- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087716641
作品紹介・あらすじ
みんな、普通の人だった──。作家・浅田次郎のライフワークである「戦争」をテーマにした短編集。名もなき一般市民の目線から、戦中戦後の東京の風景を描き出す。人情ドラマが光る全6編。
感想・レビュー・書評
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毎年夏になると、戦争関連の本を読むことにしている。
例年ノンフィクションを選択してきたが、今年は小説にしてみた。
浅田次郎さんなら外しはないだろうと予想はしていたが、これはやられた。
涙腺が弱いものだから、最初の話の4ページ目でもう涙・涙。
「帰郷」「鉄の沈黙」「夜の遊園地」「不寝番」「金鵄のもとに」「無言歌」の6編。
表題作は戦後の闇市が舞台で、復員兵と娼婦の出会いから始まる。
南方戦線から帰還した兵士はすでに戦死したことになっており、妻は弟と再婚して子供まで設けていることを知らされる。
帰りたい。だが帰れない故郷。
命を賭けて戦い、生き延びて帰還しても、また辛い人生を生きねばならない。
地主の跡取り、勤め人、商人、エンジニア、淡い恋をしていた学生、様々な立場の人間が登場するが、戦線で散った兵士たちの物語が必ず背景にある。
浅田さんの創作の部分もあるだろうが、どれもモデルケースが数多あったことだろう。
ひとの数だけ、戦争の姿があった。
その中で捨てられぬ矜持もあれば、生きぬくために捨てるものもあった。
どれも、激烈な戦いを描いているわけではない。
そして、ジャングルの中や凍土の下に埋もれてゆえなく死んでいった何百万人もの兵士と自分たちには、紛れもなく繋がる血脈があったことを、確認させられる。
同じ人間。同じ国のひと。同じように暮らし、同じような感情を抱いていたということ。
ぬくぬくと平穏無事に生きることを良しとする今の私たちに、戦時下では同胞の肉を食べたとか、戦後は傷病兵の偽装工作をしたとかで、どうして彼らを責められるだろう。
恬淡と死に向かっていった兵士たちの前で、自分には語れるものがあるのかと恥じ入るばかりだ。
鎮魂。そして非戦。それのみをただ思う。
開業したての後楽園遊園地を舞台にした「夜の遊園地」。
自衛隊の競技会前夜の不思議な出来事を描く「不寝番」。
故障した特殊潜航艇の艦内でふたりが見る夢の「無言歌」が特に良かった。
流した涙のあとが明るいのは「帰郷」のラストの力かもしれない。
浅田さん、上手いなぁ。この表紙も、とても良い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「短篇工場」でこの中の1編を読んでからすぐに購入したのに、表題作「帰郷」を読んだ後読み進められずにいました。
戦争によって引き裂かれ壊された、名も無き人たちの運命。
悲惨な戦争に駆り出されてきたのは普通の生活を営んでいた心優しき教師や自転車屋や職人、学生たち。きっと今、わたしたちの目の前にいる若者やおじさん達と同じ。
直接的な表現は無くても、その凄惨さ、例え生きて帰れたとしても、その地獄に胸が締め付けられ、とても苦しくて読み進めるのに非常に苦労しました。
本書で初めて「磔部隊」という言葉を知り、調べてみたところ「神風特攻隊」や「人間魚雷」、「人間爆弾」と同じ残酷な発想のもと犠牲になった人達だと知りました。
ジャングルの中や船倉の底や、凍土の下に埋もれていった、「人倫に悖る行為」をし、処刑された、まだ息のある兵隊に湧いた蛆を、自らの身体に湧いた蛆を、貴重な蛋白源として食べた、「僕を、あなたの腹におさめて、国に連れ帰ってください」と言い残した、名もなき人々の筆舌に尽くし難い犠牲の上に、今の私たちの国があるのだと、忘れてはならないと、語り継がねばならないと強く思いました。
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戦争によってもたらされた悲劇は人の数だけある。この作品を読んで改めて、犠牲になったひとりひとりに人生があり、夢があり、その人生や夢を思いました。著者である浅田次郎先生は、「戦争は暗くて重たいけど、目を背けたらいけない」とおっしゃってますが、この作品はファンタジーも取り入れられているので、そんなに重たくありませんでした。
浅田先生がおっしゃるように、戦争は暗く重たくて、目を背けたくなるけど、目を背けてはいけないと私も思います。平和な時代の今こそ、戦争で起きたあらゆる悲劇を想像すること、犠牲になっていったひとりひとりの人生というものを考える必要があると思います。
この『帰郷』という作品は、その想像力を働かせてくれる、是非、手にとって読んでほしい作品です。 -
地獄の戦場を生き延びて敗戦国・日本に帰り着いた兵士が、癒されることのない心の傷を背負いながら、運命の出会いがもたらした「生きる」ことへの矜持が切々と語られる『帰郷』が胸に沁み入ります。浅田次郎が人々の心に及ぼす戦争の無惨さを描いた、表題作を含む六つの短編集です。
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短編6編からなる戦争回顧の本、平凡な男たちがどのような関わり方をしていたのか?!
タイトルになっている「帰郷」と「夜の遊園地」がなかなか良かった。いずれにせよ、割合 秀作揃いの短編集なので一日で読了した。
この類いを読むたんびに二度と戦争があってはならない と強く感じ入る。 -
図書館に返してしまったので、詳しくは書けませんが。
妻子を故郷に残し、出征した。終戦後、故郷の駅に着くも...。
戦後の自衛隊基地に、戦中の兵士が紛れ込んでしまう...。
などなど。 -
終戦間近な北方領土での「終わらない夏」で魅せた著者だけに、戦後を描いた戦争小説は秀逸。
つまらなくなりがちな短編集でも、史実とフィクションの絶妙なバランスや、読ませる構成はやっぱり著者の実力は半端ない。
特に、一作目が好きなのですが、戦後の切なさや虚しさの中、将来に向かうストーリーが秀逸。 -
戦争短編集。読みにくい作品が多かった。戦地での様子や階級など難しい。専門用語もたくさん出てきて詳しくない私には理解できず。残念。
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浅田次郎さん原作の映画は、「鉄道員」「壬生義士伝」等々いくつか見たことはあるのですが、ひょっとすると小説を読むのは初めてかもしれません。そもそも最近は、「小説」を手に取ること自体が減ってしましました。
この本は、たまたま本屋さんの文庫本の平積コーナーで目に止まったものです。戦争・軍人をモチーフにした短編集で、それぞれに感じ考えるところがある作品たちでした。映画になりそうなものもあれば、映像にするのはちょっとキツイだろなというものもありましたね。