彼が通る不思議なコースを私も (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087455311

作品紹介・あらすじ

学習障害児の教育に才能を発揮する、優秀で少し変わった教師、椿林太郎。彼の目に映る、人間の未知なる可能性とは──。“生"への根源的な問いを投げかける著者渾身の長編小説。(解説/菊間千乃)

感想・レビュー・書評

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  • 不思議な読後感。
    恋愛小説かと思えばそうでもなく、死生観を扱うように見えてそう重くもなく、教育問題に切り込んでいるようでそこまで深くはない。絶妙な塩梅だ。
    夢オチのようではあるけど、きっともっとうまくいく未来があると思えるラストだった。
    まさに不思議なコースを辿ったようだ。
    自分がもっと若かったら、頑張ってみようかなと思ったことだろう。

  • “人間は自らの意思の力で、きっと運命を変えることができる”

    人の運命が決まってるって、信じます?

    霧子は友人がビルの14階から飛び降りようとしている現場で、黒ずくめの男に気づく

    1週間後の合コンで再会

    その男、椿林太郎はこの先の人生がわかってるみたいな、不思議な雰囲気をまとっている

    林太郎は、小学校の先生
    クラスでも、発達に偏りがあったり
    周囲にうまく溶け込めない子に
    ご飯を食べさせたり、勉強を教えたりしてる
    次第に、そんな子たちに勉強じゃなくて運動をさせる教室を開く

    “発達に偏りがある彼らの方によほど未来を感じるぐらいなんだ”

    林太郎の不思議な能力
    子供の頃、林太郎もずっと
    頭の中が騒がしくて、勉強どころじゃなかった
    それをあるきっかけで克服する

    “霧子さん、あの子は神様の子なの
    実はね、あの子は死んで産まれてきたのよ”

    そうして、子どもの教育に力をそそぐ林太郎

    “子供たちには、自分を好きになって欲しい。自分が大事で大事でたまらないって思えれば、その子供は絶対死なない”

    霧子は熱心に子供たちの事を考える林太郎の力になりたいと考える
    そして、林太郎がなぜ霧子との子供を作ろうとしないのか、理由を聞く

    “立派過ぎる人はこの世界には長く滞在していられない”

    “僕たちは病気や怪我で死ぬんじゃないんだよ。自らの寿命が尽きた時に死ぬんだ”

    そんな運命を受け入れる?
    日々のなにげない選択も運命で決まってるの?
    初めて読み終わったとき、だからこのタイトルなのか。と鳥肌がたったのを覚えてる

    今「月の満ち欠け」が劇場で公開されてて
    ふいに、この本のことを思い出した
    どちらも、止められなくて一気に読んだ

    今回も、再読なので気持ちに余裕はあるものの
    一気に読んでしまった

    運命は、変えられるよね?

    “一人の人間の力でこの世界を変えることはできないが、一人一人の強い意志が、世界を変える力となり得る”

  • とっても不思議な構成の長編小説。
    人によって、場合によって”時間は伸びたり縮んだりする”。ということが、読後に「なるほどー!」と腑に落ちる感じです。
    一日がすごく長く感じたり、短く感じたり、一瞬で目覚めたと思ったのに「もう朝!?」と思ったり、たっぷり寝たと思ったのに1時間だったり。誰にでも経験があると思う。
    「学校」という場所では、どんな子供も学齢に合わせて一律に、同じことを同じようにさせようとするけれど、一人一人「自分の時間」を生きている子供たちにとって、特に発達障害を抱える子供たちにとっては、それは苦痛でしかないし、そもそもついていけないだろう。それは私も実感としてわかる。
    小説では、教職とは関係のないキャリアウーマンの「霧子」が小学校の教員の林太郎に出会い、林太郎の特殊な能力に気づき、子供の虐待や発達障害の問題にも興味を抱くようになっていく。しかしそれはあくまでも小説の中の「もう一つの流れ」で、中心はやっぱり「林太郎と霧子の間にあるものは果たして”愛”なのか?」ということが、読者にとっても中心的命題かなーと思った。林太郎はその特殊な能力で、「この女性を見守らないと、不幸な死が迫っている」と感じて結婚したのだ。霧子はそれに気づいたとき、やはり自分たちは愛しあって結婚したといえるのか?と深く思い悩む。
    最後にそれが明らかに・・・・なるような、ならないような。
    白石一文らしい、「運命」とは何か、人には決まった「運命」があるのか、考えさせられる一冊でした。

  • 何冊か白石作品は読んでるけど、この作品が一番好きだな。
    いつものようにちょっと哲学的ではあるんだけど、きちんと腑に落ちた。ただの夢オチではない最後の時間の歪み方がうまくて、読んでる間の謎が解けた気分。

    60過ぎのプロダクトデザイナーのセリフ「立派すぎる人は長生きしない」は完全に同意です。


    「わたしも昔、少女だったから知っている。家族や学校以外に大好きなものが増えると、少しだけ生きるのが楽になるのだ」
    p118

  • 表紙のデザインもタイトルもお話の空気感も好きーー。

    寿命がなんとなくわかってしまうという不思議な能力を持ってるんだけど、マザーテレサとか立派な志をもって活躍してる人とか本当にこういう能力を持っている人が実在してるのかも。。と、すんなり受け入れられた。

  • 新たな作家さん発掘のためタイトルに惹かれて手にとった。
    初めての白石作品。
    いつの間にか惹き込まれ気がついたら読み終わってた。
    こういう感じ好きかも。
    ラストはちょっとモヤッとしたけど逆にそれが良いような気もしてきた。
    作家さん発掘は大成功!
    他の作品も読んでみよー!

  • 胡散臭い系とかカルト系かと思い読んでみたら、全くそうではなく とても素敵だった。素晴らしい言葉がたくさんあった。

  • 深い深い、愛のお話。

    男女間のそれに限らない、深い愛。

    つまる所、死を以て、もしくは死を念頭に置いてしか、本当の愛は分からないのかもしれません。
    だからこの作品を読んで尚、私には本当の愛は分かりません。

    けれど、常識や世間体や平均といった先入観にまみれた私でも、心がじんわりと暖かくなるような、いやいや、そんなわけないでしょ、これはフィクションだからと、冷静になるような。

    一つ言えるのは、羨ましいということ。主人公の夫婦は、深い愛で繋がっていると思いました。

    途中、かつて読んだことのある表現に再会できたのも、この作品を読んだ、意外な収穫。
    「忘れなくても、決して思い出さない」

    この後に続く言葉は、この作品が教えてくれた事。
    「過去は大人しく、透明な重りとなって、人生を安定させてくれる」んだそう。

    辛い思い出も、力になる。

    2014年39冊目。

  • 最後はまさかの結末であった。しかし、その結末が何か深い意味があるような感じがして本編を読んで理解して行くことが大事であると感じた。メッセージ性のある本

  • 現実の辛さや下世話な部分と、ファンタジー的な主人公の行動と力が織りなす、不思議なお話。人に対する想い、特に教師になってやりたいことやその行動が、聖人君子すぎるけど、そんな理想もあってもいいし、ところどころ出てくるすっとぼけた感がある反応もアクセントになってて面白い。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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