未来国家ブータン (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087454543

作品紹介・あらすじ

雪男がいるんですよ! という言葉に誘われて著者は迷わずブータンに飛んだ。幸福度世界一と言われるその国にはどんな人が住み、どんな光景が広がっているのか。マジメで笑える辺境記。(解説/仲野徹)

感想・レビュー・書評

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  • また高野氏(笑)
    今回は「雪男」につられて旅に出られた。本来の訪問目的は違うけど、誘う側の二村氏もまた巧みだなーと感心してしまう。(今回は一から公用語のゾンカ語を勉強されていて、気合が入っている、さすがだと思った)

    (少なくとも当時は)半鎖国体制だからか民話と現実が混同したような世界観で、本当に実在しているのかと何度も首をひねった。読む前も未来国家というより未知国家だったけど、何故か奥地に踏み入れるほど現実から遠ざかり謎が深まっていく…

    「雪山に囲まれたこの天井の楽園にいると何もかもありえそうで、信じるとか信じないという問題ではないような気さえする」

    表紙も印象深い。東京と思われるビル群の真上に悠然と浮かぶブータン王国。世界最先端の環境立国プラス天空みたいに謎めいた国って意味でも日本から見たら「未来国家」なのだろう…

    巻頭の写真に写る現地の人たちは驚くほどみんな柔和な顔立ちをしている!無表情の人でも優しい目をしていてこちらも思わず表情が緩む。
    ルポの中でもいわゆる感じが悪い人はおらず、考え方も独特だけど理にかなっていた。「プツォプ」の概念とか自然に浸透しているところが良い。(おもてなしが仰々しく、逆に遠慮したいところもあったけど笑)
    ダライ・ラマや、かの有名な国王のお人柄、いかに慕われているかもここでよく分かる。

    民話色が強く、若干『世界ふしぎ発見!』の長編にも見て取れるルポだったけど謎であればある程そそられる。国について少しは予習すべきだっただろうけど、本書一冊で行きたくなったから雪男やその他妖怪もひっくるめた、相当な魅力を抱えているんだろうな。

  • 以前からブータンの事が気になっていた 国民の圧倒的多数が
    「私は幸福です」と答えるその背景には何があるのか?
    それを探るべく、この本を手に取った

    未確認動物探検家、辺境作家 ( こんなジャンルがあったとは驚きだが ) の高野秀行氏が友人の仕事の下調べのためブータン行きを依頼される ちゃっかりその仕事のついでに雪男探しを絡めて、ブータンに乗り込んだ

    高山病に苦しみながらも辿り着いた標高4000mのラヤ村
    塗料で塗ったような鮮やかな青い空が広がり、西に、北に高度7000m級の山々の鋭く雪に覆われたピークが手の届きそうなくらいに近くに見える。石造りの瀟洒としか言いようのない家が緑の草に覆われた斜面の思い思いのところに鎮座している。黒と赤の羊毛で織ったスカートを履き、不思議な三角帽を頭にのせた少女が黒光りする、でも整った顔でにこりと笑うかと思えば、畑でヤクに鋤を引かせる男たちのホーホーというかけ声が谷間にこだまする。爽やかな風が吹き、白いダルシン(経旗)がはためく

    著者はこの景色を見て、ここは天国かと思ったという
    世界のどこにこんな美しい場所があるだろうかと

    村人から話を聞くために、ご機嫌を損ねてはとなみなみと注がれたバター茶を飲み干す。また注がれる、飲み干すの繰り返し
    パンパンになった膀胱で、草むらに飛び込んで、用を足した話

    ツォチャンという伝統的な歓待の風習も傑作だ
    黒い触覚帽の女性が何人も酒瓶を抱えて、客をもてなす。客はこれに対して、謝礼を払わねばならない。ブータンの女性にとっての貴重な現金収入になっているらしい。
    「ドゥン、ドゥン ( おかわり) 」「ミシュ、ミシュ(結構です)」
    の応酬。翌日、客は二日酔いでフラフラだそうだ

    半鎖国国家のブータンなんてそうそう行けるものではない
    この本で高野氏とともにブータンを旅した気になった

    旅を終えた著者は、国民総幸福量GNH 世界一と言われる所以を
    書いている
    ネタバレになるので、あえて書かない
    でも、なるほどなとは思った
    先代の国王も今の国王も健脚でブータンの隅々の村々を訪ね歩いておられるそうだ。水戸黄門のように
    国土が狭いこともあるが、すごい高低差の国土をだ
    国民が国王を尊敬してやまない、部屋には2代の国王の写真がまるでアイドルのポスターのように貼ってあるらしい

    著者が訪れた2010年4月、携帯電話やテレビのアンテナが立ち、電線を引く工事も進んでいるらしい
    若者の都市流出率も世界でトップクラスだそうだ
    あれから10年近く経った現在のブータン、今も国民の圧倒的多数が「私は幸せです」と言っているのだろうか?
    今の様子も知りたいなと思った







  • 「辺境記」なるものを読むのは初めて。

    ブータンと日本の企業がタイアップして、生物多様性を軸とした商品開発を行う。
    その調査のハウツーを、現地の人にレクチャーすることが本来の目的らしいが、筆者によっていろいろすり替えられ、イエティ探索記となる(笑)

    人に話を聞くことって、案外難しいんだな……。
    身なりを整えるだけでもいけなくて、一緒にお茶やお酒を飲んだり、他愛ない話をしたり、そうやって警戒心を解かなくては聞けない。
    どんな情報も、座っていてボタン一つで集められる世の中にあって、そうではない情報のほんとうに根本的な「聞く」ということに、思い至る。

