風よ あらしよ

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717228

作品紹介・あらすじ

どんな恋愛小説もかなわない不滅の同志愛の物語。いま、蘇る伊藤野枝と大杉栄。震えがとまらない。
姜尚中さん(東京大学名誉教授)

ページが熱を帯びている。火照った肌の匂いがする。28年の生涯を疾走した伊藤野枝の、圧倒的な存在感。100年前の女たちの息遣いを、耳元に感じた。
小島慶子さん(エッセイスト)

時を超えて、伊藤野枝たちの情熱が昨日今日のことのように胸に迫り、これはむしろ未来の女たちに必要な物語だと思った。
島本理生さん(作家)

明治・大正を駆け抜けた、アナキストで婦人解放運動家の伊藤野枝。生涯で3人の男と〈結婚〉、7人の子を産み、関東大震災後に憲兵隊の甘粕正彦らの手により虐殺される――。その短くも熱情にあふれた人生が、野枝自身、そして2番目の夫でダダイストの辻潤、3番目の夫でかけがえのない同志・大杉栄、野枝を『青鞜』に招き入れた平塚らいてう、四角関係の果てに大杉を刺した神近市子らの眼差しを通して、鮮やかによみがえる。著者渾身の大作。

[主な登場人物]
伊藤野枝…婦人解放運動家。二十八年の生涯で三度〈結婚〉、七人の子を産む。
辻 潤…翻訳家。教師として野枝と出会い、恋愛関係に。
大杉 栄…アナキスト。妻と恋人がいながら野枝に強く惹かれていく。
平塚らいてう…野枝の手紙に心を動かされ『青鞜』に引き入れる。
神近市子…新聞記者。四角関係の果てに日蔭茶屋で大杉を刺す。
後藤新平…政治家。内務大臣、東京市長などを歴任。
甘粕正彦…憲兵大尉。関東大震災後、大杉・野枝らを捕縛。

【著者略歴】
村山由佳(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒。会社勤務などを経て作家デビュー。1993年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞、2003年『星々の舟』で直木賞、2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、島清恋愛文学賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 物語は、甘粕事件から始まる。

    1923年9月16日に起こった関東大震災直後のアナキストの大杉栄とその内縁の妻であった同じくアナキストの伊藤野枝、そして大杉の甥・橘宗一は、憲兵隊特高課に連行される。
    そして憲兵大尉の甘粕正彦らによって扼殺される。連行は、大杉と野枝が宗一を引き取りに行った帰り起こり、本作では、甘粕事件が主題ではないため、最後まで記されていないが、彼らは絞殺され、遺体が井戸に遺棄される。
    これが事実であるならば、当時の日本の人権、不平等、暗躍した世の中に震えが襲ってくる。

    本作は伊藤野枝の生き様を綴った作品であるが、その背景に当時の圧倒的な男性優位の社会、それよりもなお優位にたつ組織があることを強く語りかけてくる。
    そしてそんな世の中で女性が堂々と生きていく野枝の姿が、時に現代において異常と思われる傲慢な行動力に思われ引いてしまう場面もあった。それでも当時の身分により虐げられた社会で生きていくためには、信念を貫くためには野枝のように生きざる得ないのだとも理解ができる。また、傲慢かつ奔放な生き様は幼い頃からの真理、行動の延長であり、将来の歩む道へと繋げてしまうことも、読み返してみれば、暗示できる。

    野望を持って弾圧や批判に屈せず、自身の信念、野望を雄々しく外に向けて放つ姿はまるでハイエナが獲物を求めて彷徨っている様を彷彿させる。

    現代では考えられない束縛と矛盾、差別をこの一冊で体験できた。

    かなり分厚い本で途中、野枝の思想、理念、行動が嫌味に感じるところもあるが、ほんの100年も経っていない当時の動きとそこでもがく人々の心理を感じることができた。

  • アナキスト伊藤野枝の評伝。
    村山由佳による650ページの大作。
    明治、大正を生きた婦人解放運動家であり、また恋多き女性であり、ノエの生き様が強烈。また、ノエを取り巻く人々が個性あふれる。
    瀬戸内寂聴も「美は乱調にあり」「階調は偽りなり」でも野枝と大杉栄について書いているが、わたしは瀬戸内寂聴の評伝のほうが好きだ。
    今度は阿部貞を書いた「二人きり」を読まないと。

