北斗 ある殺人者の回心 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087453027

作品紹介・あらすじ

両親から壮絶な虐待を受けて育った少年、北斗。初めて出会った信頼できる大人を喪ったとき、彼の暴走が始まる……。孤独の果てに殺人を犯した若者の心に切り込む、衝撃の長編小説。(解説/黒川祥子)

感想・レビュー・書評

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  • ずっと気になっていて、やっと読めた本。
    分厚く濃厚な内容、そしてひたすら重い。
    果てしなく重い。

    家は安らげる場所ではなく、愛を与えられず、抱き締めてもらう事もなく、父からも母からも激しい虐待を受け続けた彼の壮絶な人生は、目を背けたくなり、胸を締めつけられる。
    でも、知らないでいる事が一番罪だとも思った。
    知らないといけない、知ろうとしなければならないと思った。
    人の不幸を目の当たりにして自分を振り返り、なんて幸福なのかとおこがましく思う自分が恥ずかしい。

    無条件に受け入れ認めてもらえる事が、誰かに愛された記憶が、その後の人生をいかに豊かにするのか。
    不幸の連鎖が取り返しのつかない所までいってしまわない内に、たったひとつの安全基地を見つけられますように。

  • すごい。さすが石田衣良さん。
    今まで出会ったどんな本よりも濃い。
    生きる意味 死ぬ意味 生かされる意味
    リアルな殺しの瞬間と
    リアルな主人公の気持ちの動きと
    全ての情景から世界の素晴らしさが感じられる。
    話が進むごとに鳥肌が立つ。
    誰の立場に立ち、その時何を思うべきか
    考えさせられる。

    北斗と一緒になって涙を我慢したけれど
    裁判最終日、泣いてしまった。

  • 人の心が激しく揺れ動く様子をここまで細かに表現できるものなのか、と感嘆した。
    虐待や病魔、詐欺などの暗い出来事の間に、人の温かさを感じる瞬間があった。特にラストで北斗の心の声が出た場面で泣いた。

  • 重い。

    こんなにも衝撃的な内容とは思ってもいなかった。

    両親から虐待を受け育った北斗の視点で描かれた作品は幼少期からの虐待をリアルに描き、その中で自分の生存本能と親子関係の中で生きるために重ねた重い鎧。

    そんな鎧を着た北斗に人としての温もりと、家族としての温もりを与え、短くも北斗が人として過ごす時間と場所を与えてくれた里親である綾子。

    ようやく1人の人間として生きる機会を与えられた北斗の幸せは綾子の死と、気がつけば綾子の為に関わってしまった医療詐欺によって再び奈落の底へと突き落とされる。

    負の連鎖によって引き起こされてしまった殺人(理由がどうであれ、人を殺める事を肯定してはいけない)と、殺人犯となった北斗に寄り添う綾子の元で里子として育った血縁関係のない姉の明日実、国選弁護人の高井。

    物語の後半は自ら初めて己の心に向き合い、鎧を脱ぐ北斗の心情と裁判という緊迫感を加害者の視点で見事に描ききられていた。

    そこには単なる殺人事件ではなく、殺人を犯した加害者のみならず、徹底的に北斗の心の中をリアルに感じることが出来た。

    リアルに伝わったが故に衝撃も大きく、非常に重たい一冊でした。

    ここまで心の中を描ききる事が出来る著者の作品は今後も読み進めていこうと思う。

    説明
    内容紹介
    両親から壮絶な虐待を受けて育った少年、北斗。初めて出会った信頼できる大人を喪ったとき、彼の暴走が始まる……。孤独の果てに殺人を犯した若者の心に切り込む、衝撃の長編小説。(解説/黒川祥子)
    内容(「BOOK」データベースより)
    両親から激しい虐待を受けて育った少年、北斗。誰にも愛されず、愛することも知らない彼は、高校生の時、父親の死をきっかけに里親の綾子に引き取られ、人生で初めて安らぎを得る。しかし、ほどなく綾子が癌に侵され、医療詐欺にあい失意のうちに亡くなってしまう。心の支えを失った北斗は、暴走を始め―。孤独の果てに殺人を犯した若者の魂の叫びを描く傑作長編。第8回中央公論文芸賞受賞作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    石田/衣良
    1960年東京都生まれ。97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2003年『4TEEN フォーティーン』で第129回直木賞を、06年『眠れぬ真珠』で第13回島清恋愛文学賞を、13年『北斗―ある殺人者の回心』で第8回中央公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 虐待描写が生々しく長く続き、途中まではまるで呪いの様だった。主人公の北斗の両親の思考と行動が恐ろしすぎて読むのをやめたくなるほど。

    でも、そのしつこい描写が後半の魂の劇といわれる法廷劇で効果的になっている。
    ある事件の被告人となった彼の人生、そして彼自身が法廷で丸裸にされていくのだが被害者と被害者遺族の心境を鑑みても、彼が披虐待児として生きてきた事を強く痛感させられ彼の人生に寄り添ってしまう。

    裁判が進んでいき様々な人間が北斗を語る。
    その中で遺族の息子の乱暴と思われる北斗への言葉に胸を打たれる。その息子は、母親を殺した憎むべき相手だというのに対等の人間として北斗に言葉を放つ。橋爪北斗さん、と彼は確かに言った。
    北斗は対等な人間として見られた機会が少ない。だから北斗は彼の事を永遠に忘れないだろう。
    立場が違えば友人になっていたかもしれない、という一文に切なさがこみ上げた。

