彼女たちの場合は

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711837

作品紹介・あらすじ

「これは家出ではないので心配しないでね」
14歳と17歳。ニューヨークの郊外に住むいとこ同士の礼那と逸佳は、ある秋の日、二人きりで“アメリカを見る"旅に出た。日本の高校を自主退学した逸佳は“ノー(いやだ)"ばかりの人生で、“見る"ことだけが唯一“イエス"だったから。
ボストン、メインビーチズ、マンチェスター、クリーヴランド……長距離バスやアムトラックを乗り継ぎ、二人の旅は続いてゆく――。
美しい風景と愛すべき人々、そして「あの日の自分」に出逢える、江國香織二年ぶりの長編小説。

【著者略歴】
江國香織(えくに・かおり)
1964年東京都生まれ。
2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞
04年『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞
07年『がらくた』で第14回島清恋愛文学賞
10年『真昼なのに昏い部屋』で第5回中央公論文芸賞
12年「犬とハモニカ」で第38回川端康成文学賞
15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で第51回谷崎潤一郎賞を受賞。
著書に『きらきらひかる』『左岸』『抱擁、あるいはライスには塩を』
『はだかんぼうたち』『なかなか暮れない夏の夕暮れ』ほか多数。
小説のほか童話、詩、エッセイ、翻訳など幅広い分野で活躍している。

感想・レビュー・書評

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  • in their case
    では私の場合は?
    それは日本からそう遠くないとある国。
    初めて話した言葉は「袋いりません」だった。スーパーの店員に通じたのが嬉しかった。異国の通貨で買い物できたことも。

    勇気は無いけれど、それに関しては勇気がなかったのではなく生来の出不精によって、私は1日のほとんどを寮で過ごした。
    出る必要が無かったから。私の生活は徒歩5分圏内で完結していたし、足りないものは何も無かった。

    その国にいた間に三度、夜中に散歩をした。
    街の治安は良かったのでなんの心配もなかった。
    一緒に歩いてくれる人がいればよかったのにね。
    そのころ日記がわりにしていた小さな端末には異国の言葉でそう書いてある。


    学期中でさえ1日の大半を持て余していたのに、長い長い夏休みが来ると本当にすることがなくなった。
    私の住んでいた寮は日本の団地に似ていて、どうやら学生だけではなく普通の人も住んでいるらしかった。むしろ何室かだけ寮として学校が借りていたのかもしれない。
    敷地内には公園や八百屋があった。
    今思うと不思議な存在のその八百屋は、確かに団地の一角に馴染んでいた。私はそこによく通って、日本のより大ぶりで味が薄いトマトやキャベツを買っていた。


    ホームシックになり帰国した日本から再び戻ってきた時に、ルームメイトが敷地内の途中まで迎えに来てくれた。夜のキャンパスで、携帯電話だけ握りしめて少しぎこちない表情で手を振った彼女を覚えている。

    ******************

    思わず書き出したけれど全然違うね。彼女たちの場合は、勇敢で無謀な偉大なる挑戦。私の場合は守られた留学生活。
    ただ、異国で生活することとか。日本にいた頃の全てが遠くて、なんでこんなところにいるのかと自分を疑う、あの感じ。ずっと夢を見ているような、変に頭の中がフワフワしたあの感覚。
    そこが共通しているなって。

    私の記憶が戻ってきちゃった。ここから感想を書きますね。


    礼那は現実味がない。確かに子供は無謀でそれゆえに勇敢で純粋だけれど、それにしたってこれはない。私の周りにはこんな人いなかった。
    礼那の存在が物語をフィクションらしくさせる。それ以外の人たちは実際に居そうなのに。
    理生那はいつもの江國さんの作品の登場人物ぽい。年齢も物事の考え方も。潤きらい。絶対こんな人と結婚しない。薔薇の木桃の木檸檬の木にもこんな人出てきた気がする。人間関係において1番恐ろしいのは話ができないことだということを実感させられる。

    旅をしなきゃ。私にはきっと出来るはずだ。と、気持ちが奮い立ちました。同時に彼女たちが出会ったいくつかの困難、それが自分にも十分に起こり得ることを思うと足がすくむ。
    私は生来臆病だから。

    それでも、異国を旅することでしか得られない勇気はある。
    あの全能感、解放感はまた呼び覚まさなくちゃ。

    • choroman3さん
      この本は読んだことがないです。読んでみたくなりました。コメント、ありがとうございました(^^)
      この本は読んだことがないです。読んでみたくなりました。コメント、ありがとうございました(^^)
      2020/04/13
  • ロードムービーを観ているようだった。
    読後感が清々しい。若さが瑞々しい。

