- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087454611
作品紹介・あらすじ
今やフェニミズムの賞味期限は過ぎたのだろうか? そこから受け取るべき文化的遺産はあるのか? 過激だけれど知的興奮がいっぱい。東西「知」の名著を上野千鶴子が読み直す。(解説/チョウ・スンミ)
感想・レビュー・書評
-
f.2024/3/26
p.201/6/24詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上野千鶴子の「ことば」を形作ったのは、あえて「おんな」として振る舞うことで「おんな」の思想を表した女性たちの「ことば」であった。この本のタイトルがかっこ付き平仮名の「おんな」を用いているのは、「おんな」がつくられた概念であることを端的に示すためである。タイトルの時点で脱構築を表明するとんでもない本。
-
上野先生の血肉となってきた本がどんなものなのか。単なる読書案内には留まらず「だからあなたにも読んでほしい」という情熱の込められた1冊。
-
生きた思想、生きた言葉がここにはある。
とりわけ前半の日本の女性を扱った言葉は、間違いなく血が流れている。温かく、痛みを伴って。
後半の海外の理論家の紹介は、切れ味抜群だ。
・富岡多恵子『藤の衣に麻の衾』ヒマつぶしとしての人生 -
※単行本 2013年➡ 文庫 2016年
※「解説」は、「韓国語版における訳者あとがき」を日本語に翻訳し文庫版で掲載したもの。
[単行本]
https://www.shueisha-int.co.jp/publish/%E3%80%88%E3%81%8A%E3%82%93%E3%81%AA%E3%80%89%E3%81%AE%E6%80%9D%E6%83%B3
[文庫]
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-745461-1
【抜き書き】
・フーコーの章から。
―――――――――
性を特権化する秘匿性
『性の歴史』全三巻が出版されると、各国で性の歴史を研究する動きが進み、セクシュアリティ研究はひとつの学術分野として確立していった。アメリカでは、一九九○年に国際学術誌『ジャーナル・オブ・ザ・ヒストリー・オブ・セクシュアリティ』が刊行され、現在に至っている。『性の歴史』の出版によって、性が世界で学術研究の主題となったことには、隔世の感がある。
それまで、セクシュアリティ研究は一部の好事家のものと思われてきた。性そのものが「いかがわしい」ものとされ、したがって性の研究もいかがわしいものと見なされてきたのである。性は公的な場から、タブーとして排除されてきた。
社会学者・永田えり子(1958-)は、性には公的な場から排除され、プライバシー(私秘性)の領域に封じ込められる「非公然性の原則」があると『道徳派フェミニスト宣言』(1997)のなかで述べる。だが、フーコーは性が私領域に封じ込められていった歴史の過程を明らかにする。
性はいつでも私的なことがらだったわけではない。権力者の間では誰が誰と媾[まぐわ]い、どんな子をなすかをめぐる性事は政治だったし、民衆の間でも、プライバシーなど無いも同然だった。性を公領域から排除することで、私秘性の領域は事後的に構築されていったものだ。
社会学者・内田隆三(1949-)は『消費社会と権力』(1987)のなかで、「わいせつ性」とも訳される「いかがわしさ=オブシーン obscene」は、場面から退ける「オフ・シーン性 off scene」とつながっていると指摘した。だからこそ、「場違い out of place」な場面で性を持ち出すのは、それ自体タブーを侵犯する不作法なふるまいとなる。そのような性の配置こそが、秘匿によって逆説的に性を特権化するようになったのである。
――――――――――
【目次】
序文(上野千鶴子) [003]
目次 [005-007]
凡例 [008]
第一部 “おんなの本”を読みなおす 011
産の思想と男の一代主義――森崎和江『第三の性――はるかなるエロス』 015
生まれながらの故郷喪失者
ことばの旅へ
響き合うエロスの声
「対幻想」を求めて
「わたし」という自我
未来へ紡がれることば
注 037
参考文献 039
共振する魂の文学へ――石牟礼道子『苦海浄土――わが水俣病』 041
これはノンフィクションではない
「道子弁」の発明
憑依する文体
喪われた世界
男の思想との訣別
〈おんな〉の思想
注 067
参考文献 068
リブの産声が聴こえる――田中美津『いのちの女たちへ――とり乱しウーマン・リブ論』 071
一枚のちらし「便所からの解放」
学園闘争からリブ運動へ
「中絶の自由」をめぐって
「産める社会を、産みたい社会を」
「女はすべて永田洋子なのだ」
記憶と忘却の歴史
注 094
参考文献 095
単独者のニヒリズム――富岡多惠子『藤の衣に麻の衾』 097
「リブの伴走者」
単独者のニヒリズム
女は平和主義者か?
「不自然」な性
ラディカルな批評
ヒマつぶしとしての人生
注 120
参考文献 121
近代日本男性文学をフェミニズム批評する――水田宗子『物語と反物語の風景――文学と女性の想像力』 123
アメリカ文学からの出発
「ヒロイン」から「ヒーロー」へ
強靭な知性に支えられて
近代日本文学の男性像
『男流文学論』批判
フェミニズム文学批評の行方
注 147
参考文献 149
第二部 ジェンダーで世界を読み換える 151
セックスは自然でも本能でもない――ミシェル・フーコー『性の歴史I 知への意志』 155
性のパラダイム転換
「知への意志」
性を特権化する秘匿性
「セクシュアリティの近代」の装置
告白の制度
告解と日本人
注 174
参考文献 175
オリエントとは西洋人の妄想である――エドワード・W・サイード『オリエンタリズム』 179
パラダイムの転換
東洋人の歴史的役割
ジェンダー化されるオリエンタリズム
東洋と西洋の勢力均衡
ジェンダーと「逆オリエンタリズム」
家父長制下の抵抗様式
注 200
参考文献 201
同性愛恐怖と女性嫌悪――イヴ・K・セジウィック『男同士の絆――イギリス文学とホモソーシャルな欲望』 203
クィア批評の登場
異性愛秩序とは何か?
ホモソーシャルとホモセクシュアル
カミング・アウトとプライバシー
同性愛者の誕生
ニッポンのミソジニー
注 224
参考文献 225
世界を読み換えたジェンダー ――ジョーン・W・スコット『ジェンダーと歴史学』 227
ジェンダーの定義
女性史からジェンダー史へ
「女にルネッサンスはあったか?」
日本近代文学「語りの系譜」
「男性にして市民である者」
注 248
参考文献 248
服従が抵抗に、抵抗が服従に――ガヤトリ・C・スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』 249
植民地出身の英文学教授
敵の武器をとって闘う
「認可された自殺」サティー
スカーフ着用問題
日本の「服従」と「抵抗」
「言語」と「行為」
注 270
参考文献 271
境界を撹乱する――ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの撹乱』 273
バトラーの登場
セックス/ジェンダー二元論の解体
「おんな」という主体はどこにあるのか?
変革は可能か?
バトラーと竹村和子
注 290
参考文献 291
あとがき(二〇一三年 紫陽花の季節に 上野千鶴子) [292-297]
文庫版への追記(二〇一六三年 新緑の季節に 上野千鶴子) [298-300]
解説(チョウ・スンミ) [301-317]
初出 [318]