灯台からの響き

著者 :
  • 集英社
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感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717013

作品紹介・あらすじ

本の間から見つかった、亡き妻宛ての古いハガキ。
妻の知られざる過去を追い、男は灯台を巡る旅に出る。
人生の意味を知る傑作長編。

地方紙連載、待望の書籍化!

【著者略歴】
宮本輝(みやもと・てる)
1947年兵庫県生まれ。77年「泥の河」で太宰治賞、78年「螢川」で芥川賞を受賞。87年『優駿』で吉川英治文学賞を受賞。2004年『約束の冬』で芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、09年『骸骨ビルの庭』で司馬遼太郎賞を受賞。著作に、「流転の海」シリーズ、『水のかたち』『田園発 港行き自転車』『草花たちの静かな誓い』など。10年秋、紫綬褒章受章。

感想・レビュー・書評

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  •  主人公(牧野康平)は、高校を中退し家業の中華そば屋の跡継ぎをしていたところ近所に住む幼馴染のカンちゃん(倉木寛治)から衝撃的なことを言われた。それは『お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。お前が知っているのはラーメンのことだけなんだ。じゃあ職人と呼ばれる職業の人間はみんなおもしろくないのか、そうじゃないよ。牧野康平という人間がおもしろくないんだ。それはなぁ、お前に『雑学』てものがみについてないからさ。(以下省略)』
     そのカンちゃんは、就職先の転勤で大阪へ行ってしまった。

    「牧野康平という人間がおもしろくない」と言われて気分が良くないが、どうしていいのかわからない。ある日、店の常連客(清瀬五郎・元高校の数学教師)に、本を読みたいのだが、なにを読めばいいのかわからないと言った。でも、ちゃんとした本を読みたい、と。清瀬から紹介された何冊かの本の中に、森鴎外の『渋江抽斎』があった。実在の人物で江戸時代の学者、周りにいた人々の履歴等が書かれている史伝がおもしろくない。(宮本輝さんの愛読書)。

     何回その本を放り出そうとしたかしれない。以下抜粋『だが最後の数ページにさしかかったとき、康平は、一人の人間が生まれてから死ぬまでには、これほど多くの他者の無償の愛情や労苦や運命までもがかかわっているのかと、粛然と身をただすようになっていた』。宮本先生の「灯台からの響き」のメインテーマはそのことであろうと思う。

     康平は、妻(蘭子)が亡くなって二年、彼の書斎で本に挟んでいた一枚の灯台の絵が描かれた葉書が見つかったところから物語が始まる。宛名は蘭子で、三十年前に届いていた。差出人は、「小坂真砂雄」と書いていた。当時、蘭子に尋ねてみても知らない人だという。蘭子は見知らぬ相手に返事を書いたが、宛先不明で戻ってくることはなかった。

     蘭子との四十年の夫婦関係は充実していた。蘭子には何の不満もない。娘一人、息子二人を立派に育て上げ大学にまで行かせたのだ。しかも親父から引継いだ店の手伝いは妻なくしては語れない。

     一枚の絵葉書がきっかけで、灯台に興味を持った康平は、亡き妻の過去を追い地方の灯台巡りの旅に出る。幾多の事情で閉店していた中華そば屋を再開店する障壁はあったものの実現するまでの過程で、いくつもの小さな幸福を感じた。そして納得できる言葉が随所に輝いていた。
     実におもしろい。

  • 板橋で中華そば屋を営む店主が、偶然本に挟まった亡き妻あてのハガキを見つけたことをきっかけに灯台巡りの旅に出る話。

    60歳を超えた主人公と家族や商店街の友達、若者との交流や人情を通して、人は老いてからの人生をいかに生きて行くべきかについて、考えさせられる内容だった。

    灯台というものにこれまで興味がなかったのだが、今度機会があったら是非見に行ってみたい。

  • ネタバレ込みで感想を三つ。

    一つ目。旅に出たくなったー。
    一人だとレンタカーは考えていなかったけど
    それもいいかもと思い始めました。
    でも最近またコロナ患者が増えて
    日本医師会は「第3波と考えていい」と
    警鐘を鳴らしているとのことで、
    いつになるのか…。

    二つ目。蘭子さんは偉いです。
    もし自分だったら?
    中学時代の自分を思い浮かべたら
    もし悪いのが自分だったとしても
    他人のせいにしたかも…と思いました。

    三つ目。
    私の父はもう10年以上前に亡くなりましたが
    母より父が先で良かったとずっと思っていました。
    父は家事何もしないし、母が亡くなったら
    きっと精神的ダメージが酷いだろうと。

    でもこの本を読んだら、案外そうでもないかも…と。
    主人公は娘と二人暮らしで結構楽しそう。
    私は子どもの頃、酒乱の父が嫌だったけど
    自分が大人になって呑むようになったら
    父とは良い飲み友達になりました。
    「お父さん、スーパーでサラダと刺身が安かったから
    今日のツマミはこれね」
    「おう、そうか。皿にいれないで、トレーのままでいいよ」
    なあんてね。

    〈朱美は(中略)
    「お父さん、もう駄目よ」
    と焼酎のコップを取りあげて、自分は四合目の
    熱燗を註文した。
    「お前こそ、もうやめとけ。飲み過ぎだよ。
    おでんかおにぎりにしろ」〉
    こんなことがあるのかな。
    我々は止められない父娘だったけど。

    最後に主人公康平が灯台を見ながら言った言葉を
    一つメモしておきます。
    「威風堂々と生きたいな。
    焦ったって、怖がったって、逃げたって、
    悩みが解決するわけじゃないんだからな。
    こつこつと、ひとつひとつ、焦らず怯えず、
    難問を解決していく。
    俺はそういう人間になるために、
    いまから努力するよ」

