炎に絵を 陳舜臣推理小説ベストセレクション (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087463637

作品紹介・あらすじ

父にかけられた革命資金横領の汚名を晴らそうと、真相を探る主人公。次々と起こる奇妙な事件、そして殺人。完全犯罪を思わせる結末に、鮮やかなドンデン返し「炎に絵を」。戦局の拡大とともに大陸を転転と避難する故宮博物院文物。若き玉器彫り職人と模造香炉をめぐる直木賞受賞作品「青玉獅子香炉」。祖国救亡運動中の劇団で起きた殺人事件の意外な後日譚「永臨侍郎橋」。3作品収録、新編集の傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 騙されたー!と言うよりはうまい。の一言のような気がする。 よくこんな事を思いつく。
    ちょっと昔の話で読みづらいかなとも思ったけど、そんな事は全然なく割と早く読めました。
    しかし人間のエゴとは怖い。

  • 陳舜臣さんは、私の住んでいる神戸市出身で最も有名な作家の一人だが、初めて作品を読んだ。読みやすく、落ち着いた文体、重厚なストーリー展開で、引き込まれる内容であった。
    「炎に絵を」は意表を突く真相が明るみになる名作、他の2作品も読み応えがあった。

    「青玉獅子香炉」
    自作の青玉獅子香炉に惚れ込んだ李同源が、後に博物館職員となり、戦火を逃れるために、青玉獅子香炉を含む文物とともに中国各地を移動する話で、自作品に憑かれた男の姿が描かれている。主人公は17年ぶりに青玉獅子香炉に再会できることになったが、その際に判明した意外な事実、ラストで見せる同源の意外な態度が見所。

    「永臨侍郎橋」
    戦時中の慰問劇団で起こった殺人事件。状況をうまく使った特殊な殺人トリック、事件回想者にとって意外な最後の出来事はなかなか。

    「炎に絵を」
    兄夫婦からの依頼により、転勤先の神戸で過去の祖父の汚名を晴らすための調査を始める主人公。鍵を握る人物の呉練海の足取りを調査する過程は読み応えがあり、複雑で巧緻な企みが明らかになる真相、主人公が真相を知る経緯、殺人事件の動機なども面白い。一つひとつのピースがきれいに嵌まっていくストーリー展開も絶妙。主人公がムーンシャインの原液の保管を依頼されたことも、事件をより複雑に見せる効果を発揮している。
    真相を見抜くには、物語の最後の方で主人公が住職から聞いた話が必要なので、本格ミステリーではない。また、企みの内容が面倒な割には確実性に乏しいとは感じた。

  • 表題作は、二枚の白紙に……のところがもっと鮮やかになると好み。香炉はつくるところもあるとよかったかも?

  • 40年以上前の作品で、且つ過去(1910年代)を探る話なので多少の古臭さを感じますが、古典特有の読み辛さはありません。
    主人公はたまたま転勤した神戸で捜索を始めるのですが、神戸への転勤や真相を突き止めるきっかけは明らかな偶然ですので少々ご都合的です。しかし、二重三重のどんでん返しと伏線の回収が秀逸で、非常に読み応えのある小説だと思います。

  • 中国の奥深さをかんじる

  • こりゃ古いミステリだ。意外なラストといっても大したこたぁないよ。

  • 短編2編、長編1篇の贅沢な1冊です。

    【青玉獅子香炉】直木賞受賞作。ミステリーではない、かな。異常なまでに香炉にとりつかれた男の一生。中国が舞台で世はまさに革命時代。歴史の流れに巻き込まれる主人公が、そんな人々の熱気などどこ吹く風と病的なまでに香炉に固執する姿が激動の時代と対比していておもしろいです。

