- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087817249
作品紹介・あらすじ
シーナ、78歳。よろよろと生還す。
後遺症、進む老い、進まない原稿、募る一方の失踪願望……
サイアクときどきサイコウの、とある1年の記録。
新型コロナ感染後、生死をさまよい退院するも、しつこい後遺症に悩まされる日々。旅には出られず、友と生ビールは遠く、自らと向き合えば今までと何かが違う――。
若き頃から抱える“失踪への衝動”を携えてシーナが放つ、パンデミック禍の1年の記録。
〈WEB-MAGAZINE集英社 学芸の森〉で好評連載中の「失踪願望。」、2021年4月~2022年6月の日記に加え、壮絶書き下ろし「新型コロナ感染記」、盟友・野田知佑氏ら、自らの人生に大きな影響を与えた男たちへ捧ぐ「三人の兄たち」の2編を収録。
「自分の日記なのに興味深い……浦島太郎的な気分である」
【日記の見出しより】
カニカマ、骨折、コルセット 海苔弁、コロナ、Xデー 禁酒、漂流、金メダル 相棒、オアシス、後遺症 返納、お帰り、おとなり座 衆愚、減薬、初投票 講演、ブンガク、紅葉狩り 族長、満月、ガイコツテレビ 夫婦、胃カメラ、あすなろ忌 冬ウツ、貧困、ウクライナ SF、寅さん、兄貴たち 通院、タケノコ、春の海 東北、賢治、初シュジュツ アオムシ、生還、誕生日
【著者プロフィール】
椎名誠
(しいな まこと)
1944年、東京生まれ、千葉育ち。1979年『さらば国分寺書店のオババ』刊行。89年『犬の系譜』で第10回吉川英治文学新人賞、90年『アド・バード』で第11回日本SF大賞を受賞。
『岳物語』『大きな約束』『家族のあしあと』等の私小説、『武装島田倉庫』『水域』等のSF小説、『わしらはあやしい探検隊』を原点とする釣りキャンプ焚き火エッセイ、『出てこい海のオバケたち』等の写真エッセイまで著書多数。ジャンル無用の執筆活動を続けている。
感想・レビュー・書評
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椎名誠さんも78歳になってしまったのか…とちょっとたじろいでしまった。
元気で世界中を旅して、キャンプに釣りに、ビールをぐいぐい飲んで、彼のまわりにはいつも気持ちのいい仲間が集っていて…
そんなイメージがずっとあった人だけれど、少し前から、例えば鬱のようなものを抱えていたり、死について語ってみたり、そういう"負"、弱い面も見せるようになってきたなと感じてはいたが。
今回は、怪我や体調を崩してしまった果てに、とうとうコロナウィルスに感染してしまった経緯等ついて書かれている。
感染したことを全く知らなかったので驚いた。よく生還されたことと思う。基礎体力はもちろんたけれど、運の良さもあったのだろう。
そして何よりも奥様の一枝(いちえ)さんの力が大きい。本人も感じているようだが、私の好きな"椎名誠"は一枝さんが支え作ってくれていたのだなとつくづく思った。
昨年亡くなった野田知佑さんのことについてもふれてあり、お二人がキャンプしたりしていた頃のエッセイを思い出して懐かしくもあった。
コロナの後遺症は完全に抜けきってはいないようだが、また新しい雑魚釣り隊のエッセイが読める日を期待したい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シーナさん、老いてゆく。
30〜40代の頃の、旅もエッセイもバリバリだったイメージが強すぎて、もう何十年も読んでいるのだから段々弱いところを隠せなくなったり、隠すつもりもなくなっていたり、そういうところを知っているはずなのに、改めてショックを受けてしまう。
それでも、普通の人なら家族にしか見せない「老いてゆく過程」を正直に自分の手で書き綴ってくれるシーナさんがやっぱり好きなのだ。
どうか一日でも長く、ちべたいビールをぐびぐび飲んで、俺はバカだなぁ、と書き続けてほしい。 -
