ゲルマニア (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087607062

作品紹介・あらすじ

1944年ベルリン。ユダヤ人の元刑事が、ナチス親衛隊から殺人事件の捜査を命じられた。断れば死、事件解決でも死。爆撃と恐怖が支配する街で、命がけの捜査が始まる。ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ドイツの作家「ハラルト・ギルバース」の長篇ミステリ作品『ゲルマニア(原題:GERMANIA)』を読みました。

    「フェルディナント・フォン・シーラッハ」に続きドイツ作家の作品です。

    -----story-------------
    1944年ベルリン。
    ユダヤ人の元敏腕刑事「オッペンハイマー」は突然ナチス親衛隊に連行され、女性の猟奇殺人事件の捜査を命じられる。
    断れば即ち死、だがもし事件を解決したとしても命の保証はない。
    これは賭けだ。
    彼は決意を胸に、捜査へ乗り出した…。
    連日の空襲、ナチの恐怖政治。
    すべてが異常なこの街で、「オッペンハイマー」は生き延びる道を見つけられるのか?

    ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞作。
    -----------------------

    1944年5月7日未明、やまない空爆とスターリングラード攻防戦の敗北で、一般市民の軍への信頼が失墜しつつあるベルリン… ユダヤ人の元敏腕刑事「リヒャルト・オッペンハイマー」は、突然、ナチス親衛隊(SS)に連行される、、、

    かつては凄腕の殺人捜査官として名を馳せた「オッペンハイマー」は、妻「リザ」がアーリア人のため移送(強制収容所送り)されずに済んでいるが、ユダヤ人であるがゆえに公職を追放され、夫婦でユダヤ人アパートで暮らしていたのだ… 連行先で待っていたのは、ナチス親衛隊(SS)の「フォーグラー大尉」と女性の惨殺死体だった。

    ベルリンでは、女性ばかりを狙った、猟奇的な連続殺人事件が発生しており、連続殺人鬼を逮捕した実績を持つ「オッペンハイマー」に白羽の矢が立ったのだ… 翌日から、ユダヤ人の「オッペンハイマー」と、彼に捜査を依頼した野心的な若きナチス親衛隊(SS)将校の「フォーグラー大尉」は協力しながら捜査を進めることになる、、、

    しかし、捜査は難航し、二人を嘲笑うかのように第四、第五の被害者が出るとともに、犯人の行動はさらにエスカレートしていく… ドイツ国内で利害の反するユダヤ人とアーリア人が、お互いを認め合いながら協力して捜査を進めるという捻じれた関係の下での二人の内面的な変化や、連合国の空襲や爆撃の恐怖に晒されながら、真相を探るために捜査を続ける「オッペンハイマー」の刑事魂 等々、思った以上に愉しめる作品でした。

    刑事という職を追われた立場にも関わらず、ナチス親衛隊(SS)から事件捜査を強要された「オッペンハイマー」が、捜査を進めるうちに、次第に活力を取り戻して行く姿が印象的でしたね… また、本来「フォーグラー大尉」は、「オッペンハイマー」に対して、生かすも殺すも可能な、圧倒的に強い立場にありますが、二人の関係は捜査を進める中で、ほぼ対等な信頼関係を築き、さらには立場を超えた友情までも育む感じがして、この物語だけで終わるには勿体ない感じがしました、、、

