- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087464689
作品紹介・あらすじ
家族と共にフランス・パリの郊外フォンテーヌブローに移住した著者は、18世紀の家に住み、朝市の食材の豊かさに驚嘆。高校生のデモの明快な意思表示に民主主義の本来の姿を見、ローマ法王の訃報に接し信仰の意味について考えを巡らせる。「その土地を拠点としてものが見えること、世界のからくりがわかること、が大事なのだ」。異国の客として暮らす日々の発見と、しなやかで豊かな思索のクロニクル。
感想・レビュー・書評
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フランスのフォンテーヌブローに移住した著者が各章日々の生活から、フランスの社会、政治、歴史にまで掘り下げるのは読みやすく、「プロの外国滞在記」で面白い。
特に最終章のイラクで拘束されたジャーナリストの帰還で、同様の事件の日本の対応は興味深かった。
フランスの魅力はグローバルとローカル、古いものと新しいものが両立しているところにあるんだろうな、と思った。
2019.2.23詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
池澤さんのことばを借りると、「カジュアルなファシズム」。今の日本の国民の思想や思考のあり方を形容するのに、これほど的確な表現は無いだろう。
2000年代に起きた様々な国際問題を、近代以降の歴史の延長に見ると同時に、この時期自身が移住したフランス、フォンテーヌブローを中心としたフランスの現代社会事情と日本のそれとを対比させる。こうした比較を踏まえた上で、私たちの身の回りに立ち返ると、この国を今なお蝕んでいる、抗いがたい負のエネルギーの本質が見えてくる。 -
移住したての新鮮な眼差し、ウキウキ感がいい。
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【いちぶん】
何度となく旅に出た後、いつも旅先から帰らなければいけないことを不満に思うようになった。旅人に対して開かれた扉は少ない、という思いがつのった。どこかでせめて季節の一巡を辿らなければ、その土地の本当の姿はわからない。 -
実は、この本は直接函館を扱っているわけではない。
池澤夏樹がフランスのパリから程近いフォンテンブローに移り住んだ数年間の随筆なのだが、これが滅法面白い。
決して肩が凝らないスタイルの軽妙な文章の中に鋭い文明批評がさりげなく挿入されている。
たとえば、下記のような、EUで流通しているジョークの紹介。
他者を意識するところからお互いの性格付けが始まる。
先日、聞いたジョークで言えば、天国ではイギリス人が警察官で、フランス人がシェフ、ドイツ人が機械を扱い、恋人はイタリア人、すべてを管理するのはスイス人だという。
反対に地獄ではイギリス人が料理をして、フランス人が機械を扱い、ドイツ人が警察官、すべてを管理するのはイタリア人で、恋人はスイス人。
この手の話はEUの中にいくつものヴァージョンがある。
筆者も最近のヨーロッパ旅行の帰途のフランクフルト空港で、この「地獄」版のドイツ人荷物検査官の硬直的判断でスペイン産ワインがあえなく没収の寸前までいったことを思い出す。
誰でも自分の実体験からひとつやふたつ合点がいく場面を思いおこせるところが上質なジョークの要件だ。
さて、次は、池澤氏が贔屓にするフランスの片田舎で週何回か開かれる、青空生鮮品市場(マルシェ)の話題。
消費の場から言えば、お互い顔を見て売り買いする点が最も大きく違う。
マルシェ(市場)に同じものを扱う店はいくつもあるから競争原理が働く。 おいしくない店にはもう行かない。あるいは品質とにらみ合わせて安い店を選ぶ。 そういう真剣勝負がある。
馴染みになると、無愛想な顔で「ほら、おまけ」などということもあるし、「今日はこれがおいしいよ」もある。
こういうことを書きながらぼくが比較しているのはスーパーマーケットだ。 会話はない。品質は均一で、はっきり言ってしまうと、レベルが低い。鮮度を保つために無理をしていて、だから味が薄くなる。おいしいではなく、まずくないとか、まあ食べられる、の範囲。あれだけの品数を並べる以上、それはしかたのないことだ。
この話で比較の対象はマルシェがフランスの市場、スーパーは日本のそれだ。(もちろんフランスにもスーパーはあるだろうが、日本のように市場や個人商店を駆逐するような具合ではないらしい)。函館で起こっていることも実はこういうことなのではないか。
そして、次は車社会についてだ。池澤氏によれば、フランス人も車を持つ人は多いが、駐車場などで苦労することは多いという。しかし、フランスは断じて「車本位」社会ではないという。
