- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087456523
作品紹介・あらすじ
イスラム教徒=テロリストではない! 池上彰が奥深いイスラム世界を、自身が行った高校生への講義をもとに語る。時事性や世界情勢を踏まえて加筆した文庫版は、イスラムを理解するための必読の書。
感想・レビュー・書評
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2017年刊行
中高生に講義した内容などをまとめて穏やかな語り口でイスラムの基本を教えてくれます。
恥ずかしながら私も今のニュースで地名や組織名を聞いても「そこはアラブ人地域?ユダヤ人の地域?」など区別がつかなかったりしております…
こちらの本で学びなおしました。
❐宗教とは
日本では宗教を持つことが珍しがられたり、色々な宗教の行事を混ぜて祝ったりする。しかし世界では信仰を持つとは当たり前のこと。「悪いことをしたら地獄に行く。そうならないように正しく生きよう」という行動規範の基本になる。宗教を信じているからこそ、正しい行いをして、この世の平和が保たれる。
つまり、信じている宗教がないということは、神様の存在を認めていないので、神を恐れない。神を恐れぬとは「天国や地獄がないなら、人間の行動規範はどうしている?平気で悪いことをするのではないか?」と考えられてしまう。
(「神様が見ていなくても、自分の心が見ているから、恥じない行動をするのが倫理」と言いたいところなんだが、私にはそれを説得する力はない…)
❐ユダヤ教、キリスト教、イスラム教
この3つの宗教は、この世を創ったのは唯一絶対の神様である「一神教」。神様が造ったということは、いつか神様がこの世界を壊すということが前提となっている。この世の終わりの通告が「最後の審判」で、善い行いをしたものは天国に行き、悪い行いをしたものは地獄に落ちる。それぞれ決して死なない身体で永遠となる。
ユダヤ教は、神様とモーゼとの間に結ばれた「神を信じる」という約束である『律法』を『聖書』としている。
キリスト教の聖書は、その『律法』を『旧約聖書』と呼び、神様から使わされたイエスを通じて神様を信じるという新たな約束である『新約聖書』も聖書としている。イエスは神の子という神聖を持っている。
イスラム教は、『旧約聖書』(または『律法』)、『新約聖書』、そして『コーラン』を聖書としてる。神はイエスたち預言者(神の言葉を預かる者)を遣わしたが、それでも人間が神の言葉に従わないので、最後にマホメットを遣わした、というもの。そのためイエスもマホメットも人間に過ぎない。
なお「天使」は、神の言葉を人間に伝える仲介役というか通訳者の役割。
コーランについては、阿刀田高の知っていますかシリーズが良い。
https://booklog.jp/item/1/4101255296
❐ユダヤ人アラブ人
ユダヤ人とは、ユダヤ人の母親から生まれた人と、ユダヤ教を信じている人のことをいう。日本民族でユダヤ人もいる。
アラブ人とは、アラビア語を母語として話す人たちをいう。サウジアラビアのキリスト教徒のアラブ人、など、宗教とは関係ない。
❐用語
・ジハード:イスラム教を守るための「努力」という意味。イスラム教徒の土地に異教徒が攻め込んできたら守るために戦うことも「努力」なんだが、やがてジハードという言葉が「戦う」という意味でも使われるようになった。
・ハディース:ムハンマドの言行を記録した伝承。
❐イスラム教の党派
イスラム教の党派の違いだけなんだが、政治が絡むと戦争になる。大統領の党派が、他の党派を弾圧するなど。
・シーア派:ムハンマドの娘婿アリーをムハンマドの後継者とし、その血筋を引く者こそが正当な指導者と
いう「アリー派」の人々。シーアとは「党派」という意味なのだが、今ではアリー党派の人々をそう呼ぶ。
・スンニ派:血筋は関係なくイスラムの教えに従ってればいいじゃん派。
・イマーム派、最高指導者:シーア派から枝分かれした一派。アリーの血を引くイマームが姿を消してしまったので、最後の審判で戻ってくるまでの間は、学識豊かなイスラム法学者に代わりを努めてもらいましょう、という考え。そこで、イランには国民投票で選ばれた大統領の上にイスラムの「最高指導者」がいる。
・原理主義者:ムハンマド時代の理想のイスラム社会に戻れという「イスラム復興運動」の人々。または、極めて厳格な教えを実践する一派のことも指す。イスラム教徒ならみんなコーランを信じているのでみんなが「原理主義者」になっちゃうんだけど、今はそんな一部の人たちを示す日本語になっている。
独裁国家や、海外からの侵攻が激しい地域では、原理主義者たちが福祉の取り組みも行っているので、受け入れられている。
・タリバン:ソ連のアフガニスタン侵攻時に難民となり、パキスタンの極端な一派から教えを叩き込まれたため、アフガニスタンに戻って「タリバン」を名乗った。サウジアラビアも承認している。
・イスラム国:フセイン政権崩壊後のイラクで設立された過激なテログループ。本当に「国」の設立を目指している。
❐パレスチナ地域
第一次世界大戦で、中東地域を支配していたオスマン帝国とイギリスやフランスが戦争になる。イギリスが「ユダヤ人の国設立に協力する」「アラブ民族独立に協力する(アラビアのロレンス)」「オスマンの土地はフランスと分ける」と三枚舌外交をする。大戦後イギリスはパレスチナ地域を統治領にしたが、イギリスへの抗議活動が激しくなったので国連に丸投げして手を引いた。
国連は「ではその地域は最初からいるアラブ人と、あとからきたユダヤ人で分割」と決定する。聖地であるエルサレムは国際管理地区として、残りの土地の半分強をユダヤ人地域、半分弱の土地がアラブ人地域。ユダヤ人地域に「イスラエル」が建国された。
イスラエルの周辺はアラブ民族国家で中東戦争が起こっていくわけなんだが、イスラエルが大変戦争に強いので領土拡大し、さらに周辺国が同じアラブ人地域に侵攻した?ので、アラブ人地域が戦争につぐ戦争、、
