真実の終わり

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087734966

作品紹介・あらすじ

いま、民主主義の基盤である〈真実〉が揺らいでいる。
フェイクニュースやプロパガンダがはびこり、事実を捻じ曲げる言説がソーシャルメディアなどを通じて拡散し、多くの人びとが影響を受けている。全体主義的なプロパガンダが現代に甦り、荒らし行為が蔓延し、重要な政治決定を蝕んでいる。米国のトランプ政権は、こうした状況のもとに誕生した。
長年にわたって文芸批評に携わり、ピューリッツァー賞(批評部門)を受賞した著者は、さまざまな文献を通じて、現代におけるこの民主主義の危機の深層に踏み込んでいく。アーレントやオーウェルをはじめ、ツヴァイク、クレンペラー、ボルヘス、フィリップ・K・ディック、ボードリヤール、デリダ、トム・ウルフ、ウンベルト・エーコ、フィリップ・ロス、トマス・ピンチョン、イーライ・パリサー等々、作家や学者、ジャーナリストたちの多彩なテクストを参照し、ひとつの筋道に結びつけて論じていく。
客観的事実が消えゆく世界で、私たちはどう生きるべきか。不穏な時代に精神的な立ち位置を示そうとする話題の書、待望の邦訳。

【著者略歴】
ミチコ・カクタニ( Michiko Kakutani )
文芸評論家。米コネチカット州に日系アメリカ人二世として生まれる。イェール大学で英文学を専攻し、1976年に卒業。ワシントン・ポスト紙、タイム誌を経て、79年にニューヨーク・タイムズ紙に入社。30年以上にわたり同紙で書評を担当し、鋭い文芸批評で文学界に多大な影響を及ぼす。98年にピューリッツァー賞(批評部門)を受賞。2017年に退社。

【訳者略歴】
岡崎玲子( おかざき れいこ )
1985年兵庫県生まれ。豪ヴィクトリア州法廷弁護士。米ニューヨーク州弁護士。ジャーナリスト。翻訳家。早稲田大学法学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクール(UCLA School of Law, LL.M.)を修了し、米ニューヨーク州弁護士資格を取得。その後、豪モナッシュ大学で学び、豪ヴィクトリア州法廷弁護士として登録。2001年に『レイコ@チョート校』を刊行し、『9・11ジェネレーション』(2004年)で黒田清JCJ(日本ジャーナリスト会議)新人賞を受賞。訳書にノーム・チョムスキー『すばらしきアメリカ帝国』など。

【原書】
THE DEATH OF TRUTH: Notes on Falsehood in the Age of Trump
MICHIKO KAKUTANI

感想・レビュー・書評

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  • フェイクVSファクト、という対立構造で語られることが多くなったトランプ出現後の報道の世界。この対立は民主党VS共和党、とか左翼VS右翼、という旗色がはっきりわかるものではなく、どちらも相手をフェイクとデスっているところがややこしい。つまり、正しい、正しくないという議論では結論が出ない空しさを世界に定着させてしまっています。
    各自が自分の信じたい「真実」だけを「真実」とし、それとは違う「真実」を「フェイク」と呼んで聞く耳を持たないどころか、徹底的に攻撃することが当たり前の時代、それを著者はTHE DEATH OF TRUTH「真実の終わり」と読んでいます。もちろんニュースを捏造するシステムや、それを拡散するシステムは明らかにされているのに、それでもその調査そのものをフェイクと呼ぶ人々の不信感が吹き荒れています。P52で引用される2016年共和党大会でCNNのキャスターがギングスリッジ元下院議長にアメリカが暴力と犯罪に悩まされているという統計をもとにしたインタビューをした際に、ギングスリッジが答えた「政治における候補者として、私は人々が感じていることに同調する。あなたは理論家たちに同意すればいい」という言葉の圧倒的平行線感、つまり論理的思考への拒絶感に恐ろしさを感じました。でもそれが、実はトランプや彼を支えるラストベルトの支持層(あるいはイギリスのBREIXTや、反EUを支持する層)が持ち込んだ物ではなく、そもそも、そのベースはフーコーやデリダやボードリヤールなどによるポストモダンの理論であることを指摘したのが本書の一番の衝撃でした。ポストモダニズムは、人間の知覚から独立して存在する客観的実在を否定し、認識が、階級、人種、ジェンダー等のプリズムによってフィルタリングされているとする理論。うわー、そうかも!ファクトVSフェイクはモダンVSポストモダンの悪夢のようなコピー?ポストモダンが多様性とか多元主義とかポリティカルコレクトネスを生み出して来たとなんとなく信じて来たのに、逆に、その視点が現在の反理性主義を育んでいるという矛盾。本書によって「真実の終わり」時代の理解は進みましたが、その時代を乗り越える、新しい知性への道は?そして「真実の終わり」時代を作っているSNSのこれからは?とりあえず、この本を薦めてくれた人と話たい、と思っています。

