戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458527

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに一気に読んだ。
    「東日流外三郡誌」については、その名は知っていても、偽書疑惑が語られていること、古田武彦氏が大きくかかわっていること等の認識しかなかった。今回、この本によって、その出自と偽書としての評価が定まった経緯とをはじめて知ることができた。地方新聞の一記者がたまたまかかわったことを契機に取材を進め、やがて古田を中心とする擁護派(真書派?)の主張を次々と切り崩していく様は、一編の推理小説を読むような醍醐味がある。少なからぬ作家やノンフィクションライターが、この作品をルポルタージュの傑作として非常に高く評価していることも十分に頷ける。
    かく言う私自身も、若いころ、古田の「邪馬台国はなかった」にすっかり騙され、その信奉者になりかけたくちである。安本美典の「虚妄の九州王朝―独断と歪曲の「古田武彦説」を撃つ」に出会わなければ、今頃は古田史学のカルト信者にさえなっていたかもしれない。
    「東日流外三郡誌」のような偽書や古田の展開する疑似科学的学説には多くの人を惹きつける不思議な魅力があることは否めない。だからこそ、こうした偽りの歴史が真実として語られる危険性を回避するため、学者たちがしっかりと向き合うことが求められるのだと感じた。

  • 90年代の訴訟事件から三郡誌事件を追い続けてきた新聞記者による時系列のノンフィクション。二十代の頃から和田氏が同様の贋作に関わっていたという辺りから如何に正史に潜り込んでいったか、疑問を持たれ否定されながらも生き続ける偽史の強さ、というか社会の弱さか。
    特に文庫化、再文庫化に際してその時点での言及があるので最新のこちらを読む方がよい。

  • 2021-03-21 kobo
    いやあ面白かった。ジャーナリストたる当事者にしか書けない、生き生きとした筆致が心地よい。
    しかし結局人は信じたいことを信じるのだろうか。何事もウラを取ることは重要。記憶だけを頼りに発言しがちな自分に改めて言い聞かせなくては。

  • 「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」なる古文書の写本が発見され、その信ぴょう性を片っ端から論理破壊していくルポルタージュ。
    今でこそほぼ偽書と確定しているが、当時は真剣に信じるものが市井の人だけでなく考古学者にもいてマスコミをも巻き込み大論争を巻き起こしていく。原本ではなく写本であるところがキーにもなっている。東北地方という場所柄などを指摘しながら丹念に丁寧に論破していく。
    まさに痛快、あっという間に読んでしまった。

  • 青森県で発見された古書には正史とは異なる歴史が記載されとおり、それを元に数多くの書籍が刊行された。海外の大学からも所蔵の引き合いがあった歴史書。という話だが、こんなに話題になっていた偽書事件なのに、知らなかった。
    内容は面白いが、次から次へと偽書の証拠が出てくるので後半は飛ばしよ読み。
    本の内容としては、素晴らしいと思う。

  • みんななんで「嘘くせー」と思いながら振り回されるんだろう
    嘘でもなんでも求めてた何かがあったんだろうな
    私も書かれた東日流外三郡誌の内容におぃおぃおぃ…と驚きながらも一気に読んでしまった

  • 新章以外は10年前に読んでいたから読みやすい
    ほゞ再読ではあるが、改めて和田喜八郎の偽書
    でメシを食ってきた事が丹念に書かれている
    21才の時から仏像など古物を見つけては、関係
    する古文書を見せて展示やら埋蔵物を掘る資金
    集めやらの詐欺師であり、本書には古文書商法
    として自治体を絡めた事件を実例でだしている
    椿井文書が巻き起こした歴史の増殖のように、
    自治体の村史に残る事で、強烈な事実感が湧く
    市浦村史・田沢湖町など税金が和田喜八郎の元
    へ流れた事も腹立たしい
    この詐欺師を応援する歴史ゴロ「古田武彦」が
    事態をややこしく大事にした
    二人ともバレバレの嘘をもったいぶって長く引
    きのばす事で自著の売り上げを伸ばした確信犯

  • こんな知的冒険があったのかと興奮する一冊だった。そして、歴史というものに目くらまされる地方自治体の悲しさがなんとも言えない。食い物にされたといえばそこまでだが、本当に悪い人はいるもので、そして全部説明できるということの怪しさを改めて認識しなければならないと思う。複雑系の世界で、なにか一つで説明できることは何もないということを常に意識しておく必要がある。

  • 青森県の農家で見つかり、世間でも話題になった古文書「東日流外三郡誌」。この古文書には、現代人が作成した偽書ではないかと疑惑が掛けられていた。新聞記者である筆者がその疑惑を追った経緯をまとめたノンフィクション本。かなり面白かった。

    古文書は本物だと公言する擁護派に対して、否定する証拠を次々と明らかにする展開が痛快。また、専門家がまともに検証する必要もないくらい杜撰な偽書であったにも関わらず、世間に広まってしまった原因を推察する部分は、時代は違えど現代の問題と通じる部分がかなりあって、とても興味深く読めた。

    わずかだけど、安倍晋太郎と安倍晋三親子も登場する。この親子は、擁護派の広告塔として利用されていたり、偽書の疑惑がある古文書を演説で引用したりしていたとのこと。安倍晋三の生前の言動や、死亡後の統一教会に関する論争なども含めて、なんというかまさに”らしい”エピソードだなという感じ。

    原因考察部分では、その面白さから日本でもベストセラーになった『銃・病原菌・鉄』が専門家からは内容が批判されている件や、真偽を問わず、日本持ち上げ・海外下げ記事によって気持ち良くなっている現代の"愛国者"たちの姿を思い出した。それにデマを否定する難しさはフェイクニュース問題にも近いなあと。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    「東日流外三郡誌」というのが有名な偽書であることは何かで知っていたが具体的な内容や誕生の経緯、偽書とされるまでの経緯は全く把握していなかった。
    本書では「東日流外三郡誌」の発見から偽書とされるまでが丁寧に解説されており、東奥日報の記者である著者の文章力もあり、非常に読みやすく面白い内容だった。
    「東日流外三郡誌」に関しては私が想像していた内容とは異なり、既存の資料からの盗作や剽窃でオリジナルな内容ではなかったことには驚いた。それに「東日流外三郡誌」の作者は他のことも含め、偽の歴史を金稼ぎに使っていたことに怒りを覚え、あらためて偽の歴史が残るようなことがないようにしないといけないと思った。
    また、本書は「東日流外三郡誌」を解明するまでのルポタージュであるととめに記者が記事を作成する際にどのような調査や裏取りを行うのかを詳しく書いたドキュメントでもあり、そちらも面白かった。

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