  • 婦人解放運動家・伊藤野枝の生涯をえがく。

    第55回吉川英治文学賞受賞作。

    自分の意志を無視し、男たちにあれこれ決められることに、徹底抗戦していく野枝。
    その逞しさには、目を見張るものがあった。

    平塚らいてう、『青鞜』関係者、アナキストである夫の大杉栄、その仲間たち。

    さまざまな人々とのかかわりを通し、野枝のことだけではなく、女性の人権と社会主義運動のこまごました歴史が描かれていて、読み応えがある。

    〈自由恋愛〉と称し、おたがいに経済上独立する、とわざわざ女性に同意させておきながら、自分と正妻と愛人の生活費を、別の愛人にたかる大杉栄の身勝手さには、反吐が出た。

  • 「いい意味で自由で動物的で、あんなふうに嵐を求めるように生きられたらいいなと憧れました」作家・村山由佳インタビュー | 集英社 文芸ステーション
    https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/murayamayuka/

    風よ あらしよ/村山 由佳 | 集英社の本 公式
    https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771722-8

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      いろんな人生がある!女性による女性の「評伝」がアツい | Web eclat | 50代女性のためのファッション、ビューティ、ライフスタイル...
      いろんな人生がある!女性による女性の「評伝」がアツい | Web eclat | 50代女性のためのファッション、ビューティ、ライフスタイル最新情報(2021年3月13日)
      https://eclat.hpplus.jp/article/67413/03/
      2023/01/23
  • 本作は、20世紀初頭に活躍した婦人解放運動家である伊藤野枝の一生を描いた作品。伊藤野枝という人物については全く知らず、先入観なく読むことが出来たのだが、このような激動の人生を歩んだ女性が大正の時代にいたのかと思うと非常に驚いた。

    実在の人物を描いた小説ではあるものの、伝記的な内容ではなく、作者は女性の活躍がまだまだ抑圧されていた明治・大正の時代に自分の意志のままに躍動する野枝の姿を生き生きと描いている。作者の綿密な調査に裏付けされたであろう野枝や野枝を取り巻く人々の赤裸々な感情も描かれていて、小説として読み応えのある内容になっている。

    無政府主義という考え方自体に共感は出来ないのだが、一人の自立した女性として、同志でもある夫大杉栄と共に短い人生を走り抜けた彼女の生涯について、読後に深く考えさせられた。

  • 村山由佳の風よあらしよを読みました。
    主人公の伊藤野枝は、貧乏で学校に行けないのを裕福な伯父を頼って学校に行かせて貰います。
    卒業して直ぐ結婚させられそうになったのを恩師と結婚、それが原因で学校を辞めさせられた夫に全ての事を教えられるも貪欲に勉強する野枝は、物足りなくなり無政府主義の大杉と知り合いともに貧困の生活をしながら国家権力と戦っています。
    今でこそ春闘とかメーデーは春の恒例行事のようになっていますが、こうして戦って亡くなった人も居たのだと思いました。
    映画になって欲しいですね。
    それにしても651ページは長くて重かった。

  • 長編好きとはいえ650ページ越えに怯んだけど、読んでよかった。
    伊藤野枝さんには賛否両論あろうけど、この時代にこれだけ強く生きれた女性で常人ではないと言うことは確かなんだろうな。
    政治思想など、難しい場面もたくさんあって学生の時の社会の勉強をしてるような気分になるけど、伊藤野枝も大杉栄も全て実在のほぼノンフィクションのようなものでグイグイ引き込まれる。実際の事件の概要や周りに出てくる人のこともネットで調べながら読み進めたので時間はかかったけど、実際にその時代のその場所に居て隣に野枝さんがいるような気持ちになった。
    野枝さんの生家は地元なので、今度機会があれば行ってみたい。こんなに強い、自分に真っ直ぐな女性が同じ福岡の出身というだけで誇らしい気持ちになった。
    最期のシーンはショッキングで息がつまり涙が出た。
    最後まで鳥肌が立つ読み応えのある本だった。