国というものは経営方針で大きく変わるらしい。
日本で自動車産業がここまで伸びたについては、自動車を社会の中心に据えるという決定が昭和30年代あたりにあったのだろう。 生産する側だけでなく消費者の方も車に夢中になり、無理をしても買って評価し、全体として質の向上を目指した。
高速道路の料金を自分で負担してまで走り回った。道路は歩行者を無視して車本位に造られた。歩道がある道は少なく、白線一本引いて区別したつもりになっている。その結果、日本の車は世界商品になった。
しかしフランスは車だけでなく、農業の方も重視してやってきたのだ。
生活を考えかたの土台に置いて、その中で食生活と車の利便のバランスを考えた。だから、穀物や野菜、肉類やワインやチーズの質は決して落とさない。その代わり、駐車の不便や埃まみれの車は我慢する(それでもフランスの車は運転していて楽しい)。
函館くらいの規模の地方都市で、これほどまでに公共交通が衰退するに任せて、車優先の町にしてしまう必要があったのだろうか。どこへ行くにも車でなければ不便でしょうがないというこの町は、それでいて、車の維持費がかかる分、消費を節約せざるをえず、やむなく(上記にもある)格安の生鮮品をスーパーで買い求めては食生活やその他の生活のレベルの切り下げを強いられているのではなかろうか。
なお、上記の引用は、実は池澤氏がこの本の内容を(惜しげもなく)ネットに連載・公開していることで、わずかなコピペ作業で可能となった。
紙に印刷された本での「権益」に固執することなく、サイトに積極的に自分の著作を公開していく氏の姿勢はデジタル時代の新しい作家像として注目だ。
引用先のアドレスは下記のとおり
http://www.impala.jp/ikoku/index.html
だが、内容に納得したら、是非購入することをお勧めする。
書名:異国の客
著者:池澤夏樹
出版・集英社 (文庫 524円+税)
なお、続編である、「セーヌの川辺」も発刊されたという -
著者である池上夏樹氏がフランスでの生活を綴ったエッセイ。
食事や教育・・・駐車事情まで、実際に現地ですごし体験した著者だからこそ感じる日本との文化的差異が読者にも理解でき勉強になる。
しかし、池上氏のルポはどうも説明口調な部分が多く、ハワイイ紀行でもそうだったが、もう少し現地の風というか雰囲気を感じさせてくれたらなと個人的に思う。
知識としてはおもしろいんだろうけど、ルポルタージュの醍醐味である追体験が感じられないのが残念だ。 -
ブログで海外旅行記を書く人は多い。ガイドブックに載っていない現地の事情などが垣間見えて面白いとも思うが、やはりプロの書いたものではない。読むのに苦労することもしばしばある。しかし同じことを海外経験が豊富で博識な小説家であり詩人が行ったとしたら。そんな素敵な読み物はないだろう。 あらためて説明するまでもない作家池澤夏樹が「メールコラム」という形で配信したものをまとめた本。タイトルは彼も書いているようにハインラインの「異星の客」の訳違いだが、異国に客人として滞在した著者の海外レポートだ。
何度もフランスで暮らしたことのある著者が、こんどはパリ郊外に家をおき、異国の客として異国を観る。客であるから、どうしても「よそ者(ストレンジャー)」である立場が意識される。そして、どこかでかならず日本を思っている。日本の知性の代表といってもいい著者を外国に置いて、その目や耳を通した世界を追体験するという、とても面白い試みだった。 一昔前、海外旅行といえば絵葉書がつきものだった。現地で親しい人に手紙を書く。自分のいる外国の様子。そこにいて思うこと。遠くにいる手紙の相手を気遣う言葉。著者の文章には、そんなエアメールの感触がある。身近な
人の体験に引きずられて、つい旅に出る。そんなきっかけを作ってくれる本だ。 -
フォンテーヌブロー行きたい。
私もうろうろして暮らしたいな。
慰安婦問題、ねえ…。 -
著者がフランスに移住した時のエッセイ。
フランスに住んで見ると、日々の生活が新鮮な感じで日本文化との違いや比較も可能になるらしい。断片的なエッセイを繋がりのある3つのテーマでまとめてあり、著者の薀蓄が面白い。
高校生が大学入学資格試験バカロレアの変更に反対デモを起こす風景は、日本では有り得ない光景に見えたようである。
著者が綴る街の風景、フランスの隣人達のものの考え方を読むと、フランスは哲学の国としてのプライドが感じられる。 -
池澤夏樹さんがフォンテーヌブローで暮らしていた時に書かれたエッセイ集です。品のよい文章を読み進むうちに、日本とフランスの違い、そしてこれから日本がどうしたらいいのかなど、いろいろと考えさせられました。