    ブータンという国の全容解明とはいかないが、人々の信仰心や、国に対する肯定感が、幸福の源なんだろうか。
    鎖国によって発展の遅れを取った国が、周回遅れというのに、私たちの目指す国のカタチを成している。
    そう筆者が感嘆する気持ちがよく分かる。

    筆者のいうように、日本もブータンと成り得たのかもしれない。

  • 内容紹介
    ブータン政府公認プロジェクトで雪男探し!!
    「あの国には雪男がいるんですよ!」。そのひと言に乗せられて高野氏はブータンヘ飛んだ。雪男を探しながらも、「世界最高の環境立国」「世界で一番幸せな国」と呼ばれる本当の理由にたどりつく。

    ちょっと前にイケメン国王が来日して話題になったブータン。幸福の国という事できっといい国なんだろうなと漠然と捉えておりましたら、さすが高野氏も訪れておりました。そうかー、国が国民の事を物凄く大切に考えているのか。まるでおとぎ話ですが本当の事らしいです。今の日本にいるとフィクションみたいに感じますね。

  • 著者の高野さんがブログで、これは単行本の時結論的な文章をつけなかったら、「尻切れトンボ」「手抜き」などと批判されたと書いていた。友人知人からも異例のお叱りを受けたとか。そこで文庫化にあたって加筆したため、読後感がかなり変わっているはずだとあったのだが…。

    えーと、変わってますかねえ? 私は単行本をたいそう面白く読み、特に「尻切れトンボ」とか(まして手抜きなんて)思わなかったこともあるだろうが、前と変わらず楽しく読んで(高野さんには悪い気もするけど)受ける印象は同じだったのですよ。

    結局何をしに行ったの?という疑問は残るけど、そんなことなどどうでもよくなる抜群の面白さがある。ちょっとしたブームになってたわりに、ほとんど知られていなかったブータンの実情にもう興味津々。最近あまり話題にならないけれど、今ブータンはどうなってるんだろうなあ。後日談の中に、ブータンにも納豆があることがわかったというくだりがあって、やっぱり!という感じであった。

    今回一つ「発見」したのは、私はどうも、高野さんがキビシイ状況に陥ると、読んでいてすごく楽しくなるようだということ。いやあ、ひどいヤツ。でもまあ、命に関わるようなこと(南部ソマリアで襲撃されたりとか)は別として、強烈な便秘になったり(これもソマリア)、雨季のジャングルでヒルだらけのなかを徒歩で行ったり、アヘン中毒になっちゃったりしているのを読むと、ハラハラしながらもやはり喜んじゃってるのだった。本書でのピンチは、高山病。いやまあ大変だっただろうと思うが、高野さんの筆にかかると、そういう所こそ面白く読めてしまうのよ。

    • くんたろうさん
      私もたまもひさん同様、単行本を尻切れトンボなどとはこれっぽちも思わず面白く読み終えた一人です。そうですか読後感が違うと高野さんが言っているの...
      私もたまもひさん同様、単行本を尻切れトンボなどとはこれっぽちも思わず面白く読み終えた一人です。そうですか読後感が違うと高野さんが言っているのですか。それでは私も読んでみます。はたして高野さん派かたまもひさん派になるか、一つ読むときの楽しみが増えました^^
      2016/07/23
    • たまもひさん
      高野さんによると、単行本のときアマゾンのレビューには「やる気がない」「手抜き」とかいう酷評が並んでたそうです。なんでそういう感想になるのかな...
      高野さんによると、単行本のときアマゾンのレビューには「やる気がない」「手抜き」とかいう酷評が並んでたそうです。なんでそういう感想になるのかなあ。ナゾだなあ。
      文庫版を読まれたらまた感想を教えてくださいね。
      2016/07/23
  • 医薬品研究の会社を経営する知人の依頼で、ブータンの生物資源を調査するというのが今回の旅の目的。しかし高野氏がその任務を引き受けた背景には雪男の存在が…。旅の相棒はブータンのエリート公務員なのだが、高野氏の勘違いや暴走っぷりは普段通り相変わらずだ。

    生物資源調査を口実に、現地の人々から雪男の情報を漁りまくる高野氏だったが、次第に興味がブータンの国民や民俗に移って行くのが大変面白かった。高野氏自身も表現しているが、まるで遠野物語を描いた柳田國男のようでもある。

    ただ柳田作品では禁忌だった夜這いや被差別民に触れたという点では、『忘れられた日本人』の著者である宮本常一の方が近いのかもしれない、渋沢敬三のような強力なパトロンがいないのが少し残念なところだ。ちなみに高野氏の最新作である『謎のアジア納豆』は、この旅がきっかけとなっているらしい。

    ブータンは今どき珍しく欧米の価値観を拒む数少ない国だが、いつまでもGNH(国民総幸福量)を追い求める未来国家であってほしいと思う。

  • よく言われている幸福の国、という点から踏み込むのではなく、普通に接しているところが良いなと思った
    それにしても人口70万人で今はテレビも携帯電話も普及してしまって、農村はやっていけてるのかと心配になる

  • 高野さんお得意のあちこち行く話より、最後のまとめが印象深かった。
    職業選択の自由、消費の自由、移動の自由、結婚するしないの自由もか…幸せのベースになるはずの自由がなくて、悩まなくてすむ幸せもあるのだなあと。日日食べられて村社会で平和に暮せれば。

  • 幸せとは「自由で、悩みのない」ことならば、確かに選択肢が多過ぎて自由過ぎる状況は悩み多いし幸せじゃないかもしれないね。なるほど。
    ブータン、一度行ってみたいもんだ。

  • 生まれ変わったらブータンがいいなと思うくらい魅力的。ブータンはこのままの路線でいってほしい。
    高野さんの雪男を探す話はほんとに遠野物語みたいで楽しい。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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