恋するソマリア (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087457513

作品紹介・あらすじ

現代と伝統が摩訶不思議に融合した内戦下のソマリア。彼の地の人や文化や伝統に魅入られた著者が命がけで飛び込んだソマリ世界見聞録。笑いあり感動ありのエンタメノンフ決定版!(解説/枝元なほみ)

感想・レビュー・書評

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  • ソマリ愛が止まらない著者のソマリア滞在記第二弾。
    現地ジャーナリストを取り巻く状況やソマリ人の暮らし、前回は危険で取材がかなり制限されていた南部ソマリアについてなど、やっぱり面白かった。

    まさか最秘境である家庭に潜入し、家の中で女性たちと一緒にくつろぐことになるなんて驚いた。著者は男性だ。
    ソマリ料理の作り方が適当(いい意味で)なのには、普段の料理を目分量と感覚で適当にやっている私には、どこも一緒だなと親近感がわいた。

    それから、前から気になっていたカートという葉っぱ。
    噛むと幸せな気分になり、酒と違って酩酊感はなく頭が冴えるなんて最高じゃないか。しかも副作用も便秘だけなら大したことないな、なんて思っていたけど、とんでもなかった。これはダメなやつだ。
    でも手にする機会があったら、ちょっとだけなら体験してみたくもある。

    そしていちばん印象的だったのは、父の仇の娘を娶った長老の話。
    この憎しみの断ち切り方は、これが現実のことと思うとちょっと感動で震えてしまう。
    文庫あとがきにはそういう伝統が今でも行われていることや、帰国後もソマリ人との交流が続いていることなどが書かれていて、もっと知りたいと思う。第三弾も書いて欲しいなあ。

  • まずい。まずいぞ!と思っている。恋をしてしまいそうだ。高野さんの本に。私はお気に入りの作家が出来ると、その人の作品を半分以上は読まないと気が済まなくなる。高野さんのホントの姿、素の人物を知りたい。出来ないけど、高野さんのような旅をしたい。ここに私の理想の旅がある。いや、そこまで美化しないと、ここまで入れ込んでいる自分を正当化出来ないのかもしれない。高野さんが魅力的だから好きなのか、好きだから魅力的に見えてしまうのか、それすらわからない。

    ​納豆の本​(「謎のアジア納豆」)と並んで、これで2冊目の高野本。集英社文庫だけで17冊も出ているのだから、そうでなくても読みたい本が山のようにあり、人生は短いのに、目の前にそんな風に積まれると、つい禁断の恋をしてしまいそうだ。でも、こう書いた時点で恋は始まっている。高野さんのソマリアへの恋のように。

    冷静に分析すると、高野本の魅力は(1)韓国台湾などアジアぶらぶら旅をしてきた私の旅スタイルと、規模こそ違え、似ている(2)素人人類学学者、素人考古学者の視点を持つ(3)常に庶民の視点を大切にする(4)よって政治的な立場は鮮明にしないが、結果リベラルになる。(5)何よりも「好奇心」を大切にする。というところだろうか。

    幾つか面白い箇所をピックアップ。
    ・初対面の人間に先ず氏族を聞くのは、韓国で私が先ず「出身地」を聞かれたのと似ている。いや、韓国以上にシステム化している。
    ・ソマリの知識人は、漱石のように「近代的自我」に悩まない。どこにいても氏族社会に生きていて、「自分とは何者か」と問わない。
    ・民族を何をもって「理解した」と見るか。人間社会を形つくる三大要素は「言語」「料理」「音楽(踊りを含む)」と思う。
    ・ソマリ人の男は詩を吟じないと好きな女の心を掴むことができなかった。女子が男子に歌い返すこともあった。←つまり、これだけ普遍性があれば、平安時代の習慣ではなく、弥生時代にあってもおかしくはない。
    ・ソマリ人が客を招待するときは、盛大なもてなしを用意しなくてはいけない。
    ・国を愛すれば愛するほど、政府と国民(の1部)から嫌われる。ここにも片想いがある。

    2018年7月読了

  • 「謎の独立国家ソマリランド』の続編。
    前回が「ホントにあるのか、そんな国?」という謎解きスタンスで描かれていたのに対し、こちらは「もっと知りたいソマリ世界」という深掘りが軸になっている。だから、前作を読んでいないとなかなか入り込めないだろうし、展開も(終盤の襲撃事件を除けば)他の高野さんの本に比べて、わりとのほほんとした感じ。
    とはいえ、高野さんの本なのでやっぱり面白い。
    随所で笑わせてくれるし、大所高所から見下ろす観察者的視点は皆無で、あらゆるトラブルに巻き込まれながら地べたで感じたことを(イタい経験や下ネタもありありで)綴っているのだと感じる。

