キッドの運命

著者 :
  • 集英社
3.13
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本棚登録 : 271
感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087716887

作品紹介・あらすじ

すぐそこにある未来は、こんな奇妙なものかもしれない。

廃墟化した高層マンションの老人が消えるわけ。汎用型AIが人を超えた時に起こる異変。
アグリビジネスから逃れた種の行き先――。
『小さいおうち』『長いお別れ』の著者が贈る、初の近未来小説。

とつぜんあの女があらわれた日は、雷鳴が鳴り響き、雹がばらばら降った日だった。しかも、あろうことか彼女は海からやってきたのだ。ドーニを一人で操縦して――「キッドの運命」

十四歳のミラは、東洋人の祖母が暮らす田舎で夏休みを過ごす。おばあさんばかりがいるその集落には、ある秘密があって――「種の名前」

人工多能性幹細胞から作った子宮? ぼくは、寝起きの顔をぶん殴られたような衝撃を受けた――「赤ちゃん泥棒」 他、全6編。

【著者プロフィール】
中島京子(なかじま・きょうこ)
1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務ののち、フリーライターに。米国滞在を経て、2003年『FUTON』で小説家としてデビューする。10年、『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞、14年『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞を受賞。15年、『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞、第4回歴史時代作家クラブ賞作品賞、第28回柴田錬三郎賞の三冠を達成し、同年『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞、第5回日本医療小説大賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • SF苦手〜
    ごめんなさい。

    赤ちゃん泥棒は、まあまあ好きだったけど。


    でも、これがあればいいなあって思うこともたくさん出てきてちょっと羨ましかった。

  • 2度の原発事故で、人間の暮らせる場所が減った日本だったり。
    体外受精はもちろん、人工子宮も当たり前に使われたり。
    人間より賢い、汎用型人工知能が可能になったり。

    近未来を舞台にした短編集。

    「種の名前」がよかった。
    家電でも種でも、なんにでも名前を付ける、瑠璃おばあちゃん。
    そのネーミングセンスがたのしく、名付け方に愛情が感じられ、ほっこり。
    孫のミラとの距離感も心地よかった。

  • 著者初の近未来小説とのことだが、それを意識しないで読んだので、何となく違和感が感じられた。しかし内容はとても面白く、著者の新境地が体験できて良かった。

  • 「ベンジャミン」「ふたたび自然に戻るとき」「キッドの運命」を読んだところで嘆息した。本や映画が、近未来をユートピアでなくディストピアとして思い描くようになった転換期はいつからだったろうか・・・。初めて中島京子さんが近未来に取り組んだ作品は6話の短編集。作品に共通するのは、日本は2度の原発事故に遭い列島の半分が沈没し首都は福岡となる設定だった。そう来て当たり前だろうと実感できるのが悲しい。3作読んだところで読むのを控えようかと迷った。
    でも4つ目の「種の名前」で踏ん張れた。
    主人公・ミラは母親を日本人に持つアメリカに住む十四歳の少女。日本の田舎に住む祖母を訪ねる。深い森に老女たちが農業をしながら共に暮らしている。瑠璃おばあちゃんは細い腕には自動翻訳機付き通信機、腰から下には運動補助機能ロボットを付けていて歩行が楽そう。実は私も年を取って足腰が弱くなったら少々値が張っても補助ロボットを買い山に登ろうと計画しているので少し気持ちが上向きになれた。家には介護ロボットがいて”お清”とお祖母ちゃんは呼んでいる。名前を付ける事で、機械が生活の中に溶け込み人間と機械との関係が温かく感じられた。
    次の1編「赤ちゃん泥棒」には、生殖技術が発達した未に人工子宮が一般化した世界が現れ、ゲイカップルや高齢者夫婦の出産・子育てへの道が開かれている。妊娠した妻が勝手に堕胎。憤慨した夫は人工子宮手術を受けて子供を産むというストーリー展開。凍結した卵子や精子を体外受精して受精卵を子宮に戻すのは”今は昔”なのだとつくづく思わされます。
    最後の「チョイス」は安楽死を扱った話。
    星新一のSFショートは読み辛い私ですが、本作はそれなりに愉しめました。

  • 近未来の短編集。
    思っていたより近い未来の話で、実際にこんな風になるのかなと思った。
    その様子がちょっと奇妙なものなので、読後感はあまり良くないかも。
    「種の名前」は好きだった。

  • 近未来小説の六作品が収録された短編集。
    どの作品も「奇想天外な未来」ではなく、現代から予測できる将来、未来を描いており、「あり得る未来」ではないかと思わせる内容だ。
    単なる未来を面白おかしく描くのではなく、小説として登場人物たちの心情等を丁寧に描き、読者を小説世界へと導く。さすが中島京子だという作品。

