青少年のための小説入門

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087754421

感想・レビュー・書評

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  • 思わず「久保寺健彦」ってどんな人?

    と、調べてしまった。
    それぐらい、中身が面白かった。

    HOWTO本かと思っていたら、そんな簡単(?)ではなくて、小説を書くということを楽しみ、研究し、悩んだ「倉田健人」という架空の作家の物語だった。

    文字が読めないディクレシアという障がいをもつ登さんと、勉強が出来るが私立中学受験に失敗して地元の区立中学に通う一真という、ものすごく濃淡の差が激しい魅力的なキャラクターを使って、小説を書くことに取り組む二人のおよそ6年間を綴る。

    二人が物語の研究をしたり、小説を書き出す場面は、読み手もワクワクする。
    登さんの小説への「気づき」は、鋭い。
    一真の朗読とともに紹介される名作達は、どれも王道だけれど、二人の分析を読んだ後だと、もう一度読み直してみたくなるから不思議だ。

    登さんと一真との別れの場面は、これまでの二人が築き上げてきたものを知っているからこそ、悲しくてたまらなかった。

    もう一度、二人で『神様がいた頃』の執筆に取り掛かって欲しかった。

    これは、久保寺先生に託してもいいのではないかと勝手に思っている。

  • 面白いです!登さんとかずまが出会ったきっかけが万引きっていうのが面白かったです!

  • 小説作法に関する本のような本だけど、小説家を目指す青少年二人組の話。もちろん、中には小説を書くのに参考になる記述もあって、タイトルに偽りはないとは思った。
    表紙の絵は『バクマン。』の作画担当の小畑健。だからというわけではないけど、バクマン。の小説家版のような話だと思った。多分、表紙が小畑健じゃなくてもそう思ったと思う。性格は違うけど、コンビによるデビューとか、ヒロインとなかなか会う機会がないところとか。
    それでも、キャラクターの設定自体はだいぶ違うのでそこまでパクリと思えるようにも感じなかった。もしかしたら、この小説にもあった、過去の名作の設定を、違うキャラクターや舞台で置き換えるという手法を使ったのかもしれない。
    キャラクターが勝手に動き出してうまく続きが書けなくなる話はちょっと笑った。明らかにおかしい方向にいこうとしていて、こうやって続きが書けずに苦しんている小説家っているんだろうなと思った。意外とあるあるネタなのかもしれない。
    ちょっとよく分からなかったのがいつぐらいの時代を想定した話なのかというのが、途中までよく分からなかった。最初は現代の話かと思って読み進めていたのだけど、時代錯誤な不良がいたり、携帯電話の話がでてこないところで現代の話ではないのだろうなと気づいた。結構最後のほうで「日本は間もなく未曾有の好景気に突入し、その後長く不況に苦しむはずだ」という言葉が出てきて、多分1980年代前半ぐらいのイメージなんだろうなと分かった。なんでどこにも明言してないんだろう。

  • 地頭が良いがいじめられっ子気質の男の子と、ディスレクシアという、文字を文字として認識できないけど物語がとにかく好きなヤンキーがタッグを組んで、物語を作っていくお話。
    そんな設定だけで本好きにはたまらない話になるが、本の一文が引用されているだけでなく、その物語、ひいては主語や述語に対しての考察が素晴らしい。
    コンビ作家として華々しくデビューをするが、少しずつ翳りを帯びていくさまも美しい。
    最後は悲しく、切なく、しかし爽やかな読後感が待っている。

  • 真面目な中学生の“ぼく”と、黒い噂のある二十歳の登さん。接点のない二人が夢中になったのは本の面白さだった…。

    障害のある登さんに頼まれ、小説を朗読する事になった。名作を手当たり次第に読み、自分達でも書き始める。
    すげぇの書いてデビューしようぜ!『渾身の長編小説!』
    ストーリー自体も面白いし、朗読本のチョイスも面白い。キャラクターも個性的でとても惹きつけられました。
    「バクマン。」の小畑健さんのイラストがまたぴったりですね!

