- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087711349
感想・レビュー・書評
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二〇三六年、東端列島(敗戦国)に収監されている七十五歳の老人による「小説禁止令に賛同する」旨を書いた随筆。
小冊子『やすらか』に収録される老人の随筆は、所々に検閲と処罰の跡を残していく。
『読者よ、これは誠実な書物なのだ』
夏目漱石の『行人』の、二郎と直に横たわる和歌山の一夜を挙げて、そこに見られる語りの「欠点」を批判する部分が秀逸。
あらすじを語っている時から、もう、ノリノリな感じが素敵すぎる。
続いてカフカの『審判』、中上健次の『地の果て 至上の時』とくる。
最近、中上健次の名によく触れる偶然は一体。私の机の上には『岬』が載っているところ。
滝沢馬琴『仮名手本忠臣蔵』(本文では伏せ字)からは、加古川と共に潜む読者の立ち位置に言及する。
小説とは何か。作者とは何か。読者とは何か。
書かれた瞬間に決定され、決定されたことで次の可能性もまた筋道となってゆくという、文字の持つ制限から、読者はそれを解き放ち、味わう。
んー。お湯をかけたら溶ける固形スープみたいに言ってしまった。
こうした、作られた現実を、声を、禁止されても尚憧れ、求め続ける、人間がいた。
老人はかつて『編物入門』という方法論を著している。
「どの文章の毛糸がどの作家の文章の毛糸と交差するか、どの単語とどの単語によって読者の両手の間に柄を描くかといった技術的な視点」を獲得している筈の老人の随筆は、実験的な広がりを見せる冒頭から、徐々に核心を夢遊していく。
真っ白な防護服に身を包んだ、馬来西亜の「王子」に見守られながら。
一冊まるまる、楽しませていただいた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鴻巣友季子の2018年のベスト。
書き手は元小説家。
党の機関紙にプロパガンダ記事を書くことになりました。この管理国家の「小説禁止令」を礼讃する記事を!
現に、いくら弾圧しても、本作は卓抜な文学論であり小説称賛にして、最高の小説になってしまったではありませんか! 恐るべし、小説め。 -
★学生選書ツアー2018選書図書★
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https://sistlb.sist.ac.jp/opac/volume/217651 -
タイトルが衝撃的で読んでしまった。が、正直、何を書いているのかよくわからなくなった。が、よくわからないのに、なぜか読んでしまうのだ。近未来の思想家の囚人が語る小説禁止令の訴え。支離滅裂にも思える発言。そしてそれに対する処罰。滑稽にも見えるし、痛々しくも見える。どこまでが本物でどこまでが虚構なのか、とにかく読者を戸惑わせる。結局、理解不能なのに最後まで読ませてしまうのは作者ならではの妙技だと思う。
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様々な側面を持つ作品。
ページをめくる度に驚かされる。
こちらの頭の中も小さな独房になり、主人公の言葉がわんわんとその中に響く。
全て言葉で伝えられたのに、今の私には受け取ったものをあまりに言葉にし切れないことが口惜しいが、その感触をそのまま持っておきたいと思う。 -
2036年のある国。小説家が獄中で書いた随筆は政府が発布した「小説禁止令」を礼讃する内容になるはずだった。随筆という形態を取りつつ、小説とは何かを追求する中で新たな形態の小説が浮かび上がる。巧妙に練られたアイデアと手法はさすがである。
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とても刺激的で面白い小説だった。しかし、どこがどのように刺激的で面白かったかを書くことがうまくできない。文学や小説について考え、権力がそれらを禁じることを恐れる。静かに、隠れて抵抗する術を今から覚悟を持って身につけること、小説においてそれは可能であるのだということを感じ取った。
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幻音という私にとって新しい概念を発見させてくれた。他にも日本語の面白さや小説の構造の奥深さがとても興味深かった。
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2020/4/18購入