  • 6つの近未来短編。どう紹介すべきか、かなり困ってしまいます。
    共通した背景は2度目の地震と原発事故によって壊滅しつつある日本。それをベースに各短編で遺伝子工学、生殖技術、ロボット、AIなどを扱います。各短編の世界感のつながりは極めて弱く、背景だけは共通。その為に却って中途半端感が有ります。
    全体的には技術革新に対してネガティブなディストピア小説です。とは言え、優れたSF小説の様に一つの近未来を構築して見せるようなリアリティは無く、寓話という見方でも強いメッセージ性を感じられません。中島さん自身がインタビューで言っているように「ふだん目にする情報や身近な話題の中からひっかかってくるものを」テーマに「自分の心配や、あるいは若干の希望を織り込みながら、『こんな未来を考えてみた』」という作品です。そうなるとSFでとも言えず、さらに中途半端な感じがします。その上に基本的にディストピアを描いているため、中島さんの最大の長所と言うべき「不思議な可笑し味」があまり出て来なのです。
    と言うわけで、それなりに面白く読めるのだけど掴み所の無い作品。そんな感想です。

  • R6/2/14

  • 原発事故により日本が滅びた近未来が舞台の短編6本

    「ベンジャミン」
    チサとユーゴは、田舎の動物園の園長であるお父さんと暮らしている。チサとお父さんは似ているが、ユーゴだけが似ていない。
    動物園のスターアニマルは「ベンジャミン」
    スターと言っても、他に動物園らしい動物がおらず、消去法でスターの位置に君臨しているに過ぎないが、2人にとっては特別な動物だった。
    来園者のいない動物園では、動物たちと3人での生活だが、チサも進学で島を出て、父親と2人きりの生活が始まる。
    父の説明から「ベンジャミン」が20世紀に絶滅したフクロオオカミという種を復活させた生き物なのだと判明するが、話の核心はそこではない様子。言い難い秘密を告白することへの葛藤から、常用していたクスリの過剰摂取により、お父さんは死んでしまう。
    大学から帰ってきたチサにより、真相がユーゴに告げられるが……。
    結果、冒頭で母が父に吐いた「ひとりよがりで、頭のネジが外れていて、まともな人間ではない」の言は何よりも核心をついていたことが判明する。

    「ふたたび自然に戻るとき」
    原発事故のため、首都近郊がゴーストタウンと化した未来。緑化の流行時に建てられた多くのタワマンは廃墟となり、緑のタワーへと変貌していた。そんな廃墟にも僅かに人影があり、その多くは地方へ避難しなかった不法滞在者だった。
    そんな廃墟マンションをモニターで遠隔管理する会社へ就職したレナ。自分が担当する廃墟マンションでは老人が忽然と姿を消すという都市伝説があることを同僚から聞かされる。その消えた老人のひとりはカラスと友情を育んでいたようで……。
    この章、前半必要?導入や対比にしては世界観構築しすぎで長いような気が……そこにあるかもしれない意味をいまいち掴みきれていない。
    2ページ程度の導入からの、人も社会もなんやかんやで自然に還るっていう後半メインではいかんのか。

    「キッドの運命」
    主観は「俺」ことキッド。
    旧式ロボット「日本人」を作る違法工場を営む九十過ぎのじいちゃん、「日本人」を組み立てる「日本人たち」、そして区分Dであるこの集落の数少ない住人たち。
    この小さなコミュニティに、ある日突然、冒険家を名乗る赤毛の女が現れた。テルマと名乗ったその女は、冒険を続ける費用を稼ぐため、世界中で様々な仕事を請け負うという。
    テルマに強烈な魅力を感じるキッドだが…。
    24年後っていう、物語上で「未来」と呼ぶには「現在」との地続き感が強い未来が舞台。おそらくどのストーリーも同じ世界観で描かれているが、具体的な情勢や年号が登場。
    2度目の原発事故で消滅した日本という国の名残が「日本人」。いや、旧式ロボットの描写が世界の中のジャパニーズビジョンと完全に重なってて強烈な皮肉感。
    そんなじいちゃんや日本人たちを脇へどけといてのっそり起き上がるメインテーマは人工知能。うーん。キッドの運命やいかに。