  • どこかで作家になることを夢見ている青少年のための小説入門としてこの小説は未来永劫存在していくのだろう。
    この「入門書」は一筋縄ではいかない、というか誰にも真似のできない唯一無二のこの二人にだけ許された方法だったのだろうけど、いくつもいくつもヒントはある。
    図書館で司書さんにおすすめされた本を片っ端から朗読する、そしてそこからエッセンスだけを抜き取り別の物語を作る、あるいは今まで読んだ本を別の物語に置き換えてそれを当てあう。そういうあれこれはきっとものすごく役に立つだろう。もちろん作家を目指すところまでいかなくても本好きなら誰かとこういうやり取りができればとても楽しいだろうし。
    だけど、この物語が唯一無二の二人の物語としてのみ存在するのはそれが登と一真という全然共通点のない二人のそれぞれの個性がぶつかり合い補い合い尊重しあいそして高めあってきたからであって、それはもう他の誰にも真似なんてできるはずもない。
    登の生い立ちも一真の現状も、決して恵まれたものではないし、二人が全く別の、もっとなんというか人として間違った方向へと進んでいっていた可能性はとても高かったはず。そうならなかったのは、やはり物語の、言葉の力に他ならないと思う。
    そう、言葉は、物語は無限の力を持っている。
    誰かの救いになり、誰かの力になり、誰かの夢になる。
    登がばあちゃんと過ごした最後の日々。そこに確かにあった切なさと優しさの温度を私も感じた。一真が登のいない毎日の中で感じた風の冷たさも私は感じた。そして、流れる涙の温かさを私は忘れない。
    小説が、物語が、文字が、私を包み込んでいった。この記憶はきっと消えない。
    そして、この小説を読んだ人は、きっと、ずっと、もっと、物語を好きになる、そう思う。

  •  暴走族の幹部でヤクザを半殺しにしたと噂が流れ、どんなチンピラからも一目置かれる「登さん」と、中学受験に落ちて区立高校に通う、いじめっ子のターゲットにされそうな「ぼく」が、コンビを組んで小説を書き、文学賞に応募する、そして…、という物語。登さんは書字障害、だけれども異様に頭がキレるしセンスがあって、コミュ力も抜群、という魅力的なキャラで、それとは正反対、お勉強は出来るけど色々不器用、という2人で目標を乗り越えていき…、という分かりやすいストーリーがいい。そしてその小説を創作するために、東西の数々の名作(や駄作?)をとにかく分析していく、という手法なので、夏目漱石や太宰治、芥川龍之介から谷崎潤一郎、筒井康隆、横光利一、田中康夫など、そして『老人と海』、『ライ麦畑でつかまえて』、『カラマーゾフの兄弟』、『アルジャーノンに花束を』などなど、教養として読んでおきたいたくさんの作品が引用されて分析されるのがたまらなく面白い。これをきっかけにして改めて読んでみたいなあという作品に出会える。という意味でも『青少年のための小説入門』。
     あとは読みながら自分が考えたこと。(ここからは多少ネタバレの内容を含みます)最近学校で「時間割変更」という仕事を一人でする機会が何回かあって、何となくコツというか感覚が分かってきた。たぶん一つの正解に向かって、ひたすらコマを動かしていく、というアプローチをやっていけばうまくいく(し、逆にもう絶対にうまくいかないというのも途中で分かってしまう)、と思っている。でその仕事は、おれが昔していた仕事で、先輩が「さっさとこうって決めて、そしたらその目標に向かってひたすらやっていくだけ」と言っていたのと共通しているなあ、と思っていた。が、この小説を書くというのはその真逆なんだ、ということが分かった。「ポール・オースターが作品の中で、小説の中心はいたるところにあって、結末を迎えるまで円周は描けない、という意味のことを言ってます。編集者はもちろん、作家さんも、書き終わるまで作品の全体像はつかめない。本当にすぐれた小説とは、そういうものじゃないでしょうか」(p.356)という編集者の久間さんの言葉。「事後的に始まりと終わりも決まる」(同)なんて、これが小説家だとすればすごい芸術家だなあと思ったし、そんな気軽に小説書きたい、なんて言うもんじゃないなあとも思う。あとは宿敵(?)だった寺脇さん。「マラルメは、人間の必要は二つの道にわかれると言っている。一方は美学。もう一方が政治経済。(略)政治経済の問題は、だれもがやりたがらないことをいかにやらせるか、だれもがほしがるものをいかに分配するか、その二点に集約される。解決手段は、強制力をともなう権力しかない。結局、この世界を失敗しているのは力だ。当たり前すぎて、つまらない。」(p.368)という。これは高校生が文系か理系で迷ったら、とりあえず潰しの効く理系、という発想をしてしまう中、ある先生が「世の中を動かしているのは文系だ」みたいなことを言って文系の生徒を励ましていたのを思い出した。美学か政治経済かあ。
     そして、上で引用した2つも、誰かの引用になっているけど、この作家は本当に何でも知っている勉強している人なんだなあと思った。この著者の他の小説も読んでみたいけど、それよりもここに出てきた作品を読んでみたい、と思った。(23/05/04)