手にとった表紙に、はっと胸をつかれた。まっさおな空をバックに草原にすわる椎名さん。サングラス姿はまちがいなくカッコイイのだけど、それははっきりカッコイイ「おじいさん」なのだった。
自分の心の中には、いつまでもパワフルなシーナ隊長の姿があるのだが、現実の椎名さんは当然年齢を重ねている。愛着のあった車を手放し、免許も返納したという。腰痛と不眠症をはじめとする心身の不調が続く。読み進めながら、ウーンと唸ってしまった。一昨年にはコロナに感染。救急搬送されたときご家族は最悪の事態を覚悟されたそうだ。その後の後遺症らしき症状も軽いものではないようで、読んでいてつらくなることもしばしば。
救いは、椎名さんが今になって訪れた静かな生活(コロナ禍のせいではあるけれど)を喜んでいることだ。妻の一枝さんと二人、時には息子の岳さんやお孫さんたちとともに、思うにまかせぬことは多々ありながらも、穏やかに過ぎる日々のあれこれが日記の形で綴られている。
そうそう、今回は妻の一枝さんについてふれた箇所の多さが印象的だった。一枝さんがずっと続けてきた社会的な活動への敬意や、日常生活での気遣いへの感謝の言葉が、これまでになくストレートに語られていて、そうした面でも椎名さんの変化を感じたのだった。
2020年6月13日の日記が忘れがたい余韻を残す。14日の誕生日を前にして「息子ファミリーが夕食後祝の宴をしてくれた」とある。「その日ぼくはすっかり七八歳のじいちゃんになって笑っていた」「それなりにいい日だった」と書いた後、こう続けている。
「思えばいつの間にか七八歳になってしまった。六〇歳のときも七〇歳のときも今回も『こんなもんなのか』という気持ちだった。ぼくの想像していた七八歳のぼくはまだこの家に来る駅からの坂の途中で、団欒をもとめてそこらの路地をトボトボ歩いているところのような気がした。まっすぐ行くんだよ。ころぶなよ、とぼくはうしろから自分に声をかけているのだ。」
ここに込められた椎名さんの心情がどんなものなのか、はっきりとはわからない。それでも、なんとも言いようのない寂寥感がせまってきて、胸がつまってしまう。
そして。その次の日には「目黒考二と二年ぶりに会って話をした」とあるのだった。「元気そうなんてもんじゃない」と椎名さんを呆れさせた声のデカイ目黒さん。先日の訃報はあまりにも突然だった。「本の雑誌」は目黒さんなしには生まれなかったであろうし、その功績ははかりしれないと思うが、私にとっての目黒さんはずっと「釜焚きメグロ」だった。隊長の心中は察するにあまりある。-
本当に、目黒さんの訃報はショックでした。探検隊シリーズをパラパラと読み返して偲んでいます。
「会社に勤めていたら本が読めない」と三日で退職...本当に、目黒さんの訃報はショックでした。探検隊シリーズをパラパラと読み返して偲んでいます。
「会社に勤めていたら本が読めない」と三日で退職。「本を読むことを仕事にしたい」なんて、いくらなんでもそりゃムリでしょってことを現実にしてしまった目黒さんを、心から尊敬しています。「本の雑誌」がなかったら…、これはもう考えるだにオソロシイ。
椎名さんがどれほど悲しんでいることか。避けられないこととは言え、別れも老いも切ない限りですね。2023/02/01 -
大変ご無沙汰しております。私も目黒さんの訃報を聞いてからずっと沈んでいます。新年号でも新刊をどしどし読んでいたのに……。私のファーストコンタ...大変ご無沙汰しております。私も目黒さんの訃報を聞いてからずっと沈んでいます。新年号でも新刊をどしどし読んでいたのに……。私のファーストコンタクトはわしらはあやしい探検隊でももだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵でもなく、ひるめしのもんだいでシーナ会をファンクラブだと思い込んで「よしなさいよガラじゃない」と忠告する人でした。『魔術はささやく』の解説に興奮したのも思い出されます。目黒=北上さんのことはきちんと文章に残しておきたい。
私は今Twitterが主ですが、こちらもイーロン・マスクのせいで明日をも知れぬ身。またブクログを更新したいと思います。2023/02/17 -