    【永臨侍郎橋】短編。これはストレートなミステリー。トリックは派手でおもしろいです。事件を引きずり続けた男が迎える決着と手に入れる強さというのが印象的です。

    【炎に絵を】長編。父の汚名を晴らそうと過去を調査する主人公に次々と襲い掛かる事件。産業スパイやら怪しい人々がどんどん出てくるし、不可解な事件がどうつながってくるのか分かりません。物語の方向性を過去の父親の事件に向けておきながら、思わぬ方向に畳み掛けるラストの収束がすごい。
    そして最後の最後にサプライズ。寒気のするような「炎に絵を」の真相とその伏線が素晴らしかったです。

  • 亡き父の汚名をそそぐ為50年前の真相を探っていくミステリー。いろいろとどんでん返しが最後まであって、ドキドキしながらミステリーを楽しんだ。私は陳舜臣の歴史小説しかこれまで読んだことがなくミステリーの著書も沢山あるとは不覚にも知らなかった。他にもまた読んでみたい☆

  • 『枯れ草の根』『青玉獅子香炉』『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』とたて続けに読んでから、もう30年近く経つだろうか。どの作品も中国色を纏った、心躍るミステリー・ロマン小説だった。
    中でも特に『玉嶺よふたたび』は、作品が持つ雰囲気に飲み込まれ、大のお気に入り作品になった。それで久しぶりに再読しようと探していたら、たまたまこの文庫本を見つけた。
    2008年10月25日発行と新しい文庫本で、3作品収録のベストセレクション。
    3作品は『青玉獅子香炉』『永臨侍郎橋』『炎に絵を』である。中編、短編、長編と収められている。

    『青玉獅子香炉』は直木賞受賞作。玉器彫りの職人魂を、中華民国誕生期にからめて描いた傑作。玉器彫り職人である主人公が昇華した、結末の余韻の素晴らしさに心打たれた。

    『永臨侍郎橋』は本格推理小説の佳作。

    『炎に絵を』はなんといったらいいのだろう。私のボキャブラリーでは言い表せないほどの大傑作だ。

    本書のあとがき「鑑賞」に、叙述トリックで有名なミステリー作家・折原一さんが書いている。「『炎に絵を』は陳舜臣を代表する作品ではないが、間違いなく戦後の日本ミステリー史に名を刻む傑作である」「溜息が出るほどの傑作。最初のほうに伏線あり。注意して読むべし」その通りだと思った。時代背景や話し言葉などに若干の違和感はある。40年以上前の作品であるから仕方ない。しかし、たとえ40年経とうと、緻密に、巧妙に組み上げられたトリックは、そんな違和感など些細なものにしてしまう。新鮮にさえ思える驚きを与えてくれた。

    次は『玉嶺よふたたび』を再読しよう。

  • 2009/01/17読了。

    短編が二つ、長編が一つおさめられている本作。
    ミステリ作家陳舜臣を一冊で三回も楽しめるという太っ腹な本である。

    どの小説もミステリであるのだが、その背後にある歴史感覚の鋭敏さは陳舜臣ならでは。
    ひとつひとつが、時代性に確乎と根ざしてあらわれて出でた事件なのである。

    表題作となっている「炎に絵を」は、深読みしすぎかもしれないが、歴史とそれを記す側の改ざんという問題すら含んでいるように思う。

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著者プロフィール

1924年-2015年。神戸市生まれ。大阪外国語大学印度語部を卒業し、終戦まで同校西南亜細亜語研究所助手を務める。61年、『枯草の根』によって江戸川乱歩賞を受賞し、作家活動に入る。その後、93年、朝日賞、95年には日本芸術院賞を受賞する。主な著書に『青玉獅子香炉』(直木賞)、『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』(日本推理作家協会賞)、『実録アヘン戦争』(毎日出版文化賞)、『敦煌の旅』(大佛次郎賞)、『茶事遍路』(読売文学賞)、『諸葛孔明』(吉川英治文学賞)、『中国の歴史』(全15巻)などがある。

「2018年 『方壺園 ミステリ短篇傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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