桜色の魂 ~チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087807394

作品紹介・あらすじ

1964年・東京オリンピックの名花、ベラ・チャスラフスカ。華やかな競技生活とは裏腹に、波乱万丈の人生を歩んだ彼女を50年間支えたのは、複数の日本人との心の交流だった。

感想・レビュー・書評

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  • 1964年の東京オリンピックの時はまだこの世に生を受けていなかった。
    続く1968年のメキシコ・オリンピックは幼過ぎて記憶にない。だから、
    その人を初めて見たのは家に保存されていた東京オリンピック記念
    のグラフ誌だった。

    ベラ・チャスラフスカ。チェコスロバキア(当時)の女子体操選手は、
    女優のような美しさ、グラマラスな肢体、そして女性らしい優美な
    演技で、会場を埋めた日本人を魅了した。

    東京オリンピックを記憶している人たちから「東京の名花」と言われた
    チャスラフスカの話は聞いていた。その呼び名通り、グラフ誌のなか
    の彼女は美しかった。

    だが、チャスラフスカの人生は競技会での華々しい活躍だけは済まない。
    チェコスロバキアが目指した「人間の顔をした社会主義」、プラハの春は
    ソ連の侵攻によってあえなく潰えた。

    プラハの春で多くの著名人が署名した「二千語宣言」にサインをしたこと
    によって、チャスラフスカの身にも危険が迫る。

    辛うじて出場できた1968年のメキシコ・オリンピックでも4つの金メダルを
    獲得し、祖国に栄誉をもたらしたものの、政府が求める「二千語宣言」の
    撤回を頑なに拒否し、表舞台から姿を消した。

    ビロード革命で大統領補佐官に就任し、これでチャスラフスカの生活も
    安定するかと思われた矢先、家族間の悲劇的なトラブルが発生する。
    それだけが引き金ではなかったのだろが、チャスラフスカは心を病み、
    14年に渡って心を閉ざし、医師から治癒は見込めないと宣告された。

    ここまでのチャスラフスカの人生は『ベラ・チャスラフスカ 最も美しく』
    (後藤正治 文春文庫)の方が詳しいし、名著でもある。ただ、心を
    病んだチャスラフスカ本人の話が聞けていない。

    本書は再度の復活を遂げたチャスラフスカへのインタビューもある
    ので「その後」の部分では参考になるんだが、どうもチャスラフスカの
    生き方を日本の武士道にどうしても結び付けたいとの意図が感じら
    れる。

    チャスラフスカが男女問わず日本の体操選手と長く交流していたこ
    とや、日本女性初の審判員に絶大な信頼を寄せていたこと、男子
    選手の遠藤幸雄を尊敬し、彼の体操に惹かれ大技の指導を受けて
    自分のものにしていたのも事実だろう。

    演技で大きなミスをしても、日本の観客は彼女に大きな拍手を送った。
    来日する度に歓迎してくれ、プラハの春がついえた後も彼女のことを
    心配してくれた日本。そんな日本にチャスラフスカが親近感を抱くの
    も当然のことだろう。

    せっかくチャスラフスカ本人に話を聞いているのに、再度の復活に
    ついても著者の推測とこじつけが多くて残念だ。

    尚、先日、朝日新聞にチャスラフスカの記事が出ていた。「東京の
    名花」も既に74歳。癌を患い余命宣告をされていると言う。

    「2020年は、雲の上から、大好きな日本に向かって手を振りますね」

    こんなコメントが載っていた。寂しいな…と思いながら記事を読んだ。
    そして、運命の女神がいるのなら、チャスラフスカに対してあまりにも
    意地悪なんじゃないかと思った。

    女子体操が「大人の女性の競技」だった時代は遠くなったんだな。
    フィギュアスケートの女子シングルスと一緒で、体操も優美な女性らしい
    演技よりも難易度の高い、ただのアクロバットになってしまったもの。

