月にハミング (児童単行本)

  • 小学館
4.14
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本棚登録 : 191
感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092906082

作品紹介・あらすじ

海から上がってきた少女の不思議な物語

本作品は、第一次世界大戦中、豪華客船ルシタニア号が撃沈されたという史実の話をベースに創作されたフィクションです。

シリー諸島の無人島で奇跡的に発見された少女ルーシー。彼女は、ひと言も話すことができなかった。献身的な家族に支えられて、少しずつ回復していくのだが、ルーシーがどこから来たのか、どうやって来たのか、何もわからない。そんな中、「ルーシーは、ドイツ人に違いない」という噂が流れる。ドイツと戦争をしているさなかのイギリスにおいて、それは、大変なことだった。それまでは、やさしく見守っていた近所の人たちが、うって変わって、ルーシーとその家族を攻撃してきたのだ。ルーシーはおびえ、家族は、孤立していく。どうしても、ルーシーの隠された真実を解明したいと願うのだが……。

戦争という悲劇を描くと同時に、記憶を失った少女の再生の物語でもあります。それぞれの人生が、絡み合って一本の糸になっていく物語は、まさにストーリーテラーの巨匠としてのモーパーゴの真骨頂です。
2014年コスタ賞児童書部門のショートリストに入っています。

【編集担当からのおすすめ情報】
「マイケル・モーパーゴほどの児童文学作家はいない!」とイギリスで評されているモーパーゴは、スマーティ賞、チルドレンズ・ブック賞、ウィットブレッド賞、カーネギー賞ショートリストなど、数々の賞を受賞しています。本作品は、コスタ賞の児童書部門ショートリストに入っている作品です。
モーパーゴの作品は、日本でも、数多くの作品が翻訳されています。近年翻訳出版された作品は、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選ばれたり、映画化された作品もあり、多くの読者を獲得しています。
本作品は、発売されるやいなや各紙で絶賛されています。
「モーパーゴの世界は、読者の心をつかんではなさない」(ガーディアン紙)。「社会的、倫理的問題を巧みな筆致で描くすぐれた作品だ」(ブリティッシュカウンシル)。「『戦火の馬』を超える作品」(デイリーテレグラム)ほか。

感想・レビュー・書評

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  • 「はじめに」を読むと、これは本当にあった話なのではないか?と思わせる書き出しで一気に物語の世界へ引き付けていく。
    歴史上を過ぎ去った出来事と距離を置かずに、その時代を生きた人を読者(子ども)の親や祖父母にすることで物語を身近に引き寄せる、その導入がいつも本当にうまいと思う。
    それはモーパーゴが最も大切にしている「過去の出来事を過去として葬り去らない、過去から学ぶ、過去が今に繋がっている」そのための方法でもあるのだろう。

    無人島で発見された話せない記憶もない女の子、ルーシー。人魚伝説を思い起こさせる話の始まりで、ぐいぐい引っ張られる。
    そんなルーシーが月にハミングする情景が美しく、物悲しく、切ない。
    ルシタニア号の沈没、ドイツの汽船シラー号の沈没のシリー諸島の人々の救援活動、知らなかった歴史を絡め、その時代を生きた人々を描く。

    権力のある校長がルーシーたちを追い詰めるように子どもたちを仕向けていく様、戦意を高め敵に憎むように仕向けていく様、牧師が信者を一つの方向へ導く様に怖さを覚える。そして大勢はそれに同調する。
    「人間は信じたいことを信じるのよ」というメアリーの言葉からもわかる。これまでどれだけ同じことが繰り返されてきたことだろう。
    そんな人間の愚かさとアルフィ一家を代表する人の優しさの両方を描きながら、人への信頼を失わないモーパーゴの視線を感じる。
    最後のクロウ医師の言葉「ウィートクロフト家の家族やメリー・マッキンタイア(ルーシー)やヴィルヘルム・クロイツのような人間がいる限り、この戦争が終わったら、また世界は幸せな場所に戻るにちがいない」希望の言葉を投げかけるモーパーゴの優しさが好きだ。

  • 第一次世界大戦中のイギリス、シリー諸島。学校をサボって父の漁を手伝っていたアルフィーは、普段だれも近づかない島から、奇妙な声を耳にした。咳まじりの泣き声の主は女の子で、痩せてケガをして死にかけていた。母親のメアリーは彼女を引き取り、家族同様に献身的な看護をする。言葉を話せないながらも、彼女は少しずつ回復し、地域社会にも溶け込んでいったが、彼女のいた場所からドイツ語の名前が書かれた毛布が見つかったことで、敵国ドイツ人ではないかと疑われ、彼女も、アルフィーと家族も、酷いいじめにあってしまう。

    シリー諸島の美しく大きな自然を背景に、戦争の痛ましさと、人の心のふれあいの尊さを描く。




    *******ここからはネタバレ*******

    モーパーゴ作品には珍しくオムニバス形式で物語は進んでいきますが、最後にはきちんと希望があり、ほっとします。

    最後の急展開があまりにもうまく進み過ぎで、それだけがちょっと興醒めでしたが、メリーのサバイバルは、読むだけで胸が痛くなります。

    この物語が、ともすると争いがちな人々の心に、善意が世界を救うことを思い起こさせてくれることを願います。

    数多いモーパーゴの作品の中でも、好きなお話。

  • 戦争の悲惨さと平和の美しさを静かに伝える物語。

    シリー諸島の無人島で奇跡的に発見された謎の少女ルーシー。彼女は記憶を失いひと言も話すことができない。彼女はどこからどうやってきたのか…
    ルーシーはドイツ人ではないかと噂が流れ、彼女と暮らす優しい家族は村八分になっていく。
    なかなか話せないルーシーがもどかしい。だけどそれが現実なんだ、戦争の起こした悲劇なんだと思い知る。