  • フェイクニュースが蔓延るポスト・トゥルースとフィルターバブルに代表される分断に満ちたこの時代(トランプの時代)。それが育まれた根底にポストモダン的な相対主義がある、という指摘に死角から頭を殴られたような気がした。
    自分たち(これは世代的な違いも大いにあるだろう)の言語、あるいは文化的な素地そのものが今やほぼポストモダンだからだ。それ故にショックを受けた、と同時に腑にも落ちてしまった。心情的にはリベラルで文化を愛してやまない自分も、結局のところは無自覚に加担していたんだ、という事実に気付かされる。

    現代はポストモダニズムが生み出した冷笑やシニシズムの飽和状態なのかもしれない。その余白がフェイクニュースや歴史修正主義を社会に許容してしまっていると著者は語る。

    「ドキュメンタリーは嘘をつく」と森達也は作品そのもので語った。その通りであるし、そうあるべきだとも思う。ドキュメンタリーは主観である。これは逆説的に言うと、事実は相対的なものだ、とも捉えられてしまう。
    では報道はどうなのだろうか?事実のみを追い求め、事実のみを純粋に伝えることなんてできるのだろうか?
    著者が警戒するポストトゥルースから全体主義へと移行する時代の潮目に、「純粋な事実≒絶対的な正しさ」を追い求める行為はドン・キホーテのようだ、と思ってしまうのはまたポストモダン脳なのかもしれない。

    読みながら突破口になりそうなものは見つけられなかった。著者もはっきりとそれを提示してはいない。でもやはり一つだけ間違いないのは「複雑なものを単純化し捻じ曲げる行為」に抗うことを忘れてはいけないということだ。

  • 第55回アワヒニビブリオバトル「真実」で紹介された本です。
    2019.08.06

  • 毎日新聞2019623掲載 評者: 池澤夏樹(作家)
    朝日新聞2019727掲載 評者: 西崎文子(東京大学教授・アメリカ政治外交史)
    毎日新聞20191215掲載 評者: 沼野充義(東京大学教授・スラブ文学)
    日経新聞2020111掲載 評者: 渡辺靖(慶應義塾大学教授)
    朝日新聞2021911掲載 評者: 三浦俊章(朝日新聞編集委員)

  • トランプ大統領に代表される虚言やフェイクニュースを批判した書籍である。フェイクニュースが存在すること以上に、虚言やフェイクニュースが非難されずに受け入れられていることが問題である。現実に2019年の台風19号で二子玉川が浸水したが、住民団体「二子玉川の環境と安全を考える会」が多摩川氾濫後にWebサイトを削除したとのフェイクニュースも流布された(林田力「台風19号の多摩川氾濫と住民運動へのフェイクニュース」ALIS 2019年10月14日)。
    本書は、この背景としてポストモダニズムがあり、右派メディアとソーシャルメディアが加速させたと分析する。これに対抗するためには、教育と自由な報道が必要と主張する。ポストモダニズムの相対主義が背景になっているとの分析には同意する。
    しかし、絶対的な権威の押し付けに対抗するためにポストモダニズムは有用である。20世紀的リベラル価値観は相対化してはならないという主張は御都合主義になるだろう。むしろ、21世紀を多く生きている世代にとって20世紀の価値観押し付けが息苦しさの原因になっており、その反感があることを直視しなければならない。20世紀的リベラル価値観の押し付けは反感を強めるだけである。
    右派的なフェイクに対抗するためには虐げられた個人の立場に立ったポストモダニズムの相対主義を徹底することと考える。全体最適や目の前の問題の解決という名目で個人に負担や我慢を押し付けることを正当化しない。これを許してしまうと、例えば不法移民を規制するために何をやっても良いということになる。これに左派リベラルは、あまり有効に対抗できていないが、それは左派にも公共の福祉などの全体最適思考が強いためである。

  • 著者は1955年生まれの日系アメリカ人二世。長くニューヨークタイムズ紙上で書評を担当。批評部門のピューリッツァー賞受賞者。ドナルド・トランプと彼を登場させたアメリカの現実について舌鋒鋭い議論が展開される。ウソつきの恥知らずのトランプに対する批判は、それ自体むちゃくちゃ小気味よいが、問題はそういう人物を担ぎ上げ、今なお支持を続ける人々がアメリカの半分近くいること。そして同じようなことが近年日本でも起こっていることは改めていうまでも無い。アベ、スガに続いてどのウソつきが次の政権を握るのか未だ不明だが、いつまでもウソつきの恥知らず集団の中で椅子取りゲームが続いているのが日本の悲劇。今や共産党が一番まともな市民政党に見える。

