君が異端だった頃

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711905

作品紹介・あらすじ

恥多き君の人生に、花束を!
「誰にでも少年時代はあるが、誰もがそれに呪われている。」3月生まれの幼年期から、めくるめく修業時代を経て、『優しいサヨクのための嬉遊曲』での鮮烈なデビューへと――。「オレは必ず小説家になり、空回りと空騒ぎに終始した恥ずべき高校時代を全て書き換えてやる」と誓った高校時代。「英語とロシア語両方できれば、世界の美女の半分に自分の思いを伝えられる」とロシア語漬けの大学時代。ソビエト留学中に知り合った男性に、小説を持ち込むことを勧められ、『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー後、芥川賞候補になるも、その後5回も落選するとは想像もしなかった。そして、酒の席で知り合った文豪たち――埴谷雄高、大岡昇平、安部公房、後藤明生、古井由吉、中上健次たち――は、君に伝統を保守する正統なんか目指さずに異端のままでいよ、と教えられた。そしてその間に繰り広げられた、妻がある身の最低男による華麗なる遍歴と、不埒な煩悶に翻弄される日々……。デビューから36年を経た著者が赤裸々に物語る、自伝的青春「私」小説!


【著者略歴】
島田雅彦(しまだ・まさひこ) 1963年、東京都生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒業。在学中の83年に『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。84年『夢遊王国のための音楽』で野間文芸新人賞、92年『彼岸先生』で泉鏡花文学賞、2006年『退廃姉妹』で伊藤整文学賞、08年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞、16年『虚人の星』で毎日出版文化賞を受賞。主な著書に『徒然王子』『悪貨』『英雄はそこにいる』『傾国子女』『ニッチを探して』『暗黒寓話集』『カタストロフ・マニア』『人類最年長』など多数。現在、法政大学国際文化学部教授。

感想・レビュー・書評

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  • 島田雅彦自身の幼少期から〝青春の終わり〟まで(=作家として20代を終えるまで)が赤裸々に描かれた、話題沸騰の私小説である。

    一気読みしてしまうくらい面白かった。
    それは半分くらいまでゴシップ的面白さではあるのだが……。

    幼少期を描いた第一部「縄文時代」には、「少年小説」的な味わいがある。
    くわえて、私自身が島田とほぼ同世代(私が3歳下)であるため、思い出を構成する流行・風俗要素の多くになじみがあり、随所に懐かしさを感じた。

    第二部「南北戦争」からは、島田のモテ男ぶりがすさまじい。〝モテモテ青春ダイアリー〟的な身もフタもなさに苦笑しつつ、ページを繰る手が止まらない。

    《オレは必ず小説家になり、空回りと空騒ぎに終始した恥ずべき高校時代をすべて書き換えてやる》

    ――という、本書のカバーデザインにも用いられた一節が第二部にあるのだが、「恥ずべき」どころか、こんなにゴージャスな高校時代もめったにあるまい。

    大学時代と、在学中の作家デビューの顛末が描かれた第三部「東西冷戦」には、1980年代グラフィティ的な面白さがある。
    当時『若者たちの神々』(筑紫哲也による、各界のカリスマ的人気者たちへのインタビュー集。島田は最年少者として登場)の一人にも数えられた時代の寵児ならではの、これまたゴージャスな青春だ。

    第三部の終盤と、最後の第四部「文壇列伝」は、島田が深く接した文壇の大物たちのポルトレ(人物素描)集にもなっている。

    第四部では、既婚者でありながら滞在先のニューヨークで金髪美人の大学院生ニーナと不倫関係に陥る顛末も描かれる。
    ニーナが島田を追うように日本に留学してくるところなど、まるで『舞姫』のよう。
    それはそれで興味津々ではあるが、この第四部の面白さは、なんといっても作家たちの素顔を明かした部分にある。

    安部公房、大江健三郎、埴谷雄高、大岡昇平など、綺羅星の如き大物たちが次々と登場する。
    中でも強烈な印象を残すのが中上健次で、第三部・四部の〝もう1人の主役〟といってもよいほど。

    この第四部も、「文壇ゴシップ」的な面白さを多く含んではいる。
    また、作家たちが夜ごと痛飲・鯨飲し、子どもじみた争いに明け暮れる場面が多く、「文壇ってクダラナイな」という思いにもかられる。

    だが、そのような微苦笑を誘う要素もまた、本書の面白さの大きな要因なのである。

  • ずっと読んでみたかった島田雅彦さんの小説(自伝)を初めて読みました。
    まずプロフィールを見て驚いたのは「法政大学国際文化学部教授」。
    というのはつい二週間前読んだ鈴木晶さんと同じだから。
    しかもこの二週間に鈴木晶さんの娘、
    涼美さんの本を二冊も読んだ、マイブームだったのです。
    さらに島田さんが、私が晶教授の本のレビューにちょっと書いた三浦雅士さんと新宿の飲み屋で出くわしたと本にあり、「へー」と思いました。

