八月の青い蝶 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087454413

作品紹介・あらすじ

1945年夏、広島。その日落とされた一つの爆弾に、少年のほのかな恋心は打ち砕かれた──。戦時下の人々の生活を描き、鮮烈なデビューを飾った第26回小説すばる新人賞受賞作。(解説/高橋千劔破)

感想・レビュー・書評

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  • 亮輔の淡い初恋、それに応える希恵、二人が楽しそうに会話する姿、川辺を散歩する姿などが微笑ましい。けれど、そんな二人の純情な恋も、1つの原子爆弾によって、無惨にも一瞬にして引き裂かれるなんて、悲しいの一言だった。亮輔が、原爆が投下され地獄絵図と化した広島の街中を、希恵と約束していた場所に行くために向かい、ようやく辿り着いたその場所で、希恵の赤い鼻緒の下駄と虫籠を見つけた時、二人が一緒に見るはずだった脱皮した青い蝶を見つけた時、なんとも言えない切なさが胸を突いて、もの哀しくなりますが、地獄の中舞うきれいや青い蝶が「なんて美しいんだろう」と思い、それが余計に切なさを増している感じがしました。
    原爆が投下されてから現在まで、原爆投下に対する亮輔の思い、苦しみに、目が覚めるような思いがしました。
    私達は、二度とこんな悲劇を起こさないようにもっと想像を働かせ、事実を知り、その事実を伝えて行くのが、今を生きる私達の使命だと思います。

  • 中学生の時に被爆している亮介。78歳になり、急性骨髄性白血病で余命いくばくもない。仏壇に隠していた蝶の標本箱。それは、あの日命を奪われた幼い少女との思い出の品だった。広島を舞台に、戦時中から現代までを描いた小説です。中学生・高校生におすすめ。

  • 8月15日、できれば6日までに読了したいと思い、7月31日から読み始めた。
    そういえば初めて戦争をテーマにした小説を読んだかも。
    当たり前だけど、あの時の中学生も、亮輔のように恋してたり、家族と軽い言い合いとかもしていたんだな。
    敗戦後、軍人が周りから白い目で見られたことも、今の今まで知ってるようで知らなかった(気づいてなかった)。
    この間原爆記念館行ったけど、この小説読んでから行っていたらもっと思うことはあったかもしれないな。
    大きくは六章に分かれてるけど、その各章に、亮輔視点、希恵視点、強視点などになって、ちょこちょこ回想シーンや妄想シーンに入るけど、とても読みやすかった。
    被爆者の仲間入りになれて良かった、とかそういう亮輔の複雑な心情も巧みに表現されていて素晴らしかった。
    戦争は日本もアメリカもお互いの正義のためだったんだろうなぁ。何が正義かわからないですね。
    戦争は良くなかった、は原爆落とされて日本が負けたから言える結果論。戦時中はそんなこと思わずみんなが国のために必死になってたんだろうな。戦後に生まれたし、広島出身じゃない私は戦争自体についてどうこう言えないけど、とにかくまた読み返したい作品です。

  • この物語の分岐点は希恵の娘が死産(もしくは、そして恐らくは福子によっての窒息死)したことの様に思う。もし、この子がいれば亮輔にとっては妹、希恵は本物の妾になった。とてもじゃないが、求婚など出来なかっただろう。

    それにしても、希恵は幼い。妾になったのにも関わらず、その息子と結婚することが可能であり、それを囲っている強が受け入れると信じて疑わない。彼女の言葉を借りれば「なりたくてなったんじゃない」からなのだろうが、甘い話だ。敗戦で強の心が壊れた状態で希恵を奪い合うことになったら、後味が悪い。臭い物に蓋、である。

    男性は生涯少年の様なものだと誰かが書いていたが、それを象徴するかの様な小説だった。誰もが忘れ得ぬ恋をする訳でも、それを実らせる訳でもない。そんな恋があっただけ幸せなのかもしれない。

  • 戦争を題材としたものは気分が落ち込む哀しい結末しかない物ばかりなので少し苦手でタイトルからは違うタイプを想像していたので、あれ?と期待を裏切られたスタートだった。
    死を前にした被爆者の主人公が子供の頃の初恋を回想するが戦時中で今とは全く違う。
    出征中にやってきた年若い父の愛人と後妻の母とまだ学生の主人公。
    昆虫好きから心を通わせた2人の淡い恋。
    無惨にも原爆が散らせてしまった。
    主人公が自身の被爆体験を語りたくない思いを娘の学校の先生と言い争う場面でハッとした。
    確かに原爆を忘れないために語り継がなくてはいけないとよく言われるが、それは体験していない者の意見であって当事者にしてみれば隠して死に怯えながら必死に生きてきて、忘れてしまいたい記憶なのに忘れることが出来ずに付きまとってくる忌まわしい呪いみたいなもの。
    それを無理やり引っ張り出して語らせようとするのだから…
    辛い思いで本当に酷いものだったのだと初めて気がついた気がした。
    翅が少し焼けた青い蝶が特別な種類ではなくてどこにでもいるありふれた種類である事も特別ではない事だと示しているようで時代に翻弄された淡い恋がさらに切ない。

  • 被爆者という事実を隠そうとした主人公。そのわけにハッとされられた。
    父親の妾との初恋。全て失われたときの絶望。
    とても読み応えのある一冊

  • 本やさんで何気に見て、タイトルに惹かれて購入。
    内容も分からないまま購入した。

    もっと気楽に読める作品かと思っていたので、ヘビーな内容だったことに少々戸惑った。
    80歳になろうかとしている死を目前にした老人が体験した、純粋な恋と原爆のストーリー。

    戦争を語る人が少なくなっている中で、この作品は、広島という地域の過去、生き方、現実を突き詰めてくる。
    戦時下の暮らし、風景、原爆投下直後の光景……など、丁寧な描かれていると思う。

    個人的には……浅い解釈だと思うが。
    青い蝶を大事に持ち続けていたこと。
    父にも分からないように閉じ込めたこと。
    誰にも話さないまま逝こうとしていること。
    それらを話すべきではないと思いつつも、きえをいつまでも追っている気がして……
    裏切りのようなものを感じてしまった。

  • すごく良かった!
    原爆を体験した人が現在で死ぬ時、現在と過去を彷徨いながらその時を思い出す。
    家族のこと、好きな人のこと。
    被爆した時のこと。
    読んでで辛くはなるけど、何故か読み終えると心温まる本でひた。

  • 国家レベルの洗脳で突き進んだ戦争。

  • 2018#52

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著者プロフィール

1964年生まれ。作家。早稲田大学第一文学部卒業。編集者・ライターを経て、『八月の青い蝶』で第26回小説すばる新人賞、第5回広島本大賞を受賞。『身もこがれつつ』で第28回中山義秀文学賞を受賞。日本史を扱った他の小説に『高天原』『蘇我の娘の古事記』『逢坂の六人』『うきよの恋花』などがある。

「2023年 『小説で読みとく古代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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