    又、虐待をし、又させた北斗の実の母親の登場場面も衝撃的だ。更に衝撃なのはその証言内容。
    愛とは何なのかを考えさせられた。また、どんなに歪でも愛は愛だという愛の難しさを感じた。

    そんな裁判で気づく。人を救うのは法律ではない。法律を作った未完成な人間が必死にその法律を使っているにすぎないことを。
    法律上で親子と認められようがそのままにしてはいけない親子がいるように。

    北斗は様々な証言者の言葉を聴き、仕事の立場以上に自分を思ってくれる弁護士や裁判官に出会う。それが自己肯定感のない彼の心を揺さぶっていく。そして同じ披虐待児童で同じ里親の子供であった女性の存在と、彼女の「生きて」の三文字が裁判の最後まで彼を支えることに。

    独房で1年間、北斗は時に寝ずに自身の心と対話をする。裁判も終わりに近づき死にたくないと恐怖にかられた彼に全力でほっとした。

    彼は今まで殺されかけ生き伸びてきたにすぎない。本当の意味では、一度たりとも生きていないのだ。今まで披虐待児童であったがゆえ心を殺してきた彼から出た些細な欲望を叶えてやりたくなった。
    生をと…。独房の外で鳴く鳥の名前を調べるといった、平穏な時間をと…。

    判決の主文の文字を見た時、声を押し殺して泣いてしまった。真夜中でなければ声をあげていただろう。そして、改めてこの裁判の弁護士と裁判官が彼らで良かったと天に祈るような思いにかられた。神様はいるのかもしれないと思わされた。

    そこまで北斗を見守る気持ちになれたのは、作者の主人公の心理描写が巧いからに他ならない。
    特に証言台での生きた言葉、北斗が初めて見せる本音には魂が揺さぶられる。
    遺族への誠実な自省の言葉に回心とはこの事か…と唸らされた。  


  • 主人公の運命が、かわいそうでたまらない。
    同情せずにはいられない彼の家庭環境。
    私はもっと狂気的な人間になってもおかしくなかったと思います。
    理性が働かなかったのは、2人を殺害してしまったあの一瞬だけじゃないですか。
    ほんとに理性が働かず感情的な人間だとしたら
    殺人犯になるかならないかを
    自販機の有無で決めたりしないでしょう。

    あのタイミングで2人の女性と鉢合わせたことが
    不運だったとしか思えません。


    でも一番の彼の不運は
    生まれた家庭環境でしょうか。
    でも彼だって望んでこの夫婦のもとに生まれたんじゃないんだから、本当に苦しい。
    人殺しは事実。
    でも彼が悪いのか?
    読み手としてはそう思ってしまいます。


    家庭環境、愛情の大切さを思い知らされます。



    未だ例にない人の生い立ちと、
    それによる一人の人物の成り立ちを読み、
    新たな価値観に触れ、とても衝撃を受けました。




    そして改めて石田衣良さんの文才に惚れました。
    この人本当にすごい。

  • 色んな思いが交差し言葉でどう表現すればいいか不明。
    罪のない人を殺したのは本当に間違いで、綾子が復讐を求めるなんて、どう考えてもおかしい。北斗の幸せを一番に願ってるにきまってる!と思うのが自分が普通に育ってきたからだろうか?!

    幼少期から裁判の判決までとても丁寧に描かれていた。
    そして、ページの量!読み応えあった。

  • 両親から激しい虐待を受けて育った少年、北斗。誰にも愛されず、愛することも知らない彼は、高校生の時、父親の死をきっかけに里親の綾子に引き取られ、人生で初めて安らぎを得る。しかし、ほどなく綾子が癌に侵され、医療詐欺にあい失意のうちに亡くなってしまう。心の支えを失った北斗は、暴走を始め…。孤独の果てに殺人を犯した若者の魂の叫びを描く傑作長編。第8回中央公論文芸賞受賞作。

  • 幼い頃から実の両親に虐待され、やっと自分を大切にしてくれると思った里親は癌で病死。しかも里親は死の間際に癌に利くと言われて飲んでいた水が詐欺でしかも馬鹿高いものだったと知って安らかに死ねず。。

    水については本人が利くと思って飲んでたんだから、死ぬ間際に知らせにきたお友だちは本当に余計なことしてくれたなあ、と私ならそっちを恨んでしまいそう。水を持ってきたのも同じ友人だし、本人に悪気がないだけにたちが悪い。

    それにしても人に愛されたいと願う欲求がある人間って生き物は本当に厄介だなぁ、と思う。多分人間以外にはそういうのないよね。

  • 三島由紀夫の金閣寺みたいな狂気のピカレスクロマンを期待していたので裏切られた感もあるが、
    これはこれで素晴らしい。
    終盤の裁判シーンが圧巻。殺人を犯した後こそが真骨頂だった。
    量も質も骨太。読了するの本当大変だったけど、読んで良かった。

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著者プロフィール

1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。代理店勤務、フリーのコピーライターなどを経て97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2003年『4TEEN フォーティーン』で直木賞、06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞、13年 『北斗 ある殺人者の回心』で中央公論文芸賞を受賞。他著書多数。

「2022年 『心心 東京の星、上海の月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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