    中を読むと、誰かに似ている…。
    そう、すでに私が77冊読んだ佐藤優さん!
    「よく子どもの頃~高校生位のことを詳しく書いているなあ。子どもの頃からちがうのだろう、作家になる人は」と思ったら、二人とも高校時代は「文芸部」。
    どちらも一浪。

    島田雅彦さんは東京外語大露語学科卒で佐藤優さんは在ソ連・在ロシア日本国大使館に勤務していた人。
    ともに学生時代ひとりでソ連に滞在している。
    そして今人気作家。

    でも決定的に違うのは、知の巨人でお酒をほとんど飲まない佐藤さんに対して、島田さんは遊び人です。
    イケメン小説家だから、仕方ないのです。
    (念のため、佐藤さんだって、今はムショ帰りの強面だけど、若い頃はカッコよかったのです。沖縄とのハーフだし)

    島田雅彦さんは25歳の時、大学三年からつきあい始めた「難攻不落の鉄の処女」と結婚。
    〈人生で最もモテる季節を迎えていたので、独身のままでいると、酒場、パーティ、講演やイベント会場、国際線の機内などあらゆる場所に仕掛けられた無数のハニー・トラップを、日課のようにクリアし続けなければならない。そんな気苦労を背負い込むよりは、早々と既婚者となって、誘惑にバリアを張るのが得策と考えたのだった〉

    でも3年もしないうちにアメリカで、初めて二人で呑みに行ったときに「Do you wanna fuck with me?」などと言ってくる女性と恋に落ちてしまい、日本にまでやってこられ、修羅場を迎えることに。

    人気のイケメン小説家なんだから、奥さん仕方ないでしょう、と思う私、珍しく寛大。
    最初からずっと楽しく読んでいたのに、そのあたりの面白さで前のことをほとんど忘れてしまいました。

    さすが芥川賞選考委員だなあと感心したのですが、ご自身はトータル6回候補にあげられながら落選(うち5回受賞作なし)だそうです。
    〈本来、他人に冷淡な世間さえもが君(島田雅彦)に同情した〉
    島田さんが委員でいる間に、古市くんは受賞できるでしょうか?

  • 何かのおすすめとして出てきて、そのタイトルに興味を惹かれたため読んでみた。
    主人公は著者本人で、子供時代から大人になるまでの様々な出来事が私小説として描かれている。
    君=著者で、異端という言葉に嘘偽りはなく、豪快というか赤裸々な出来事が描かれていた。内容は面白かったものの、文学的な面での基礎知識がないと後半はかなり置いてけぼりになってしまうなという印象を受けた。
    著者の本を読んだこと自体がなかったので、またどこかで別の本を読んでみたい。

  • 久しぶりの島田雅彦。
    これはおそらく私小説なんだけど、島田雅彦と中上健次のこんな関係は意外だし、知らなかった。
    いろんな作家の名前も出てくるし、読書欲を刺激された。

  • これが飾りなどないナマの「マゾ彦」の姿なのか、と唸らされる。才気に恵まれ知性にも溢れるあの元祖「文壇の貴公子」の中にあるのはこんなにも人間臭い、微笑ましくすらある「まっとうな」欲望や野心だったのか、と。言い換えればここにあるのは何ら時代を超越した狂気を感じさせない、スマートに卒なくロシア語や英語を自家薬籠中の物として取り入れられる「秀才」気質の作家の姿だ(その意味で、島田雅彦に近しい作家としてぼくが連想するのはあの芥川だ)。ただ、島田はとりわけ女性に恵まれることで自らの知性をより柔軟に「しごけた」のだろう

  • この作品については、前知識として著作や近代の思想家や作家の本を読んでおいた方が良かっただろう
    描かれる作者の行動には良い印象を持たなかったが、それは私小説として洗いざらい全て出し切られたからであって良い作品だといえる

  • 著者の自伝的小説。
    子どものころから高校生、大学までは、痛快な成長物語的に読んでいたが、小説かになってからの第三部、第四部になってくると、現実的過ぎてしんどくなってきた。文壇ゴシップにならなかったところはさすがというべきか。

  • ダンディな著者の私小説ということで興味津々。
    同世代なので、懐かしくもありほろ苦さも感じながら、一緒に時代を駆け抜けていった感じです。

    君という呼称で、大人になった彼は冷静に、赤裸々に、俯瞰して・・・この先も破天荒?でちょっとカッコ悪く、でもやっぱり見た目は紳士で小説に向かっていくんですね。

  • ほとんど自伝のようで,めちゃくちゃ面白い.君は,君はと書いているのが畳み掛けるようで独特のリズム感を与え,他人事のようでありながらものすごく自己主張している.正真正銘の変人を目指し成功しているところ,敬服しました.特に小学生時代が気に入ってます.

  • これまでに、彼の作品には多分触れたことがなかったが、書評を読み借りたのだろう。
    何人かの知り合いが県立川崎高校出身なので、地域性も含めて楽しめた。また、彼の周辺の作家たちが読者として馴染みでもあり、第三者が語る私小説とはいえ、その実態が深く刻まれた。

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著者プロフィール

作家

「2018年 『現代作家アーカイヴ3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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