水のかたち 上 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087453355

作品紹介・あらすじ

東京の下町に暮らす主婦・志乃子は50歳。近所の喫茶店で、年代ものの文机と茶碗と手文庫を貰い受ける。やがてそこから予期せぬ出会いと新たな人生の喜びが…。生の希望と、救いと発見にみちた悠々たる人間讃歌。

感想・レビュー・書評

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  • 小説の時間のスピードって読んでる側からすると合う合わないあると思うんですけど、宮本輝さんはその辺がすごいんですよね。人が人生で決断する瞬間に出会えます。最近のトレンドとは違うんだけど紫綬褒章取られてる方で私の青春時代の作者で50才って年齢をとても大切にしてることに個人的に共感してるし、熊吾も共に読んで生きてきた感じで是非読んで欲しいです。下巻読むまでもなく、心で読めます。

  • 下町に暮らす主婦が骨董品屋さんから茶碗をもらう、それが数千万円の価値があるものらしい。小説ならたちまち怪しげな詐欺師とか曰く付きの学者とか出てきて、殺人事件でも起こるかという劇的な状況であるのに、何も起きずに主婦の周りでいろいろな人たちがゆっくりと下町の生活を過ごしている。小説の時代は平成だが雰囲気は全く昭和の白黒映画、主人公は八千草薫か倍賞千恵子か、なんて事を考えたくなるような、昔はよくあっただろう雰囲気が描かれている。
    さてこの先どうなるのやら。急ぎ後半に行きたいという気分でもないが、とりあえずタイトルの意味は知りたい。ここまでなら、水のかたち?というより、土のかけら、牛の形、すき焼きの味、でもいい。

  • 作者の作品に出てくる女性は
    たいてい上品である

    女主人の行方が気になりつつ
    下巻に続く

  • 人の縁について考えさせられる。
    主人公のあっけらかんとしたキャラクターが小気味良い。

  • 他の宮本文学でも語られる、骨董、落語、ジャズあるいはクラシック、それらアイテムが、この作品でもそれぞれ効果的に登場する。
    魅力的な使われ方に、骨董(の蒐集)はともかく、落語、ジャズあるいはクラシックは、未聴のものは聴いてみたくなった。
    平凡な主婦が、薄茶茶碗を貰い受けてから、人生の扉が次々と開けてゆき(ご都合主義的なところもあるが)、下巻がそういう展開になるか楽しみ。

  •  50歳の主婦が、あるきっかけで大きく人生が変わっていく。宮本輝らしい50歳女性への応援歌。
     東京の江東区の下町で暮らす平凡な主婦、能勢志乃子は50歳の誕生日に、近所の古い骨董品屋兼喫茶店の「かささぎ堂」で、嘉永六年に作られた文机を購入しようと思って行く。店主はガラクタだからタダでいいという。2階にもあるから、好きなものを持っていっていいと言われる。志乃子は、陶器が好きだった。それで鼠志野の茶碗と手文庫をもらう。50歳の女性には、自分の人生の大きな変化がない年頃だ。
     文机は自分で使って、鼠志野は、大手の化学薬品会社の専務を65歳で退職して、骨董品に詳しい80歳を超えた三好与一郎老人に鑑定してもらうと、3000万円はくだらないと言われる。志乃子は、驚くと共に、三好の推薦した人が、実際3000万円で売り先を見つける。志乃子は、3000万円では、かささぎ堂の女主人に伝えなくてはいけないと思うが、かささぎ堂は店を閉めて、女店主がどこに転居したのか近所に聞いてもわからなかった。志乃子は思い悩むが、結局売ってしまって、とりあえず半額の1500万円が入金された。それにしても、そのお金をどうしたらいいのか、思い悩む。実に正直なんですね。
    志乃子の夫は、会社を辞めて、自立してアルミサッシの仕事をしていた。夫の借り入れている300万円を返済して、夫を楽にしてやりたいと思う。
     夫は、糖尿病なのだが、糖質制限の食に変えて、体重が10キロ近く減り、糖尿病も改善していく。医者が驚くくらいだ。夫は、「俺にとって炭水化物は命より大切だ」と言っていたのだが。宮本輝は、糖質制限に対して好意的に見ている。
     33歳の時に離婚した姉の美乃53歳も、大きな転機がおとづれる。居酒屋「海雛」を買って、経営するというのだ。居酒屋の主人は、60歳で奥さんをなくして、意欲を無くしてしまっていた。それで、美乃に譲る。志乃子の友人である沙知代は、ジャズをステージで歌い始める。遅咲きのジャズ歌手である。ずっとジャズ歌手を目指して、アメリカまで行って勉強した。沙知代は人生の苦労も味わったが故に、味わい深い歌を歌う。
     志乃子の家の1階を借りている不動産屋の財津厚郎は、56歳で、26歳の子とできちゃった婚である。
    志乃子は、50肩になったり、更年期の不安を抱えつつも、それでも前向きに生きていく。志乃子の転機が、姉の美乃、そして、沙知代、財津と大きく変化する。ある意味では、年齢は関係なく転機がおとづれて、チャンスをきちんと掴みことができるということを、宮本輝は物語にする。

  • 平凡な主婦が非日常な体験をするところからの話ですが、思考形態はずっと一緒の処に好感が持てます。
    Jazzの話は秀悦。

  • 東京下町に暮らす主婦・志乃子が、もうすぐ閉店するという近所の喫茶店「かささぎ堂」から文机と薄茶茶碗、朝鮮の手文庫をもらい受けてきたことから物語は始まる。
    ガラクタ同然の扱いでもらった茶碗が実は貴重なものだと判明、3千万円の値が付き買い手も現れる。茶碗が志乃子にもたらした高揚感と、タダで貰ったものだという後ろめたさ、手文庫の中にあった終戦後引揚げ時の父から幼い娘への手紙、茶碗を取り上げようとする謎の美女・・・。
    気になるピースを散りばめながら、志乃子を取り巻く人間達の暮らしが丁寧に描かれていく。人間が生きていれば、必ずそれだけの物語がある。そんな当たり前のことをしみじみと思う。
    物を手にしたことで生じる人との関係、出会いに導かれ開いていく人生の扉、思わぬところでを繋がる人たち、これは物が結び付けた人との「縁」の物語。
    後半、物語が大きく動きだしそうで楽しみです。

  • 志乃子が湯木留美と言い合いするシーンの志乃子の心の動きが好きだなぁ
    勇気を出せ、白ナマズ。反対攻勢に打って出よ、リンゴ牛

    早速、キュウリを買い込んでキュウリサンドを作ろう!

  • 人と人とが何故の縁で出逢い、そしてその時を境にそれぞれの川が合流して新たな畝りを形成していくように時は流れる。
    キャノンボールアダレイのジャスを聴きながら、早苗の純粋で清い心に心打たれ、上は終わり。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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