土に贖う

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087712001

作品紹介・あらすじ

大藪春彦賞受賞第一作!
明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)
昭和初期、北見ではハッカ栽培が盛んだった。リツ子の夫は出征したまま帰らぬ人となり、日本産ハッカも衰退していく。「全く無くなるわけでない。形を変えて、また生きられる」(「翠に蔓延る」)
昭和三十五年、江別市。装鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)
昭和26年、最年少の頭目である吉正が担当している組員のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺してといてこれか」(「土に贖う」)など北海道を舞台に描かれた全7編。
これは今なお続く、産業への悼みだ――。

カバー画:久野志乃「新種の森の博物誌」

【著者略歴】
河崎秋子(かわさき・あきこ)
1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞を受賞。『颶風の王』で2014年に三浦綾子文学賞、2016年にJRA賞馬事文化賞を受賞。2019年『肉弾』で大藪春彦賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 様々な時代の北海道で夢を見た人間たちの物語。

    蛹の家(札幌市)[養蚕業]
    頸、冷える(道東の野付・茨散沼)[ミンク]
    翠に蔓延る(北見市)[ハッカ栽培]
    南北海鳥異聞(函館沖・渡島の大島)[羽毛]
    うまねむる(江別市)[蹄鉄・馬関連産業]
    土に贖う(江別市)[レンガ工場]
    温む骨(江別市)[陶芸]


    なんとも凄い一冊でした。
    時代の波に乗って金を生む仕事…大金を手にする者
    搾取される者、栄華と衰退。

    「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」
    「人の旦那殺しといてこれか」
    人々の呪詛の言葉が胸を打ちます。

    河﨑秋子作品骨太過ぎる笑
    短編とはいえない重さが…

    羽毛の為にアホウドリを取り憑かれたようにひたすら殴り殺す男達…
    絶滅の危機になるほどの乱獲…
    その描写に鳥肌がたちました…(꒪⌓︎꒪)




  • 鬱蒼とした森林だった土地を木一本、草一束から一つ一つ抜いて畑にする。
    人さえも踏み入れたことのない"無"の状態を"有"の状態へと発展させ、その土地に適した産業を自らの手で興す。
    自分達が日々を生き抜くためだけでなく、未来の子孫にも脈々と受け継がせるために。

    北海道を舞台にした7編の短編集。
    北の大地は容赦がない。
    自然の理を前に夢敗れ足掻く者も少なくないのが厳しい実情。
    それでも簡単には諦めない、先人達の開拓者精神には本当に頭が下がる。
    「しぶてえよ。でないと生きていかれない」
    先人達の持つ誇り、強かさ。
    努力して何かを産もうとする開拓者精神のない現代の我々に勝ち目はない。

    蚕、ミンク、ハッカ、羽毛、装蹄、レンガ…昔から当たり前にある産業の数々は、先人達の並々ならぬ自然との闘いの産物。
    けれどその結果は決していいことばかりではない。
    あんなに苦労したのに時代とともに廃れたもの、良かれと信じて興したことが未来で思いも寄らない事態を生んだこともまた事実。
    タイトルに付けられた『贖い』はそんな先人達への鎮魂のような気がしてならない。

  • 明治から昭和にかけて、厳寒の北海道の各地で、地を這うような地道でひたむきな人々の歩みがあった
    しぶとく、しぶとく。しぶとくないと生きていかれない労働の末に、自分たちが作ったものが世界市場の中核を成し、巨万の富で町をにぎやかに染め上げていた時代があった

    養蚕、ミンク、ハッカ油、羽毛、蹄鉄、煉瓦・・
    自分たちが絹の着物に手を通したり、ミンクの毛皮を羽織ることも、羽飾りのついた帽子をかぶることも、煉瓦造りの家に住むこともない貧しい日々の暮らしの中で生み出された産業

    しかし、これらが近代産業の柱として日本を支えたことは確かだ
    今は過去の栄光として忘れ去られようとしている
    忘れるどころか、知りもしなかった
    しかし、忘れまい

    北海道だけでなく、日本各地にその土地に根ざした人々の労働の歩みがあったはず
    衰退したものもあれば、地場産業として今に受け継がれているものもあるだろう
    ともすれば未来に繋がる技術革新に目を奪われがちだが、ひととき、こんな人々の歩みの上に今の日本が成り立っているのだということを思い起こすことができた

  • 北海道を舞台に、令和のいまとなっては衰退・消滅してしまった産業(労働)に従事していた男たちの物語。『頸、冷える』と『うまねむる』の二編に心打たれた。

  • 抗えない時代の流れの中で衰退していく産業を生業として生きた北海道の人々を描いた短編集。
    養蚕、ミンクの毛皮、ハッカ油、アホウドリの羽毛、蹄鉄、煉瓦をモチーフに、人と自然の関わりの中で人生の悲喜が丁寧に描かれている。
    自然は観賞するものでも、動物は愛玩するものでもなく、生きるという本質で関わっている。