    チャスラフスカに興味にある方は本書よりも『ベラ・チャスラフスカ 最も
    美しく』(後藤正治 文春文庫)がおすすめだ。

  • (しおりも桜いろでキレイ)
    むしろ面映ゆく感じてしまうぐらい、チャスラフスカという人は日本人を深く敬愛してくれているんだなあ、と。あるいはあの東京オリンピックのころには、そう思われるに値する日本人が多かったのか。信念を持ち続けるのって難しい。例え自分には嘘をつきたくないと思っても。それはまた意志の強さとは違うんだろうなあ。それにしても、当時の日本代表の女子体操選手に子持ちの人さえいたというのにはビックリ。チャスラフスカもそうだけれど、かつては女性が選手だけれど、今は文字どおり女子(女の子、という意味で)が選手って感じだもんなあ。まあ今見たくアクロバティックな演技をするためには、女性の体形では無理なんだろうけれど。

  • 東京オリンピックで美しくエレガントなその体操の妙技で日本中のハートをわし掴みにしたチェコのチャスラフスカ選手。今でも日本中にファンが多い。彼女がどうしてそれほど日本人の心の中に深く印象を刻んだのか?スポーツライター長田渚左さんが長い間のルポを集約した2014年の新刊。幼い頃から抜群の運動神経で三姉妹にベビーシッターを頼むと、末の彼女だけは御免だ、と断られるほどおてんば娘。姉の後を追いかけていったバレエ教室でも才能を発揮し、あまりの才能に周りの親子からやっかみを受けるほどの彼女が体操の世界に踏み入れるまで時間はかからなかった。はじめは、思い切った演技であるだけに、その出来にムラがあって、成績に結びついてはいなかった。ところがある世界大会で、当時王者ソ連の地位を脅かすところまでチーム力をあげていった男子日本体操チームに出会い、彼女は覚醒する。素直で嘘のない彼女は日本男子体操チームに練習、試合を通して常に注目するようになった。当時、日本チームはまるで楽しんで演技をしているかのように、他の国のチームではあり得ない難しい技を微笑みを持って演技をしていた試合に対する姿勢、練習の時の真面目に取り組む姿勢違いがライバルでありながら、互いを尊敬しあい穏やかに切磋琢磨するチーム。チャスラフスカは見るうちに、すっかり日本チーム、ことにそのシャープで切れ味鋭い演技をする遠藤幸雄にすっかり魅了された。どこでも、日本チームの練習に参加できるときは一緒にストレッチから技の練習まで共にするようになる。その素直で明るい彼女にチームも打ち解けた。そこから彼女と日本の人々、文化、哲学、まで彼女は長い間影響されて成長する。間にはソ連の弾圧の長い不遇の時期、家族のトラブルが発端で鬱にもなる。どんなに圧力をかけられようと武士に二言はないように、チェコ国民の為の2000語宣言を撤回せず戦いつづけた。体操の美を追求した姿勢は全てにおいて人生の究道と同じであった。一気に読んでしまった素晴らしい伝記になっている。

  • チャスラフスカのことは良く知らなかったのだが、著者の努力と思い入れによって、その数奇な人生における日本や日本人とのつながりが余す所なく記されている。

    それにしても、「武士に二言なし」といえる覚悟を持った日本人が、今どれほどいるものか。

  • 2016年10月19日、読了。

  • 日本経済新聞社


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    文芸評論家 縄田一男

    2014/12/28付日本経済新聞 朝刊



    (1)あしあと 勝目梓著
    (文芸春秋・1700円)
    (2)桜色の魂 長田渚左著
    (集英社・1800円)
    (3)それでも前へ進む 伊集院静著
    (講談社・1200円)





     (1)は、作者の作家生活40周年記念の短篇(ぺん)集。官能小説の極北という見方もあるが、“官能”の2文字を取っても堂々たる小説、文芸作品で、私が今年読んだ現代小説のベスト1。


     (2)は1990年から取材をはじめ、ようやく刊行の運びとなった著者の新たな代表作。親日家として知られる体操選手チャスラフスカの激動と謎の生涯を可能な限り再現。未読の方のために詳述出来ないが、特に日本刀のくだりは興味深い。


     (3)は「トランヴェール」連載のエッセイと東日本大震災後の日本人への提言として語り下ろした「それでも前へ進む」の2部構成。後者の毅然たることばの数々が読者の胸を打つ。


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  • 東京新聞:言葉を超えた友情の力 『桜色の魂 チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか』 ノンフィクション作家 長田渚左さん :Chunichi/Tokyo Bookweb
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2014102602000176.html

    長田渚左の「考え中」 | スポーツナビ+
    http://www.plus-blog.sportsnavi.com/nagisaosada/

    集英社のPR
    http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780739-4&mode=1

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