    「あやまるな、言い訳もするな」Uボートの艦長のお父さんの言葉が心に残る。戦争とはそういうものなのかもしれない。謝られても言い訳されてもどうしようもない苦い思いが渦巻く。戦争からは何もよいものは生まれない。

  • 戦争によって辛い体験をする少女のお話だけど、美しい物語でした。
    人々が敵国かどうかで態度を一変させて憎むようになってしまう悲しい時代でしたが、モーパーゴが焦点をあてて書いているのはその中でも決してなくならない人の優しさでした。
    置かれている立場が違うだけで、元々はみんな思いやりを持ち助け合うことのできる人間同士。
    そんな人々がいるからこそ希望が持てるし、戦争の意味のなさを感じます。
    読み終わった後は胸が温かくなりました。

  • まるで良質な映画を見終わったような、映像がありありと浮かび、登場人物とともに不思議な、壮絶な体験をした気持ちになれた小説。
    海で見つかった謎の少女、温かく迎えて世話をする家族、敵意をぶつける周囲、別の関わり方を選ぶ人々。
    児童文学だけど、大人が読んでも味わい深い、生きることの厳しさと優しさ、人間の愚かさ弱さと誇り、仁愛が描かれている。
    小学生だった当時の自分に手渡してあげたいと思えた良書。
    他の作品も読まなくちゃ!

  • これが児童向けの本なの?って感じ。
    大人が読んでも十分に面白い。
    戦争とか、集団心理とか、学校とか色々考えさせられる。

    情けは人のためならずって教訓ぽいけど、
    戦争とかあっても、人の心の奥にある優しさ、というか、ただのひとりの人としてみたときに、みんな心の奥に優しさって持ってるんじゃないかな、と思わせる本だった。

    ミステリー要素もあって、読むのを止められなかった。

  • ロマンチックなタイトルだが、話は第一次世界大戦のイギリス シリー諸島での物語。
    戦争という時代の中で、本来、善良である人々の気持ちや行動が、どのように煽られて方向性を見失いがちであるか、それを淡々と描いている。

    正直、話の展開は先が読めてしまい、また、少し都合が良すぎるように思うけれど、実際にあったUボートによるルシタニア号の沈没のことなどを取り混ぜ、時代や人々の戦時下の複雑な立場が、ストレートに伝わってきた。
    同じような状況下で、理性を持ち、国同士の戦争の最中にも、個人を見つめることは、簡単なことではない。他人事と思わずに考えておくことが、実際、何かが起こった時に(起こっては困るが)、正しい行動をする手助けになるのかも。物語は、そのために存在するのかもしれない。

  • すばらしかった。
    なにか、今の状況と重なりすぎてつらくなるところもあるのだけど、モーパーゴさんの筆致には、いつでもどこかあたたかい人間性とユーモアがひそんでいて、厳しい時代のことを描いていても大きな愛情を感じながら読めるのがいい。
    とちゅうではさまれるメリー視点の回想が、幼い女の子の口調ではないのが不思議だったけれど、それも最後まで読むと納得がいく。とても繊細な心遣いでつむがれた訳文もすばらしくて、一気に読み終えた。

    あ、あと、子どもの本らしく着地してはいるけど、そのとちゅうであばかれる人間というもののどす黒さは決して消えたわけではなく、今の世の中にもそのままつながっているのがつらい。それでも作者が人間に希望を失っていないのが救いなのだと思った。

  • 原題は「Listen to the Moon」。舞台は、第1次世界大戦中のシリー諸島(英国南西部の諸島。初めて知った)。ある無人島に置き去りにされていた、言葉と記憶を失った一人の少女。彼女は何者なのか。これは、戦争がもたらした悲劇の物語であると共に(遭難の場面は読むのが辛い)、戦争という極限状況の中でも示される尊き人間愛の物語でもある。

  • SL 2022.4.7-2022.4.9
    第一次世界大戦の時代を2014年に描いた作品。
    2022年、ロシアによるウクライナ侵攻の最中に読むと、複雑な感情に揺さぶられる。
    酷すぎる差別も描かれるが、この作品の主題は、国や人種を越えて愛情、友情が生まれ得ることだと思うけど、現在進行形の侵攻からはもっと残酷な現実も見えてしまう。
    でも、だからこそこういった作品が子どもたちに読まれるべきなんだとも思った。

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著者プロフィール

1943年英国ハートフォードシャー生まれ。ウィットブレッド賞、スマーティーズ賞、チルドレンズ・ブック賞など、数々の賞を受賞。作品に『ゾウと旅した戦争の冬』『シャングリラをあとにして』『ミミとまいごの赤ちゃんドラゴン』『図書館にいたユニコーン』(以上、徳間書店)、『戦火の馬』『走れ、風のように』(ともに評論社)他多数。

「2023年 『西の果ての白馬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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