- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093798761
作品紹介・あらすじ
戦後日本人はなぜこの男の存在を忘れたのか
「圧倒的な事実で迫る昭和秘史」――古川隆久・日本大学教授推薦
昭和13年1月15日、首相官邸において「大本営政府連絡会議」が開かれた。蒋介石率いる中華民国との和平交渉を継続するのか、それとも打ち切って戦争に突き進むのか、日本側の最終決断がいよいよ決せられようとしていた。近衛首相、廣田外相、米内海相らが居並ぶこの会議で、たった一人「戦線不拡大」を訴えたのが、参謀次長・多田駿だった。
「声涙(せいるい)共に下る」――多田は、日中間で戦争をすることが両国民にとっていかに不幸なことであるかを唱え、涙ながらに日中和平を主張したという。しかし、その意見が受け入れられることはなく、以後日本は泥沼の日中戦争に嵌っていくことになる。
陸軍屈指の「中国通」として知られ、日中和平の道を模索し続けた多田駿。だが、これまで評伝は1冊もなく、昭和史の専門家以外にはその名を知る人はほとんどいない。
「多田駿とは何者か?」著者はその疑問を解くために、厖大な数の文献を読み漁り、遺族を訪ねて未発表史料を発掘しながら、その足跡を丹念にたどっていく。
戦後日本人が忘れていた一人の“良識派”軍人の素顔がいま初めて明らかになる。
【編集担当からのおすすめ情報】
編集担当者は、恥ずかしながらこの作品に出合うまで「多田駿」という人物を全く知りませんでした。一時は、東條英機と並び陸軍大臣の最終候補にまで挙げられていたにもかかわらず……。しかし、本作品を通じて、この人間味あふれる“良識派”軍人の存在を知った今となっては、一人でも多くの日本人にその思想と言動を知っていただきたいと思っています。本書は、単なる過去の回想録や昭和史の論考というにとどまらず、現在の日中関係や日本人の世界観にも多くの示唆を与えるものと確信しています。ぜひご一読ください。
感想・レビュー・書評
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1937年の盧溝橋事件後も戦争の不拡大を主張した中国通で知られた陸軍中将・多田駿参謀次長の名前を覚えている人はそう多くない。結局,不拡大の方針は採られず,近衛文麿は「国民政府を対手とせず」の声明をだしてしまったからだ。また東條英機とも対立し,太平洋戦争前には予備役に編入されたことも関係するのかもしれない。盟友の石原莞爾は有名だが,それとの関係で言及されることもほとんどないように思う。
実はこの多田駿のご子息である多田顕先生は,千葉大学から大東文化大学に移って,また日本経済思想史研究会でもご一緒させていただいたこともあり,よく存じ上げていた(1996年に逝去)。ご自身のお話はほとんどされたことはなかったように記憶しているので,お父上がこのように立派な軍人さんだったとはまったく知らなかった。
本書は多田駿の事績に留まらず,それを支えた思想にまで踏み込んだ本格的評伝である。 -
よく調査されており、戦時中の歴史に残る傑物を発掘されたことは大変なお仕事をされたと敬意を表したいと思います。
ただ如何せん表現や構成に稚拙な点もあり、ノンフィクションの読み物としては今一つと感じました。ただ対象を見つめる視点は鋭いものがあると思いますので、ぜひ次回作に期待しております。 -
戦前・戦中の海軍=善玉、陸軍=悪玉の印象公式が揺らぎます。と云うのも著者があとがきでも綴って居た通り。
こんなにマトモな人が中央に居乍ら、日中関係硬化・悪化の後の太平洋戦争だったのなら、それこそ何かの見えざる手だとか、時代の気風の魔力としか言いようが無い。
禅僧の様な佇まいに日本古来からの武将の様な仁・義・情に満ちた人柄。袴姿での証言台の映像がアーカイブで見られるとの事、早速探してみようと思います。
…と云う感想も、この著者の調査能力と筆力あってこそ。お若いのに、そして会社勤めの仕事と両立してノンフィクション作家であるという所が凄い。ノンフィクション作品の中には、まるで熱に浮かされたように自分の憶測から筋道を辿り(作り?)こじ付けて終わり、なんてのもザラですが、そう云う胡散臭さが全く感じられない。悪く言えばクールすぎる(笑)これが一冊目との事、今後の活躍が期待されます。