭をとっていた。わたしは、若い頃に二つの大きな“喪失”を経験していた。 親しかった友人の謎の死。そして、恩師とも言える神父の失踪。
ある日、わたしの前に現れたのが、女子大生・真琴だった。心ざわめくわたしは、真琴に勧められるままに、神社を巡る旅に二人で行くことになる。
静かに暮らすわたしに大きな転機が訪れる。
【編集担当からのおすすめ情報】
脚本家・映画監督の荒井晴彦さん推薦コメントを寄せてくださいました。
構想6年。煌めく言葉で紡ぎ出された、著者の最高傑作です。
感想・レビュー・書評
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子どものころの怪我、信頼していた神父の出奔、親友の自死。これだけそろえば、そりゃ内省的に生きるようにもなるだろう。ひっそりと人との深い付き合いもせず静かに静かに生きる人生。
けれど、一人の美しい教え子との出会いが彼の人生を動かし始める。
淡々と進む。大きな事件もドラマもない。淡々と、淡々と。その淡々とした中で人の人生、というか生きていく日々、というか、そういうものの断片が少しずつつながっていく。だれもが多かれ少なかれ抱えて生きている孤独。孤独を自覚し受け入れた時、人は初めて誰かとつながれるのかもしれない。
「八雲立つ 八雲八重垣 妻籠みに、八重垣作る その八重垣を」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
独り身のまま初老を迎えた大学教員の男が、自分を慕ってくる若く美しい女子学生への恋慕を抑えられなくなる我が身に戸惑う。
そして、小説の舞台は、男の少年時代、青年時代の回想を巡り、男の、また作者の故郷でもある石見地方へと移っていく。
年甲斐もない男の恋心の機微が描かれることを期待して読み始めたのだが、宗教的で生と死の神々しさを感じさせるテイストであった。
どこか夏目漱石の小説(『こころ』とか『それから』とか)を彷彿とさせるところもある。
終盤明かされる衝撃の事実は、いくらなんでもご都合主義的で、やや興醒め。 -
良くは分からなかった
淡々と -
ただの教え子との恋愛とかではない。
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新聞の書評を読んで、図書館にリクエスト出していた本。
毎度のことだけど、ようやく手元にきた時は、なぜリクエストしたか忘れている。
(これ、結構モヤモヤして気持ち悪い。)
最後まで感情移入できないまま…結局流してしまいました。
過去の話なのか、現在なのか、わからない部分があり。
(どの箇所か忘れたけど、私の読解力のせいかな…)
何というか、きれいごと過ぎて、読むのが嫌になった、というのが正直な感想。 -
ひたすら淡々と進む。
淡々としているようで、主人公の心にはちょっとした変化が生じている。
…けど、そのちょっとした変化が起きたから何なんだ、とこういった話を読むたび思う。
松山周辺の雰囲気は良さそうだった。 -
様々な過去の出来事を抱えながら今は研究者・教育者として静謐に暮らす男の前に現れた魅惑的な女子学生。てっきりファムファタールの話型に沿った物語かと思ったが、それにしては、彼の過去の話ばかりが出てくる。結び近くで、ようやくそれらしい話になってきたが、そのさなかに驚くべき事実が明かされる。結論を言えば、人間賛歌というか、生きることへの強い肯定を記した一冊であった。
書評が気になって読んでみた。思っていたのとは少々違ったが、これはこれで面白かった。女子学生の「真琴」が魅力的に描かれているが、いまどきこんな話し方をする女子学生はいないだろう。一種の理想形としては理解できるが。
それと、出雲の国の風景の描き方が美しく、まだ行ったことがないこともあり、一度訪れてみたいと強く思った。 -
【Entertainment】妻籠め/佐藤洋二郎/20161129/(155/581) <189/63055>
◆きっかけ
・日経書評ランキング
◆感想
・佐藤洋二郎ワールド顕在、物語の中に、彼の「人生は重き荷を背負いて遠き道を行くが如し」的なそれでいて、希望を持たせる言葉がちりばめられていて、読んでて、人生を悲観もしないが、さほど楽観せず、まあ頑張っていこうやと思えるところがいい。ちょっと、説教が過ぎている部分もあるが。。。中年の大学教授を中心に、その女子大生との心の葛藤、機微を描写しており、物語としてはとても面白い。
◆引用
・人生は言葉を探す旅。懸命に生きないと、その言葉も掴めない。自分の掴んだ言葉によって、私たちは生きていく。
・たった一人の友、たった一人の女性、たった一冊の書物と思い出、それを得るだけでも、私たちは懸命に生きなければならない。
・人生というのは、本当は、だんだんと諦めていく修行のことじゃないのか。
・何よりも分からないのは自分の心だ。信じたとしても変容する。信じたくなくても信じようとする。心の中の真になるものは一つもないのではないか。
・人間も草花と同じで華やかなものに集まる。彼女にはその明るさがあった。
・刺激は刺激でなくなり、異質なこともいつか同質になる。それらのことを受け入れ、少しずつ消化していくのも、私たちの人生ではないか。
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妻籠め 佐藤洋二郎著 喪失抱える男と女学生の旅
2016/8/21付日本経済新聞 朝刊
主人公の「わたし」は大学で教鞭(きょうべん)をとる初老の男。専門の中世哲学を教えながら、独り身をつつましく養っている。そんな主人公の前に、一人の女子学生、真琴が現れた。大学の片隅で涙を流していたところを声をかけたのをきっかけに、やがて親しく言葉を交わすようになる。
「この歳(とし)になって、こんなに処置できない想(おも)いがあるなんてどうかしている」。急速に引かれていく主人公の心を知ってか知らずか、真琴は思いがけない提案をする。「わたし」の故郷である出雲地方の神社めぐりに一緒に行こうというのである。
二人の旅路のてんまつをたどる物語に、「わたし」の回想が織り込まれる。「わたし」は青春時代に2つの大きな喪失を体験していた。恩師だった神父が女性と失踪した事件。そして文学を志していた親友の自殺。いずれも主人公の心に解き難い謎としてわだかまり続けている。
過去にとらわれながら、それでも未来に手を伸ばさずにはいられない人間の姿を、著者は繊細に描きだしていく。結末で大きな秘密が明かされたとき、窓からさっと光が差しこんだような気分になった。主人公が口にする「人間は生きている間が人間」という言葉が印象に残る。人が生きることの苦さと甘さを深々と実感させる長編小説だ。(小学館・1600円)
===unqte===