マザコン (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087466300

感想・レビュー・書評

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  • まずは「マザコン」という言葉をきちんと考えることから。一般的に示す意味としては’マザ’=’母’ないし’母的なもの’を指すと思われる。では’コン’はというと=’劣等感’が変質した’固執、執着、依存’みたいな感じだろうか。

    本作は、この’母的なもの’を生物的に、無償に求めてしまう「子」と、その求めに何らかの理由で応える事が出来ない「母」とのギャップを描いた短編8編を収録。

    誰しも生まれながらに「母」であった訳ではないのだが、誰しもが生まれながらにどこか誰かの「子」として出現している訳である。
    「子」は生まれながらに生粋の「子」であるが故に、母子の間には断層のようにどうしてものっぴきならない距離が存在する。
    本作品に登場する母子はいずれも子がそれなりの年齢に達するまで、その距離は認知されずふつふつと燻り続けている。

    興味深いのは、登場するいずれの息子もある日突然母との決定的な距離に気づくのだが、娘は何となく前触れを察知しているような節が見受けられる。
    そこはやはり女性同士ならではのシンパシーと共に、男性の幼さを浮き彫りにしたものであろう。


    文章としては、人柄の説明がもの凄くシャープに洗練されていると思った。例えば一話目「空を蹴る」p11のℓ8「たとえば〜」からℓ17「〜送ってきたんだろう。」この10行だけで「おれ」のいい加減な性格、ろくでなし具合が非常によく伝わる。四話目「パセリと温泉」に登場する小柄な看護師の嫌な奴具合も、僅かなやり取りからよく伝わる。 
    人物の説明が端的に濃縮されているからこそ、その分短編ながら情報量が多いため、記憶・印象に残る作品に仕上がっているのではないだろうかと感じられた。


    表紙の赤ちゃんは可愛いが、内容とは今ひとつ違和感。タイトルのフォントもなんかこれじゃない感を抱いてしまった。



    3刷
    2021.10.4

  • 母にまつわる短編集。解説が「母は娘を支配する」の斎藤環で、そっちの本でも角田光代の「マザコン」は引用されていたし、解説も母娘関係に焦点を当てたものになっていたが、母と息子の物語も半分くらいある。息子の場合、大抵妻も出てくる。
    「共感」みたいな気持ちになるのはやっぱり娘モノだが、息子モノも面白かった。どちらにせよ、苛立ち、息苦しさ、胸くそ悪さ、ヒタヒタと染み渡ってくるような狂気…みたいなものを現出させるのがうまいんだなあ、この人は。それでいてこっちまで嫌になっちゃうような不快感はない。それで小説として面白く読めてしまう。
    特に好きなのは、「パセリと温泉」「ふたり暮らし」「クライ、ベイビイ、クライ」。

  • 母という女を語る短編集。

    私は娘であり、娘と息子を持つ母でもあります。
    それぞれの話を、客観的な視点で見ていましたが、いつか、自分がそんな母に、そんなに娘になるのかもと、恐怖のようなものも感じていました。

    この本は、娘の本棚から借りて読んだもの。
    娘はどんな感想を持ったのか、いつか聞いてみたいと思っています。

    母として、とは違いますが、鳥を運ぶ、の元夫婦の会話に切なさを感じ、結果一番好みの作品となりました。

  • 様々な母と子の関係・形。

    価値観や常識を身につける時期に最も深く関わる母というものには良くも悪くも強い影響を受ける。

    空を蹴る以外の各話はとても興味深く、つい自分と置き換えて考えてしまうお話ばかりでした。


    パセリと温泉が好きです。
    うまくいかない事全部を何かのせいにしないと生きていけなかった、その苦しみが譫妄では反転して自分に優しい世界を見せる。


    ふたり暮らし。「胸が悪くなるような母娘関係」…だとは思えないのは、私がマザコンだからでしょうか。笑

  • 分かってるようで次元を超えていく母という存在

  • 面白かった!
    母と子の話
    大人になってからの母との思い出、母の見え方とかがリアルですごい
    短編集だけど、どの話も面白かった

    初恋旅行で息子が母が母じゃなくなった感じ(息子たちとの時間より初恋の人に会うために張り切ったり、夫が亡くなって塞ぎ込んでると思いきや初恋のことを探偵を使ったりして調べてたことを知ったり)をみて不機嫌になる息子をその嫁がなんだか母親になったように愛おしく感じたりするのよかった
    嫁姑はギクシャクしがちだけど、この話は実の母より姑の方が好きってなんかそれはそれでこれから家族になる人達はみんな幸せでいいねと思った

    あと温泉とパセリもよかった
    言語化むず、、
    でもパセリは使いまわしてて汚いから絶対食べちゃダメと言われて育った娘が無意識に残そうとしたときにそのことを思い出してこれも一種の洗脳だなと思い食べてみたりするシーン印象的
    こういうのの積み重ねで価値観とか当たり前とかが生まれるからね

    とにかくこの本を読んで1人の人間の親になる難しさを痛感した
    子供にとっての親ってすごい存在だけど、親になる人達って親として生まれてきた訳でもなくそういう風に教育されたこともない人間が人間を育てるんだからすごい
    そりゃうまくいかない親子と多々いるんだろうなと容易に想像できて親が好きな自分は恵まれてるなと改めて実感した

  • 母と息子、母と娘の関係性を描いた短編集。

    装丁のかわいいベイビーちゃんの寝顔からは想像できないほど結構後味の悪い内容なんだな。これが。

    心の奥底の、言葉には表せないようなイヤーな感情を見せられたようで、まいっちゃうよー。ほんと角田さんてばー。

    子としての目線で読むとなんとなく分かる気もするけど、親としての目線で読むと、子供にこんな風に思われたら嫌だなって、ちょっとゾゾっとしちゃった。

  • 短編集
    「初恋ツアー」が好きだ。義母の初恋を絡めてはいるが実は洋文と匡子の関係がすがすがしく、それこそが初恋ツアーです

  • 母が母を放棄したとき、に感じる切なさとか寂しい気持ちに共感。
    子どもの頃に当たり前のようにそばに母がいて、一緒に暮らした頃の記憶をたどって懐かしく思うことがあるけれど、もうあの頃には完全には戻れない、母も一人の女であって、母には自分の人生がある、そんなことを改めて考えさせてくれる一冊でした。
    母が自分の人生を満喫していたり、新しいことを始めたり好きになったりすると、ちょっと寂しくなって、不機嫌になってしまうのわかるなぁ。いつまでもきっと、自分のことを心配して見ていてくれる存在でいてほしい。

  • 母と子の関係って、母親としての側面と、1人の女性としての側面を、子どもがどの程度受け止められるかによって うまくいったりいかなかったりするんだろうな。母の女としての部分を許せなかったり、母が老いていく姿を認めたくなかったり、母に対する愛情と嫌悪感が同居する場合もよくあること。誰でも自分の母親には、いつまでも温かくて強い存在でいてほしい、優しく見守ってほしいという欲求。それがどこかで崩れた時に、反発や嫌悪感を抱いてしまったりするのかも?と感じてしまいました。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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