    『颶風の王』『肉弾』そして本作品と、一貫して「生きる」とはなにか問続けられている。生きる、生き抜くことは辛く哀しく、そして尊いと。
    「贖う」とは、自ら生きるために搾取した他の生への償いの意味と同時に、代償を払ってまでも手にいれなければならない生きる哀しみなのだろうか。
    物質的豊かさを享受してきた私たちは、この「贖う」の意味を見失ってしまったのでないかと、読み終わった後も考え続けている。

  • 7編の短編集ですが、短編と呼ぶにはもったいない重厚感。よく歴史を調べて勉強されて作品に昇華されたのだなと尊敬いたします。北海道にはまだまだ題材になるものが眠っていると思います。
    誰かがいつか、こういう話を書くだろうと思っていましたが、思いがけない若い方からそういう人が出てこられた。
    今後は羊飼いをやめて、専業作家になられるとのこと。
    文章が丹精で、言葉もよく選ばれているし、方言も検証されているでしょう。タイトルのセンスも素晴らしい。並んでいるタイトルを見るだけで、この人が並みの作家でないことが伝わります。
    今まで誰も書けなかった北海道の話をこの方はまだまだこれから紡いでいくだろうと思います。これからの日本の文学を牽引する一人になっていく方だと私は感じます。

  • 明治、昭和、平成と、様々な時代の北海道を舞台に、その土地特有の産業にまつわる短篇集です。

    養蚕、ミンク、ハッカ、等、私が知らなかった産業は、当時にしたら、それで生活していかなければならない生産者たちの気持ちがある故に、仕事以上の思い入れを込めている姿に誇らしさを感じました。

    しかし、時代の流れによって、あるいは、やむにやまれぬ事情によって、どうにもならない自体に追い込まれる中を、必死に耐え忍ぶ姿が、厳寒な北海道の風景と相まって、これも人生のひとつの有り様なのだということを、実感させられました。

    内容については、バラエティに富んでいる分、好みが分かれるかもしれない。これまでの作品が連作集と長篇だったので、それらと比べると、私的にはちょっとという気持ちはありました。

  •  北海道で羊を飼っている女性が小説を書いた。北海道の「ハイジ」の話かと思って読み始めたら、「北海道」の仕事の話だった。養蚕、薄荷栽培、蹄鉄打ち、ミンクの飼育、次々と繰り出されるさまざまな「仕事」が「北海道」であるというところが、おそらくこの作品集の「肝」だと思った。
     「ゴールデン・カムイ」といい、河崎秋子といい、ああ、「女子柔道部物語」もあった、「北海道」は実に面白い。
     感想はブログに書いたので是非どうぞ。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202006020000/

  • なんとも言えない、複雑な読後感。
    力強く、泥臭く、リアリティが凄まじい。それでいて繊細な心の動きも描かれている。それぞれ7話の物語。

    過去のものとなった、数々の産業、ハッカ、レンガ、陶器。開拓と生業に使われたミンク、海鳥、馬などの動物たち。
    今なお新たな意味を持って続いている産業もあるが、過去となったものには、動物たちの悲哀が溢れている。

    ここに創作の上でのファンタジーは感じられない。いろいろなことを曖昧にしたまま生きている私には、堪え難い描写もあった。しかし、人の運命、人生、心の動きには創作の妙が随所にあって、唸らされた。どれも中編なのに重厚な読み応えがある。

    産業動物として羊を飼い、生業としてきた作者には、生き物への揺るぎない生死感があり、現実の重みがある。
    私にはそれがない。そのことを実感することは、おそらく一生できないが、小説を通じて触れることができ、考えることはできる。

    昭和40年代まで、根室、オホーツク地方には電気が来ていない場所があった。本多勝一郎の「北海道探検記」(探検、ですよ!)を読んだ時、そこに生きる人の姿に愕然とした。
    折しも高度成長期、都会ではものが溢れ始め、消費に突き進んでいた。しかし、北国では生きるために冬場の出稼ぎが当たり前だった。そのことを思い出すと、明治を描いたこの小説から、ほとんど時代の差を感じられなかった。
    消費するばかりの都会の生活を享受している我々に、強烈なカウンターパンチをくれる作者から、これからも目が離せない。デビュー作「颶風の王」、「肉弾」と、一作ごとに確かな手応えが増していくのも素晴らしい。

  • 北海道を舞台に、葬られた近代の「呼び声」綴る連作集 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/585883

    河﨑秋子『土に贖う』 | 小説丸
    https://www.shosetsu-maru.com/node/1519

    『土に贖う』著者:河﨑秋子|担当編集のテマエミソ新刊案内|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー
    http://renzaburo.jp/shinkan_list/temaemiso/190830_book01.html

    土に贖う/河崎 秋子 | 集英社の本 公式
    https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771200-1

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【著者インタビュー】河崎秋子 『土に贖う』/北海道で栄え、廃れていった産業への悼み | P+D MAGAZINE
      https://pdmag...
      【著者インタビュー】河崎秋子 『土に贖う』/北海道で栄え、廃れていった産業への悼み | P+D MAGAZINE
      https://pdmagazine.jp/today-book/book-review-603/
      2022/01/13
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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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