    私自身はアメリカはほぼニューヨークしか知らない。それでも、各現地の雰囲気がありありと伝わってくるし、旅行者目線の世界を見る感じが、これまで私がしてきた旅で感じたドキドキ感だったりワクワクした気持ちを思い出させて、それらを重ねて読んだ。そうして思い出したのは、専ら一人で、知らない街で、ちゃんと目的地に着くのかとドキドキと不安で乗ったバス。ソウルで、バンクーバーで、台北で、ローマで、リヨンで。私の場合は二人旅やグループでは感じることのない、あのドキドキが旅を振り返ると、かけがえのない瞬間だったなぁ。写真にさえ残ってないのに、忘れられないあの瞬間は、礼那がいう、「あとから話しても絶対にわかってもらえない秘密の瞬間」は、あれだったんだ!と思う。他人と共有出来ることは素晴らしいけれど、でも私が一人で感じたその“瞬間”は確実に私の奥底に根付いてる。と思いたい。

    あーこんな時だから余計に気ままに旅に出かけたい!!

    アメリカの州や地名にも詳しくないので、時々地図を見ながら旅を楽しんでいたのだけれど、裏表紙に嬉しい発見!


    そして、いつか人の親になることがあったら、新太郎のように子の成長を喜べる人になりたいと思った


    2020.7.20

  • ニューヨークで従姉妹の礼那の家に留学で同居中の逸佳。ある日二人は親には内緒で旅に出る。「西部が見たい」以外はかっちり決まってないアメリカ横断の旅。17歳逸佳と14歳礼那の女の子2人旅は少し怖い目にも遭うしトラブルもたくさんあるけど、様々な人達との交流や訪れた町が鮮やかに描かれていて一緒に旅をしている気分が存分に味わえるしとても楽しい。天真爛漫な行動派の礼那と責任感が強く慎重派の逸佳と性格正反対なのに仲良しな二人の関係が素敵。旅を通して二人が成長しているのもいい。二人の両親の対応の違いも興味深い。礼那両親の夫と妻の温度差が次第に問題を浮かび上がらせ、関係が崩壊していく様はリアルだ。逸佳両親が理想の対応だけど難しいよなぁ。

  • ロードムービーを見ているような、少女たちの旅立ちの物語。

    江國さんの長編を読むのは初めてだったが、ぐいぐい読まされた。
    改めて、アメリカは広いんだな~…と。
    自分の知るアメリカは、映画に出てくる西と東と南部のごくごく一部でしかないんだ…とつくづく感じた。

    大統領選挙では国の分断が大きな問題となり、世界でも憂慮の声と報道がなされたが、実際そこに住むほとんどの人は善良な市民で、日々を懸命に生きている…ただそれだけのことなのだと気づかされる。

    2人の少女たちの物語も読みごたえがあるが、なんかやっぱり江國さんの描く世界は、上位階層なんだよな~と思ってしまう…だからどうというわけではないが、生徒たちはあまり食いつかないだろうな。
    2020.11.21

  • 従妹同士の17歳の逸佳と14歳の礼那は二人だけで、アメリカを見る旅に出るために、ニューヨークの礼那の家を出ます。
    「いつかちゃんと旅に出ます。これは家出ではないので心配しないでね。電話もするし、手紙も書きます。旅が終わったら帰ります。ラブ。礼那」

    これまでの人生で逸佳がノーだったものは、学校、恋愛、女の子たち、太ること、しゃべること、作文、日記、友達の家に泊まる、ロックコンサート、長電話、LAIN、たばこ、化粧…。

    礼那の愛読書はアーヴィングの『ホテル・ニューハンプシャー』。パンケーキとリースチョコレートが大好き。

    逸佳は旅の途中で、旅費が足りなくなって、アルバイトをしたり、熱を出したりします。知り合った31歳のクリスが気になるけど、恋ではないと思っています。

    最後の方で礼那が逸佳に言った言葉。
    「たとえばこの朝がどんなにすばらしいかっていうことはさ、いまここにいない誰かにあとから話しても絶対わかってもらえないと思わない?」
    「誰かに話しても話さなくても関係なくて、なにもかも自動的に二人だけの秘密になっちゃうのはすごくない?」

    何かあるたびごとに、頬と頬をくっけて「チーク」をしながら行動する二人が、とても勇敢で、愛らしいと思いました。

  • ほんとうにものすごくおもしろくて楽しくて、読むのがやめられなくて、一日じゅう読んでいた。読み終わりたくなかった。いつまでも読んでいたかった。。。

    家族とアメリカに住んでいる14歳の玲那と、いとこの17歳の逸佳が「アメリカを見たいね」ってことで親に内緒で家を出てふたりきりで旅をする、って話。
    バスや列車、ときにはヒッチハイクもして、途中で、偶然、交通事故現場にいあわせたおかげで怪我をしたおばあさんの家に住むことになるとか、お金がなくなってしばらくアルバイトをすることになるとか、「ハプニング」はあるけれども、事件とかいう感じにはならなくて、あくまでも楽しい旅なのがすばらしい。悲しいできごととかもなくて、なにごともない感じがすばらしい。ふたりが粛々と淡々と、さわやかに明るく、旅をすすめていって、その毎日と移り変わる風景が描かれているといった感じで。いろいろな人と出会って別れるけれども、その出会いと別れもあっさりした感じなのが本当にいい。
    アメリカのいろいろな街を本当にめぐっているような気になって、それもものすごく楽しかった。