    一般的な警察小説とは舞台や立場等が異なるので、異色の警察小説って感じですかね… 面白かったです、どうやら続篇もあるらしいので、機会があれば読んでみたいですね。




    以下は、主な登場人物です。

    「リヒャルト・オッペンハイマー」
     元殺人捜査官

    「リザ」
     オッペンハイマーの妻

    「フォーグラー」
     ナチス親衛隊(SS)大尉

    「グレーター」
     ナチス親衛隊(SS)大尉。フォーグラーの同僚

    「ヒルデ」
     オッペンハイマーの女友達。医者

    「ドクトル・クライン」
     ユダヤ人アパートの住人

    「ホフマン」
     オッペンハイマーの運転手兼監視役

    「エデ」
     オッペンハイマーの密偵

    「ゲルト・ヘッカー」
     ヘッカー父子商会の経営者

    「ベーリンガー」
     ヘッカー父子商会第一秘書

    「インゲ・フリードリクセン」
     ヘッカー父子商会第二秘書

    「カール・ツィーグラー」
     ヘッカー父子商会の臨時運転手

    「クリスティーナ・ゲルデラー」
     娼婦

    「ライターマン」
     ナチス親衛隊(SS)中将

    「ユーリエ・デュフォー」
     ライターマンの外国語アシスタント

    「シュレーダー」
     ナチス親衛隊(SS)上級大佐

    「ビルハルト」
     オッペンハイマーの元同僚

    「エルフリーデ・ベッカー」
     殺人事件容疑者の目撃者

    「ギュットラー」
     ナチス親衛隊情報部(SD)隊員

    「エーディット・ツェルナー」
     ペンション・シュミットで働く女性

    「トラウデル・ヘルマン」
     国家保安本部部局長の妻

    「リュットケ」
     国防軍防諜部員

    「バウアー」
     国防軍防諜部員

    「ヨハネス・ルッツォー」
     突撃隊(SA)隊員


    コメント

  • 1944年、ナチの恐怖政治下にあるベルリン。配偶者リザがアーリア人のために収容所送りを免れているユダヤ人、オッペンハイマーが主人公。敏腕の殺人捜査官だったが、反ユダヤの法律により警察を辞めている。が、経歴を見込まれて、女性の猟奇殺人事件を、SS大尉フォーグラーと組んで捜査することになる。44年には赤軍にマイダネク収容所が解放されているが、ドイツではユダヤ人虐殺はひどくなる一方というオッペンハイマーにとって絶望的な状況下での捜査となる。戦時下ではあっても夫を愛するリザ、ヒルデのように反体制組織とつながっていたり、ギャングであるエデがいたり、人混みの中では密かに"ダビデの星"を外す描写があったりと、過酷な世界で主人公をぎりぎり支えている。水も漏らさぬナチズムというわけでもない。とはいえ自由な言動はない、得られる情報には制限があり、ナチスの官僚は出世と保身を考えるだけの賢しいアホ、こんな状況でユダヤ人が殺人事件を捜査する物語が可能だなんてすごい。なかなか犯人に辿り着かないのでじれったいこともあるが、1944年下のベルリンがみっちり詰まっているので、とても面白かったです。

    SS大尉フォーグラーとも交流はあるけれど、甘いところはないのも良かった。フォーグラーどうなったんだか。

  • ミステリ
    戦争

  • 1944年のベルリン。元刑事のオッペンハイマーは親衛隊情報部に連行された。彼はユダヤ人である。強制収容所行きが頭をかすめたが、そこで言われたのは、猟奇女性殺人事件の捜査に協力することであった。親衛隊将校のフォーグラー大尉に協力する形で捜査を始めたが、事件は続く。連合軍のフランス上陸、ベルリンへの爆撃、その当時のドイツの状況が描かれている。

  • 戦時下のベルリンの状況を体験した気になる。

    続編も読みたい。

  • 1944年ナチ統制下ドイツ。
    ベルリンで起きた連続猟奇殺人事件。ユダヤ人で元刑事のオッペンハイマーは、突然ナチ親衛隊により連行され、事件の捜査をするように命じられる。
    ユダヤ人であるオッペンハイマーに拒否は即、命を落とすことを意味する。しかし事件を解決したからといって、身の安全が保たれるわけでもない。
    どちらにせよ良いことは期待出来ないが、オッペンハイマーは捜査を始める。

    戦中ドイツを舞台にした推理作品として読んだため、余り推理を愉しめなかったところは残念だ。意外な犯人や驚愕の真相といったものを期待して読んだため、深読みしすぎて、やや拍子抜けしてしまった。
    ミステリーとしては面白味に欠けるが、歴史小説のひとつとして読めば愉しめる。

    敗戦の気配が色濃く漂っている中でも、妄想に取り憑かれるヒトラー以下ナチ高官たち。この作品では殆どヒトラーに関する描写はないけれど、親衛隊が私服を肥やしていたり、スパイがあったり、生命の泉計画という純粋なアーリア人種の子供を増やす計画など、歪んだナチズムも描かれている。

    こういったナチ政権下のドイツの様子や、ドイツ人とユダヤ人の様子などが興味深く読める。
    わたしはナチスとヒトラーに興味があるので、これさえ読めれば推理が愉しめなくてもいいかと感じてしまう。

    オッペンハイマーはナチの命令に応じ、自分と妻の生命を護ることが出来るのか。
    ここもちょっと気になるところだが、それについてはネタバレしてしまうので控える。

