燕は戻ってこない (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087446258

感想・レビュー・書評

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  • 設定があまりなくて、とても面白そうだったので、本作を手に取りました。手に取った時は、出産後の話がメインに書かれているのかなと思ってましたが、実際は出産前の葛藤が描かれており、そこに人間らしさが見られ、個人的には面白かったかなと思います。

    本作のテーマは「代理母出産」。妊娠が出来ない女性の代わりに人工授精等で出産するというもの。本作の主人公は、困窮した生活から逃れるため、バイト感覚で代理母出産を引き受けます。本作では、その代理母出産の決断から受精、妊娠、そして出産の過程が描かれます。

    代理母出産というテーマを通して改めて、通常の出産に向き合うことができる作品であるように思いました。特に、妊娠に必要な性行為やパートナーとの関係性、身体的な痛みを伴って産まれた子どもへの愛情など、各フェーズごとに主人公が自分の感情と向き合う姿が印象に残りました。

    男性の自分では絶対に出来ない、こうした未知の領域を疑似体験できるのが、読書の良いところだなと改めて思いました。

  • 女性の貧困、卵子提供、代理出産、生殖医療ビジネス。
    子供が欲しいが望めない夫婦
    貧困から抜け出すために代理母を引き受ける女性
    登場人物たち皆が自分勝手で傲慢で。言っていることがコロコロ変わる。それぞれの葛藤や苦しみが渦巻く。だがそれが人間。簡単に割り切れるものでもなく、揺るぎない思いを貫くことなんてなかなか出来ない。
    人間はモノにはなれない。

  • さすがに、すでに定評のある作家の作品は、乾いた文章の連なりにも関わらず、全体としては、湿度と厚みと生々しさを感じとれるような、重みのある読後感を残す。
    ストーリーの面では、結末には、やや違和感を感じた。いろいろな終わり方が予想されたが、それを採ったか・・、と。この結末を選ぶということは、主人公にとっては、仕返し・・とはいかないまでも、自らが払った重い犠牲や負担に対して、きっちりと代償を要求する、というのがメインテーマになるのかな。

  • 文庫の裏書に「女性の貧困と生殖医療ビジネスの倫理を問う衝撃作」とあったので、興味をひかれて購入。さすがの桐野夏生さんです。
    北海道から上京してきて、病院の受付で非正規雇用で働くリキは、とにかくお金がなくて、苦しく希望のもてない毎日を送っている。同じ職場で、同じく派遣のテルは、給料は自分と同じだが、奨学金の返済などで自分よりもっと厳しい状況にある。
    最近は貧困、ワーキングプア、非正規雇用が問題になっているが、貧困家庭が奨学金を借りて子どもを進学させることで、子どもは社会に出た瞬間に借金を背負わされてるという現象が起こっている。深刻だ。テルは風俗にも足を突っ込んでしまい、貧困ゆえに見た目も清潔とは言い難いが、桐野夏生さんが描くと置かれた境遇の中で一生懸命に生きている魅力的な脇役だ。
    リキはテルに誘われて、お金のために「卵子提供」をしようかと悩む。
    一方、交互に描かれるのは卵子を提供してもらう側の夫婦。バレエダンサーの草桶基とその妻。長い不妊治療の末、卵子提供をうけることを決断するわけだが、これは辛い決断だ。当然、妻は悩む。夫が「自分の遺伝子」にこだわるのにもモヤモヤする。そりゃそうよね。私も長く、不妊治療をして、40歳まで妊娠しなかったらあきらめようか、その場合養子縁組はどうか、などと悩んでいた。その時やはり、自信がなかったのが「血のつながった(遺伝的につながりのある)本当の子供じゃなくても愛せるのか」ということだ。
    基の妻も、モヤモヤとしながら、夫の勢いに押されてしまう。
    リキはエージェント(?)の手配で、卵子提供ではなく代理母出産まで引き受けることになる。
    普通に代理母を引き受けるだけでもドキドキハラハラだが、リキは人工授精にチャレンジする前後で、けっこう無謀なことをしてしまう。つまり、他の男とセックスしてしまうのだ。読者は「なんでそんなことするん!?(怒)!!!」って思うよね笑。そこがやっぱり、さすが桐野夏生!と私は思った。お金をもらって代理母を引き受けて、生まれてきた子が依頼主の子じゃないかもしれないというリスク。
    しかもリキは、自分がやってしまったことを打ち明けてしまう。さあ大変。
    もう赤ちゃんはお腹のなかでどんどん育って(しかも双子)、間もなく生まれてくるのに、「産みの母」も、「遺伝的な父」も、「育てる予定の母」も、大人たちは全然定まらない。どうなるどうなる?というドキドキ感。