パレスチナのアラブ人は、「イスラエルとパレスチナ二つの国家ができても仕方がない」というファタハと、「イスラエルという国は認めない。国をなくすまで戦い続ける」ハマスに分かれる。
❐イスラム金融
イスラム投資家は、湾岸戦争や同時多発テロ後の戦争などにより、アメリカでの金融投資に危機を覚えた。新たに中東での投資を開拓するんだが、コーランの教えに基づいた投資方法としても生み出されている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
イスラエル、ハマス、ガザ、背景理解のため一読。さすがは池上さん。わかりやすく、読みやすい。スラスラ読めて、理解したつもり。パレスチナ、湾岸戦争、タリバン、、、みんな繋がっているんだ。
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池上彰が、高校生向けに、イスラム教について説明。
基本的な考え方がわかりやすく、明快に理解できる期待通りの本。
印象的だったのは、同時多発テロ以降、イスラム教は怖いというイメージになったと思うけど、宗教自体には何も怖いことはなくて、政治と絡む事で対立などが生まれるという事。
例えば、イラクのイスラム教でも、スンニ派とシーア派は仲が悪かったわけでもなく、うまく共存していたのに、教えと関係なく、その国の政治の中で、どちらかが圧倒的な力を持って、一方を弾圧していたりすると、深刻な事態になる。
宗教の違いを利用して政治権力をどちらが握っていたかという過去の政治的ないきさつによって対立することがある。 -
パレスチナとイスラエルのニュースを目にする機会が増え、
もう少し自身の理解を深めたいと思い手に取りました。
感想としては…イスラム教のイメージが変わりました。
イスラム=原理主義=中東=紛争=過激=テロ
みたいなイメージが強くて、
ニュースから受け取る印象かも。
限られた時間の中で伝えるから、
どうしても情報も限られたものになるし、
何に視点を置いている(味方や共感)かでも、
ちゃんと受け取れていない気がしまして。
今の争いも、歴史の流れを見ると
あれ…ヨーロッパ…おいおいイギリス…
(各国事情があるのはわかるものの…)
という釈然としない気持ちになります。
突然自分たちの日常を奪われ、侵略され追い出され。
そして攻め込まれ、
逃げだして難民になった人たちが、
避難先で支配され、過激な思想を学ばされ、
気づいたらテロリストとして養成されていたり。
歴史と国(地球の中に線を引いただけかもしれないけれど)、人種、民族、宗教。
強すぎる共感は大きな分断を呼ぶ。
そしてイスラム教の経典コーランについても
池上さんがわかりやすく一部教えてくれていますが、
そんなに飛躍していたり、
過激なことが記されているとは思えず。
あれ、まともなのかも…と思いました。
(一部なので断言できないですが)
過酷な環境(天気や気温、土地自体が貧しい環境)で、
生きるか死ぬかの場所に身を置いていたら、
人間なんてとても小さな生物だし、
そういった場所や地域で宗教というのは、
拠り所になり得るというなことが本書に書かれていて、
宗教の存在意義のようなものが腑に落ちました。
それを逆手にとって
暴力に転換することは良くないし、
傷つけて良いわけではないけれど。
イスラム教へのイメージが変わったからこそ、
日々ニュースで映し出される映像に
さらに胸が痛くなります。
そこで暮らす人たちが安心して生活できるようにと、ただただ思います。 -
TEA-OPACへのリンクはこちら↓
https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00612103 -
インドネシア人の友人ができて、イスラム教に興味をもった。漠然と乱暴なイメージがあるイスラム教。なぜそうなってしまったのか。ムスリムは全員そうなのか。そもそも、どういう理念のある宗教なのか。そういったことを、事実を追うことで一つずつひも解いて説明してくれる。思想ではなく事実が書いてあるということがありがたい。
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長い間イスラム系の国々と仕事をしてきた関係上、イスラム教やムスリムに対する理解はある方だと思っていた。その経験の中で知ったことや聞いたことがある内容が書かれており、懐かしい感じがした。数々の出来事の背景・理由については自分勝手な理解や思い込みが多かったような気がする。それをこのように説明されるととても分かり易い。特にイスラム教に対して世界は偏見に満ちているうえ、日本人は海外の国々と宗教観が全く違うため、特に理解が不足していると思われる。本来のイスラム教とはどういうものなのか、池上彰みたいな先生による、分かり易い説明が必要だと思う。
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タリバンがアフガニスタンを制圧、アメリカ軍の撤退…ニュースを見てて、何が起こっているのかがわからなかった私が、中東って怖いから中東って奥深い!!!と思える一冊。中東に住む人々や宗教や歴史をもっと深く知りたくなる一冊!
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イスラムに対してはあまりいいイメージがなかったが、イスラムとはどういうもので、どういう歴史背景があるかがわかるとイメージが変わる。
宗教は政治と密接に関わっている。というか、政治が宗教を利用したことで、イメージを作ってしまっている。
必要なのはお互いを理解し、尊重し合うこと。そのためには、自分の当たり前を疑う必要がある。 -
イスラム教とそれを取り巻く世界の基本的な歴史の流れが理解できた。ここから、今に至るまでの10年間を追った本も読むと、より今のアフガン情勢を理解できるだろうな。読みたい。