    戦争をしているときというのは、必死に生きるひとの物語しか思いつかないものだが、こういう描き方で推理作品も仕上げてしまうというのは面白いものだと思う。

  • 評判が良く期待して読んだが、序盤からかなりもたつく。まず、文章が淡白なことが最大の欠点だろう。読み進んでも、登場人物らの顔が浮かんでこず、全体的に造形が浅いと感じた。
    物語の舞台となるのは、ノルマンディー上陸作戦の直前、敗色濃い第二次大戦末期のベルリン。主人公はユダヤ人の元警察官で、ナチス親衛隊から猟奇的な連続殺人事件への捜査協力を求められるというもの。この異常な設定にも関わらず、緊迫感がさっぱり伝わってこない。
    著者は戦後生まれのドイツ人だが、資料を頼りにしたと思しき説明口調が多く、濃密な空気感を創り上げることに成功していない。連合軍の反撃が勢いを増し、街に爆弾が降り注ぐ。しかし、報道規制が敷かれたドイツの都市部では、変わらぬ日常が続いている。この辺りは事実に基づく内容であろうが、描写が凡庸なこともあって意外性が低い。定石通り、相反する立場であるはずの主人公とナチス親衛隊の捜査官の間には、「友情」の萌芽があり、読者期待するところの結末となるのだが、敢えてこの時代を選んだ必然性が感じられなかった。本筋となる連続殺人自体は、使い古されたサイコパスで、実直ではあるが特に冴えてもいない元警察官を引っ張り出したSSの動機も不充分だ。「ゲルマニア」というモチーフも生かされているとはいえない。
    何一つ良い評価が出来ていないのは、先駆者であるフィリップ・カーの傑作「偽りの街」が念頭にあるからだろう。凄まじい極限的状況下に見事なハードボイルド小説を成立させたカーの剛腕にあらためて感心し直す。別の作家を褒めるのも妙な話だが。

  • 骨太本格推理&時代小説。深刻さとエンタテインメント性のバランスが絶妙。
    後者はたとえば、公職追放されたユダヤ人の元警部のアパートにある夜いきなりSS将校が現れて殺人事件の捜査に駆り出されたり、その庇護の下かなり自由に活動したり、ふたりが地下室に50時間閉じ込められて「三文オペラ」の楽曲を聴きながらつかの間心を通わせたり、ふたりの別れのシーンだったり。こんなんあるわけないやろ、と内心つっこみつつも、映画化の際には抜群に映えるシーンになるだろうなーと思った。
    印象に残ったのが、主人公に尋問される一般ドイツ人たち。かなり横柄な口をきく(警察時代にそうだったのだろう)主人公に、かれらはへりくだった丁寧語で答える。えっ人種差別とかなかったわけ…? と思いかけたが、主人公がもろユダヤ風な名を明らかにしたり、上着に縫い付けられた「ユダヤの星」を目に留めたりした途端、かれらは一様にぎょっとした態度に変わるのだ。「人種」差別とは言うが、実のところ千年単位で共存・通婚してきたユダヤ人と「アーリア人」との間に、「生物学的」な違い(差別主義者が大好きな言葉だ)などなかったことがよくわかる。
    それを皮肉ったようなシーンもある。異相のゲッベルス(!)、黒髪のSS将校と3人でいるシーンで、主人公は「今この部屋の中で、俺が最もアーリア人らしい見た目なんじゃないか」と考えるのだ。
    ゲッベルスのような有名人も(ちょい役で)出ることは出るのだが、本書ではそれ以上に、「あの時代」の市井の人々の日常生活が活写されている。私自身、「ナチ体制下でユダヤ人刑事が捜査」という惹句にかなりの胡散くささを覚えたくちなのだが、危惧したような安っぽさはなかった。そういう人も読んで損はない、と太鼓判を押したい。

    2016/11/1読了

  • “続篇”の『オーディンの末裔』以上に話題となった作品らしいが…特殊な状況が濃密に描写される中で、オッペンハイマーが謎に挑み、同時に「あんな時代」が詳しく綴られる…そして作中の様々な人達の物語も興味深い…
    因みに“続篇”を先に読んでしまっていたのだったが、そういうことは余り気にならなかった…オッペンハイマーに妻のリザ、更に恩人でもある友人のヒルデというような「両作品に共通の劇中人物」が居るだけのことである…
    「時代のイデオロギー」というだけで公職を追われてしまった元刑事が、有無を言えない状況下で今一度“刑事”の活動を、戦時下の独特な条件下で繰り広げる本作…ミステリーを軸にしながらも、“時代”を描写する、なかなかに個性的な作品に仕上がっている。広くお薦めしたい!

  • 連想したのはベン・H・ウィンタースの『地上最後の刑事』。
    地球に隕石が衝突するという終末間際の世界で殺人事件を捜査する刑事の姿が、今作『ゲルマニア』において連合軍の気配をひしひしと感じるベルリンで、自分の命もギリギリのところにある元刑事の姿と重なった。
    今作もひとつの世界が終わろうとしている。

    なぜ捜査するのか。
    連合軍の空襲で一日で数百人の人間が命を落とし、ナチス親衛隊の機嫌を損ねただけでも死を宣告され得るユダヤ人の刑事オッペンハイマー。しかし刑事として動いているときの彼は誰よりもどこかに向かって進んでいるようだ。
    人間として生きていると言ってもいい。

    最後の一節はまさに上記とつながる。
    そしてそれが共に行動したSS大尉からもたらされるところに意味を覚える。

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