  • 本紹介のYouTubeでおすすめされていたので手にとりました。
    YAの部類に入るのか、とても読みやすかったです。
    作中に出てくる作品を一つも読んでいないので登さんの反応の良かった作品を読んでみたくなりました。
    ちょっぴり切ないラストですが、前を向いて生きよう!という感じが良かったです。

  • 面白すぎて、読むのがもったいない作品。

    一真が主人公で語り手になっている。その彼が登さんのことを信頼しきっているので、読んでいるうちに自分まで登さんならどうするのだろうと考えていた。

    とにかく、良い物語。

  • ★「ぼくは小説は可能性の束だと思っています。ポール・オースターが作品の中で、小説の中心はいたるところにあって、結末を迎えるまで円周は描けない、という意味のことを言っています。編集者はもちろん、作家さんも、書き終わるまで作品の全体像はつかめない。本当にすぐれた小説とは、そういうものじゃないでしょうか」(464)

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    読み書きができない20歳の田口登(ヤクザ?)と私立受験に落ちて公立校に行くことになった入江一真がコンビで小説を書く話。
    読み書きができないっていう状況が想像できなさすぎて最初はよくわからなかったけど、できない分創造とかが秀でてる登さんの「一真の朗読」に対するツッコミとか指摘が的を射すぎてて、そんな捉え方もあるんだ、って発見が多かった。
    あと、ただ単に小説が沢山登場してたから、気になるのも色々あって読んでみたくなった。
    どこが1番面白かった、とかは明確にはわからないけど、強いて言うなら半分超えたくらいからどんどん面白くなって、一気に読み進めた。
    かすみ(一真と同じクラス&マンションに住んでいた女の子)の話がどういう意味を持っていたのかがあまりつかめなかった…
    解説でも言及されてなかったし…

    とにかく、500ページ超える長編だったけど苦に思わずに読み終えられた!

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    とにかく色々な小説が登場してきて読みたくなった。また、登さんと一真が小説書くためにやっていたトレーニング(再現クイズ等)は、普通にやっても面白そうだと思う。最初と最後が「現在」で、メインの部分が「回想」だったのを忘れるほどのめりこんだ!

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著者プロフィール

1969年東京都生まれ。立教大卒業。2007年「みなさん、さようなら」でパピルス新人賞、「ブラック・ジャック・キッド」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞、「すべての若き野郎ども」でドラマ原作大賞特別賞の新人賞三冠を達成。他著に『空とセイとぼくと』『オープン・サセミ』『ハロワ!』『中学んとき』『青少年のための小説入門』などがある。

「2022年 『明日はきっと お仕事小説アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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