  • この本を読み終わった時、トランプの大統領就任が後々歴史を振り返ってみた時に、大きなターニングポイントだったと思ってしまうような(悪い意味で)事にならないようにと祈りたくなった。
    ファクトをフェイクだと力技で捻じ曲げ、ロシアのトロールの暗躍させた事の影響は、アメリカ一国の事だけにおさまらないだろう。
    バイデン大統領以後世界はどうなるか。。。

  • 市民は政策決定に参加できなければならず、戦争は悪であり、人権は守られなければならない。そのためには民主主義が最善の政体で、それには有権者が正しい情報を得ることが前提である。よって嘘をばら撒いて権力を手中にしたトランプは許せない。

    ...ナイーブ。お花畑。幼稚。

    有権者はトランプを支持しているのではない。
    作文でメシが食べられる結構なご身分でありながら、自分たちの生活基盤を支えている共同体を「古臭いナショナリズム」と見下し、上から目線でご高説を垂れ流すだけでなく、犯罪集団に近いノイジーマイノリティーばかりを擁護する「リベラル」にNOを突きつけたのである。

    自分たちの誤りについては一言の反省、自己批判もなく、「ロシアが悪い、政治家が悪い、批判精神に欠ける国民が悪い、自分たち高尚なリベラルは悪くない、間違っていない。...」

    ロシアが悪いというなら共産革命を支持したのは誰だったのか。「国民」の分断を嘆きながら、移民が反感を買うようなハッピーホリデーを提唱したのは誰なのか。マイノリティの権利を認めるのは当然だが、ポリコレ棒を振りかざして多様な表現を「攻撃」しているのは誰なのか。
    ...「図に乗りすぎた」ことに気がつかないのか。

    人間、普通に生活していれば世界は理不尽であり、理想は夢物語でしかないことなどいくらでも思い知るはずだ。
    その中で意地を通して袋叩きや嫌がらせにあい、理想が決して万人の共通理念ではないことを知り、妥協したり、「敵の敵」と手を組んだり、あるいは声を上げずに泣き寝入りしたり、見ないふりをしてやり過ごしたりする、弱く、卑怯で、見苦しく、その中でまれに高潔で勇敢になるのが現実の人間で、その人間の支持を集めて社会を運営するのが政治である。

    有権者の支持に立脚する政治は、当然ポピュリズムに始まる独裁の危険をはらんでおり、そのために三権分立や権力チェックのしくみがある。
    そして、チェックが正しく機能するためには「公正な」教育、「正しい」科学的知識、「事実」としての情報提供が必要なのだが、教育、科学、報道自身の公正さは誰が保証するのか。

    単なる私企業の分際で「第四の権力」「社会の木鐸」などと自称するマスゴミは、選挙で落とせるチャンスのある政治家以上に信頼できない。科学機関もその性質上、オープンであるがゆえに工作員の侵入と権力掌握を排除しづらい。作家や学者、評論家などはもってのほかだ。

    何が正しいかわからない状況(そして本書は、これこそが独裁政治の温床だと警告する)の中で、国民が「世界市民」「地球環境」とかの胡散臭くなってしまった理念にすがり、いとも簡単に敵国に操られる「リベラル」よりも、安全保障と経済政策で「強い」国家を約束する右翼を支持するのは当然の成り行きである。

    その約束が嘘であったとしても、リベラルの「敵国など存在しない」という見え透いた嘘を信じて武装解除し降伏「させられる」よりは、下品で暴力的な右翼が主張する「敵国」(少なくとも嘘ではない!)に対抗しようとして騙されるほうがマシなのである。

    ただし、著者の主張はリベラルだが、アメリカの建国理念と民主主義を信頼し、ロシアからの工作を警戒している。
    決して好きにはなれないが、特亜のゴミの手先である日本のサヨク・リベラルと同一視するのは失礼だとは思う。

  • 何よりも驚いたのは、ロシアのトロールたちによるメディアへの介入と世論操作の実態である。どうしてロシアがアメリカ大統領選に介入するのか、その意図するところがよくわからなかったが、それは恐ろしい意味を持っていたのである。
    トランプ政権のしていることを、同様の手法でわが国に万円させたのが安倍政権である。国民の一人として、常に「真実はどこにあるのか」ということを見極めていくことを肝に銘じたい。

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