    さすがというか、高野さんの真骨頂だなと感じるのは、アル・シャバーブ(反政府ゲリラ)による襲撃を受けた出来事と、家庭の主婦にお料理を教わる話とが、全く同次元で描かれていること。
    本作品中、何度も「素の姿」が見たいというフレーズが出てくるが、つまり、この状態こそがソマリ世界の「素の姿」なんじゃないかと思う。
    銃撃とおかゆが、同次元。
    『アヘン王国潜入記』でも感じたことを、やはり、ここでも感じた。

    それともう一つ。
    高野さんが分け入っていきたい秘境って、もしかしたら人の心の中のことを言ってるんじゃないかなと感じた。
    そうでなければ、現地語にこだわったり、現地の日常食にこれほど習熟したりする必然性は無いから。
    自分と全く違う政治・文化・自然環境・言語の中に暮らす、限りなく遠い「他者」の、またさらに遠い「心」の中にこそ、高野さんは踏み込んでいくべき未踏地を見ているんじゃないかという気がしてくる一冊だった。
    タイトル通り、たしかにそれは恋だよなぁ、と妙に納得した。

  • 高野さんの本はやはり面白い。

  • 最近はクレイジージャーニーでおなじみ高野秀行氏の、『謎の独立国家ソマリランド』に続く第二弾。前作で色々とお世話になった、地元TV局のワイヤップやハムディも登場する珍道中である。

    今回も北部のソマリランドや南部ソマリアへ渡航しているのだが、前作とは違い一般の家庭を訪問したり、TV局の職員にソマリアの家庭料理を習うなど、高野氏のソマリア愛がどんどん深まって行く様子が非常に面白かった。

    ソマリアといえば戦争と海賊のイメージしかなかったが、このシリーズ作品のおかげですっかり身近な存在になってしまった、今後もぜひ定期的にレポートしていただきたい。

  • 2作目なせいもあってか前作ほどの「えええ?そんな場所が?!」みたいなインパクトは無いんだけど、その分より”普段の姿”が何となく伝わってくる気がする。終盤とか凄い体験よね、相変わらず。

  • 謎の国の次は恋するソマリア。ちょっと知ったぐらいじゃ、そのベールはなかなか脱いでくれない。慎み深いソマリア。そんなソマリアに一喜一憂しながら、思わぬ方法で懐に入ってしまったり、思いがけず危険な目にあったけど、結果、ディープな現地体験。言語、料理、音楽が文化理解の三代要素。言い得て妙で、ようやく料理に辿り着いのはかなり棚ぼた形式ではあるものの。家庭食はいわゆる日常食。着飾っていないその姿までたどり着くんだから、高野さんの好奇心と人柄がすごい。剛腕ハムディ嬢のその後や、転職おじさんワイヤッブのその後が気になる

  • 高野さんの冒険や取材はいつだって物語的。
    愛おしい少しずつ変わった人物達とアクシデントを通して、まさに恋したワガママな女のようにソマリアを語っていた。

  • ソマリアへの恋から生まれる体を張った取材力は圧巻。とにかく面白いのに、ソマリアに対する不幸な先入観が払拭される(もちろんそれもソマリアの事実ではあるが。)。人はこんなにも逞しくて強いのだと清々しい勇気をもらえる。

  • 2018年に読んだ本BEST10
    (発行年が2018年というわけではない)

    第10位 : 『恋するソマリア / 高野秀行』

    ・ジャーナリスト高野秀行氏による、アフリカ大陸東部の国「ソマリア」を取材したノンフィクション。

    ・ソマリアという国は、内戦状態の「南部ソマリア」と、平和な地域「ソマリランド」(国際的には未承認でソマリア連邦共和国の一部)など、独立した地域から構成される。描かれるのは、民主化のために言論で戦うジャーナリストたち、南部ソマリアで命の危険にさらされながらも平然と暮らす市民、それとは対照的に、ソマリランドの平和な家族の食卓など。混乱と平和の隣り合わせ、そのギャップに読み手側の想像力がなかなか追いつかない。そして、過去の民族・国境の歴史的経緯を知ると、今の状況を変えることの難しさに、やるせない気持ちになる。

    ・世界各国を飛び回る著者曰く、民族・国民を理解するためには人間集団を形作る三大要素「言語」「料理」「音楽(+踊り)」を身に付けること。納得。

    ・とにかく著者の「謎の国ソマリアを知りたい」「ソマリ人と触れ合いたい」という、知的好奇心・行動力には驚かされる。ただし、ソマリ人たちは彼にそんなに興味ないので、一方通行な片思いなのが切ない。それ程までに著者が恋い焦がれるソマリア。でも、この本を読んでも、ソマリアに行きたいとは一切思わないけど、、、

    ・この手の海外ルポルタージュを読むと、「我々日本人が理解できない世界の存在」を意識させられる。そして、こちらとあちら、どちらが幸せで、どちらが人間として正しい姿なのか、みたいな俯瞰した視点を持つことが出来る(ような気がする)。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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