  • 伊藤野枝と大杉栄を村山由佳が描く。
    なんと魅力的なシチュエーションなんだ!と思って読んだのだが。

    史実を調べ尽くした上で書かれたものに違いないので、村山由佳さんが描く二人の人物像は限りなく真実に近いのでは、と思う。その矛盾の多い、計り知れない二人に魅力を感じて描いたのだと思う。

    しかし、どうしても、この二人に魅力を感じなかった…。いやいや、そんな筈はない、読み進めるうちに、いつか二人の離れがたい関係性に共感し、ファンになるのだろうと信じて読み続けたのだが…。
    誰もが知る最後の殺され方は、壮絶であるし、7歳の子どもまで殺した甘粕が後の世にまで悪党として名を馳せるのも納得できる。
    そこが二人を伝説にしたのだと思う。

    悔しいことに作者の描く大杉栄という男の世界に「乗る」ことができなかった。
    小説だからイメージがわかないのでは?と、映画化されたとして、誰なら適役か、考えてみた。うーん。役所広司?彼ならこの振り幅の広い役を魅力的に演じてくれるかも。でもそれは、役所広司の演技の魅力であって、大杉栄の魅力なのか?
    とグダグダ考えながら読んだ。

    大杉栄の狡さが、どうしても人間の深淵さに結びつかないのだ。こんな男、現代にもいるではないか?
    伊藤野枝の大杉栄への愛は紛うことなき本物の愛だろう。しかし、それは「思想」であったのか?
    伊藤野枝の死後、らいてうが「彼女はついぞ思想というものを持たなかった」と評した。多くのインテリ女性が、自分にも内包するであろう弱点を、伊藤野枝の中に見て歯噛みし、忌避したのではないか。
    自分が同時代に生きていたなら?
    伊藤野枝を他の女同様同じように冷ややかに見ただろう。そして、その有無を言わさぬエネルギーに圧倒され嫉妬もしただろう。

    しかし、もし伊藤野枝が大杉栄を踏み越えていたなら?
    その時は伊藤野枝を揶揄した女たちが皆、自分たちを乗り越えた存在として、リスペクトに転じたのではないだろうか?与謝野晶子が与謝野鉄幹を乗り越えたように。

    それを見ることなく二人は虐殺されてしまった。

    もしかしたら、作者は、そのように描くべくして描いたのかもしれない。


    登場人物に魅力や共感を感じることが出来ずに読むということは、なかなか辛いことではある。

    瀬戸内寂聴はどう描いたのだろうか?「美は乱調にあり」を読めば、もしかしたら、私の伊藤野枝と大杉栄像は変わるだろうか?

  • 壮絶な人生を歩んでいった人々の人生を垣間見ることができた。
    国や社会のことを真剣に考えて行動するということは、本当に難しいことなのであろう。

  • いままでに村山由佳の作品はたくさん読んできた。
    個人的に文体がすごく好み。自分にとってスッと入ってくるから。
    それは、ダブルファンタジーあたりで作品の雰囲気がちょっと変化したときでもかわらない。
    とにかく自分にとって村山由佳の文体が1番読みやすい。

    そんな村山由佳が、伊藤野枝を書く。衝撃的であると同時にとにかく読みたいと思った。
    伊藤野枝は日本史を勉強したときに興味が湧いて、少し調べたことがあった。なかなかに波瀾万丈な人生であり、また四角関係は凄まじいなと感じていた。

    その人物を村山由佳が書く。どう描くのだろう。
    そして、待ち望んだ作品をみたら600ページごえの大作……。
    すぐには読めずまとまった時間が取れた今読むことができた。

    読んで本当によかったと思えるものだった。

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著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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