    玲那は、ものおじせずにだれとでもすぐ仲よくなれて、オープンマインド。それに対して逸佳は、自分でも認めるとおり、小心者で心配性で社交が苦手、「ノー」が多い。そういう逸佳が少しずつ変わっていく感じもすごくよくて。
    でも、大きな変化って感じでもなくて、ラストは自分たちでここで旅は終わりと決めて無事に帰るところもすばらしい。こんなに安心して読める本ってない。

    とにかく、ひさびさに「至福の読書体験」っていう感じだった。大好きだ。
    やっぱり江國さんいいな!と思って、過去の本も読み返したくなった。

  • 「これは家出ではないので心配しないでね」
    そう置き手紙を置いて、ニューヨークで暮らす14歳と17歳の従妹はアメリカを『見る』旅に出る。
    人が好きで素直で明るい14歳の玲那と、人が苦手で、心配性、人生のほとんどが「ノー」で、望みがほとんどない17歳の逸佳。彼女の数少ない『見る』という「イエス」のため、従妹で計画を立てて旅に出た。
    彼女たち二人の旅は、私と妹の様でもあり、ディズニー映画の主人公たちの様でもあり、とにかくワクワクして夢のようでした。たくさんの経験を経て、たくさんの人たちとの出会いがあって、彼女たちの人生は、そして、彼女たちの親の人生は深く色を重ねていく。
    海外旅行も学生時代にたくさんして、旅が大好きな私にとって、彼女たちと一緒に旅をしている様で、、、私も英語がペラペラになった錯覚をしてしまいました(笑)登場人物のクリスは、「マカン・マラン」のシャールさんと重なりました。
    旅には終わりがある。だけど、そこでの経験や思い出は、一生自分の中にあっていつまででもキラキラと輝いている宝物の様である。と、思う。ずっと終わりが来ずに読み続けていたかった、本当に素敵な物語でした。

  • 自粛のこの時期、主人公たちと同じような目線で色々な場所に行き、新鮮な驚きを感じられるこの小説を読めて良かった。
    実際女の子たち2人が、ヒッチハイクなどするのは無謀だと思うけど、「彼女たちの場合は」上手くいったのだろう。
    久しぶりの江國さんだったけど、今まで読んだものより明るかった。が、潤の存在とそれを妻がどう思っているかが江國さんっぽいなぁと思った。

  • 「これは家出ではないので心配しないでね。」
    17歳の逸佳と14歳の礼那。
    従姉妹同士のふたりの旅物語。

    みずみずしく、きらきらとしていて、さわやか。

    あまりに無防備なふたりに、最初は危なっかしさばかりではらはら。
    アンジェラ事件では済まされないのが現実だと思う。

    リスクさえなければ、心のおもむくままに過ごす旅は、魅力的。
    社交的で、他人への関心が高い礼那がつむぎだす、旅先での人との交流も、素敵。

    彼女たちが立ち寄るスポットにも心惹かれ、思わずネットで調べ、ともに旅をしている気分になる。

    後半の礼那へのサプライズには、ぐっとくる。

    説明書きを多用する、英文の日本語訳のような文体も、アメリカを旅する、という作品世界にぴったり。

    置手紙があっても、電話や葉書があっても、この状況で寛容に待てる親はなかなかいないもの。
    潤の狂わんばかりの心配と怒りはもっともで、同情するものがあった。

  • 久々の江國さん長編で、とても好きな小説に出会えたことがうれしい。
    ニューヨークに住む従姉妹どうしの14歳の礼那と17歳の逸佳が、ふたりでアメリカ中を旅するお話。
    天真爛漫で外交的な礼那と、旅を提案した一方で慎重なところもある逸佳が、さまざまな人たちと出会い、危険な目にもあい、それでもたくましく何カ月も旅を続けていくさまは、現実にはなかなかないのだろうけれど、とにかく応援したくなった。
    行く先々で土地の空気、味、人々などと出会った時の彼女たちの感性、まるで自分が旅をしているような気持になる。
    彼女たちの親の反応もとても興味深い。おそらく、いちばんよくみられそうなのは、礼那の父の怒り、かな。応援しつつ、クレジットカードを周囲に言われて止めたことをひどく後悔する逸佳の父が魅力的に思えた。
    そして、礼那の母である理生那は、とてもとても江國さんの小説の登場人物らしい人物。ふわっとしているようで芯はとても強い。
    少女たちがふたりで共有した時間、その時に体験したことは、あとからだれに話してもわかってもらえない、自動的に二人だけの秘密になる、というのがとても素敵。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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