  • 宮本輝さんの直近新作(2020年9月)。

    夫婦力を合わせて営んできた中華そば屋の妻が突然病気で亡くなった。残された夫は自分が知り得なかった妻の子ども時代の足跡をたどり、妻の人となりを知ることとなる。

    身近な人の死や病気などの人生に必ずついて回る喪失について、過剰に物語を動かさず、人間の心の機微を文字にする宮本輝さんの作品の大ファン。

    期待が大きかったのか、本作については残念な読後感。

    主人公の中華そば屋の康平のパーソナリティや細やかな心情があまり統合されていない印象で、途中から登場する登場人物たちの各々背景や人格によって、さらに焦点が曖昧になってしまった印象。

    康平の喪失感にもっとスポットライトを当ててほしかったところ。そのためには妻の在りし日の様子や、康平との関わりのディテールも加えてほしいな。

    2019年10月に静岡の沼津市民講座に伺い、宮本輝さんと新潮社中瀬ゆかりさんのトーク会に参加しました。
    幸運にも最前列でお話を伺うことができました。

    確か、取材でどちらかに足を運んだところ、ぬれ落ち葉に足を滑らせ、手をついて骨折をしてしまったというようなエピソードをお話されていました。
    本作の主人公康平に同様の場面が詳しく描かれ、思い出したところ。
    私、沼津まで一人で行ったんだなあ。随分昔のことのように感じます。


    講演会や旅行、外食、人と逢うこと…。嗚呼、そんな日がまた手にできますように。

  • 積読本の間にはさまれた1枚のハガキの謎を手がかりに、妻を亡くした60代の男が再生していく姿を描く。読み始める前はロード・ノベルかと思ったが全然違うし、ミステリーっぽい“ハガキの謎”も比重はさほど高くはない。特にメリハリがあるわけでもない初老の男の日常が描かれているだけなのに、400ページを飽きずに読ませてしまうのはさすがだなあ。読み終わっての結論。これは究極の恋愛小説である。

  • 灯台が気になる。灯台めぐりも楽しそう。紹介されている灯台の本を片手に読みました。

    謎の葉書をめぐるミステリーにはなっていますが、人生を考えさせられる本でした。
    自分の仲間、家族...どう対峙するのが正解かはないと思いますが、何か心に引っかかるものが得られると思いました。

  • 前回の読書会でなんとなく借りて帰った、わたしにとって初めて読む宮本輝作品。お名前と著者名は数冊知っていたけど、今まで手に取ることはなかった作家さん。漠然と美しい日本の小説を書く人(知っていたタイトル名からの推察)と思っていたが、そのイメージはあっていた。

    主人公は、板橋の商店街で父の代から続く中華そば屋の店主。2年前に長年一緒に店を切り盛りしていた妻に先立たれ、それ以来現在までお店をお休みしている。30年前に届いた妻宛ての謎の葉書が蔵書している本の間から出てくるところから物語は始まるのだが、
    …いやぁ…味わい深い物語だった。
    一見するととても地味なんだけど、
    読んでいる間中、なぜかふんわり幸せな気分になる小説。
    これってわたしだけかな?

    なんでもなさそうな日常の中から、小さなさざなみが立ち上がって消えて、悲しんだり、傷ついたり、喜んだり、怒ったりしながら日々を紡いでいく。
    ひとりひとりの人生は、ささいな出会いや別れ、小さなアクシデントから積み重ねられてその人なりの味になるんだなぁ…と当たり前ながら改めて思わされる内容だった。

    それにしても去年出雲に行った時に、日御碕灯台に行かなかったことが悔やまれるな。
    まあでも、この小説を読んで、あの時行かなかったことを悔やむこの経験も、
    今から先、もしかしたらまた訪れるかもしれない可能性を孕んだわたしの人生のわずかな彩りになるのかも、と思えばちょっと痛快。




  • 読み終わった後、『灯台からの響き』というこの小説のタイトルが、私を灯りで照らしているような気がしました。

    30年前に亡き妻宛に届いた、"灯台"が描かれている葉書を見つけたのがきっかけで、妻を失ってから引きこもり同然の生活をしていた初老の主人公が、灯台巡りの旅に出かける。
    旅をしている内に前に進むようになり、葉書に描かれていた灯台が何かのメッセージのような気がした康平が、どうしてこの葉書が妻に届いたのか解明することで、自分の知らない妻の人生を知る事になった。何気なくただ中華そば屋の女将として生きてきたかのように思えた妻に、こんな過去があった。それは1人の少年の人生を救う過去だった。
    太陽が沈んでから点灯し、暗闇の海を航行している船に光を届ける灯台のように、人は人が知らない間に人を救っている。そして一生の間に、たくさんの人が関わっている。すごく心に響くものがありました。まさに、「灯台からの響き」です。
    また、初老の男性が成長し再生する姿も響きました。なんだか安心して、救われたような気がします。

    たまに灯台を見に行ってみるのもいいかなぁって思いました。
    素敵な一冊でした。

  • 毎日少しずつ、慈しむように読み進めてきましたが、今日ついに読み終えてしまいました。

    こうやってまた新たな作品に出会えたことを、僥倖と言わずになんと言おうか、という心境ですね。

  • 中華そば『まきの』を営む康平。2年前に亡くなった妻宛の葉書を小説の中から見つけ、灯台巡りの旅にでる。旅をする事と関わっていく人達により、妻の人生、生き方が見えてくる。人としての大きさが康平の妻、蘭子凄いなぁ。読んでいて、心が暖まる。いろんな灯台が出てくるので、グクって写真で見てみたり、楽しく読めた。読後感は、ウルっときながらも、ほんわかと心が綺麗になる感じ(*´艸`*)ァハ♪

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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