    ↓ここからネタバレですが

    しかし、救いがあるのは、赤ちゃんの命というのは、本当に、生まれてくるだけで尊いのだ。生まれるまでにどんな紆余曲折があろうとも、生まれたあとにどんな環境が待ち受けようとも、やはり生まれてくることは尊い。
    貧困に絶望していた、妊娠してもお腹の赤ちゃんになんの感情もわかなかったリキでさえも、命が生まれ出たことの尊さにはかなわない。育てる予定を放棄しようとしていた基の妻悠子も、(遺伝的に)自分の子ではないかもしれないと心配していた基も、命が生まれたことに抵抗できない。

    貧困にあえぎ、お金と引き換えに「女である自分のカラダ」を差し出したリキは、生まれてきた子ども(女の子の方)にささやく。「クソみたいな世の中だけど、それでも女はいいよ。女の方が絶対にいい」。
    私もそう思う。女だから苦労することもたくさんあるけど、やっぱり女の方が絶対にいい。
    (そして、男に生まれた人たちも「男の方が絶対にいい」と思える世の中だったらいいな、と思う。)

  • 「金がないことがこんなに心細く、息苦しいとは思わなかった」。憧れの東京で病院事務に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「割のいいアルバイト」だと同僚に卵子提供を勧められ、ためらいながらもクリニックに向かうと国内では認められていない〈代理母出産〉を持ちかけられ…。女性の貧困と生殖医療ビジネスの倫理を問う衝撃作。第64回毎日芸術賞、第57回吉川英治文学賞受賞作。

  • GWの最後に一気読み。相変わらず人間の昏いところ、自己本位、いい加減さをジワジワと炙り出して、おそろしい。桐野夏生ワールドに、またしても『してやられた』感あり。もう少し先が知りたいところ。

  • 北海道の田舎から上京し、病院事務の派遣で働く29歳のリキ。日々の食費を円単位で切り詰める生活に疲れ切った末に、裕福な草桶夫妻の代理母となる契約を結ぶ。
    一方の草桶夫妻は、夫の精子とリキの卵子で生まれてくることになる子に対して、夫婦それぞれの感情がすれ違い始める。
    医学的に可能になってしまったがゆえに当事者たちの立場が複雑化する、代理母という「プロジェクト」。そこに性差や貧困の問題が絡み合い、いったいどんな結末を迎えるのだろうと一気に読んでしまった。
    正解はない、と言ってしまうと逃げになるかもしれないが、当事者たちの出した結論に他人が善悪の判断を下すことはできないのだと、そう思った。

  • NHKドラマ化の帯を見て購入。

    悠子さん…勝手すぎないかい?

    貧困、代理母、契約、題材的には面白く、内容もスラスラ読める1冊。

  • 性と欲にまみれた内容だった。
    こんな欲まみれてたら、幸せにはなれないよ、とおもった。
    親ガチャ、て言葉も頭のすみに浮かんだ。

  • 北海道から憧れの東京へ出てきたものの、非正規雇用の生活で困窮し「代理母」をすることになった29才のリキ。
    自分の遺伝子を残したいと、不妊症の妻と共に代理出産を求める43才のバレエ教室を経営する基と妻悠子。
    人工授精、妊娠、出産と進むうちに乱れる三人三様の思い。
    生まれた子供は誰のものなのか?
    子供とは誰かの物なのか⁈
    私は愛のある出産や子育てを体験できたが、そうではない人たちも実際にいるんだろうなぁ、としみじみと思いました。
    そしてそんな出産、子育てで育った子供達はどんな出産をしていくのか?

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

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