シンさん、お久しぶりです!目黒さんを一緒に惜しんでくださる方がいると思うと、救われる気がします。目黒さんの訃報の扱いが、マスコミ的には小さい...シンさん、お久しぶりです!目黒さんを一緒に惜しんでくださる方がいると思うと、救われる気がします。目黒さんの訃報の扱いが、マスコミ的には小さいなあと思って憤っていたので。エンタメ書評の隆盛は目黒さん抜きにはなかっただろうに、みなさんわかってますか!?と声を大にして言いたい。
椎名さんの相棒としても、木村晋介さんや沢野ひとしさんとはまた別の形で欠かせない人だったのだと思います。「これは駄作」とか本人に言える人ってあまりいないですよね。「本の雑誌」今月号の椎名さんの文章が切なかったです。
Twitterってわたしはいつの間にか公共インフラみたいに思ってたんだなあと今回気がつきました。オーナーの持ち物なんですね。すごくアメリカ的。2023/02/17
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椎名さんもう本当に老人なんだなと実感しました。78歳、もはや会っても気が付かないかもしれません。
しかしそれでもこうやって本を出してくれることに感謝です。骨折やコロナ感染などかなりハラハラしますが、あれだけ頑強を極めた人であっても時間には敵わないんですね。それをリアルタイムで教えてくれる本です。
そしてこの本は日記なので、去年2022年3月27日にお亡くなりになった、僕の人生を変えた最大の人物、野田知佑さんの他界の事も書かれていました。ショッキングなシーンも描かれていますが、2人関係が描かれていて読んでよかった。
2人が疎遠になって悲しいですが、人生いろいろありますよね。 -
著者のエッセイを数十年ぶり読んだ。
装丁の著者が、十数年ぶりを物語ってした。
とはいえ、自分もそのままではない(笑)
コロナ禍の中、うんうんと同意することが多いのだ。
そして、「新型コロナ感染記」感染したのはなるほど自業自得のような経緯だか、さすがそこは作家、記憶がないというもののコロナの恐ろしさを伝えてくれた。
最近は少し油断しているところもあったが、気を引き締めて感染対策、怠らぬよう。 -
他人の日記を読んでもあまり面白いとは思わないが各ページの下段にあるその時の記事には世相が現れていて面白い。本書の後半は本音が出て楽しく読み終えた。後の世にはあの時はこんな事があったなあなんて思うだろう。
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椎名さんはいつまでも若くて、歳食っても何時でもどこでもガシガシ出掛けているものと思ってた。それだけにちょっとショック。まだまだ老いる歳では無いんだけど…コロナのバカ。
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コロナ禍が始まった頃からのwebで連載している「失踪願望。」をまとめたものに、椎名氏が兄と慕っていた3人の人たちについて書いたものと、自身のコロナ感染日記。
亡くなった野田知佑さんを書いた文章は、犬のガクを含めて大事な人を失った悲しみが伝わってくる。
コロナ感染日記は、椎名さんの老いや弱さが垣間見え、ファンとしては悲しい。そして、一枝さんへの感謝と愛情がヒシヒシと伝わってくる。 -
表紙の椎名さんのお姿を見ると、時の流れを感じます。
野田知佑さんが亡くなられたことも同様です。
椎名さんの他の本に登場する椎名家の孫たちも大きくなっています。
椎名さんには、生涯、物書きでいてもらいたいです。
日記の部分で、椎名さんの尊敬する井上靖先生や宮沢賢治の話も出て来て、椎名さんはキャンプとお酒だけの人ではなく、ブンガクを愛する人なのだなと、あらためて思いました。
ところで、本書のカバーをめくると、まるで突然異界の町に迷いこんだかのようなモノクロ写真が出てきます。
新型コロナ感染記の「とうりゃんせ」の話と会わせると、ちょっとしたホラーです。