    「種の名前」
    初めてきちんと希望らしい希望を感じるストーリー。
    父の都合で9月の年度変わりには転校を余儀なくされている14歳の女の子ミラが主人公。移住先のヒューストンでは、父と、父の新しいガールフレンドで未来の継母になるかもしれない女との新生活が待っているが、ミラは決して乗り気ではない。
    ささやかな抵抗として、移住前最後の夏休みは、行ったこともない父曰く「ひどい田舎」と形容される母方の祖母「瑠璃」のもとで過ごすことにしたミラ。瑠璃の娘であるミラの母はホテルの火事に巻き込まれ他界している。
    生活補助ロボットや運動機能補助ロボットが普通に登場するものの、瑠璃が暮らすその集落は、住人が老女のみという姥捨山然とした世界。娘を失った失意の瑠璃が、世を捨ててたどり着いた場所だった。
    しかし、ミラを迎え入れてくれたその集落の真の姿は、失われた日本の食文化を復活させた秘密のコミュニティ。
    日本の原風景を彷彿とさせる「奇跡の畑」で密かに自給自足を営み、天寿を全うすれば、少ない仲間に見送られ、自然へと還ってゆく満ち足りた世界。
    祖母とのひと夏の思い出と琺瑯入りのコメノコウジミソマロを抱えて、希望の持てない新生活に立ち向かうミラの背中には、冒頭には感じなかった可能性の翼を見てしまうようなあたたかい読後感。
    この桃太郎はあの桃太郎なのだろうか……。

    「赤ちゃん泥棒」
    この本で一番未来を感じた話かもしれない。
    出産に関わる一切が体外で完結できるようになった未来。卵子や子宮も「作る」ことができ、ゲイカップルや高齢の夫婦でも2人で完結する出産が可能になった時代。
    主観である男性と妻である女性は計画にない自然妊娠をしてしまい、出産に対する考え方の相違から離婚するに至る。
    出産を希望する男性に対し、無断で女性は堕胎してしまう。これを「赤ちゃん泥棒」だと激怒した男性は、結婚したときに生殖バンクに預けていた妻の卵子を無断使用して、自身の体内(胎内)で妊娠するという手段をとることに。
    体外子宮を用いた場合、強制堕胎という手段を取られる恐れがあり、二度も我が子を奪われることを恐れたが故の大胆行動だったが、資金調達のために執筆した体験レポ漫画が原因で、結局妻にバレてしまう。
    卵子泥棒だと怒り狂う妻は訴訟も辞さないと怒鳴り込んできたが、それに対し盗まれたものを取り返したのだと応戦する身重の男性。
    妻を部屋から追い出した男性は過度の興奮のため倒れてしまう。
    目覚めた病院のベッドで、子供はどうなったのかと問うが、ナースロボットはプログラムされた処置だけを行い去っていく。
    場面は変わり、これまでの話が回顧録であったことが明かされ、一人称が「僕ら」に変化する。あの大喧嘩の後、再び部屋を訪れた元妻とよりを戻した男性は、無事第一子を出産し、現在2人目を妊娠中。高額の人工子宮を再利用できたのでした。
    一番の未来感に加え、予想外のベストほっこり感。そして現代社会が抱えるジェンダー問題の三分の一くらいはこの未来が解決してくれる気もする。
    他の話のような原発による日本の消滅には触れられていなかったような。

    「チョイス」
    人類がユニットという単位で共生する未来。家族ユニット、シェアハウス型ユニット、会社型ユニットなど様々な形があるが、ユニットを選択しないシングルセルという生き方もある。
    現状の家族型ユニットから進路を選択する18歳を2年後に控えた少女がこの物語の主観。ユニットの構成員、つまり遺伝子的繋がりのない家族を少女が紹介する形で、この世界の現状が明かされる。
    ユニットよりももっと大きな構成単位として「層」が存在しており、労働をせず、好きなことをして生きる自由な「U層」
    元来の意味として「ユースレス=役立たず」のUを冠するこの層に少女は属している。
    そして富豪を意味する「P層」
    主観がU層であるため、Pについての情報は多くないものの、U層がマジョリティであるという発言があることを考慮すると、選ばれた人間だけが属しているという意味においては「B層」と人口的には変わらないのだろうか。
    労働の時代を過去の暗黒としつつも、官僚としてシステム管理を担う「B層」は登用試験があり、ごく少ない人材が属している。
    そして異質な「A層」
    地球には未来がなく、地球にとっても人類は害を及ぼす生き物でしかないと、この星を離脱した人々を指す。
    そしてタイトルの「チョイス」
    医療の発達により自然死と縁遠くなってしまった人類に与えられた、自己選択の「安楽死」サプリメント。選択した期日に向けて、苦しみや痛みのないままに、少しずつ死んでゆける夢のお薬。
    家族型ユニットに所属しつつヒキコモリの形態を選択している少女の兄が、このチョイスについて闇深な発言をして終わる……
    いや、情報量多いのに何もわからない……。他の章とからんでるのか?いや、でももう疲れて読み返す気が起きない……。親切な解説を漁りたいと思います。
    苦役の時代を生きる我々に乾杯。

    面白くないわけでもないし、近未来物にしては変なリアリティと奇想天外が共存する不思議な読み心地。
    しかし短編だからっていうこと抜きにしても、先が気になって手が伸びてしまうタイプでもない。
    読み終わって、ため息ついちゃった。

  • 中島京子さんに求めるものではなかったかも
    大いなる皮肉を感じた

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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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